柴イヌのコテツですが異世界ってなんですか?

灰色テッポ

文字の大きさ
49 / 53
第三章 柴イヌ、出世する

第四十九話 ご主人様の匂い

しおりを挟む
「教えてくださいっおネエさまッ! 一体ご主人様はいまどこにいるのですかッ!?」

 オレは躾のいい飼いイヌです。なので人にさわる時は驚かさないよう、とても気をつけています。
 しかし今のオレはそんな基本も忘れて、乱暴におネエさまの肩を揺すりました。興奮したイヌは時にこうなってしまうのです、お許しを。

「い、痛いわっ、ちょっ乱暴にしないでぇ、感じちゃうじゃないのぉ! あっイイっ」

「コテツ君っ、落ち着きたまえッ!」

 いやレーガンさん、落ち着けとか無理でしょ。やっとご主人様の居どころを知る人に会えたのですよ!
 無理無理、絶対にムリーッ!

「俺たちもボルトミからその事を聞き出すつもりでいるんだよ、だからそんなに慌てないでくれっ」

 そうなのですか? ならここは一旦レーガンさんにおまかせしましょう。
 人間と人間の方がコミュニケーションはとりやすいはずでしょうからね!

「わかりましたレーガンさん。おネエさまをよろしくお願いします!」

「イヤンっ、次はレーガンちゃんに責められるのぉ? ステキッ!」

「い、いや責めないよ……。でも教えて欲しいな、ドン・キモオタの居場所を。ドッグランの本拠地に彼は居るのかね?」

「なによもぅ、つまんなぁ~い。アタシとってもドキドキしてたのにぃ。でもそぉねえ、教えてあげない事もないわよぉ。アタシのお願いを叶えてくれたらねっ。ウフフ」

「取引というわけかい?」 

 おネエさまはニヤリとして頷きました。これはいい感じですね! さすがは人間同士、話が早くて素晴らしいっ。
 だのにミネルバさんが、そんなオレの期待に水を差すようなことを言ったんです。

「あなた、ご自分の立場が分かっていらっしゃるの? 犯罪者のくせして図々しいッ! レーガン殿と変態プレイをしたいだなんて、私でもした事がないのにっ。それを三日三晩も続けるつもりですって!? キーッ、レーガン殿もレーガン殿ですわッ!」

「ミ、ミネルバ?……。それは君の妄想だからね。ちょっと黙っていようか」

「あらやだっ、年増聖女の焼きもちぃ? 言ってる事が聖女というより性女ねっ! というかぁアタシ変態プレイなんか好きじゃないんですけどぉ? どうせならロマンチックなプレイの方がスキッ!」

「ふ、二人とも、とりあえず真面目に話そうか……。それでボルトミ。君の取引とは具体的に何が望みなんだい?」

「命の保証よぉ。アタシどうせこのままだと処刑でしょ? だからぁ終身刑でもなんでも生かされる事が条件。ただし、アタシのドン・キモオタに関する情報は一年前のものだからぁ、今もそこに居るとは限らないわよぉ? 居ない場合でも取引が成立するならって話になるわねぇ」

「ふむ、なら君が嘘をついても成立する取引という事にもなるね」

「レーガン殿! この男が嘘をつくのは明らかですッ! 自白魔法でも使って強引に情報を得るべきですわっ」

 なんだか雲行きが怪しくなってきましたね。なんでもいいので早くご主人様の居どころを教えてもらって欲しいです。
 ところがおネエさまとの取引についての回答は、一旦保留だとレーガンさんは言いました。オレたちだけで一度相談してから決めるということらしく。

 なのでオレたちはお昼ごはんを食べながら、別の部屋で話し合いの真っ最中というわけです。
 ちなみにオレはトリプルチーズバーガーを注文しました!

