柴イヌのコテツですが異世界ってなんですか?

灰色テッポ

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第一章 柴イヌ、冒険者になる

第二話 おともだち

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 オレはノドの渇きで目がさめました。めっちゃカラカラです。鼻もカピカピします。ついでにお腹もすいてとても不愉快ですね。

 ご主人様はまだ迎えに来てくれません……あのおじさんに騙されたのでしょうか? 本当はご主人様はこの場所にいないのではと、そんな不安がわき起こります。

 とうとう我慢できなくなったオレは、無作法ですがご主人様を呼んで吠えてしまいました。

「コテツはここですよーっ!」

 ゲエッ!?

 い、いま、人間の言葉がオレの口から飛び出したように思いましたが……何かの間違いでしょうか? いや、そんなまさか……

 も、もう一度同じように吠えてみましょう。病気で耳が変になっていたのかもしれませんし! よ、よし……

「コテツはここーーっ! ギャッ!!」

 間違いではありませんでした! この病気は身体だけでなく、声まで人間になってしまうようですっ!

 き、聞かなかったことにしよう……

 そうだ! 人間もイヌの吠え真似とかしていましたね。ならばオレも。

「ワンっ!」

 出来た。イヌにとってはとても馬鹿みたいな声ですが……よし、これで問題なしです。あるけどなしです!

 そんなことよりご主人様が居ないことの方が問題ですね。
 我々イヌにとっての英雄であらせられる忠犬ハチ公様。オレはあなた様のようにここで待ち続けるべきでしょうか?

 正直言って待つのはキライなんですよね。ハチ公様は秋田イヌでオレは柴イヌですし、性質も違いますから同じにすることはないかも……むしろ英雄ラッシー様のように、ご主人様を捜す方がオレの性に合っています。

 うん、そうだ、ご主人様を捜しに行きましょう!

 そうと決まればこんな何にもない場所にじっとしている事はありません。しかし人間のこの身体でどうやって歩けばいいのやら。
 後ろ足だけで歩く方法──あっ! 

 そういえば前にご主人様が連れて行ってくれたドッグランで、おともだちが二本足で走っていましたっけ。

 そう、メスのトイプードルのシナモンちゃんです! メスのね! 柴イヌのオレが股間の匂いをぐといつもウーッで怒るんですよね。 

 まあ、いいんですけど。確か前足をこんな風にちょこんと出してリズムとりながら走ってました。
 この人間の前足だと何か少し違いますけど……オレは試しにシナモンちゃんの真似をして走ってみたんです。そしたらすごく上手に走れるんで驚きました!

 おおっ! これいいですねっ

 辺りをぐるぐる駆け回ってみたオレは嬉しくなって、ご主人様に自慢しようと思ったんだけれど……ご主人様はいないのでした。

 ノド渇いたな……

 イヌの嗅覚は確かに素晴らしいですが、だからと言って遠くの匂いを嗅げる訳ではありません。なので必死になってクンクンしたところで、近くに水場がなければ水の匂いは嗅げないのです。
 いや、そのはずだったのですが──

 水の匂いがするっ!

 オレは走ったです! シナモンちゃんの真似をして走ったですっ!
 けど走っても走っても、水の匂いがする場所に辿り着きません。こんな遠くの匂いを嗅げるはずはないんだけど、でも確かに水の匂いはしていて……

 だからオレはとにかく一生懸命に走り続けたんです。
 ヨダレが泡の様になって口のまわりがベトベトになったころ、オレはようやく水の匂いがする場所を見つけました!

──川だ、小さな川だっ!

 目のはしに川の中に立っている人間の女の人が見えたけれど、いまのオレはそれどころじゃありません。

 猛烈な勢いで顔を川の水に突っ込むと、そのままガブガブと水を飲みました。

 はあ~っ、生き返るッ!

 ついでに水の中にも入って遊んじゃいましょう! イヤッホーぃ、めっちゃ楽しいっ! 気持ちよくて水がキラッキラですっ!

 ふと横を見ると、さっきいた女の人がまだいました。立ち竦んでなんか固まっています。警戒してるのでしょうか?
 この女の人はハダカですね、羨ましいです。オレは何故かこの知らない場所に居た時から服を着せられていて、すごく窮屈でイヤだったんですよね……

 そっか、オレも服を脱いでハダカになればいいんだ! なのでオレは服を脱ごうとしたのですが。

「き、貴様っ、なに服を脱ぎはじめているんだッ!」

 女の人が顔を真っ赤にしてオレに何かいているようですが、今はそれどころではなくて。オレは服を脱ぐのに悪戦苦闘していました。

「おいっ! まさかこの私を見て欲情したのではないだろうなっ!」

 むう、脱げない。訳のわからないことを言っているこの女の人に、脱がしてもらおうかな。人間なら簡単だろうし。
 いやしかしこの人、変なドキドキ感の匂いをさせていますね。

 まあとりあえずお互いに害意がないことを確かめ合うため、おともだちの儀式で情報を交換をした方が良さそうです。

 イヌにとって一番大事な情報は何と言っても匂い。匂いで何でもわかります。そして情報の宝庫は股間にあり!
 なのでオレはそのハダカの女の人の股間の匂いを嗅ぐために、自分の鼻を突っ込みました。

 くんかくんか。

「ぎゃーーっ! 変態、変態、変態っ!」

 わあっ! なんでこの人、いきなり攻撃的になったのですかっ?

「やめて、やめて、近寄らないでーっ!」

 もしかしてシナモンちゃんと同じように、この女の人も股間の匂いを嗅がれるのがキライなのでしょうか?

