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第三章 柴イヌ、出世する
第四十三話 ゴマール大森林
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オレはお友だちでもない知らない人たちと一緒に、おネエさまを捕まえるための旅をしています。
いや、吹雪で遭難した時の命がけの旅に比べたら、ちょっとお出かけするくらいの楽な旅なのですがね。
でもどうしてこんなとになったのか、正直オレには分からないのです。
リリアンさんとモニカさんを、オレが困らせているらしくて。でも取引というのをしておネエさまを捕まえたら、二人が困らなくなるという……。うーむ?
「えっ? マジで!? コテッちんはそんな事も分からないで一緒に来たのお?」
「はい、実をいえば何でリリアンさんとモニカさんが困っているかも謎なのです」
パフさんはオレのことをコテッちんと呼んでいて、唯一オレにフレンドリーな匂いをさせてくれている女の人です。
この優しい人がいなかったら、この旅はもっと寂しかったに違いありません。
「パフさんには分かるんですか?」
「そりゃあそれくらい、頭の良くないあたいにでも分かるよお……」
「すごいですっ! ぜひオレにも教えてください!」
パフさんの話だとご主人様は悪い人だそうで、ご主人様を捕まえるためにみんなで捜しているらしいのです。
オレとしてはご主人様が悪い人かなんて、どうでもいいし興味ありません。ご主人様はご主人様ですからね。
けど驚いたことに、ご主人様が悪い人だからその飼いイヌのオレまで悪いイヌだというんです。まったく滅茶苦茶な話ですね!
しかもリリアンさんとモニカさんが悪い飼いイヌであるオレのお友だちだから、これまた悪いお友だちに決まっていると思われているそうです。みんな頭おかしいでしょ!
つまり悪いご主人様も、悪い飼いイヌも、悪いお友だちも、全部悪いから駄目ということですね。
なのでオレもリリアンさんもモニカさんも困った立場にいるそうです。
ところが何故かおネエさまを捕まえれば、オレは良い飼いイヌに変わるらしく……
良い飼いイヌのお友だちも良いお友だちにも変わるそうで、リリアンさんとモニカさんは助かるのだとか。
なんだかとっても複雑な話でした!
ちなみにドッグランというのはイヌの遊び場のことではなく、悪い人の集まるグループの名前だそうです。
しかもご主人様はそのグループで一番エラい人だというのですからサスガです!
「おーい、全員集まってくれえ」
「あっ、レーガンさんが呼んでるよ。コテッちん行こう」
「はいパフさん!」
いまオレたちのいる場所はゴマール大森林というところの入口で、とっても広々とした素敵なところです。
ここに来るまで無理やり馬車に乗せられて、さっきようやく解放してもらえました。そのせいで気持ち悪くなった身体を、オレは休めていたわけです。
「コテツ君、身体の具合はどうだね?」
「もう大丈夫です!」
「よし、では錬金術師ボルトミ捕縛作戦の最終確認をする」
このパーティのリーダーはレーガンさんです。他にフレンドリーなパフさん。怒りん坊なバウワーさん、恐いミネルバさん、大きな身体のごっつぁんですさんがいます。
この四人とオレとで、おネエさまを捕まえに来ているのでした。
「冒険者ギルドの諜報部によると、ゴマールの大森林中央付近にボルトミの研究所があるとの事だ。しかし詳しい位置までは特定できていない。あとは我々が自力で見つけるしかないので、野伏のパフに尽力して貰う事になるだろう」
「任せてよレーガンさん!」
「ありがとうパフ。研究所発見後は速やかにボルトミを捕縛するわけだが、直接の戦闘対象となるであろうホムンクルスには知っての通り特性がある。ボルトミが直接命令した事しか行動出来ないという特性だが、そこに我々の勝機があると思うんだ」
うむむ、相変わらずレーガンさんの話は長くてよく分からないですね。眠くなってきてしまいました。
「しかも命令は単純なものしか実行できない。ゆえに判断力を必要とする警備は人間か亜人がしているだろう。これらを密やかに排除しボルトミに急襲をかける。最善は気付かれる事なく捕縛する事だが、少なくとも少数のホムンクルスとの戦闘だけで作戦を完遂させたい」
ウトウト……
「そこで拉致スキルのあるパフは戦闘には参加せず、ボルトミの捕縛にだけ専念する事。バウワーと俺とごっつぁんですで制圧しミネルバはその支援だ」
グウグウ……
