箱庭サークルでは恋愛を禁止しています。

しゃこじろー

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身なりだけはいいくせに中身は腐った野郎かと思うと、俺はこれからのハーレムアニメを素直な気持ちで見れそうになくなった。
 いや、現実問題、アニメの主人公のようにイケメンだったりすると、周りからちやほやされまくって、ああいう人間になっちまうかもしれない。
 あぁそうだ、中学の時も高校の時も、ああいう爽やかイケメンっていうのは、なんだかんだいい奴でもないし、どこかいけ好かない感じで、世の中ぬらりくらりと切り抜けていくタイプだもんな。本当美人は得っていうかこれが俗にいう『主人公補正』って奴なのかもしれない。

 そんな嫌な思い出を蒸し返しつつ、部室内に置かれている大量の本やグッズを見渡した。決して個人的な趣味だけでは集めきれないような多種多様のキャラや作品のグッズ達。

 これをすべてもらう代わりに立ち退きをよろしく頼むか、決して悪い条件じゃあない。

 しかし、到底一日では終えることができない量だ。まぁ、これが全部俺のものになるのであれば、それはそれでうれしいのだが、問題はこれだけの量をもらった所で、一人暮らしの俺の部屋には収まりきらんということだ。
 それに、この場所にはもういることができない。これも相当なダメージだ、いや今は場所より物か。もうこうなりゃ、無理言って実家にでも送るか?

 いや、そんなことしたらまた勝手に捨てられたりしかねん。そんな「捨てる」という選択肢がないという変な意識の高さに自負していると、突然部室の扉が開かれた。
 会長改め、小鳥遊がなにか言い残したことでもあったのかと、すぐに入り口に扉を向けると、そこには銀縁眼鏡に黒髪ロングヘアーの女性が息を切らしながら立っていた。

 大方あの重すぎる扉を開けるのに苦労したのだろう。そうして、少しセクシーにも見える息を切らす彼女は部屋の中を一望した後、俺を見つめてきた。
 鋭く刺さる厳しい目つきに、少しだけ興奮を覚えていると、銀縁眼鏡の彼女はキュッと閉じられた小さな口を開いた。

「お前はここの部員か?」

 随分と横暴な喋りだし、これまた心に突き刺さるかのような冷たい声色。容姿にぴったりとはまった声であり、時代が時代、状況が状況なら悪党につかまって拷問を受け、それに対して何がなんでも抗っていそうな人だった。

 そして、結局堕ちるみたいな?

「おい、聞いているのか?」
「は、はい」

 しまった、つい妄想を繰り広げすぎた様だ。
 
「そうか、ならさっさと片付けを終わらせるんだな」
「え?」

「聞いていないのか、このサークルは解散になったんだ。えっーと、確か箱庭サークルだったか?」
「いや、廃部の件はさっき聞いたばかりで」
「そうか、なら早くすることだな」

 冷たい態度ではあるが、美人であるということと、変なジャンルを吸収しているおかげか、どことなく心地が良かった。

「え、えっと、その前に聞きたいことがあるんですけどいいすか?」
「なんだ」

「どうしてここの解散は決まったんですか?」
「そんな事を聞いてどうする」

「いや、俺、何にも聞かされずにいきなり部室の後始末頼まれて、何が何だかわかんないっていうか、納得できないっていうか、はい」
「そうか、なら話してやろう、簡単な話だから聞き逃すなよ」

「はい、どうもっす」
「このサークルが何の活動もしていないのが理由だ」

 小鳥遊が言っていたことが解散理由のすべてだったらしい。

「何もしていないのが理由ですか?」
「そうだ、実に正当な理由だろう」

「は、はい」
「あの小鳥遊とかいう会長のおかげか、人は集まるがそれに見合った活動が行えていない。それどころかただのたまり場として貴重な部室をもてあましている。こんなサークルをいつまでも置いておけない、それが理由だ」
「えっとじゃあ、ちゃんと活動していれば解散は免れたりするんすか?」

