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第三章 柴イヌ、出世する
第三十六話 突然の遭難
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「寝るなーアッ! モニカっ、寝たら死ぬぞーオッ!──むにゃむにゃ……」
「ちょっとリリアンっ! あんたが寝てるじゃないッ! 寝言いってる場合じゃないのよッ! 死ぬわよッ!」
いやこれ、オレたち本当に死ぬんじゃないですかね?
イヌのオレは雪で遊ぶのは大好きですが、この吹雪というやつはあまり好きではありません。
「コテツさん! もう一度リリアンにパンチを食らわせて起こして下さいっ!」
「わかりましたッ!──イヌパンチ」
「はうッ! あ……。コテツ殿、もしかしてまた寝てしまいましたか!?」
「はい! なので軽くイヌパンチしました」
「リリアンあんた次寝たら死ぬわよっ!」
「す、すまんモニカ。いやしかし、何でこんな猛吹雪の中で私たちは遭難しているんだ? おかしいだろッ!」
確かにリリアンさんの言う通りでおかしいです。昨日は晴れてて雪の気配もなく三人で王都への旅に出発したのです。
タリガの町から駅馬車のある街まで、たった四日の徒歩の旅だったのに……
「……モニカ? おいモニカ、返事をしろ! モニカーッ! どこだあーッ!」
「リリアンさん、モニカさんが雪に埋まってしまったようです。ちょっと掘り出してきますね」
「こ、コテツ殿っ、モニカが埋まった場所が分かるのですか?」
「はい、匂いで分かりますよ!」
穴を掘るのはイヌの得意分野ですからね。なのでオレはすぐにモニカさんを雪の中から掘り出しました。
「ああ、コテツさん……」
「モニカさん、大丈夫ですか?」
リリアンさんがすごい形相で雪を掻き分けてこっちへ来ています。
何だかんだ言って二人は仲良しですから、よほど心配だったのでしょう。
「も、モニカ、無事かあっ!?」
「リリアン、私、無事じゃ、ない、かも……」
「なにッ!」
「だからコテツさん……。裸で抱き締め合って温め合いましょうッ──うふん」
「モニカ、いますぐお前だけ凍死しろ」
うーむ、いくら柴イヌが寒さに強いとはいえ、病気で人間の身体になってしまった今のオレではモニカさんと一緒に吹雪で凍死しそうですね。
あのモフモフの素晴らしい体毛さえあったなら! この人間の身体が恨めしい。
我々イヌの英雄であらせられるタロ様とジロ様、こんな時オレはどうしたらいいのでしょうか。
「ねえ、みんなで雪に埋もれましょうよ。埋もれている時あったかかったのよ、息が苦しいけどあったかかったわあ」
なんだかモニカさんがヤバいこと言ってますね……
「あっ、それだモニカ! コテツ殿っ、三人でその斜面に横穴を掘りましょう!」
えっ? リリアンさんまで頭がおかしくなってしまったのでしょうか……
「確か雪山で遭難したら、雪洞というのを作って避難しろと聞いた事がありました!」
ほう。しかしそういう事はもっと早くに思い出して欲しいものです。
「穴ならまかせて下さい! オレ、穴を掘るのは大好きですッ!」
「まあっ! コテツさんは両刀使いなんですか? ステキ! でも今晩はわたしのを掘らせてア・ゲ・ル──キャッ」
「モニカ……。ふざけてるのか? それとも死にそうで錯乱してるのか? どっちにしろ死ね!」
まあ、とにもかくにもオレたちは穴を掘って、その中で一息つく事ができました。
それにしても穴って最高ですよっ。信じられないくらい中はあったかくて気持ちいいんです!
「天は我を見放したっ──かと思ったが、どうにか生き延びられたみたいだな!」
「ほんとねリリアン。でもどうしてこんな事になってしまったのかしら? いくら急に猛吹雪になったからって、たったの半日で胸まで雪って積もるものなの?」
「さあな、私は都会っ子なのでよくわからないなあ。田舎育ちのモニカの方が詳しいと思っていたぞ」
「ちょっと、私を田舎者みたいに言わないでよ! 私が育った村は王都の郊外なんだから、こんな辺境のド田舎と一緒にしないで欲しいわっ──メガネクイッ」
「ふーん、ではコテツ殿は?」
「あのお、みなさん、その前に……」
「はい、何でしょうかコテツ殿」
「何ですの? コテツさん」
「オレの身体に抱きつきながら、怪しい匂いを振りまくのを止めてもらえませんかね……」
穴が狭くてくっついてしまうのは仕方ないのですが、なぜリリアンさんとモニカさんは発情期のメスイヌの様な匂いを振りまくのでしょうか。
オスイヌのオレはこの匂いを嗅がされると、強制的にムラムラさせられてしまってツラいんですが!