「あとコテツ君だが──」
「フガッ!? はいっ、なんなりとッ!」
「……ね、寝てたのかい?」
「いえっ! 寝ていませんッ!」
「そ、そうか……。じゃあコテツ君にはパフの護衛をして貰う事になる。なのでしばらく二人はパートナーとして共に行動してくれたまえ」
「かしこまりましたレーガンさん! パフさん、よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく。仲良くしようねん、コテッちん」
「まあパフ! 仲良くしようとはどういう意味ですの!?」
「ん? えっと、ただの挨拶だけど……。ミネルバなんで?」
「い、いえ……。ならいいのです。そちらのコテツ殿はかなりな女たらしだと聞き及んでおりますので、貴女の貞操を少々心配しただけですよ」
「バ、バカなこと言わないでよ! そういう事はあたいとは、む、無縁だからあっ!」
女たらしとはどういう意味ですかね? 何かあまり良い意味ではない気がしますが。
それにしても眠ってしまったのがバレたかとヒヤヒヤしました。危ない危ない。
「まあ! 無縁とは勿体ない事を。もし私が貴女くらい美しいハーフエルフの少女でしたら、今頃は私が……くそっ!」
「おいおい聖女様よ、悪い虫が疼いてきたのかい? カカカッ」
「お黙りバウワーっ!」
「やれやれ……それじゃみんないいかい? 森の中には魔獣も多く生息しているから、くれぐれも油断しないようにね」
「ごっつぁんです!」
「あ、そうだコテツ君。君にこれを返しておこう」
そう言ってレーガンさんがオレにポンと投げて渡してきたのは、例のグロいイヌの牙でした。
「君の武装は許すけど、間違っても俺たちには使わないでくれよ?」
またレーガンさんは謎なことを言っています。これは冗談というものでしょうか?
「えっ? なにこれ? マウスガードに牙が付いてるけど、どういう武器なん?」
「見た目の通り噛むんだよ。現にコテツ君はその武器で俺の剣を噛み砕いたしね。確か哀しき犬の技という格闘術だったかな」
レーガンさんは笑いながら話していますが、目は笑っていませんね。
どうやら剣を壊してしまったことで恨みを買ってしまったようです!
てか、哀しきイヌの技というのは忘れて欲しかったですね。ついでに剣を壊したことも忘れてください!
「コテッちん、マジで?」
「パフさん、マジです。オレはイヌなので噛んで戦うんですよ」
「怖っ!」
「じゃあパフ、森の中へ入ろうか。とりあえず森の中央を目指して行こう」
「了解です、レーガンさん!」
森というのはヒンヤリしていてとても気持ちのいい場所です。前に臭い草を採りに行った時も、とても楽しかったのを憶えています。
まともな道がなくて、まるでアスレチックパークみたいで楽しいんですよね。しかも今回はパフさんと競争も出来て最高ですっ!
「パフさーん、こっち、こっちでーす! あははは」
「ちょっ! コテッちん、そっちじゃないよっ! 遊んでるんじゃないんだから、ちゃんと真面目について来てよお!」
「あれ? 遊んでいるんじゃないんですか? じゃあ何しているんです?」
「もう! 魔獣の索敵とボルトミの捜索だよっ! てかさ、何でコテッちんはあたいより上手く森の中を進めるのさ!? 野伏としての自信失くしちゃうじゃん!」
怒られました。オレはてっきり遊んでいるのだと思っていたんですが、どうやらパフさんは違ったようです。
でもそれなら変ですね……
「おネエさまのいる所ならこっちの方じゃないですよ? もっと向こうの方から匂いがしていますけど」
「えっ? コテッちんはボルトミの研究所の場所を知ってんの?」
「知りませんよ?」
「ふーん、そうやってあたいをからかうんだ……。コテッちんキライっ!」
「からかってないです。それにキライにならないでください、オレはパフさんのことがスキなので!」
「そ、そういう事、言わないのッ! もう、ホントに女たらしだなあコテッちんは!」
はて? 何でスキだと言ってはいけないのでしょうかね。変な人です。
「けど、おネエさまの匂いは向こうからしていますよ? パフさんの行く方からは不思議な動物の匂いがしていますし」
「不思議な動物? 魔獣とか? けどそんな気配しないじゃん! もういいから真面目について来てよお、ハァ──」
仕方ないのでオレは真面目にパフさんの後をついて行きました。
「ねえコテッちん、きいてもいい?」
「何でもどうぞ! 暇なのでっ」
「ひ、暇って……。まあいいや。コテッちんは昔さ、ドン・キモオタの下でどんな悪い事したの?」