「もぐもぐ……。パフさんも今度トリプルチーズバーガーを食べてみてください。美味しいですよっ!」

 オレは隣で野菜だけ食べているパフさんにオススメしてみたのですが……

「…………」

 パフさんからはその返事はなく、野菜を食べる手も止まったままです。やっぱり野菜だけなんて美味しくないのでしょう。

「オレのバーガーを半分あげましょうか? そんな野菜だけじゃ元気出ないですよ!」

「あたいサラダ好きだし……。今は肉とか食べたい気分じゃないし……」

 うーん。不機嫌な匂いがプンプンしますね。本当にオレはパフさんに嫌われてしまったのかもしれません。

「ちょっとコテツ殿、これ以上パフにちょっかい出さないで頂けますかしら。見てれば分かるでしょ? パフはもう貴方のような女たらしと関わりたくはないのですよっ!」

「そうなんですかミネルバさん!? オレ、知りませんでした……」

 ミネルバさんの言ったことが本当なら、やはりオレは嫌われてますね。
 せっかくパフさんと仲良しになれなのに残念です。

「パフさん、すみませんでした。何で嫌われたかは分かりませんが、もうパフさんにはちょっかい出しません!」

 人間に嫌なことをしないのが躾のいい飼いイヌとしての掟です。
 その掟を破ることは、ご主人様に恥をかかすことになりますからね!

 ところが。

「ち、違っ! そうじゃなくて……。あたい、関わりたく無いとか、そんなんじゃないもん……」

「パフさん?」

 じゃあパフさんはどうしてこんなに機嫌が悪いのでしょうか?
 オレはパフさんの気持ちがとても知りたかったのです。でもそれはレーガンさんの一言によって遮られてしまいました。

「あー、食事もひと段落した頃なので、ボルトミの取引についての協議を始めたいのだが。みんないいかね?」

「ごっつぁんです!」

「いいぞーっ、食った食った満腹だ」

 パフさんのこともすごく気になりますが、今はご主人様の居どころが分かるかもしれない大事な時でした。
 なのでここはしっかりおネエさまとの取引について話さねばなりませんね。

「実を言うとねみんな、ボルトミが処刑される事はないんだよ」

「ちょっ! どうしてですの? あんな変態犯罪者は殺すべきですッ!」

「まあミネルバ、話を聞いてくれ。ボルトミは確かに危険な錬金術師だが、まごうことなき天才でもある。それゆえ王国はその才能を惜しんで、王国の為に使わせる事を選んだんだよ。もちろん自由にではない、ボルトミは一生牢に繋がれながら王国の道具にされ続けるというわけさ」

「そういう事ですか。まあ、王国がそう決定したのなら仕方ありませんわね」

「だからね、ボルトミが命の保証を取引材料として選んでくれた時点で、俺たちは丸儲けなんだよ。仮にドン・キモオタの居場所について嘘をついたとしても、現状維持に留まるだけの話なのさ」

「いずれドン・キモオタにボルトミ捕縛の事実は知れるだろうしな、身の危険を感じてトンズラされる前にボルトミの証言に乗ってみるのは悪い手じゃねえって事か」

「そういう事だよバウワー。すでに時間との勝負になっているからね、この取引に賭けてみる価値はある」

「なら尚更、自白魔法を使うべきでは?」

「それは駄目だ。ミネルバも知っての通り自白魔法は脳にダメージが残る可能性が高い。天才の脳を傷付けるわけにはいかないだろ?」

 なんだかちっとも話が分かりませんが、でもご主人様を捜しに行くことになっていそうな気がしますね。
 これはいい感じじゃないでしょうか!

「それでだが、コテツ君」

「はい! なんでしょうか」

「コテツ君は嗅覚に異能があるとパフから聞いているのだが、ドン・キモオタの匂いを判別する事は可能かね?」

「もちろんですッ! ご主人様の匂いがすればすぐに分かりますよッ!」

「それは匂いの痕跡でも?」

「はいっ! わずかでも残っていれば余裕ですね。そこから追跡も出来ますよッ!」

 イヌの嗅覚をナメてもらっては困りますね。しかもデキるオス全開にすれば、地の果てまでも追いかけられます。
 匂いが消えていなければですが。

「それは頼もしいな。よし、じゃあボルトミとの取引を成立させて、急ぎドン・キモオタを捜索する事でみんないいかね?」

 こうしてオレたちはご主人様の居どころへと向かうことになりました!
 ああ、感無量ですね。もうすぐご主人様に会えるかもしれないと思うと、うれしょんしてしまいそうですッ!

