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第38話
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気合十分といった様子で立ち上がったリーリアは、さっそく納品用の剣の荷造りを始める。
両手いっぱいに剣を抱えながら歩く彼女は、見た目の割にしっかりとした足取りをしていた。
それでも、女の子一人を働かせているわけにはいかない。
彼女を手伝うために俺も立ち上がろうとすると、しかしその動きはリーリアによって阻まれてしまった。
「アキラさんは休んでいてください。この剣だって全部アキラさんが作ってくれたんですから、荷造りくらいは私に任せてくださいね」
ニッコリ笑顔でそう言われて、俺はおとなしく引き下がることにした。
「分かったよ。それじゃ、俺は飲み物を取ってくるから」
いつもと逆で、工房にリーリアを残したまま俺は奥の部屋へと引っ込んでいく。
台所スペースにある冷蔵庫みたいな箱を開けると、中からはほんのりと冷気が漂ってくる。
そこにしまわれていた飲み物を手に取ると、あらかじめ用意してあったふたつのコップにそれを注いでいく。
心地よい音を鳴らしながらコップが満たされていって、注ぎ終わった飲み物は再び冷蔵庫にしまう。
「それにしても、この世界にも冷蔵庫があるとは驚きだよな。他にも家電製品によく似た物も多いし、異世界の知識でアイデア無双みたいな展開は無理そうだよなぁ」
がっかりした半面、生活面では前の世界とほとんど変わらず充実していることに安堵もしている。
冷蔵庫やクーラーのない生活なんて、考えられないもんな。
なんてどうでも良いことを考えながら飲み物を持って工房に戻ると、荷造りはもうほとんど終わってしまっていた。
「さすがに早いね。……はい、お疲れ様」
労うように飲み物を渡すと、リーリアはそれを受け取って満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。それじゃ、これを飲み終わったら出発しましょうか」
「了解。今から出れば夜までには帰ってこれると思うし、帰りに食事を取ればちょうどいいかもしれないね」
言いながら俺は、すでに日が傾きかけている窓の外を眺める。
この時の俺は、これから起こる小さな悲劇に全く気付いていなかった。
────
「ふぅ……。なんとか日が暮れる前に着けましたね」
ふたりがかりで荷物を持ち合って、俺たちはグランデール商会の前までやって来ていた。
すでに人通りはまばらで、商会に出入りしているのも従業員以外にはほとんどいない。
「それじゃ、急いで届けようか。これ以上遅くなったら、さすがに迷惑だろうし」
「そうですね。行きましょう」
最後のひと踏ん張りと気合を入れて、俺たちは商会の入り口まで歩いていく。
そうやって近づいていくと、この間と同じ守衛の男と目が合った。
「ん? あんたら、この間の……」
「ファドロ工房の者です。ノエラさんに頼まれていた武器を納品に来たんですけど……」
「ああ、そうだったのか。では担当の者を呼びますので、少々お待ちを」
要件を伝えると、この間とは違ってにこやかに笑った守衛はそう言いながら建物の中に消えていく。
しばらくして帰ってきた彼の後ろから、ジェリスが俺たちの方へと近寄って来た。
「よぉ、ふたりとも。期限はまだ先なのに、ずいぶんと早い納品だな」
「まぁね。予定よりも早く作業が終わったから持ってきたんだけど、もしかして迷惑だったか?」
「まさか。なにごとも早いに越したことはないさ。世の中には平気で納品期限を破る野郎どもも居るからな。こうやって早めに納品してくれるなら、むしろありがたい。さぁ、中に入ってくれ」
言いながらリーリアの持っている荷物を受け取ったジェリスは、俺たちを建物の中に招き入れる。
残りの荷物を担ぎながらジェリスについていくと、連れていかれたのは大きな倉庫のような場所だった。
「よし、着いたぞ。荷物はこの辺に置いておいてくれ」
「ああ、分かった。……よいしょ」
ジェリスに指示された場所に荷物を置くと、やっと重さから解放されて思わず声を上げる。
「なんだ、年寄り臭いな。もう少し身体を鍛えた方がいいんじゃないか?」
「うるさいな。普段こんな荷物を持つ機会なんてないんだから、少しくらい良いだろ」
神様から貰ったチートの中に身体強化に関するものはなかったから、今でも俺は普通の成人男性くらいの力しか持っていないのだ。
そりゃあ、毎日のように力仕事をやっているジェリスたちに比べたら、非力だとしてもおかしくないだろう。
「まぁ、俺の筋力のことはどうでも良いだろ。それより、ちょっとノエラに相談したいことがあるんだけど」
「なんだい? 私にどんな相談がしたいの?」
ノエラの居場所を聞こうとしていると、俺の声を聞きつけたのか背後からノエラが話しかけてくる。
「やぁ、アキラにリーリア。ちゃんと期限に余裕をもって納品してくるとは、感心だね」
そのまま俺たちの近くまで近寄って来たノエラは、納品した剣を軽く確認し始める。
「うん、あいかわらず良い剣ね。これならどこでだって売れるわ」
「ありがとう。そう言ってもらえたら、頑張って作ったかいがあるよ」
褒められれば素直にうれしくて、俺は少し照れながらノエラに笑みを返す。