ご主人様と一緒に暮らしていたころの話でしょうかね。
そのころオレがした悪いことといえば、やっぱりイタズラでしょうか。
「そうですね、ご主人様のお気に入りのクッションを破いてバラバラにしたり、靴を盗んで隠したり。あと捨ててあったパンとか拾い食いしましたね」
「もうっ、冗談じゃなくてだよお!」
冗談じゃないのですが……
「あのね、実はあたいも昔は盗賊だったんだよね……。子供の頃から悪い事をするように育てられたの。だからもしかしたらコテッちんもそうだったんじゃないかと思ってさ」
なんかパフさんからとても悲しい匂いがしてきました。
同時にとてもいい匂いもしています。オレを心配してくれるお友だちの優しい匂いとそっくりですね。
「オレは仔イヌの時にご主人様に買ってもらったんです。それで立派な飼いイヌになるようにと育てられました」
「そっかあ、あたいと同じでコテッちんも奴隷だったんだね。子供の人身売買は、許せないよお……!」
「でもご主人様はエサもくれるし散歩も連れてってくれる、優しい人でしたよ?」
「そんな事言っちゃ駄目だよ……。悲しすぎるよコテッちん。くすん」
なんで言っちゃ駄目なのかわかりませんが、パフさんがオレを思って親切で言ってくれているのはわかります。
パフさんはとってもいい人ですね! あとでお友だちの儀式をお願いしましょう。
「コテッちんのご主人様は決して優しい人なんかじゃないんだ。子供の奴隷を欲しがるなんて、ろくな人間じゃないよっ!」
「でもパフさん、じゃあご主人様って一体どんな悪いことをしたんですか?」
「それなんだ。ドン・キモオタ自身がその悪事をした証拠が、何一つ見つかってないんだよ。それなのに多くの犯罪組織を吸収してドッグランの傘下に収めてしまったの。だから余計に恐ろしいのよねん」
んん? 何だかますますわからなくなってきました。てっきりご主人様もイタズラがバレて怒られているのかと思っていましたが、バレてないなら何で怒られているのでしょうか?
てか、それより例の不思議な匂いの動物がオレたちに近づいてきていますね。パフさんはまだ気づいていないのかな?
「あっヤバいっ! コテッちん……。ちょっと動かないで! 魔獣の、気配がする……」
どうやらパフさんも気づいていたようですね。
でも奴らもオレたちに気づいているようで、強い敵意の匂いを振りまきながら、オレたちに襲いかかろうとしています。
いや、吹雪で遭難した時の命がけの旅に比べたら、ちょっとお出かけするくらいの楽な旅なのですがね。
でもどうしてこんなとになったのか、正直オレには分からないのです。
リリアンさんとモニカさんを、オレが困らせているらしくて。でも取引というのをしておネエさまを捕まえたら、二人が困らなくなるという……。うーむ?
「えっ? マジで!? コテッちんはそんな事も分からないで一緒に来たのお?」
「はい、実をいえば何でリリアンさんとモニカさんが困っているかも謎なのです」
パフさんはオレのことをコテッちんと呼んでいて、唯一オレにフレンドリーな匂いをさせてくれている女の人です。
この優しい人がいなかったら、この旅はもっと寂しかったに違いありません。
「パフさんには分かるんですか?」
「そりゃあそれくらい、頭の良くないあたいにでも分かるよお……」
「すごいですっ! ぜひオレにも教えてください!」
パフさんの話だとご主人様は悪い人だそうで、ご主人様を捕まえるためにみんなで捜しているらしいのです。
オレとしてはご主人様が悪い人かなんて、どうでもいいし興味ありません。ご主人様はご主人様ですからね。
けど驚いたことに、ご主人様が悪い人だからその飼いイヌのオレまで悪いイヌだというんです。まったく滅茶苦茶な話ですね!
しかもリリアンさんとモニカさんが悪い飼いイヌであるオレのお友だちだから、これまた悪いお友だちに決まっていると思われているそうです。みんな頭おかしいでしょ!
つまり悪いご主人様も、悪い飼いイヌも、悪いお友だちも、全部悪いから駄目ということですね。
なのでオレもリリアンさんもモニカさんも困った立場にいるそうです。
ところが何故かおネエさまを捕まえれば、オレは良い飼いイヌに変わるらしく……
良い飼いイヌのお友だちも良いお友だちにも変わるそうで、リリアンさんとモニカさんは助かるのだとか。
なんだかとっても複雑な話でした!
ちなみにドッグランというのはイヌの遊び場のことではなく、悪い人の集まるグループの名前だそうです。
しかもご主人様はそのグループで一番エラい人だというのですからサスガです!
