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第二章 柴イヌと犬人族のお姫様
第三十五話 そしてこれから
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「アジェル姫、今さっき犬人族のお国から通信鳥の四つ目トンビが参りまして、拐われた犬人二十二名が無事帰還したとの報告がございましたわ」
「そうか、それは重畳。支部長も忙しいところ、わざわざの報告すまぬことだ」
「いえいえ、お迎えの従者方も間もなく到着することでしょう」
「うむ、それまで世話になる。思いがけず妾の発情期と重なり、男子との接触を避けねばならなくなったゆえな。同胞たちと共に帰れぬのは残念じゃった」
それならアジェルさんはこんなところに居ないで、ギルドの自分の部屋に大人しく閉じこもっていてほしいですね!
怪しい匂いでムラムラさせられる、こっちの身にもなって欲しいものです……
「コテツ殿! ちゃんと聞いてますかっ!? 数のかぞえ方くらいは覚えておかなくちゃ駄目ですよ!」
オレはというと、アジェルさんを助けに岩山に行った翌日から、毎日毎日リリアンさんが付きっきりでの勉強です。
翌日とか毎日とかも習ったばかりの言葉で、人間には日付というものが必要らしく、そういう言葉が沢山あります。
イヌには今日だけがすべてですからね、日付なんて必要ありませんでしたっ!
けど仕方ないですね、いまは人間社会で生きているのですから覚えましょう……
それにしても病気で人間の身体になって以来、どんどんと色々な言葉を覚えていきます。
不思議ですねえ。
「しゅ、集中できないのはもしかして……アジェル姫の発情が気になるからですかっ!? コテツ殿っ、どうなんですかッ!」
「その通りです、リリアンさん」
「がーんっ! 交尾はしないって言ってたのにっ、コテツ殿のウソつきーッ! わーん」
あ、リリアンさんが泣きながら走って行ってしまいました。てか、何がウソつきなのでしょうか?
交尾なんかするつもりはありませんが……
ん?
オレはアジェルさんからの視線を感じて振り向くと、目と目がぶつかりアジェルさんが途端に顔を赤くして……
うわ、きっつい! 一段と怪しい匂いが強くなってきましたよ。
これは同じ部屋にいるのは勘弁です。裏庭にあるギルドの留置場へと逃げましょう。
そこにはオスカーさんの身張り番をしているワンコがいるんです。
「やあ柴犬君、ごきげんよう」
オスカーさんは首輪をされて牢屋に入れられています。その首輪はモニカさんが呪術で作ったもので、オスカーさんの技を使えないようにするためのものらしいです。
「オスカーさん、その首輪、カッコいいですねっ! まさに飼いイヌのシンボル、オレも欲しいです」
「ふっ、僕くらいの男になると、何でも似合ってしまうからね! そんなことよりそのホムンクルスだけど、何か芸とかしないの? 退屈でかなわないよ」
ふむ、芸ですか。
オレは橫で黙って立っているワンコを見て訊きました。
「ワンコは何か芸ができますか? ちなみにオレはお手、お座り、伏せ、待て、チンチンまでの初級芸は出来ますよっ!」
思い出しますね、ご主人様との訓練の日々を──
『コテツ、お前ほんと芸を覚えねえ馬鹿犬だな。鼻パクもできねえし……俺もうお前で人気ユー○ューバーになるの諦めるわ。はぁ、コテツにはガッカリだぜっ!』
ううっ……悲しい思い出です。
「ワンコ、芸の道は厳しいです。おそらくお前には初級芸も無理でしょう。だけど心配はいりません、オレがちゃんと教えてあげますからね」
あれ? なんですか……ワンコがオレをさげすむような目でみながら、ポケットからドングリを取り出しましたが。
そのドングリを鼻の上に置いて?……って、まさかっ!
あっ、そのドングリを一瞬でパクっと食べましたっ! こ、これは鼻パクッ!
「わ、ワンコは上級芸の鼻パクができるのですか!?」
「フフン……」
キーーッ! いま明らかにオレのことを鼻で笑いましたねっ、しかもドヤ顔でッ!
「おおっ! 今の芸は素晴らしいじゃないかっ! ホムンクルス君、もう一度見せてくれたまえ!」
ワンコは得意そうにまた鼻パクをして、オスカーさんから拍手をもらっていますっ!
