双つ星と琥珀の瞳

路傍 之石

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 ライレリアの示した長き戦乱の原因となった現王を退位させ穏健派である王太子を王にするという計画。それは現王及び王妃、側妃には気取られる事無く勧められた。

 王太子及び、その予備である第二王子は元より穏健派だったため他国との協調を願っていたため、計画に賛同、第一王女及び第二王女、第四王子は自分達の存在を国が発展するための道具と考えているため、中立の立場をとるという意思を示た。
 但し、第一王女と第四王子からは現王派に所属する貴族との婚約が進められているため、王権交代をするなら早くしてくれという注文がつけられた。2人は中立とは主張しているものの、王権交代が成った際は国内の王太子派の貴族に嫁ぐべきか、それとも周辺国家、若しくは今回の兼でファリアの評価が下がっている魔族の国でも親人間派の国に嫁ぐべきかの議論を既に始めている。
 それを見た前世庶民のライレリアは、純粋な王族にはなれいないという気持ちを再確認することになった。

 また、戦神により齎された双星の勇者クリスとフィルの意向を受けた戦神神殿と、ライレリアの影響下にある大地母神神殿の介入もあり現王派は大きな抵抗も出来なかったが、一部時世を読めなかった現王派の貴族の暴走による武力蜂起が発生したが、勇者とその仲間により即座に鎮圧され、幾つかの家が御家取り潰しとなる。
 当初退位要求に対して徹底抗戦を示していた現王は武力蜂起が発生して時点で退位を決定し、王太子派と交渉に入っていたため、武力蜂起に関わっていなかった現王派の貴族がこの件で罪に問われることは無かった。

 アルメートとの戦争が終結してから半年、現王の退位と王太子が次の王となることが公表された。
 内々ではあるが、第一王女は魔族の穏健派の国と、第四王子は周辺国との婚約を、第ニ王女は王太子派の有力貴族内で調整が進められている。
 王太子派の中では琥珀の君とも呼ばれる大地母神の寵愛の篤いライレリアとの婚姻を望む声もあったが、王太子、第二王子との契約により戴冠式の後に王族から離れる事が決定していたためこれは却下された。


 ■■■

 「父上も結構抵抗してくれたな。この部屋とももうすぐお別れか」

 ライレリアは自室で独り言ちると寝台に倒れ込み、柔らかな寝具の感触を味わっていたが、何かを感じたのか、誰も居ない空間をじっと見つめると、愉快そうに笑った。

 「それでクリスどうしたの?ひょっとしてまだ添い寝が無いと寝られないとか?」
 「そう言ったら俺と一緒に寝てくれる?」
 「おにーちゃんはお前をそんな遊び人に育てたつもりはありません。それよりこの部屋連れてきたことないのになんで転移できるのさ」

 ライレリアが見つめていた空間が揺らぎ、悪戯が見つかった子供のように拗ねた表情を浮かべたクリスが現れる。
 寝台に寝っ転がっていたライレリアは身体を起こすと、ぽすぽすと寝具を叩き、クリスを手招きする。

 「スーにぃは場所がわかるように印をつけておいたから。後は王城内を俺の魔力で薄く満たして内部構造を把握すれば問題なく転移出来るよ」
 「いや、出来るよじゃないって。普通出来ないから!はー、勇者サマ凄いな」
 「大地母神様の寵愛を受けて転生しているスーにぃには言われたくないかな」

 ライレリアの言葉にクリスは苦笑しつつも寝台に腰掛け、ライレリアの白く細い手に自身の手を重ねると、昏く熱の籠った視線を向ける。

 「添い寝もいいけど、そんな一時的なものよりずっと続く約束が俺は欲しい。俺と、結婚してよ」
 「あー……前に言ってたアレ、本気だったのか。結婚て言うと僕と所謂そういうこともイロイロしたいってこと?」
 「俺、1人でする時はずっとスーにぃの事を考えてたよ」

 臆面も無く自身の自慰事情を告白するクリスにライレリアは盛大に溜息を吐いた。
 ライレリアとしては閨教育として色々仕込まれているため、男だろうが女だろうが突っ込むほうだろうが突っ込まれるほうだろうが満足のいく性生活の相手を務める自信はある。
 ライレリアが気にしたのは、目の前のクリスが浮かべる表情が想いを告げる男の貌というよりも、暗く影のある、自罰の念に駆られているように見えることだ。

 「1人でする時はって事は1人じゃなかった事もあるのかな?」
 「監視をしていたレイゼルから聞いてるのに、そういう事……聞くんだ」
 「クリスは特定の相手は無し、レイゼルと一緒に適度に娼館に通って溜まるものは発散してた。フィルも同じく相手は無しだけど、娼館の誘いは真っ赤になって断ってたとかかな」
 「やっぱ知ってるじゃないか。娼館なんて欲を発散するためだけの場所だ。フィルは……アイツ、興味深々な癖に一途だから」