「おーい、全員集まってくれえ」
「あっ、レーガンさんが呼んでるよ。コテッちん行こう」
「はいパフさん!」
いまオレたちのいる場所はゴマール大森林というところの入口で、とっても広々とした素敵なところです。
ここに来るまで無理やり馬車に乗せられて、さっきようやく解放してもらえました。そのせいで気持ち悪くなった身体を、オレは休めていたわけです。
「コテツ君、身体の具合はどうだね?」
「もう大丈夫です!」
「よし、では錬金術師ボルトミ捕縛作戦の最終確認をする」
このパーティのリーダーはレーガンさんです。他にフレンドリーなパフさん。怒りん坊なバウワーさん、恐いミネルバさん、大きな身体のごっつぁんですさんがいます。
この四人とオレとで、おネエさまを捕まえに来ているのでした。
「冒険者ギルドの諜報部によると、ゴマールの大森林中央付近にボルトミの研究所があるとの事だ。しかし詳しい位置までは特定できていない。あとは我々が自力で見つけるしかないので、野伏のパフに尽力して貰う事になるだろう」
「任せてよレーガンさん!」
「ありがとうパフ。研究所発見後は速やかにボルトミを捕縛するわけだが、直接の戦闘対象となるであろうホムンクルスには知っての通り特性がある。ボルトミが直接命令した事しか行動出来ないという特性だが、そこに我々の勝機があると思うんだ」
うむむ、相変わらずレーガンさんの話は長くてよく分からないですね。眠くなってきてしまいました。
「しかも命令は単純なものしか実行できない。ゆえに判断力を必要とする警備は人間か亜人がしているだろう。これらを密やかに排除しボルトミに急襲をかける。最善は気付かれる事なく捕縛する事だが、少なくとも少数のホムンクルスとの戦闘だけで作戦を完遂させたい」
ウトウト……
「そこで拉致スキルのあるパフは戦闘には参加せず、ボルトミの捕縛にだけ専念する事。バウワーと俺とごっつぁんですで制圧しミネルバはその支援だ」
グウグウ……
「あとコテツ君だが──」
「フガッ!? はいっ、なんなりとッ!」
「……ね、寝てたのかい?」
「いえっ! 寝ていませんッ!」
「そ、そうか……。じゃあコテツ君にはパフの護衛をして貰う事になる。なのでしばらく二人はパートナーとして共に行動してくれたまえ」
「かしこまりましたレーガンさん! パフさん、よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく。仲良くしようねん、コテッちん」
「まあパフ! 仲良くしようとはどういう意味ですの!?」
「ん? えっと、ただの挨拶だけど……。ミネルバなんで?」
「い、いえ……。ならいいのです。そちらのコテツ殿はかなりな女たらしだと聞き及んでおりますので、貴女の貞操を少々心配しただけですよ」
「バ、バカなこと言わないでよ! そういう事はあたいとは、む、無縁だからあっ!」
女たらしとはどういう意味ですかね? 何かあまり良い意味ではない気がしますが。
それにしても眠ってしまったのがバレたかとヒヤヒヤしました。危ない危ない。
「まあ! 無縁とは勿体ない事を。もし私が貴女くらい美しいハーフエルフの少女でしたら、今頃は私が……くそっ!」
「おいおい聖女様よ、悪い虫が疼いてきたのかい? カカカッ」
「お黙りバウワーっ!」
「やれやれ……それじゃみんないいかい? 森の中には魔獣も多く生息しているから、くれぐれも油断しないようにね」
「ごっつぁんです!」
「あ、そうだコテツ君。君にこれを返しておこう」
そう言ってレーガンさんがオレにポンと投げて渡してきたのは、例のグロいイヌの牙でした。
「君の武装は許すけど、間違っても俺たちには使わないでくれよ?」
またレーガンさんは謎なことを言っています。これは冗談というものでしょうか?
「えっ? なにこれ? マウスガードに牙が付いてるけど、どういう武器なん?」
「見た目の通り噛むんだよ。現にコテツ君はその武器で俺の剣を噛み砕いたしね。確か哀しき犬の技という格闘術だったかな」
レーガンさんは笑いながら話していますが、目は笑っていませんね。
どうやら剣を壊してしまったことで恨みを買ってしまったようです!
てか、哀しきイヌの技というのは忘れて欲しかったですね。ついでに剣を壊したことも忘れてください!
