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第14話
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翌日、俺は朝から大きな荷物を持って通りを歩いていた。
隣にはリーリアが居て、彼女も同じように大きな荷物を抱えている。
と言うのも、今日は前々からお世話になっている店への納品がある日らしい。
早朝から重い荷物を持って出かけようとしているリーリアからその話を聞いて、俺も手伝いを買って出たのだ。
最初は遠慮していた彼女だったけど、俺の必死の説得によって最終的には折れる形になった。
いくらなんでも、居候の分際で家主の少女を手伝わないわけにはいかないだろう。
それでなくても小柄なリーリアが大荷物を抱えている姿は危なっかしくて、それを手伝わないなんて男が廃るってもんだ。
と言うわけで、俺は彼女とともに早朝から納品デートに出かけていた。
ちなみに、デートと言う単語を聞いてリーリアの顔が真っ赤に染まってしまったことを、あえてここに明言しておく。
そうしてしばらく歩いていると、不意にリーリアが立ち止まった。
「ふぅ、着きましたよ。ここが、今日の納品先です」
「やっと着いたぁ……」
思わず情けない声を上げて荷物を地面に置くと、グッと伸びをしながら身体をほぐしていく。
いくら可愛い女の子とデートとはいえ、疲れるものは疲れる。
そんな俺とは対照的に、リーリアはまだまだ余裕の表情だ。
その小さな身体のいったいどこに、それだけのパワーが秘められているんだろうか?
わずかに疑問を抱きながら、自分の不甲斐なさを誤魔化すように俺は彼女へ軽口を飛ばす。
「こんなに重い荷物を持ったのは久しぶりだよ。いい運動になった」
「ふふ、お疲れ様です。でも、もうひと踏ん張りですよ」
俺の様子を見て笑顔を浮かべながら、リーリアは目の前にある店の扉をノックする。
「おはようございます! リーリアです! ご注文の物をお届けに来ました!」
その声に反応するように扉が開くと、中から身長2メートルはありそうな大男が姿を現した。
筋骨隆々なその立ち姿は、どこからどう見ても堅気には見えなかった。
「おお、リーリアちゃん! いつもありがとうな」
リーリアの姿を見てニカッと人の良さそうな笑顔を浮かべた大男は、彼女から大きな荷物を受け取る。
重い荷物を軽々と持ち上げた大男はそのまま俺に視線を向けると、不審そうな表情を浮かべた。
「リーリアちゃん、あの男は?」
「え? あぁ、彼は昨日からウチで働いてくれることになったアキラさんです。凄腕の職人さんなんですよ」
なぜかリーリアが胸を張って自慢げに俺を紹介し、それに合わせるように軽く会釈をする。
「どうも、アキラです。よろしくお願いします」
最初は睨みつけるような表情だった大男は、リーリアの紹介を聞いて警戒を解いたように豪快に笑う。
「おう! 俺はこの店の店主のテッドだ。よろしくな!」
差し出された手を握ると、上下にぶんぶんと振られて少し肩が痛くなってしまった。
「よっしゃ、それじゃアキラは荷物を運ぶのを手伝ってくれ」
「分かりました」
荷物は二つあるし、テッドだけじゃ運べないだろう。
もう一度気合を入れると、重い荷物を持ち上げて店の中へと進んでいく。
中に入ると、そこにはありとあらゆる武器や防具が並べられていた。
「ここ、武器屋だったのか」
「そうだぜ。自称この街一番の品ぞろえ、アンディア商店とはウチのことだ」
「自称なのかよ……」
俺のツッコミにガハハと豪快に笑ったテッドは、荷物をカウンターの上に勢いよく降ろす。
「荷物はここに置いてくれ。んで、中身を確認するからリーリアちゃんはこっちに来てくれないか」
「はい!」
呼ばれてリーリアがカウンターに駆け寄ると、テッドは荷物の蓋を開けて中身を取り出す。
中から出てきたのは、量産品の剣や槍なんかの武器。
それに鎖を編み込んだような鎧だった。
「剣が10本に槍が7本。それに鎧が3着……。よし、注文通り全部そろってるな」
「もちろんです。それと、これも見てほしいんですけど」
そう言ってリーリアが取り出したのは、一本のダガーだった。
「これは?」
「新しい試作品です。良かったら、新たにこちらで取引していただけないかと思って」
どうやら俺が知らなかっただけで、リーリアは新しい商品の開発に勤しんでいたようだ。
「ふーん、なるほどねぇ……」
さっきまでの人の良さそうな顔からすっかり商売人の顔に変わったテッドは、受け取ったダガーを細かく確認していく。
「見た目はまぁまぁだな。切れ味は……」
確かめるように刀身に指を置くと、テッドは満足そうに頷いた。
「切れ味も申し分ないな。それで、幾らでウチに卸してくれるんだ?」
「一本700ガルムでどうですか?」
「高いな。500でどうだ?」
「じゃあ間を取って600ガルムでどうですか? それ以下だと、ちょっと採算が合わないから」
「よし、分かった。じゃあとりあえず、来週までに20本頼むわ。売れ行き次第で、追加の注文もするかもしれないからな」
「分かりました! 任せてください!」
交渉は成立したらしく、二人は軽い握手を交わす。
それにしても、リーリアは意外と商魂たくましいみたいだ。
その様子を見て感心していると、リーリアは満面の笑みを浮かべて俺の元へと戻って来た。
「やりました! これでまたしばらく忙しくなりますよ」
「そうだね。じゃあ、俺も作るのを手伝おうか?」
「本当ですか? なら、お願いしますね」
そう言って、俺たちは朗らかに笑いあう。
この時は、まさかあんなことになるなんて想像もしていなかった。
隣にはリーリアが居て、彼女も同じように大きな荷物を抱えている。
と言うのも、今日は前々からお世話になっている店への納品がある日らしい。
早朝から重い荷物を持って出かけようとしているリーリアからその話を聞いて、俺も手伝いを買って出たのだ。
最初は遠慮していた彼女だったけど、俺の必死の説得によって最終的には折れる形になった。
いくらなんでも、居候の分際で家主の少女を手伝わないわけにはいかないだろう。
それでなくても小柄なリーリアが大荷物を抱えている姿は危なっかしくて、それを手伝わないなんて男が廃るってもんだ。
と言うわけで、俺は彼女とともに早朝から納品デートに出かけていた。
ちなみに、デートと言う単語を聞いてリーリアの顔が真っ赤に染まってしまったことを、あえてここに明言しておく。
そうしてしばらく歩いていると、不意にリーリアが立ち止まった。
「ふぅ、着きましたよ。ここが、今日の納品先です」
「やっと着いたぁ……」
思わず情けない声を上げて荷物を地面に置くと、グッと伸びをしながら身体をほぐしていく。
いくら可愛い女の子とデートとはいえ、疲れるものは疲れる。
そんな俺とは対照的に、リーリアはまだまだ余裕の表情だ。
その小さな身体のいったいどこに、それだけのパワーが秘められているんだろうか?