 フィルの名前を出した時に揺れた微かに揺れたクリスの瞳に、ライレリアは再び盛大なお溜息を吐く。

 「無理ならはっきり言って欲しい」
 「待て、結論を焦るな。もし、もしもだ。お前の告白を受け入れたら僕達は2人で暮らすのか?」
 「……そのつもりだ」
 「フィルの事はどうするつもりだ?お前はそれでいいのか?」
 「……フィルもにぃの事が好きだから……フィルに盗られる前に……もう、にぃが居ないなんて俺には無理だよ……他の事は我慢できる、けどにぃの事だけは我慢できないんだ」

 今にも泣きそうな顔で俯くクリスに、ライレリアは三度目の溜息を吐く。
 その溜息に、何を感じたのかクリスの肩が怯えたように震えた。

 「あの時、お前はフィルを見捨ててお前を連れて逃げようとした僕を止めたよな。今度はクリスがソレをするのか?」
 「俺……俺は!!」

 クリスは俯いていた顔を上げると、悲痛な面持ちでライレリアを見つめる。

 「「そんな恐い顔しないで」だったっけなぁ。僕はあの時フィルを見捨てようとしたんだ」
 「違う!にぃはそんな事していない!!」

 叫ぶクリスにライレリアは静かに首を横に振る。

 「見捨てようとしたんだよ。あの時、あの状況で大人しくいう事を聞いてくれるクリスだけなら助けられるかもしれないと思ってしまった。けどクリスが止めてくれたからフィルを見捨てない僕でいられた。だから今度は僕が言うよ。そんな苦しそうな顔で告白なんてするな、無理にフィルを切り捨てようとするなよ」
 「……じゃぁ俺はどうすればいいんだよ。フィルを失いたくない、けどそれ以上にフィルに……にぃを盗られたくない」

 堪えきれずに瞳から溢れるモノを拭う事もせず淡々と言葉を続けるクリスが愛おしくなり、肩に手をかけ、その頭を胸に引き寄せると、頭を撫でる。
 クリスは抵抗することなく大人しくされるがままになっていた。

 「僕はさ、思うんだよね。僕やクリスは色々考えて出来る事や出来ない事を考えちゃうけど、フィルって甘えん坊だし考えなしのところあるだろ。それに再会した時にお前が「結婚」とか言い出して、僕が「3人で」っていった時のフィルの嬉しそうな顔。フィルはさ、最初から僕とクリスのどちらかを選んだり、身を引いたりとかは考えてなくて、僕とクリスとフィルの3人で結婚出来るつもりだったんじゃない?」
 「え……さすがにあの馬鹿でも……いや、あの馬鹿ならあり得るかも」

 ライレリアの言葉に零れ落ちるものが引っ込んで「あの馬鹿が」とブツブツと繰り返している姿に、思わず苦笑してしまう。

 「だからクリスも、僕かフィルかを選ぶ必要なんてないよ。3人で幸せになろう」

 胸に抱いていたクリスの頬に両手を添えて上を向かせると、咲き誇る花のような笑みでライレリアは告げると、クリスの乾いた唇にそっと舞い落ちる羽根のように唇を落した
 その言葉と、一瞬だけ感じた柔らかな感触にクリスの体温が上昇し、頬に朱が刺し、そのままライレリアを寝台に押し倒し抱きしめる。

 「それでクリスは俺を抱きたいの?俺に抱かれたいの?」
 「待って、にぃ。雰囲気台無しだから」
 「希望が無いなら僕が突っ込むけど」
 「駄目、俺が挿れたい」
 「それじゃ僕はフィルに突っ込むかー」
 「台無しなんだけど」

 全力でそれまでの雰囲気を壊していくライレリアに不満そうな視線を向けつつ、その唇に自身の唇を重ねようとして、ライレリアの片手で阻まれる。

 「それは後でな。それじゃフィルのところ行こうぜ」
 「え?」
 「3人でって言ったろ?」
 「え?それも?まぁいいけど、最初は2人がいいかなぁ……」
 「ん-、じゃ僕がフィルを抱くの手伝えよ、あのガタイで暴れられたら僕の力じゃ押さえられないし」

 からからと笑うライレリアに信じられないものでも見るような目を向けるが、ライレリアの華奢の身体では、前衛として剣を振るうフィルを抑えきれないのも本当のことだろう。
 仕方が無いかというように溜息を吐くと、ライレリアとしてもスーキヌムとしてもクリスに見せたことが無い妖艶な笑みを浮かべたライレイアに止めをさされる。

 「クリスとはその後でじっくりな」
 「……わかった」

 思わず熱が集まってしまったクリスの下腹部に気がついたのか、ライレリアがくすくすと笑っている。
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