「えっ、だってえ、恋人同士ですもの自然なことですわ。なんならペロペロして下さってもいいんですのよ?──うふん」
「おいモニカ! 私だって恋人なんだからなっ。というかコテツ殿とこうしていると、放置プレイをされた日のことを思い出してしまってお腹の下の辺りが──キャッ」
すごく二人とも迷惑です!
「いますぐ怪しい匂いを振りまくのを止めて下さい。でないと別の穴を掘ってオレだけそっちへ行きます」
そうオレが厳しく宣言すると、リリアンさんとモニカさんは渋々としながらも怪しい匂いを出すのを止めてくれました。
獣人のアジェルさんの発情期にも困りましたが、この二人にもまったく困りますね。
またこんな目にあわされるくらいなら、王都へはオレ一匹で行った方がいいかもしれません。
「だ、駄目ですッ! 旅の間もう二度と怪しい匂いはさせないので、どうかコテツ殿と同道させて下さいっ」
「見捨てないでッ! リリアンと二人旅なんて絶対イヤっ。コテツさんの居ないところでコッソリ怪しい匂いをさせるから、許してえッ!」
ふむ。リリアンさんもモニカさんも反省してくれた様なので、オレは二人と一緒に王都へ行くことにしました。
まあ人気ナンバーワンの柴イヌは、時にこういう目にもあうものです。
「ところで王都へはあと何日くらいで着くのでしょうか?」
オレはリリアンさんに数字の特訓を受けたので、今では日にちも分かるのです。しかも百まで数えられます。
ああ、早くご主人様を見つけて、この賢くなったオレを褒めて欲しい!
「そうですわねえ。王都はこの国の南にありますから、北のこの土地からだと駅馬車だけでも三十日以上かかりますわ」
「てか、我々は生きてここから駅馬車のある街まで辿り着けるのか!?」
「辿り着いても地獄が待っていますわ。三十日以上の駅馬車の旅なんて……」
分かりますよモニカさん。オレは馬車はコリゴリなのでずっと歩いたり走ったりします、頑張って下さい。
「そこが納得できんのだ!」
「何がよリリアン」
「そもそも今回の王都行きは王都にあるギルド本部からのお願いだろ? 我々が打倒した錬金術師のボルトミについての情報が欲しいっていうさ」
そうだったのですか? オレはてっきりご主人様を捜す為に行くんだと思っていました。
まあでも別に何でもいいです。
「だったら何で駅馬車なんだ? 都市間転移門を使わせてくれて当たり前だろ!」
「馬鹿ねリリアン、だってあれ料金が半端なく高いじゃないの。この地方から王都までだと一人百万キンネはするわよ?」
「それが何だ! 私は誠意を見せろと言っているんだ。駅馬車の交通費なんてケチ臭いこと言わずに、転移門の交通費を支給するべきだろ!」
「ギルドはケチなのよ! だいたい私の給料も少なすぎるわッ。支部長になったというのに手取りが前の受付嬢とほとんど変わらないってどういう事よっ!」
「それを言うならAランク冒険者の私への要請には、相応の待遇と謝礼金があってしかるべきだっ!」
なんだかお腹が空いてきましたね。確かおやつの骨があったはずですが、荷物のどこに入れたのでしょうか。
「コテツ殿だって転移門の方がラクチンでいいですよね?」
ん? リリアンさんの話をまったく聞いていなかったのでよく分かりませんが。
「転移門って何ですか?」
「魔法で移動する施設のことです」
「ほらコテツさんもボルトミが消えてしまったのをご覧になったでしょ? あれが転移魔法なんですが、それの大規模なやつですわ」
そういえばそんな感じのを見た様な気がします。しかしリリアンさんとモニカさんはなぜ怒った匂いをさせているのでしょう?