わずかに疑問を抱きながら、自分の不甲斐なさを誤魔化すように俺は彼女へ軽口を飛ばす。
「こんなに重い荷物を持ったのは久しぶりだよ。いい運動になった」
「ふふ、お疲れ様です。でも、もうひと踏ん張りですよ」
俺の様子を見て笑顔を浮かべながら、リーリアは目の前にある店の扉をノックする。
「おはようございます! リーリアです! ご注文の物をお届けに来ました!」
その声に反応するように扉が開くと、中から身長2メートルはありそうな大男が姿を現した。
筋骨隆々なその立ち姿は、どこからどう見ても堅気には見えなかった。
「おお、リーリアちゃん! いつもありがとうな」
リーリアの姿を見てニカッと人の良さそうな笑顔を浮かべた大男は、彼女から大きな荷物を受け取る。
重い荷物を軽々と持ち上げた大男はそのまま俺に視線を向けると、不審そうな表情を浮かべた。
「リーリアちゃん、あの男は?」
「え? あぁ、彼は昨日からウチで働いてくれることになったアキラさんです。凄腕の職人さんなんですよ」
なぜかリーリアが胸を張って自慢げに俺を紹介し、それに合わせるように軽く会釈をする。
「どうも、アキラです。よろしくお願いします」
最初は睨みつけるような表情だった大男は、リーリアの紹介を聞いて警戒を解いたように豪快に笑う。
「おう! 俺はこの店の店主のテッドだ。よろしくな!」
差し出された手を握ると、上下にぶんぶんと振られて少し肩が痛くなってしまった。
「よっしゃ、それじゃアキラは荷物を運ぶのを手伝ってくれ」
「分かりました」
荷物は二つあるし、テッドだけじゃ運べないだろう。
もう一度気合を入れると、重い荷物を持ち上げて店の中へと進んでいく。
中に入ると、そこにはありとあらゆる武器や防具が並べられていた。
「ここ、武器屋だったのか」
「そうだぜ。自称この街一番の品ぞろえ、アンディア商店とはウチのことだ」
「自称なのかよ……」
俺のツッコミにガハハと豪快に笑ったテッドは、荷物をカウンターの上に勢いよく降ろす。
「荷物はここに置いてくれ。んで、中身を確認するからリーリアちゃんはこっちに来てくれないか」
「はい!」
呼ばれてリーリアがカウンターに駆け寄ると、テッドは荷物の蓋を開けて中身を取り出す。
中から出てきたのは、量産品の剣や槍なんかの武器。
それに鎖を編み込んだような鎧だった。
「剣が10本に槍が7本。それに鎧が3着……。よし、注文通り全部そろってるな」
「もちろんです。それと、これも見てほしいんですけど」
そう言ってリーリアが取り出したのは、一本のダガーだった。
「これは?」
「新しい試作品です。良かったら、新たにこちらで取引していただけないかと思って」
どうやら俺が知らなかっただけで、リーリアは新しい商品の開発に勤しんでいたようだ。
「ふーん、なるほどねぇ……」
さっきまでの人の良さそうな顔からすっかり商売人の顔に変わったテッドは、受け取ったダガーを細かく確認していく。
「見た目はまぁまぁだな。切れ味は……」
確かめるように刀身に指を置くと、テッドは満足そうに頷いた。
「切れ味も申し分ないな。それで、幾らでウチに卸してくれるんだ?」
「一本700ガルムでどうですか?」
「高いな。500でどうだ?」
「じゃあ間を取って600ガルムでどうですか? それ以下だと、ちょっと採算が合わないから」
「よし、分かった。じゃあとりあえず、来週までに20本頼むわ。売れ行き次第で、追加の注文もするかもしれないからな」
「分かりました! 任せてください!」
交渉は成立したらしく、二人は軽い握手を交わす。
それにしても、リーリアは意外と商魂たくましいみたいだ。
その様子を見て感心していると、リーリアは満面の笑みを浮かべて俺の元へと戻って来た。
「やりました! これでまたしばらく忙しくなりますよ」
「そうだね。じゃあ、俺も作るのを手伝おうか?」
「本当ですか? なら、お願いしますね」
そう言って、俺たちは朗らかに笑いあう。
この時は、まさかあんなことになるなんて想像もしていなかった。
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