双つ星と琥珀の瞳

路傍 之石

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  王子様生活も早14年。
 いや、王子に生まれてからは知らなくていい事ばかり知ってしまった気がする。

 最初の衝撃は精通してから直ぐに始まった閨教育。
 継承者としては上2人が優秀なため、特に期待されてもいなかったが、琥珀色の瞳により外交的価値を見出されていた。
 他国からは是非とも自国の王子王女の婚約者と求められている。
 父王は出しても良し、迎え入れても良しと考えられていた。

 その為か、寝台で相手を骨抜きにして手玉に取るための手練手管を徹底的に叩き込まれたのだ。
 後ろも前も、入れる方も入れられる方も十全に熟す自信がある。
 百戦錬磨の先生方からも寝台戦で右に出る者はいないだろうという嬉しくない誉め言葉を賜っていた。
 後ろ、とは言ったがまた「本物」を入れた事が無いため処女扱いらしいことに「詐欺では?」と考え、入れる方は「本物」に入れても良いとのことに、前世で酔っぱらって猥雑な話題に興じていた男たちの「処女信仰」はコレかと解を得た気分だ。
 
 しかし、輿入れするにしろされるにしろ、もし相手が女性だった場合、同じような教育を受けた百戦錬磨の処女だったちょっと萎えるかもしれないと心配になっていた。


 それは兎も角、転生して気になったのはクリスとフィルがその後、どうなったかという事だったが、それは呆気なく判明した。
 2人は王国の騎士団長に保護され、そのまま養子になっていた。
 さらに、クリスとフィルは戦神の司教が国王の要請により行った「勇者請願」によって齎された勇者であると戦神の神託下っていた。

 整理すると、国王が戦神の司教へ「勇者請願」による戦神の勇者の誕生を求め、戦神の司教が「勇者請願」を実行、それが成功していて、クリスとフィルが生まれたけど、勇者を察知した魔族のうち、好戦的な国であるアルメートという国が俺達の街を攻めたという事だ。
 整理すると、長年大きな戦争が発生していなかったにも関わらず勇者を生み出して、魔族の中の好戦的なアルメートを刺激してしまったということらしい。
 魔族といっても人間たちと同じように幾つかの国があり、平和的な国もあれば、好戦的な国もあることを今世で学んでいた。
 
 魔族の中で平和的な国や中立的な国は、他の国を通して抗議文を送ってくるなど、魔族側を擁護する国もあるというのが今の世界情勢だった。
 とはいえ、先に魔族との決戦兵器である勇者を生み出した我が国と、先んじて攻め込んで来た好戦的な魔族の国は長い戦争状態に突入している。

 クリスとフィルは騎士団長の養子となったこともあり、時々城内で見かける事があったが、どうやら第三王子であるライレリアは避けられているらしい。
 目が合いそうになると、自然な感じでスっと避けられるのだ。
 一度フィルと目があった時は、フィルが固まってしまったためクリスが間に立ち視界を遮ってくるということまであった。
 色々聞いてまわった所によると、前世と同じである琥珀色の瞳が原因であるらしいことが判明した。
 曰く、自分達の身代わりとなって死んだ兄の瞳が、ライレリアと同じく大地母神の寵愛を受けた琥珀色の瞳だったため、その瞳を見ると兄が死んだ時の事を思い出してしまうというとのことだ。

 ライレリアもそれなら仕方がない、自分のした事だしなと思考を切り替える。
 出来る事なら前世と同じように仲良くなりたかったが、それは贅沢な願いだ。。
 2人が無事、健やかに育っていることで満足するべきだろうと結論を出した。

 そう思って早数年が立ち、クリスとフィルとは一切交流がないまま15歳の誕生日目前という所で戦争が終結した。
 
 戦争は俺達が居た街が襲われてから実に16年間続いていた。
 といっても四六時中続けていたわけではなく、最初の1年が過ぎたあたり長期化が予想した他国が介入し、ルールが設けられた。
 
 一つ、民間人の殺戮の禁止
 一つ、休戦期の設定
 一つ、捕虜への尋問の禁止、及び捕虜返還のレート設定
 一つ、殲滅戦の禁止
 一つ、本戦争への他国との連合の禁止
 一つ、当代の王が死亡した時点で戦争は終結とする
 一つ、戦勝国から敗戦国への賠償請求の禁止

 他国の言いたい事は、勇者請願をしたファリスも悪いが、無差別に街の人間を殺したアルメートも悪い、お前ら頭冷やせ、他を巻き込むな、出来れば戦争なんてさっさとヤメロということだ。
 まぁ周辺国の願いも空しく、意固地になった両国は設定された規則を元に、さらに15年間も戦争を続けた。
 両国とも大国であったため、戦争を続ける体力があった故の長期化だ。

 しかし、その戦争もクリスとフィルの2人が勇者として成長し、23歳となった年に長きにわたる戦いを終わらせるために仲間と共に敵国の王城に突入して王の首級をあげたこにより、戦争は終わった。

 謁見の間で仲間と共に跪いた2人は、旅立つ前とは異なり憔悴しきっていた。
 勝利の喜びは無く、まるで生きる目的を失ったような人間のようだ。
 長きに渡る戦争を終結させたクリスとフィルは、何も褒美を求めなかった。
 それならばと、絶世の美妃と呼ばれる姉姫達との結婚を勧められたが固辞、だったら王子はどうだと差し出されたライレリアや弟王子に目もくれることなく固辞。
 なんとしても褒美をとらせねば王の沽券に関わると段々と圧が強まる状況に、周囲が冷汗を書き始めたところで、宰相の「褒美はまた後日調整」という提案に王が了承しその場が解散となった。

 今世では2人に避けられ、もう関わる事は止めようと思っていたライレリアは、生きる目的を失い虚ろな目をしたクリスとフィルを目にしたことで、方針を変更することにした。
  まずは、大地母神神殿の司教に、勇者の仲間の聖女を通じて勇者を神殿に呼び出すように指示をだす。
 ライレリアは大地母神の寵愛が深く、ライレリアが生まれて以降下されない神託や奇跡もライレリアを通じて齎されるため、大地母神神殿に対して大きな影響力を持っていたからこそ出来ることだった。

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