この猛烈な敗北感はなんでしょうか。イヌとしての自信を失いそうです……
オレはすっかりションボリしてその場を離れ、とぼとぼと歩きながらギルドの入口へと向かいました。
おや? 雪が降ってきましたね……
どうりで寒いと思いましたよ。それなのにリリアンさんが入口で膝を抱えて座っています。
マントを着込んで剣も持っていますが、どこかへ行くのでしょうか?
「リリアンさん、お出かけですか?」
そう訊きながら、オレはリリアンさんの橫に同じようにして座りました。
「はい、旅に出ようと思います。女を捨て、剣の道一筋に生きるための修行をやり直すのです」
「ならオレも一緒に行きますよ、危険があっては大変ですからね」
「コテツ殿は優しいですね。でもとても残酷ですよ……」
はて? オレのなにが残酷なのでしょうかね?
「大事なおともだちのリリアンさんを心配するのは、残酷なことなのですか?」
「フッ……そうですよね。所詮私はコテツ殿にとっては、おともだちなのです。もはや自分が女であることの意味が無いことに、ようやく気がつきました」
意味がわかりません。
「これが失恋ってやつなんですね……女を捨てる私にとっての、最初で最後の……失恋ですっ! うわーんっ」
リリアンさんが泣き出しましたよ? でもかなり深刻な匂いをさせているので、どうやら本気の涙のようですね……
「何か悩みがあるなら教えてください。オレ、リリアンさんがツラいのはイヤですよ」
「くすん……じゃあ恥を忍んで訊きますけれど……どうしてコテツ殿は、アジェル姫だけにあんなに欲情するんですか? やっぱり彼女の事が好きなんですか?」
「それはアジェルさんが発情しているからですが? オスイヌは普段はムラムラすることはありませんけど、発情の匂いを嗅ぐと本能的にムラムラさせられてしまうのです。別にアジェルさんが特別ということではありませんよ」
「えっ? コテツ殿は自分からは欲情しないのですか?」
「しませんね」
なんでしょう、こんなのオスイヌの常識ですが。
「じゃ、じゃあもし私が欲情したら、コテツさんも欲情するのですかっ!?」
「かもしれません」
「そ、それはっ!……ちょ、ちょっと失礼しますッ!」
するとリリアンさんはオレの股間を見つめ、鼻息を荒くし始めて──
「ジーーッ……ふがっ! ふがっ!……うひひひ……」
うっ! り、リリアンさんから強烈な怪しい匂いがっ!
「ハァハァ、どうでしょう。こ、コテツ殿も……ムラムラしてきましたかッ!?」
「やめてください……するに決まっているじゃないですかっ」
「よっしゃあーーッ!」
何ですかねいきなり……身体をもてあそばれたような気がしますがっ。
「女を捨てる旅は中止ですっ。てかコテツ殿、これからもっともっと私は女を磨いていきますよッ! キャッホーイ」
元気な匂いをさせながら立ち上がったリリアンさんのマントの背中には、ブサイクな柴イヌの絵がありました。
そういえば自分だけお揃いでないと悔しがっていましたっけ。だから自分で描いたのでしょう。
ブサイクな柴イヌですが、なんだか憎めませんね。
「さあコテツ殿、外は寒くて風邪をひきます。一緒に中へ入りましょう」
オレはそう言ったリリアンさんに手を引かれて、ギルドの中へと入ったのでした。
「ちょっとリリアン! あんたなんでコテツさんの手なんか握っているのよっ、抜けがけとかマジで呪うわよっ!」
「フッ、おののくがいいモニカ! 今日からの私はこれまでの──ブゥ~ッ…………ぎゃあーっ」
あ、リリアンさんのオナラ……くさっ!
「オホホ、警告は聞くものですわ」
「き、きさま……ぶった斬るッ!」
「そんなオナラなんかより、コテツさんに大切なお話があるのですわ」
「オレにですか?」
「ええ、先ほどギルド本部から連絡がありましたの。錬金術師のボルトミについての事件の詳細を、王都本部にてコテツさんとリリアン、それに私の三人から聞かせて欲しいって」
「なんか変な話だな、ボルトミのことはギルドの依頼とは関係ないじゃないか」
「それがね、王国府からギルドへ直々の極秘依頼があったそうなの、ボルトミ絡みのね。だから情報が欲しいのでしょう」
「へえ、きな臭い話だなあ」
「でも冒険者的には本部に協力しておくと心証が良くなって、今後のランクアップに有利になりますわよ? 悪い話ではありませんわ」
うーん、つまり王都というところへ行って、おネエさまの話をして欲しいってことですよね?