「ギルド本部に誠意がないからです!」
「ギルド本部がケチだからですわ!」
なるほど、ギルド本部は誠意がなくてケチなんですね。憶えておきましょう。
しかしそんな事ぐらいで怒ってしまうのは、やっぱりお腹がすいているからなのかもしれませんね。
こんな狭い穴で怒った匂いを出されると、オレまでストレスを感じて迷惑です。
「リリアンさん、モニカさん、そういう時はおやつの骨を食べるといいですよ! お腹がすいているから怒りっぽくなるのです」
「あ……。その事なのですが……」
なんかリリアンさんがすごく申し訳なさそうな顔になりました。とてもイヤな予感がしますね。
「吹雪の中で食料の入っていた荷物を……、失くしてしまいましたッ!」
「ウソ……。ねえリリアン、冗談よね?」
「大丈夫だモニカ、吹雪がおさまったら直ぐに探してくる!」
「なにが大丈夫よっ、何日も吹雪が続いたらどうすんのよ!」
「はっはっはっ、心配性だなモニカは。何日も吹雪が続くわけないだろ。というわけでコテツ殿、遺憾ではありますがおやつの骨はしばらくご辛抱下さい!」
オレのイヤな予感が当たってしまいました。つまり明日まで雪だけしか食べられないのですね。
でもまあ仕方ないです。リリアンさんも遭難して必死だったのですから。
ここは柴イヌの我慢強さをご披露いたしましょう。一日くらい余裕で我慢してみせますよ!
と、思ったのですが……。それから三日間、吹雪がやむことはありませんでした。
「こ、コテツさん? 一体何をしているのですか……縦穴なんか掘って」
「モニカさん、オレ良いこと思いついたんです。もう雪を食べるのはウンザリなんで、雪の下にある土を食べることにしました! 運が良ければミミズさんや冬眠中のカエルさんがいるかもです」
「えええーっ!?」
ふふふ、モニカさんもオレのアイデアに喜んでいますね。
「コテツ殿、こっちに土より美味しそうなものがありますよ!」
「ほう、何でしょうリリアンさん」
「レモンシロップのかき氷です!」
「うーん、もう雪はイヤですよ。それに何か刺激臭がします」
「ちょっ! リリアンあんたまさか、それって自分の!? もうイヤっ! 二人とも正気になってえーッ!」
まあこの後すぐに吹雪がやんで、オレたちは危ういところで正気に戻ったわけです……
すぐさま穴を飛び出したオレは、匂いから食料の袋を探し当てました。
冷凍食品になっていた硬い食べ物を三人でガリガリと貪り食ったのも、今ではよい思い出です。
「ちょっとリリアンっ! あんたが寝てるじゃないッ! 寝言いってる場合じゃないのよッ! 死ぬわよッ!」
いやこれ、オレたち本当に死ぬんじゃないですかね?
イヌのオレは雪で遊ぶのは大好きですが、この吹雪というやつはあまり好きではありません。
「コテツさん! もう一度リリアンにパンチを食らわせて起こして下さいっ!」
「わかりましたッ!──イヌパンチ」
「はうッ! あ……。コテツ殿、もしかしてまた寝てしまいましたか!?」
「はい! なので軽くイヌパンチしました」
「リリアンあんた次寝たら死ぬわよっ!」
「す、すまんモニカ。いやしかし、何でこんな猛吹雪の中で私たちは遭難しているんだ? おかしいだろッ!」
確かにリリアンさんの言う通りでおかしいです。昨日は晴れてて雪の気配もなく三人で王都への旅に出発したのです。
タリガの町から駅馬車のある街まで、たった四日の徒歩の旅だったのに……
「……モニカ? おいモニカ、返事をしろ! モニカーッ! どこだあーッ!」
「リリアンさん、モニカさんが雪に埋まってしまったようです。ちょっと掘り出してきますね」
「こ、コテツ殿っ、モニカが埋まった場所が分かるのですか?」
「はい、匂いで分かりますよ!」
穴を掘るのはイヌの得意分野ですからね。なのでオレはすぐにモニカさんを雪の中から掘り出しました。
「ああ、コテツさん……」
「モニカさん、大丈夫ですか?」
リリアンさんがすごい形相で雪を掻き分けてこっちへ来ています。
何だかんだ言って二人は仲良しですから、よほど心配だったのでしょう。
「も、モニカ、無事かあっ!?」
「リリアン、私、無事じゃ、ない、かも……」