「コテッちん、マジで?」
「パフさん、マジです。オレはイヌなので噛んで戦うんですよ」
「怖っ!」
「じゃあパフ、森の中へ入ろうか。とりあえず森の中央を目指して行こう」
「了解です、レーガンさん!」
森というのはヒンヤリしていてとても気持ちのいい場所です。前に臭い草を採りに行った時も、とても楽しかったのを憶えています。
まともな道がなくて、まるでアスレチックパークみたいで楽しいんですよね。しかも今回はパフさんと競争も出来て最高ですっ!
「パフさーん、こっち、こっちでーす! あははは」
「ちょっ! コテッちん、そっちじゃないよっ! 遊んでるんじゃないんだから、ちゃんと真面目について来てよお!」
「あれ? 遊んでいるんじゃないんですか? じゃあ何しているんです?」
「もう! 魔獣の索敵とボルトミの捜索だよっ! てかさ、何でコテッちんはあたいより上手く森の中を進めるのさ!? 野伏としての自信失くしちゃうじゃん!」
怒られました。オレはてっきり遊んでいるのだと思っていたんですが、どうやらパフさんは違ったようです。
でもそれなら変ですね……
「おネエさまのいる所ならこっちの方じゃないですよ? もっと向こうの方から匂いがしていますけど」
「えっ? コテッちんはボルトミの研究所の場所を知ってんの?」
「知りませんよ?」
「ふーん、そうやってあたいをからかうんだ……。コテッちんキライっ!」
「からかってないです。それにキライにならないでください、オレはパフさんのことがスキなので!」
「そ、そういう事、言わないのッ! もう、ホントに女たらしだなあコテッちんは!」
はて? 何でスキだと言ってはいけないのでしょうかね。変な人です。
「けど、おネエさまの匂いは向こうからしていますよ? パフさんの行く方からは不思議な動物の匂いがしていますし」
「不思議な動物? 魔獣とか? けどそんな気配しないじゃん! もういいから真面目について来てよお、ハァ──」
仕方ないのでオレは真面目にパフさんの後をついて行きました。
「ねえコテッちん、きいてもいい?」
「何でもどうぞ! 暇なのでっ」
「ひ、暇って……。まあいいや。コテッちんは昔さ、ドン・キモオタの下でどんな悪い事したの?」
ご主人様と一緒に暮らしていたころの話でしょうかね。
そのころオレがした悪いことといえば、やっぱりイタズラでしょうか。
「そうですね、ご主人様のお気に入りのクッションを破いてバラバラにしたり、靴を盗んで隠したり。あと捨ててあったパンとか拾い食いしましたね」
「もうっ、冗談じゃなくてだよお!」
冗談じゃないのですが……
「あのね、実はあたいも昔は盗賊だったんだよね……。子供の頃から悪い事をするように育てられたの。だからもしかしたらコテッちんもそうだったんじゃないかと思ってさ」
なんかパフさんからとても悲しい匂いがしてきました。
同時にとてもいい匂いもしています。オレを心配してくれるお友だちの優しい匂いとそっくりですね。
「オレは仔イヌの時にご主人様に買ってもらったんです。それで立派な飼いイヌになるようにと育てられました」
「そっかあ、あたいと同じでコテッちんも奴隷だったんだね。子供の人身売買は、許せないよお……!」
「でもご主人様はエサもくれるし散歩も連れてってくれる、優しい人でしたよ?」
「そんな事言っちゃ駄目だよ……。悲しすぎるよコテッちん。くすん」
なんで言っちゃ駄目なのかわかりませんが、パフさんがオレを思って親切で言ってくれているのはわかります。
パフさんはとってもいい人ですね! あとでお友だちの儀式をお願いしましょう。
「コテッちんのご主人様は決して優しい人なんかじゃないんだ。子供の奴隷を欲しがるなんて、ろくな人間じゃないよっ!」
「でもパフさん、じゃあご主人様って一体どんな悪いことをしたんですか?」
「それなんだ。ドン・キモオタ自身がその悪事をした証拠が、何一つ見つかってないんだよ。それなのに多くの犯罪組織を吸収してドッグランの傘下に収めてしまったの。だから余計に恐ろしいのよねん」
んん? 何だかますますわからなくなってきました。てっきりご主人様もイタズラがバレて怒られているのかと思っていましたが、バレてないなら何で怒られているのでしょうか?
てか、それより例の不思議な匂いの動物がオレたちに近づいてきていますね。パフさんはまだ気づいていないのかな?
「あっヤバいっ! コテッちん……。ちょっと動かないで! 魔獣の、気配がする……」
どうやらパフさんも気づいていたようですね。
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