確か前にモニカさんが、王都には人が沢山いると言っていましたっけ。
「いいですね、王都に行きましょう! そこでご主人様捜しをオレはしたいですっ」
「なら私もSランクに昇格するために、ギルドへ恩を売りに行くとするかっ!」
「私はどのみちオスカーたち元冒険者の犯罪報告をしに、王都へ行きますから。ではアジェル姫を送りだしたら三人で一緒に王都へ参りましょう」
そのアジェルさんはさっきから、自分の部屋のドアの隙間に顔を押し付けて、ずっとこっちを見ています。
よしよし、発情中のメスイヌとしての正しい態度ですね。
「コテツ……妾からも話が一つあるのじゃが。そっちへ行ってもいいかえ?」
「なっ? ダメですよ、そこから話してください!」
「むう……」
褒めたと思ったらすぐこれですよ。でもアジェルさんのシュンとしてした姿は、ちょっとだけ可哀想にも感じますね。
「のおコテツよ、例の岩山でも言いかけたことなのじゃがの、もしおぬしに暇が出来たら、一度犬人族の国に来て貰えぬじゃろうか? 首長である我が父にコテツを紹介したいのじゃ」
「ちょっ! そ、それは父親公認の仲となり、あわよくばそのままコテツ殿と結ばれてしまおうという魂胆では!?」
「な、何を申しておるか剣士殿っ! そ、そのような下心は妾には、な、な、無いぞっ」
「その慌てぶり……疑わしいですわね」
「な、何を馬鹿な支部長っ! 我ら犬人族にとってコテツは、完璧な人間の身体をもつ犬という奇跡にも似た存在ぞ。妾はただ皆とその驚きを分かち合いたいだけじゃ」
「ですからアジェル姫、何度も説明しましたがコテツ殿は普通の人間なんですよ?」
リリアンさん、何度も言いますがオレは柴イヌですよ……
「いやしかし、謎の組織ドッグランとやらも、ボスのキモオタなる者による虐待も、コテツ自身が否定していたであろう」
「そこは察してあげてくださいな!」
モニカさん、そこは素直に受け取ってくださいな……
「そうはいかぬ。もしやするとコテツは、神が造りし第二世代の犬人族ではないかと、妾は推考しておるゆえの。つまり進化した獣人じゃ!」
アジェルさん、頭大丈夫ですか?
まったくもう、三人ともいい加減にしてください。
オレはご主人様の飼いイヌ、コテツ。
誰が何と言おうと、人気ナンバーワンの柴イヌですっ!
〈第二章 柴イヌと犬人族のお姫様 完〉
「そうか、それは重畳。支部長も忙しいところ、わざわざの報告すまぬことだ」
「いえいえ、お迎えの従者方も間もなく到着することでしょう」
「うむ、それまで世話になる。思いがけず妾の発情期と重なり、男子との接触を避けねばならなくなったゆえな。同胞たちと共に帰れぬのは残念じゃった」
それならアジェルさんはこんなところに居ないで、ギルドの自分の部屋に大人しく閉じこもっていてほしいですね!
怪しい匂いでムラムラさせられる、こっちの身にもなって欲しいものです……
「コテツ殿! ちゃんと聞いてますかっ!? 数のかぞえ方くらいは覚えておかなくちゃ駄目ですよ!」
オレはというと、アジェルさんを助けに岩山に行った翌日から、毎日毎日リリアンさんが付きっきりでの勉強です。
翌日とか毎日とかも習ったばかりの言葉で、人間には日付というものが必要らしく、そういう言葉が沢山あります。
イヌには今日だけがすべてですからね、日付なんて必要ありませんでしたっ!
けど仕方ないですね、いまは人間社会で生きているのですから覚えましょう……
それにしても病気で人間の身体になって以来、どんどんと色々な言葉を覚えていきます。
不思議ですねえ。
「しゅ、集中できないのはもしかして……アジェル姫の発情が気になるからですかっ!? コテツ殿っ、どうなんですかッ!」
「その通りです、リリアンさん」
「がーんっ! 交尾はしないって言ってたのにっ、コテツ殿のウソつきーッ! わーん」
あ、リリアンさんが泣きながら走って行ってしまいました。てか、何がウソつきなのでしょうか?
交尾なんかするつもりはありませんが……
ん?