「なにッ!」
「だからコテツさん……。裸で抱き締め合って温め合いましょうッ──うふん」
「モニカ、いますぐお前だけ凍死しろ」
うーむ、いくら柴イヌが寒さに強いとはいえ、病気で人間の身体になってしまった今のオレではモニカさんと一緒に吹雪で凍死しそうですね。
あのモフモフの素晴らしい体毛さえあったなら! この人間の身体が恨めしい。
我々イヌの英雄であらせられるタロ様とジロ様、こんな時オレはどうしたらいいのでしょうか。
「ねえ、みんなで雪に埋もれましょうよ。埋もれている時あったかかったのよ、息が苦しいけどあったかかったわあ」
なんだかモニカさんがヤバいこと言ってますね……
「あっ、それだモニカ! コテツ殿っ、三人でその斜面に横穴を掘りましょう!」
えっ? リリアンさんまで頭がおかしくなってしまったのでしょうか……
「確か雪山で遭難したら、雪洞というのを作って避難しろと聞いた事がありました!」
ほう。しかしそういう事はもっと早くに思い出して欲しいものです。
「穴ならまかせて下さい! オレ、穴を掘るのは大好きですッ!」
「まあっ! コテツさんは両刀使いなんですか? ステキ! でも今晩はわたしのを掘らせてア・ゲ・ル──キャッ」
「モニカ……。ふざけてるのか? それとも死にそうで錯乱してるのか? どっちにしろ死ね!」
まあ、とにもかくにもオレたちは穴を掘って、その中で一息つく事ができました。
それにしても穴って最高ですよっ。信じられないくらい中はあったかくて気持ちいいんです!
「天は我を見放したっ──かと思ったが、どうにか生き延びられたみたいだな!」
「ほんとねリリアン。でもどうしてこんな事になってしまったのかしら? いくら急に猛吹雪になったからって、たったの半日で胸まで雪って積もるものなの?」
「さあな、私は都会っ子なのでよくわからないなあ。田舎育ちのモニカの方が詳しいと思っていたぞ」
「ちょっと、私を田舎者みたいに言わないでよ! 私が育った村は王都の郊外なんだから、こんな辺境のド田舎と一緒にしないで欲しいわっ──メガネクイッ」
「ふーん、ではコテツ殿は?」
「あのお、みなさん、その前に……」
「はい、何でしょうかコテツ殿」
「何ですの? コテツさん」
「オレの身体に抱きつきながら、怪しい匂いを振りまくのを止めてもらえませんかね……」
穴が狭くてくっついてしまうのは仕方ないのですが、なぜリリアンさんとモニカさんは発情期のメスイヌの様な匂いを振りまくのでしょうか。
オスイヌのオレはこの匂いを嗅がされると、強制的にムラムラさせられてしまってツラいんですが!
「えっ、だってえ、恋人同士ですもの自然なことですわ。なんならペロペロして下さってもいいんですのよ?──うふん」
「おいモニカ! 私だって恋人なんだからなっ。というかコテツ殿とこうしていると、放置プレイをされた日のことを思い出してしまってお腹の下の辺りが──キャッ」
すごく二人とも迷惑です!
「いますぐ怪しい匂いを振りまくのを止めて下さい。でないと別の穴を掘ってオレだけそっちへ行きます」
そうオレが厳しく宣言すると、リリアンさんとモニカさんは渋々としながらも怪しい匂いを出すのを止めてくれました。
獣人のアジェルさんの発情期にも困りましたが、この二人にもまったく困りますね。
またこんな目にあわされるくらいなら、王都へはオレ一匹で行った方がいいかもしれません。
「だ、駄目ですッ! 旅の間もう二度と怪しい匂いはさせないので、どうかコテツ殿と同道させて下さいっ」
「見捨てないでッ! リリアンと二人旅なんて絶対イヤっ。コテツさんの居ないところでコッソリ怪しい匂いをさせるから、許してえッ!」
ふむ。リリアンさんもモニカさんも反省してくれた様なので、オレは二人と一緒に王都へ行くことにしました。
まあ人気ナンバーワンの柴イヌは、時にこういう目にもあうものです。
「ところで王都へはあと何日くらいで着くのでしょうか?」
オレはリリアンさんに数字の特訓を受けたので、今では日にちも分かるのです。しかも百まで数えられます。
ああ、早くご主人様を見つけて、この賢くなったオレを褒めて欲しい!
