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まだまだ続く説明回

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「ここって?」
「ここが、これから君に運営してもらうダンジョンだ。今立っている場所は、ちょうどダンジョンの中心地だね」
 そう言われて辺りを見回してみても、そこに見えるのはごつごつとした岩肌だけ。
「なんか、ただの洞窟にしか見えないんだけど」
 もしかして、私にここで暮らせと言っているのだろうか。
「あまりにも過酷……」
「大丈夫、なんとかなるさ。例えば、ほら」
 そう言って人影が指を鳴らすと、さっきまでごつごつとした岩肌だった場所が一瞬にして整えられた四角い部屋へと変わる。
「うわっ!?」
「驚いたかな? このダンジョンの主である君にも、同じことができるはずさ。もちろん、君の場合はさっき教えたように魔力が必要になってくるけどね」
 できると言われても、やり方なんて分からない。
 とりあえず目の前の壁に向かって動けと念じても、それは微動だにしなかった。
「……できないんだけど」
「だから、魔力が必要なんだってば。今の君には、ダンジョンを編集するための魔力はゼロ。部屋を作り替えるどころか、魔物を呼び出すことも自分を強化することもできないんだ」
「えぇ……。それって詰んでない?」
 つまり今の私は、ただの無力な美少女ということだ。
「自分で美少女とか言うのはどうかと思うけど、確かに今の君は無力だ。だから、最初だけ手助けをしてあげよう」
「手助け?」
「そう。今の君を駒として配置しても、きっと何もできずに死んでしまうだろう。それじゃゲームとして成り立たない。だから私たちには、ゲームの最初に少しだけ力を貸すことが許されているんだ」
 そういえば、これは彼らのゲームだったんだっけ。
「でも、手助けって具体的には何をしてくれるの?」
 チート能力とかくれると、とてもありがたいんだけど。
「残念ながら、ダンジョンマスターに与えられる手助けは能力じゃないんだ」
 チートじゃないと聞いて、私のテンションは分かりやすく落ちていく。
 異世界転生でチートなんて、ほとんどセットみたいなものなのに。
 もしかして私は、不遇系の転生者だったんだろうか。
「まぁ、早とちりしないでよ。もしかしたら、下手なチート能力よりも有用かもしれないよ」
「だったら、さっさと教えてよ。私は何が貰えるの?」
 もったいつけるような態度に少しだけイライラしながら尋ねると、人影は分かりやすく肩をすくめながら口を開いた。
「まったく、せっかちだなぁ。処理の影響で、ちょっと口が悪くなってない? ……僕が君に与えるのは、ずばり魔力だよ」
「魔力って……」
 確か、ダンジョンを作ったりするのに必要って言ってたはずだ。
 つまり、それを使って自分でダンジョンを作れってことなのか。
「まぁ、そういうことだね。他にも、魔物を召喚するなり自分を強化するなり、自由に使ってもらって構わない」
「なるほど。クリスマスプレゼントはこれで好きな物でも買いなさいって言って、直接お金を渡す感じね」
「その例えには語弊があるけど、訂正するのも面倒だからその解釈でいいよ。とりあえず、数値にして10万くらい与えておくよ。これだけあれば、一般的なダンジョンくらいはすぐに作れるはずだよ。それじゃ、あとは魔力の使い方について説明して僕の仕事はおしまいかな」
「うん、それが聞きたかった。どうやればいいの?」
「まずはウィンドウを開く。開き方は、イメージすればいいだけだ」
 言われて頭の中にイメージを浮かべると、私の目の前にさっきと同じようにウィンドウが展開された。
「あっ、できた!」
「そうしたら、後はそのウィンドウに従って操作するだけさ」
 簡単だろ、と笑う人影に曖昧に答えながら、私はさらに詳しくウィンドウの内容に目を通していく。
 そこには4つのタブがあり、それぞれ『ダンジョン』『召喚』『スキル』『???』と書かれている。
「最後のってなに?」
「どれどれ……。あぁ、これはまだ解放されていない機能みたいだね。条件を満たせば使えるようになるはずさ」
「へぇ、そうなんだ」
 なんだか曖昧な言い方が少し気になったけど、しかしそれを聞く前に人影はゆらりと大きく揺れる。
「どうやら、そろそろ時間みたいだ。これ以上長く居ると、他の奴らに不正を疑われてしまう」
 言いながら人影は少しずつ薄くなっていき、それに比例するように声も小さくなっていく。
「それじゃ、できるだけ長く生き残ってね。君にこれから訪れる苦難に、神の加護があらんことを」
 最後にそれだけ言い残した人影が消えると、私は何もない部屋に一人ポツンと残されてしまった。
「なんだか、嵐のような出来事だったなぁ……」
 ついさっきまで普通の女子高生だったはずなのに、いきなりダンジョンマスターになってしまうなんて。
「まぁ、なっちゃったものは仕方ないか」
 普通ならもっと混乱したりするはずなのに、私の心は想像以上に落ち着いている。
 もしかしたらこれも、人影の言っていた処理のおかげなのかもしれない。
 諦めとともに一つため息をつくと、改めて目の前のウィンドウに目を落とす。
「さて、それじゃ始めましょうか」
 こうして緩やかな雰囲気で、私の生き残りをかけた生活が始まったのだった。
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