オレはアジェルさんからの視線を感じて振り向くと、目と目がぶつかりアジェルさんが途端に顔を赤くして……
うわ、きっつい! 一段と怪しい匂いが強くなってきましたよ。
これは同じ部屋にいるのは勘弁です。裏庭にあるギルドの留置場へと逃げましょう。
そこにはオスカーさんの身張り番をしているワンコがいるんです。
「やあ柴犬君、ごきげんよう」
オスカーさんは首輪をされて牢屋に入れられています。その首輪はモニカさんが呪術で作ったもので、オスカーさんの技を使えないようにするためのものらしいです。
「オスカーさん、その首輪、カッコいいですねっ! まさに飼いイヌのシンボル、オレも欲しいです」
「ふっ、僕くらいの男になると、何でも似合ってしまうからね! そんなことよりそのホムンクルスだけど、何か芸とかしないの? 退屈でかなわないよ」
ふむ、芸ですか。
オレは橫で黙って立っているワンコを見て訊きました。
「ワンコは何か芸ができますか? ちなみにオレはお手、お座り、伏せ、待て、チンチンまでの初級芸は出来ますよっ!」
思い出しますね、ご主人様との訓練の日々を──
『コテツ、お前ほんと芸を覚えねえ馬鹿犬だな。鼻パクもできねえし……俺もうお前で人気ユー○ューバーになるの諦めるわ。はぁ、コテツにはガッカリだぜっ!』
ううっ……悲しい思い出です。
「ワンコ、芸の道は厳しいです。おそらくお前には初級芸も無理でしょう。だけど心配はいりません、オレがちゃんと教えてあげますからね」
あれ? なんですか……ワンコがオレをさげすむような目でみながら、ポケットからドングリを取り出しましたが。
そのドングリを鼻の上に置いて?……って、まさかっ!
あっ、そのドングリを一瞬でパクっと食べましたっ! こ、これは鼻パクッ!
「わ、ワンコは上級芸の鼻パクができるのですか!?」
「フフン……」
キーーッ! いま明らかにオレのことを鼻で笑いましたねっ、しかもドヤ顔でッ!
「おおっ! 今の芸は素晴らしいじゃないかっ! ホムンクルス君、もう一度見せてくれたまえ!」
ワンコは得意そうにまた鼻パクをして、オスカーさんから拍手をもらっていますっ!
この猛烈な敗北感はなんでしょうか。イヌとしての自信を失いそうです……
オレはすっかりションボリしてその場を離れ、とぼとぼと歩きながらギルドの入口へと向かいました。
おや? 雪が降ってきましたね……
どうりで寒いと思いましたよ。それなのにリリアンさんが入口で膝を抱えて座っています。
マントを着込んで剣も持っていますが、どこかへ行くのでしょうか?
「リリアンさん、お出かけですか?」
そう訊きながら、オレはリリアンさんの橫に同じようにして座りました。
「はい、旅に出ようと思います。女を捨て、剣の道一筋に生きるための修行をやり直すのです」
「ならオレも一緒に行きますよ、危険があっては大変ですからね」
「コテツ殿は優しいですね。でもとても残酷ですよ……」
はて? オレのなにが残酷なのでしょうかね?
「大事なおともだちのリリアンさんを心配するのは、残酷なことなのですか?」
「フッ……そうですよね。所詮私はコテツ殿にとっては、おともだちなのです。もはや自分が女であることの意味が無いことに、ようやく気がつきました」
意味がわかりません。
「これが失恋ってやつなんですね……女を捨てる私にとっての、最初で最後の……失恋ですっ! うわーんっ」
リリアンさんが泣き出しましたよ? でもかなり深刻な匂いをさせているので、どうやら本気の涙のようですね……
「何か悩みがあるなら教えてください。オレ、リリアンさんがツラいのはイヤですよ」
「くすん……じゃあ恥を忍んで訊きますけれど……どうしてコテツ殿は、アジェル姫だけにあんなに欲情するんですか? やっぱり彼女の事が好きなんですか?」
「それはアジェルさんが発情しているからですが? オスイヌは普段はムラムラすることはありませんけど、発情の匂いを嗅ぐと本能的にムラムラさせられてしまうのです。別にアジェルさんが特別ということではありませんよ」
「えっ? コテツ殿は自分からは欲情しないのですか?」
「しませんね」
なんでしょう、こんなのオスイヌの常識ですが。
「じゃ、じゃあもし私が欲情したら、コテツさんも欲情するのですかっ!?」
「かもしれません」
「そ、それはっ!……ちょ、ちょっと失礼しますッ!」
するとリリアンさんはオレの股間を見つめ、鼻息を荒くし始めて──
「ジーーッ……ふがっ! ふがっ!……うひひひ……」
うっ! り、リリアンさんから強烈な怪しい匂いがっ!