「そうですわねえ。王都はこの国の南にありますから、北のこの土地からだと駅馬車だけでも三十日以上かかりますわ」
「てか、我々は生きてここから駅馬車のある街まで辿り着けるのか!?」
「辿り着いても地獄が待っていますわ。三十日以上の駅馬車の旅なんて……」
分かりますよモニカさん。オレは馬車はコリゴリなのでずっと歩いたり走ったりします、頑張って下さい。
「そこが納得できんのだ!」
「何がよリリアン」
「そもそも今回の王都行きは王都にあるギルド本部からのお願いだろ? 我々が打倒した錬金術師のボルトミについての情報が欲しいっていうさ」
そうだったのですか? オレはてっきりご主人様を捜す為に行くんだと思っていました。
まあでも別に何でもいいです。
「だったら何で駅馬車なんだ? 都市間転移門を使わせてくれて当たり前だろ!」
「馬鹿ねリリアン、だってあれ料金が半端なく高いじゃないの。この地方から王都までだと一人百万キンネはするわよ?」
「それが何だ! 私は誠意を見せろと言っているんだ。駅馬車の交通費なんてケチ臭いこと言わずに、転移門の交通費を支給するべきだろ!」
「ギルドはケチなのよ! だいたい私の給料も少なすぎるわッ。支部長になったというのに手取りが前の受付嬢とほとんど変わらないってどういう事よっ!」
「それを言うならAランク冒険者の私への要請には、相応の待遇と謝礼金があってしかるべきだっ!」
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ん? リリアンさんの話をまったく聞いていなかったのでよく分かりませんが。
「転移門って何ですか?」
「魔法で移動する施設のことです」
「ほらコテツさんもボルトミが消えてしまったのをご覧になったでしょ? あれが転移魔法なんですが、それの大規模なやつですわ」
そういえばそんな感じのを見た様な気がします。しかしリリアンさんとモニカさんはなぜ怒った匂いをさせているのでしょう?
「ギルド本部に誠意がないからです!」
「ギルド本部がケチだからですわ!」
なるほど、ギルド本部は誠意がなくてケチなんですね。憶えておきましょう。
しかしそんな事ぐらいで怒ってしまうのは、やっぱりお腹がすいているからなのかもしれませんね。
こんな狭い穴で怒った匂いを出されると、オレまでストレスを感じて迷惑です。
「リリアンさん、モニカさん、そういう時はおやつの骨を食べるといいですよ! お腹がすいているから怒りっぽくなるのです」
「あ……。その事なのですが……」
なんかリリアンさんがすごく申し訳なさそうな顔になりました。とてもイヤな予感がしますね。
「吹雪の中で食料の入っていた荷物を……、失くしてしまいましたッ!」
「ウソ……。ねえリリアン、冗談よね?」
「大丈夫だモニカ、吹雪がおさまったら直ぐに探してくる!」
「なにが大丈夫よっ、何日も吹雪が続いたらどうすんのよ!」
「はっはっはっ、心配性だなモニカは。何日も吹雪が続くわけないだろ。というわけでコテツ殿、遺憾ではありますがおやつの骨はしばらくご辛抱下さい!」
オレのイヤな予感が当たってしまいました。つまり明日まで雪だけしか食べられないのですね。
でもまあ仕方ないです。リリアンさんも遭難して必死だったのですから。
ここは柴イヌの我慢強さをご披露いたしましょう。一日くらい余裕で我慢してみせますよ!
と、思ったのですが……。それから三日間、吹雪がやむことはありませんでした。
「こ、コテツさん? 一体何をしているのですか……縦穴なんか掘って」
「モニカさん、オレ良いこと思いついたんです。もう雪を食べるのはウンザリなんで、雪の下にある土を食べることにしました! 運が良ければミミズさんや冬眠中のカエルさんがいるかもです」
「えええーっ!?」
ふふふ、モニカさんもオレのアイデアに喜んでいますね。
「コテツ殿、こっちに土より美味しそうなものがありますよ!」
「ほう、何でしょうリリアンさん」
「レモンシロップのかき氷です!」
「うーん、もう雪はイヤですよ。それに何か刺激臭がします」
「ちょっ! リリアンあんたまさか、それって自分の!? もうイヤっ! 二人とも正気になってえーッ!」
まあこの後すぐに吹雪がやんで、オレたちは危ういところで正気に戻ったわけです……
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