悪の怪人になったのでヒロインを堕とすことにしました

樋川カイト

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 小さなころの夢って何ですか?
 誰だって、小さなころには将来の自分を想像して夢に見たはず。
 私は、正義の味方になりたかった。
 困っている人たちの前に颯爽と現れて、悪い奴らをあっさりと倒してしまう正義のヒロインになることが、私の夢だった。
 だけど、小さい頃の夢って言うのは叶わないものだ。
 特にヒロインなんて、努力すれば叶う夢なんかじゃなかった。
 なまじ優秀だった私は将来を期待され、両親から敷かれたレールの上を走ることを強制されてしまった。
 本当は、お兄ちゃんが進むはずだった道だ。
 だけどお兄ちゃんは両親の期待に応えることができなかった。
 私と違って平凡だったお兄ちゃんは、これ幸いにとレールから外れて自由を手に入れてしまった。
 私にはできないことを、お兄ちゃんは難なく成し遂げてしまったのだ。
 その頃からだろうか、お兄ちゃんとの中が悪くなったのは。
 落ちこぼれのお兄ちゃんと優秀な私で、あからさまに態度を変える両親や周囲の人たちに感化されるように、私もお兄ちゃんのことをバカにするようになってしまった。
 最初はただのフリだったはずなのに、いつの間にかそれが私の本心のようになっていってしまう。
 才能のないお兄ちゃんなんて恥ずかしくて、役に立たない。
 だから私は、お兄ちゃんのことが嫌いだった。
 ……でもあの日、私は変わった。
 お兄ちゃんによって、私の心は変えられてしまった。
 あの日のお兄ちゃんの目を、声を、そしておちんちんのことを思い出すと、私の胸はキュンッと高鳴り、おまんこからは微かに蜜が溢れる。
 自分でもおかしいってことは分かっているけど、だけど私の身体と本能はお兄ちゃんのことを求めてしまっている。
「私、いったいどうしちゃったんだろう……」
 分からないけど、この思いは決して嫌な気分ではない。
 だから、もう少しだけ自分の気持ちに素直になろうと思っている。
 そうすればもしかしたら、昔の私に戻れるかもしれないから。
 無邪気に夢を見て、純粋に将来を思い描いていた、あの頃の私に戻れる気がするから。

 ────
 ある日の放課後、私は不思議な生き物に出会った。
 ウサギのような猫のような、何とも形容しがたい小さな生き物。
「なに、この子? 可愛い!」
 一緒に歩いていた親友の美嘉は、そう言いながら小動物に向かって手を伸ばしていた。
「美嘉、危ないよ。もしかしたら、何か病気を持っているかもしれないし」
「失礼な! ボクは病気なんて持ってないよ!」
「えっ!? ウサギが喋った!」
「そもそもボクはウサギじゃない! ボクの名前はガドリン。この世界を守ってくれる正義のヒロインを探しに来たんだ」
 その言葉に、私の身体はピクッと反応する。
 だけど、正義のヒロインを探しているなんて本当なのだろうか?
「正義のヒロインって、マイティベルやロイヤルフォーチュンみたいな?」
 美嘉も同じように疑問を持ったみたいで、ウサギ――ガドリンを抱きかかえながら首を傾げている。
「その通り! 正義のヒロインは、常に足りない状況だからね。ボクみたいな妖精が、世界中から素質のある少女たちをスカウトしているんだ」
「すごいっ! 正義のヒロインって、そうやって選ばれてるんだ!」
 興奮した様子の美嘉がガドリンをギュッと抱きしめ、腕の中で締め付けられた彼は苦しそうに呻いている。
「美嘉、ちょっと緩めてあげないと苦しそうだよ」
「あっ、ごめんね。興奮しちゃって、つい」
「死ぬかと思ったよ……」
 美嘉の腕から解放されて、ガドリンは深いため息を吐く。
 しばらく呼吸を整えるように深呼吸を繰り返していた彼は、やがて気を取り直したように小さな手で私たちを指差した。
「ところで君たちは、正義の味方になるつもりはないかい?」
「え? 私たちが……?」
「正義の、味方に……?」
 突然の質問に、私たちは混乱してしまう。
 驚いて答えることのできない私たちを置き去りにして、ガドリンはさらに言葉を続ける。
「もしも興味があるのなら、ボクと一緒にこの世界の平和を守る手助けをしてくれないかい? 君たちの力が必要なんだ!」
「急にそんなことを言われても……」
 渋る私とは逆に、美嘉は目をキラキラと輝かせながら私の手を握る。
「やろうよ! こんなチャンス、二度とないよ!」
「だけど、正義の味方になったら悪い奴らと戦わないといけないんだよ。危ないし、もしかしたら死んじゃったりだって……」
「それは大丈夫。ボクの力で、変身中のヒロインは死なないようになるから。怪我だって、変身を解いたらすぐに治っちゃうよ」
「へぇ、すごい! だったら何の心配もないね!」
「いや、そんな都合のいい話が……」
 まだ文句を言おうとしていると、突然遠くから爆発音が聞こえてくる。
「なに!?」
「きっと、悪い奴らが暴れているんだ! 奴らを止めるために、お願いだから力を貸してほしい!」
 二人の真剣な瞳に見つめられて、たじろぎながらも私は覚悟を決めた。
「……分かった。でも、嫌になったらすぐに辞めるからね」
「ありがとう! これから一緒に頑張ろうね!」
 渋々頷いた私に満面の笑みを浮かべながら、ガドリンは私たちに手のひらサイズの宝石を手渡してくる。
「それがヒロインの力の源だよ。それを胸元に当てて、自分の一番大切な人のことを思い浮かべてみて」
「大切な、人……」
 その時、真っ先に思い浮かんだのはお兄ちゃんの顔だった。
 その事実に少しだけ頬を染めながら、私は胸に宝石を押し当てる。
 目を閉じてお兄ちゃんのことを思うと、なぜだか心が温かくなってくる。
 次の瞬間、私はまばゆい光に飲み込まれていた。
「なに、これ?」
「すごい。これが変身なんだ!」
 やがて光が私たちの中へと消えていくと、そこに立っていたのは二人のヒロインの姿だった。
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