「ハァハァ、どうでしょう。こ、コテツ殿も……ムラムラしてきましたかッ!?」
「やめてください……するに決まっているじゃないですかっ」
「よっしゃあーーッ!」
何ですかねいきなり……身体をもてあそばれたような気がしますがっ。
「女を捨てる旅は中止ですっ。てかコテツ殿、これからもっともっと私は女を磨いていきますよッ! キャッホーイ」
元気な匂いをさせながら立ち上がったリリアンさんのマントの背中には、ブサイクな柴イヌの絵がありました。
そういえば自分だけお揃いでないと悔しがっていましたっけ。だから自分で描いたのでしょう。
ブサイクな柴イヌですが、なんだか憎めませんね。
「さあコテツ殿、外は寒くて風邪をひきます。一緒に中へ入りましょう」
オレはそう言ったリリアンさんに手を引かれて、ギルドの中へと入ったのでした。
「ちょっとリリアン! あんたなんでコテツさんの手なんか握っているのよっ、抜けがけとかマジで呪うわよっ!」
「フッ、おののくがいいモニカ! 今日からの私はこれまでの──ブゥ~ッ…………ぎゃあーっ」
あ、リリアンさんのオナラ……くさっ!
「オホホ、警告は聞くものですわ」
「き、きさま……ぶった斬るッ!」
「そんなオナラなんかより、コテツさんに大切なお話があるのですわ」
「オレにですか?」
「ええ、先ほどギルド本部から連絡がありましたの。錬金術師のボルトミについての事件の詳細を、王都本部にてコテツさんとリリアン、それに私の三人から聞かせて欲しいって」
「なんか変な話だな、ボルトミのことはギルドの依頼とは関係ないじゃないか」
「それがね、王国府からギルドへ直々の極秘依頼があったそうなの、ボルトミ絡みのね。だから情報が欲しいのでしょう」
「へえ、きな臭い話だなあ」
「でも冒険者的には本部に協力しておくと心証が良くなって、今後のランクアップに有利になりますわよ? 悪い話ではありませんわ」
うーん、つまり王都というところへ行って、おネエさまの話をして欲しいってことですよね?
確か前にモニカさんが、王都には人が沢山いると言っていましたっけ。
「いいですね、王都に行きましょう! そこでご主人様捜しをオレはしたいですっ」
「なら私もSランクに昇格するために、ギルドへ恩を売りに行くとするかっ!」
「私はどのみちオスカーたち元冒険者の犯罪報告をしに、王都へ行きますから。ではアジェル姫を送りだしたら三人で一緒に王都へ参りましょう」
そのアジェルさんはさっきから、自分の部屋のドアの隙間に顔を押し付けて、ずっとこっちを見ています。
よしよし、発情中のメスイヌとしての正しい態度ですね。
「コテツ……妾からも話が一つあるのじゃが。そっちへ行ってもいいかえ?」
「なっ? ダメですよ、そこから話してください!」
「むう……」
褒めたと思ったらすぐこれですよ。でもアジェルさんのシュンとしてした姿は、ちょっとだけ可哀想にも感じますね。
「のおコテツよ、例の岩山でも言いかけたことなのじゃがの、もしおぬしに暇が出来たら、一度犬人族の国に来て貰えぬじゃろうか? 首長である我が父にコテツを紹介したいのじゃ」
「ちょっ! そ、それは父親公認の仲となり、あわよくばそのままコテツ殿と結ばれてしまおうという魂胆では!?」
「な、何を申しておるか剣士殿っ! そ、そのような下心は妾には、な、な、無いぞっ」
「その慌てぶり……疑わしいですわね」
「な、何を馬鹿な支部長っ! 我ら犬人族にとってコテツは、完璧な人間の身体をもつ犬という奇跡にも似た存在ぞ。妾はただ皆とその驚きを分かち合いたいだけじゃ」
「ですからアジェル姫、何度も説明しましたがコテツ殿は普通の人間なんですよ?」
リリアンさん、何度も言いますがオレは柴イヌですよ……
「いやしかし、謎の組織ドッグランとやらも、ボスのキモオタなる者による虐待も、コテツ自身が否定していたであろう」
「そこは察してあげてくださいな!」
モニカさん、そこは素直に受け取ってくださいな……
「そうはいかぬ。もしやするとコテツは、神が造りし第二世代の犬人族ではないかと、妾は推考しておるゆえの。つまり進化した獣人じゃ!」
アジェルさん、頭大丈夫ですか?
まったくもう、三人ともいい加減にしてください。
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