 翌朝早くにオレたちはまた何とか門という光る建物に来ました。一緒に行く仲間はこの前と同じです。

「みんな準備はいいね。今回の作戦はドン・キモオタの所在の確認だ。ボルトミの話ではこれから向かう先はドッグランの拠点の一つだそうだが、本拠地ではない。しかしドン・キモオタはその拠点を気に入っていて、普段の生活の場所としていたらしい」

 相変わらずレーガンさんの話は長いですね。朝早いのでアクビが出てしまいそうです。

「もしそこにドン・キモオタがいたら捕縛するのか? 千載一遇のチャンだぜ?」

「うむ、バウワーの言う通り我々だけで捕縛が可能な場合は当然そうする。しかし敵の数が多く取り逃がす可能性がある場合は、あえて所在の確認だけに留めて監視を厳にするだけだね。改めて実行部隊を編成して確実に捕縛しよう」

 そんなのお断りですね。ご主人様がいたらオレは誰が何と言おうと会いに行きます!
 レーガンさんといえども邪魔するなら、容赦なく倒しますよ。

「それでその拠点の場所だが、ここ王都より東南に位置する海沿いの都市ウェーディア近郊にある港町に存在するらしい。ボルトミの書いた地図が正しければ都市間転移門でウェーディアまで行き、昼までには現地に到着するだろう。港町の名前はヤイーズだね」

 ヤイーズですか。どこか懐かしい感じのする名前ですね。何だかますますご主人様がいる予感がしてきましたよ!

 しかしその数時間後、オレの予感は悲しいことに外れていたことを知ったのでした。
 ヤイーズにあるご主人様の家には今はもう誰も住んでいる気配はなくて、がらんとしています。

「この拠点はすでに破棄されたみたいだね。それも最近ってわけではないようだ。どうだろうコテツ君、ドン・キモオタの匂いは残っているかい?」

「はい、ご主人様の匂いは微かに残っています。けどかなり前の匂いですね」

「ふむ、追跡できそうかね?」

「いいえ。匂いはこの家の周りまでしか残ってないので、ご主人様がどこに行ったかはわかりません」

「そうか、それは残念だな……。まあ転移魔法で移動したのだろうね」

 レーガンさんも残念かもしれませんが、オレはもっと残念です! いやそれどころか悲しくて泣きたいくらいですね。
 ああ……お懐かしいご主人様の匂い。コテツはご主人様に会いたかったです。またご主人様の飼いイヌとして幸せに暮らしたかったです。

 なのにどうしてご主人様は、コテツをここで待っていてくれなかったのでしょうか……
 今頃ご主人様もオレを探してくれているのかな?

 ご主人様の太って脂でテカテカした顔を思い浮かべたオレは、何となく空を見上げました。
 そしたら空には白い月が浮かんでいて、オレはその月に向かって遠吠えを一つしたのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

​【マグナギア無双】チー牛の俺、牛丼食ってボドゲしてただけで、国王と女神に崇拝される~神速の指先で戦場を支配し、気づけば英雄でした~

月神世一
ファンタジー
「え、これ戦争? 新作VRゲーじゃなくて?」神速の指先で無自覚に英雄化! ​【あらすじ紹介文】 「三色チーズ牛丼、温玉乗せで」 それが、最強の英雄のエネルギー源だった――。 ​日本での辛い過去(ヤンキー客への恐怖)から逃げ出し、異世界「タロウ国」へ転移した元理髪師の千津牛太(22)。 コミュ障で陰キャな彼が、唯一輝ける場所……それは、大流行中の戦術ボードゲーム『マグナギア』の世界だった! ​元世界ランク1位のFPS技術(動体視力)× 天才理髪師の指先(精密操作)。 この二つが融合した時、ただの量産型人形は「神速の殺戮兵器」へと変貌する! ​「動きが単調ですね。Botですか?」 ​路地裏でヤンキーをボコボコにしていたら、その実力を国王に見初められ、軍事用巨大兵器『メガ・ギア』のテストパイロットに!? 本人は「ただのリアルな新作ゲーム」だと思い込んでいるが、彼がコントローラーを握るたび、敵国の騎士団は壊滅し、魔王軍は震え上がり、貧乏アイドルは救われる! ​見た目はチー牛、中身は魔王級。 勘違いから始まる、痛快ロボット無双ファンタジー、開幕!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...