悪の怪人になったのでヒロインを堕とすことにしました

樋川カイト

文字の大きさ
42 / 76

<42>

しおりを挟む
「さて、じゃあまずは自己紹介から始めよう。ボクの名前はガドリン。正義サイドのマスコットをしているよ」
「マスコット、ねぇ……。俺はアイン、こっちの彼女はクレビスだ」
 胡散臭さ満載の自己紹介に顔をしかめながら、俺は短く名前だけを名乗る。
 そんな俺たちの警戒を知ってか知らずか、リラックスした様子のガドリンは手の届くほど近くまでやってくる。
「なるほど、君がウワサの……」
「ウワサ? 正義の味方界隈じゃ、俺のことがウワサになってるのか?」
「そりゃあそうさ。なんと言っても、あのロイヤルフォーチュンを倒してしまったんだからね。そのせいで、ボクたちは新しいヒロインの増産で大忙しさ」
 増産。
 その言い方にどこか引っかかるものを感じながらも、まずは情報収集が先決だ。
 せっかく向こうから接触してきてくれたんだから、この機会を逃すわけにはいかない。
「それで、どうしてお前はここに居るんだ? いったい、どこから忍び込んだ?」
「気付いてなかったの? ボクは玄関から堂々と入ったのに。それに、リビングで一度姿は見ているはずだよ」
「リビングで……? もしかして、佳奈が持って帰って来た物って」
「その通り。そして、佳奈ちゃんがボクを持っていた理由は、もう分かるよね?」
 口角を上げてニヤリと笑うガドリンの言葉の意味を察して、俺はほんの少しだけ眉を顰める。
「佳奈が、正義のヒロインになったってことか」
 だとしたら、なんという運命のいたずらだ。
 悪の組織の一員である俺の妹が、正義のヒロインだなんてまるで漫画みたいな展開だ。
「だけど、それならどうして俺に接触してきたんだ?」
 いくら俺が悪の怪人だと分かったからと言って、コイツが俺に接触してくる理由にはならない。
 むしろ普通なら、正体を隠して隙を伺う方が得策だろう。
 そんな俺の疑問を正面から受け止めて、ガドリンは涼しい顔で答える。
「確かに普通の状況なら、そうしたかもしれないね。機会をうかがいながら、時が来れば佳奈ちゃんに全てを話して戦わせることだってできた。だけど、彼女のあんな姿を見せられたらそうも言ってられないよ」
「あんな姿? ……もしかしてお前」
「とっても激しい交尾だったね。いくら好きあっていても、普通はあそこまで乱れたりしないはずだろう」
 想像通り、どうやらこいつは俺と佳奈のセックスを一部始終覗いていたみたいだ。
「さっきもクレビスとのセックスを覗いていたし、もしかしてお前はそういう趣味でもあるのか?」
「失礼だな。ボクはそんな悪趣味なマスコットじゃないよ。どっちも、たまたま目撃してしまっただけだから」
 憤慨したように語気を強めたガドリンは、一度咳ばらいをすると努めて冷静な声で話を始める。
「話が逸れたね。そろそろ本題に入りたいんだけど、聞いてくれるかな?」
 やっと話が進むことに内心でホッとしながら、俺は無言を貫く。
 それを了承と受け取ったのか、ガドリンは少しだけ表情を緩めて話を続ける。
「実は、君に提案したいことがあるんだ。きっと、君にとってもメリットもある話だと思うんだけどな」
「提案、ねぇ……。まぁ、聞くだけ聞いてやるよ」
 いったい正義サイドの存在が俺にどんな提案があると言うのだろうか。
 訝しみながらも続きを促すと、ガドリンは再び口角を上げてニヤリと笑う。
「簡単な話だよ。君には、しばらく悪事を働く頻度を下げてほしいんだ。さっきも言ったけど、君のせいでボクたちの仕事は日に日に増えているからね」
 その提案は想像していたものとは違って、なんだか拍子抜けだ。
 例え俺が頻度を下げても、他に怪人が居る限り仕事は減ったりしないだろう。
「そもそも、頻度を下げるだけでいいのか? 正義の味方なら、悪事を働くなってくらい言ってもいいんじゃないか」
 もちろん従う気はないけど、それにしてもガドリンの提案は腑に落ちない。
 俺の疑問を当然のこととして受け止めたガドリンは、それでも気にせずに話を続ける。
「止めてもらう必要はないよ。というより、止めてもらうと困るんだ」
「困る? いったいどういう意味なんだ?」
 悪事を止めると困るなんて、どう考えても意味が分からない。
 困惑する俺を眺めて、ガドリンは一人納得したように頷く。
「なるほど。君はまだ世界の真実を知らないんだね。それとも、わざと内緒にされているのかな」
「世界の、真実? いったいお前は何を言っているんだ?」
 聞けば聞くほど、訳の分からない方向に話が進んでいく。
 不安になって隣に座るクレビスに視線を向けても、彼女はいつも通りの無表情のままだ。
 どうやら、この場で話の意味を理解していないのは俺だけのようだ。
「クレビス、説明してくれ。いったい世界の真実ってのはなんなんだ?」
「すいません。それをお答えする権限を、私は許可されておりませんので」
 口調だけは申し訳なさそうに、クレビスはそう言って頭を下げる。
「ははっ、どうやら君の部下さんは融通が利かないみたいだね。それじゃ、代わりに僕が答えてあげるよ」
 俺たちのやり取りを見て楽しそうに笑ったガドリンは、やがてゆっくりと語り始めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...