「い、いくら私がイケメン好きだからと言っても、そんなに安い女ではないぞっ! 内心ちょっといいかもと思った自分が不覚であった、くっ!」

 今度は非常に怒った匂いをプンプンさせています。これはおともだちになるのは無理かもです……

「よくも乙女の身体をはずかしめたな! ぶちのめしてやるっ!」

 ギラギラした棒をこっちに向けてきました。何やら不穏な感じですね。

「女と思ってナメめるなよ、わたしはこう見えても冒険者ギルドのAランク剣士だっ! 思い知れっ!」

 あっ! その棒で叩いてきました! しかしのろいです──ヒョイ。

「なにっ! 避けた!? おのれえ!」

 はて? こんなゆっくりな棒を何度も何度も振り回して、この人は一体なにがしたいのでしょうか。乱暴なのか遊びたいのか、ちょっと分かりませんね──ヒョイ、ヒョイ。

「な、なんでそんなに避けまくるんだ! というか何故当たらないっ!」

 ほう、真面目に当てようとしていた乱暴者だったようです。なら無駄なのであきらめるよう言ってあげましょう。

「ワンっ、ワンっ」

「くうッ! 馬鹿にしてっ! おのれ、剣の腹で叩いてやろうと思ったが、もう勘弁ならん、ぶった斬るッ!」

 あっ、その気持ちオレもわかります! 人間にイヌの吠え真似されると妙にイラッとするんですよね。
 そうかあ、不本意ですが人間の言葉で話した方がやっぱりよさそうです。

「失礼しました。いまオレはこう言ったんです、その棒をオレに当てたいのなら真面目にやってくださいみたいな?」

「お、おのれえ! 覚悟しろ、私の最大剣速で一生消えない傷をこしらえてやるッ!」

 あれ? なんか余計に怒ってますが……てか、なんかちょっとだけ危険な匂いもしてきたし……ちょっと本気で避けましょうかね。

 そう思って集中した途端、女の人は急に止まっているのかと思うくらいゆっくりな動きに変わって……

「あのぉ?」

 返事も全くありません。うーん、不思議な現象です……
 
 まあ、おともだちになってくれそうもないですし、帰りますか。なのでオレは小川から上がって身体についた水をブルッと飛ばします。ふぅ。

「へ、変態が居ないっ!? 消えた……って、えっ? き、貴様っ?……何故そこにいるんだっ!?」

 おや、女の人が元に戻りました。今のは何だったんだろうな?

「そ、そんな、ありえんだろ……剣を振り下ろした時には確かに目の前にいたはずなのに……一体何をしたっ! こ、この私がなぜ貴様に手も足もでないッ!」

 まあいいや、この人ちょっと変な人みたいだし関わらない方が良さそうです。

「貴様待てっ! い、いや、イケメンさん待ってくれ、もしやあなたは高名な武道の達人なのか? いや、それとも転移系魔法の使える上級魔道士か?」

 意味不明です。

「どうか正体を教えて欲しいっ!」

「オレ行きます。ご主人様を探さなくちゃだし、お腹もペコペコなんで」

「お腹ペコペコ! わ、わかった、多少の食料は持ち合わせている。差し上げるのでぜひお話を聞かせてくれ! いや下さい!」

「えっ? ご飯くれるんですか?」

 あ、近づいてきた。さっきと違ってすごく仲良しの匂いがします! 機嫌よくなったみたいですね、ホッとしました。

「じゃあ、まずはおともだちになりましょう!」

「は、はいっ、かたじけない!」

 なのでオレはハダカの女の人の股間の匂いを嗅いで、おともだちの儀式を再開しました。
 今度は嫌がらないで嗅がせてくれるみたいです。くんかくんか。

「ハウッ!? お、おともだちとはこういうことですかっ?……い、いいですとも! もとより剣に捧げたこの身です、この乙女の身体とひきかえなら安いものです! イケメンだし……そ、その代わりどうかその神速の体捌たいさばきをご伝授して欲しい!」

 くんか……うん、なるほどよくわかりました。これで情報はバッチリです。
 オレは仲良くしようねという気持ちを込めて、女の人のほっぺたをペロッと舐めてあげました。

「うほッ! ど、どうか優しくして……」

 じゃあ次はオレの情報を知ってもらおうかな。はい、どうぞとオレは女の人にお尻を突き出します。

「こ、これは……?」

「どうぞ、好きなだけ嗅いでください」

「しょ、初体験にしてはマニアックすぎるプレイですが、頑張ります! すーはーすーはー」

「……どうですか?」

「は、はい……ちょっと興奮しました……」

「そうですか、良かったです!」

 オレは友達の証としてペロッと舐めてくれるあいさつを待っていたんだけれど、女の人は一向にペロッとしてくれないものですから……

「ペロッとはしてくれないのですか?」

「ペロッ? はっ! キスですね! 乙女の初めての唇……むろん捧げますとも!……チュッ」

 なんか変なペロッだったけど、これでオレたちは仲良しになれましたね。

「あぁもう……つ、次は、いよいよでしょうか? ハァハァ……」

「はいっ、お腹空いちゃってもう我慢できないです、ご飯ください!」

「えっ? ご飯? 次はご飯なんですか?」

「お願いしますっ!」

「くうっ! こ、これはまさかの放置プレイ? ああ、もう、ダメ。初めての私には難易度が高過ぎますッ!」

 ちょっとおかしな女の人だけど、こうしてオレは新しいおともだちができたのでした。
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