そんな俺を見て彼女の微笑みながら、改めて俺たちの方へと向き直った。
両手いっぱいに剣を抱えながら歩く彼女は、見た目の割にしっかりとした足取りをしていた。
それでも、女の子一人を働かせているわけにはいかない。
彼女を手伝うために俺も立ち上がろうとすると、しかしその動きはリーリアによって阻まれてしまった。
「アキラさんは休んでいてください。この剣だって全部アキラさんが作ってくれたんですから、荷造りくらいは私に任せてくださいね」
ニッコリ笑顔でそう言われて、俺はおとなしく引き下がることにした。
「分かったよ。それじゃ、俺は飲み物を取ってくるから」
いつもと逆で、工房にリーリアを残したまま俺は奥の部屋へと引っ込んでいく。
台所スペースにある冷蔵庫みたいな箱を開けると、中からはほんのりと冷気が漂ってくる。
そこにしまわれていた飲み物を手に取ると、あらかじめ用意してあったふたつのコップにそれを注いでいく。
心地よい音を鳴らしながらコップが満たされていって、注ぎ終わった飲み物は再び冷蔵庫にしまう。
「それにしても、この世界にも冷蔵庫があるとは驚きだよな。他にも家電製品によく似た物も多いし、異世界の知識でアイデア無双みたいな展開は無理そうだよなぁ」
がっかりした半面、生活面では前の世界とほとんど変わらず充実していることに安堵もしている。
冷蔵庫やクーラーのない生活なんて、考えられないもんな。
なんてどうでも良いことを考えながら飲み物を持って工房に戻ると、荷造りはもうほとんど終わってしまっていた。
「さすがに早いね。……はい、お疲れ様」
労うように飲み物を渡すと、リーリアはそれを受け取って満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。それじゃ、これを飲み終わったら出発しましょうか」
「了解。今から出れば夜までには帰ってこれると思うし、帰りに食事を取ればちょうどいいかもしれないね」
言いながら俺は、すでに日が傾きかけている窓の外を眺める。
この時の俺は、これから起こる小さな悲劇に全く気付いていなかった。
────
「ふぅ……。なんとか日が暮れる前に着けましたね」
ふたりがかりで荷物を持ち合って、俺たちはグランデール商会の前までやって来ていた。
すでに人通りはまばらで、商会に出入りしているのも従業員以外にはほとんどいない。
「それじゃ、急いで届けようか。これ以上遅くなったら、さすがに迷惑だろうし」
「そうですね。行きましょう」
最後のひと踏ん張りと気合を入れて、俺たちは商会の入り口まで歩いていく。
そうやって近づいていくと、この間と同じ守衛の男と目が合った。
「ん? あんたら、この間の……」
「ファドロ工房の者です。ノエラさんに頼まれていた武器を納品に来たんですけど……」
「ああ、そうだったのか。では担当の者を呼びますので、少々お待ちを」
要件を伝えると、この間とは違ってにこやかに笑った守衛はそう言いながら建物の中に消えていく。
しばらくして帰ってきた彼の後ろから、ジェリスが俺たちの方へと近寄って来た。
「よぉ、ふたりとも。期限はまだ先なのに、ずいぶんと早い納品だな」
「まぁね。予定よりも早く作業が終わったから持ってきたんだけど、もしかして迷惑だったか?」
「まさか。なにごとも早いに越したことはないさ。世の中には平気で納品期限を破る野郎どもも居るからな。こうやって早めに納品してくれるなら、むしろありがたい。さぁ、中に入ってくれ」
言いながらリーリアの持っている荷物を受け取ったジェリスは、俺たちを建物の中に招き入れる。
残りの荷物を担ぎながらジェリスについていくと、連れていかれたのは大きな倉庫のような場所だった。
「よし、着いたぞ。荷物はこの辺に置いておいてくれ」
「ああ、分かった。……よいしょ」
ジェリスに指示された場所に荷物を置くと、やっと重さから解放されて思わず声を上げる。
「なんだ、年寄り臭いな。もう少し身体を鍛えた方がいいんじゃないか?」
「うるさいな。普段こんな荷物を持つ機会なんてないんだから、少しくらい良いだろ」
神様から貰ったチートの中に身体強化に関するものはなかったから、今でも俺は普通の成人男性くらいの力しか持っていないのだ。
そりゃあ、毎日のように力仕事をやっているジェリスたちに比べたら、非力だとしてもおかしくないだろう。
「まぁ、俺の筋力のことはどうでも良いだろ。それより、ちょっとノエラに相談したいことがあるんだけど」
「なんだい? 私にどんな相談がしたいの?」
ノエラの居場所を聞こうとしていると、俺の声を聞きつけたのか背後からノエラが話しかけてくる。
「やぁ、アキラにリーリア。ちゃんと期限に余裕をもって納品してくるとは、感心だね」
そのまま俺たちの近くまで近寄って来たノエラは、納品した剣を軽く確認し始める。
「うん、あいかわらず良い剣ね。これならどこでだって売れるわ」
「ありがとう。そう言ってもらえたら、頑張って作ったかいがあるよ」
褒められれば素直にうれしくて、俺は少し照れながらノエラに笑みを返す。
そんな俺を見て彼女の微笑みながら、改めて俺たちの方へと向き直った。
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