異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト

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第3話

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 意識が戻ると、俺は草原に立っていた。
 どこまでも広がる風景には遮る物などなにもなく、遠くにはうっすらと地平線のようなものまで見渡すことができる。
 見渡す限りの緑が、疲れ切った俺の目を優しく癒してくれるようだ。
「……じゃねぇよ! どこだよここ!!」
 知らない部屋にいたと思ったら、今度は知らない草原だ。
 いくらなんでも、ついさっきまで一般現代人だった俺には難易度が高すぎるだろう。
 もはや嫌がらせとしか思えない移動に、俺は思わず天を見上げて叫んでしまう。
 しかし誰もいないこの場所で、そんな俺の叫びに応えてくれるものはなにもなかった。
 ときおり吹く風でなびいた草原のさざめきだけが、すさんだ俺の心をなっぐ覚めてくれる。
「はぁ、あのクソ神様め。今度会ったら絶対ぶん殴ってやるからな」
 決意を新たにした俺は、とりあえずいったん落ち着くためにその場で座り込む。
 そうすると草のひんやりした感触を感じて、なんだか心地いい。
「そういえば、こうやってのんびりするのも何時ぶりだろう……」
 借金まみれになってからというもの、休む暇もなく働いていた。
 なにもせずのんびりするなんて時間の余裕もなかったし、たとえ時間があったとしても嫌な考えばかりが浮かんできそうでしようとも思わなかった。
 そしてそんなことを考えなくても済むように、余裕が悪なるくらいに仕事を詰め込む悪循環。
 もはや働くために生きていると言っても過言ではないくらい、俺は自分のことを追い詰め続けていた。
「そういう意味では、過労死もなかなか悪くないよな」
 今の俺には借金などないし、時間はたっぷりある。
 なんなら、このまま一度昼寝してもいいくらいだ。
「……って、さすがにそれはまずいだろう」
 こんなどことも分からないような場所で昼寝なんてしたら、なにが起こるか分からない。
 たとえなにも起こらなかったとしても、夜になってしまえば移動するのも一苦労だ。
 真っ暗な中で見知らぬ土地を歩き回るなんて、考えただけでもゾッとしてしまう。
「とりあえず、できるだけ早く安全な場所を探さないと。……そういえば、なんか力もくれたって言ってたな」
 もしかしたら、今の状況をクリアする能力を貰っているかもしれない。
 あの神様のことだから期待は薄いけど、確認してみる価値くらいはあるだろう。
 ……しかし、どう確認すればいいんだろうか?
 そう思った瞬間、俺の頭の中にいくつかのスキルとその詳細が浮かび上がってきた。

『クラフトレシピ。古今東西、ありとあらゆる物を作成できるレシピ』
『鑑定(絶)。この世の全てを鑑定できる』
『魅了(微)。異性に対して微小な効果のチャームを与える』
『健康体(超)。病気やケガなどに対しての耐性が非常に高い』
『鑑定眼。対象のおおよその価値を見抜く』
『異世界常識。異世界で生活するための最低限な常識』
『幸運(大)。説明不要』

 頭の中で再生された7つのスキルとその説明文。
 どうやらこれが俺の貰った能力らしい。
 どういう原理なのか分からないけど、しっかりと頭に刻まれたソレはもう二度と忘れられそうになかった。
「とりあえず、今の状況じゃ使えない物ばっかだな。……それにしても、だんだん説明が雑になってきている気がする」
 幸運(大)に関しては、もはや説明する気もないみたいだし。
 たぶん途中から面倒くさくなったんだろうなと言うことが、ひしひしと伝わってくるようだった。
「結局は、勘で動くしかないってわけだ」
 いつまでもここで突っ立っていても仕方ないし、とりあえず適当に歩き始めるとするか。
 見晴らしもいい草原だから迷うこともないだろうし、途中で道か川を見つけられたらそれに沿って歩けばいい。
 なんて楽観的に考えていると、しばらくして目の前に道のようなものが見えてきた。
 舗装はされていない砂利道だけど、どうやら頻繁に使われているらしく車輪の跡がくっきりと刻まれていた。
「ラッキー。この道に沿って行けば、人の居る場所につけるだろ」
 もしかしてこれは、幸運スキルの効果なのだろうか。
 予想よりもあっさりと進むべき道が見つかったことに気を良くしながら、俺はのんびりと道に沿って歩を進める。
 そうやってしばらく歩いていると、やがて目の前に何か大きな塊があるのが見えてきた。
「なんだ、あれ?」
 見たところ、馬車みたいだけど。
 実物を見たことがないのではっきりとは言えないけど、遠くに見えている物はゲームやテレビなんかで時々見るシルエットとそっくりだった。
 そんな馬車が、道の真ん中で全く動いていないように見える。
「いったいどうしたんだろう?」
 気になって近づいていくと、やがて理由が分かった。
 遠くからでは分からなかったが、どうやら馬車は横向きに倒れてしまっているみたいだ。
 そして周りには数人の男女が居て、男たちは必死に馬車を戻そうとしている。
 そんな彼らを少し離れたところで眺めていると、馬車を引いていたであろう馬の世話をしていた女性と目が合った。
「あっ、いいところに! そこのあなた、ちょっと手伝ってくれない?」
 目が合うと同時に素早い動きで俺に近寄ってきた女性は、そう言いながら俺の手を引いて馬車の方に戻る。
 どうやら俺に、拒否権はないらしい。
 引っ張られるまま馬車の方に連れられて行きながら、俺は女性に聞こえないように小さくため息をついた。

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