 俺の思いつきの一言に銀縁眼鏡の女性は黙った。だが、しばらくの沈黙の後口を開いた。

「何を考えているのかはわからんが、このサークルの解散はもう決まった事だ、お前にできることはこの部室のものを取っ払い、素早く、この部屋をあけ渡すことだけだ」
「そ、そうっすか」
「そうだ、所でお前は一年生だな」

 どうしてわかったのかはわからないが、話が早いのですぐにうなづくと銀縁眼鏡の女性はため息をついて、部屋の中を見渡すそぶりを見せた。

「お前も災難だな、入学早々こんな腐ったサークルに入ってしまうなんて」
「腐ってるって、そんな言い方は・・・・・・」

「腐っているようなものだ、タバコと香水の匂いで鼻が曲がりそうだぞ」
「一応、毎日換気はしてるんですけどね」
「いや、私の鼻はごまかせない」

 だれもごまかそうとはしていないが、まるで名探偵でも招き入れてしまったかのような状況の中、それでも、このサークルに思い入れのある俺からすれば、彼女の言葉に少し腹が立った。

「まぁ、腐ったようにみえますけど俺には輝いて見えるんですよ」
「ふっ、お前の目は節穴だな」

 彼女の初めて見せる嫌みな笑顔は、なかなかに腹が立つ笑顔で、俺の頭はピキピキと青筋が立ちそうになった。

「な、なかなかきついっすね先輩、後輩をいじめる趣味でもあるんすか?」
「別にそんなつもりはない、それよりお前ひとりか?」

「はい」
「他に手伝ってくれるものは?」

「一年生は俺だけなんで」
「一人なのか・・・・・・それは大変だな」

 途端に優しい声色でそういってきた。さっきはきつい言葉を発したのに、今度は優しくなったな。これはあれか、ツンデレというやつか?

「そうっすね」
「まぁ一応期限は今月中だからな、うん、それなりにやってくれ、せかして怪我でもされたら困るからな」

 今度は体の心配まで、よくもまぁ初対面の人間にこれだけのツンデレをやれるな、アニメならこの人は間違いなくツンデレチョロインの筆頭だろう。
 まぁ、ちょっとばかし容姿がメインヒロインっぽくはないが、まぁその辺は三次元というところか。なんてことを思いながら彼女を見つめていると、彼女と目があってしまった。

「ん、私の顔に何かついてるか?」
「い、いえいえ」

 こんなセリフも初めて聞いたな、普通は目が合ったらそらされるか気落ち悪がられるかの二択だが、まさか本当に「私の顔に何かついてるか?」なんて言葉を使う人がいるとは。

「そうか、じゃあ、今月中にこの部屋のものを明け渡すように頼むぞ」
「え、あぁ、何とかやってみます」

「それから、片付けが終わったなら学生会室まで報告に来てくれるか?」
「あぁ、学生会室っていうのがありますね、やたらと豪勢な扉の」
「そうだ、よく知っているじゃないか」

 そう、なんとなーく学内散歩を一人でしていたらたまたま見つけた学生会室。いや、見つけたというより見つけてくださいといっているような扉だったから釘付けになって記憶に残りまくってるだけなんだけど。

「まぁ、生徒会の部屋ってのは豪勢なのがお決まりかなって思って確認しに行ったんですよ」
「お決まり?」

「い、いえなんでもないです」
「そうかじゃあ頼むぞ、あ、そういえば名前を言い忘れていたな」

「名前?」
「あぁ、学生自治会で書記を務めている二年の宮本 千佳《みやもと ちか》だ、覚えていてくれ」

 千佳とはこれまた随分とかわいらしい名前だ。

「はい、あ、えっと俺は遠州 徹也《とおす てつや》といいます、一年です」
「あぁ、よろしく頼むぞ遠州、悪いが私も忙しい身でな手伝ってやることはできない」

 そういうと宮本先輩は部屋から出ていき、扉を勢いよく絞めた。ものすごい轟音の後、再び扉が開かれた。すると、宮本先輩が申し訳なさそうに顔をのぞかせた。

「す、すまん、こんなに強く閉まるとは思わなくてだな、その、別に怒っているわけじゃないんだ、許してくれ」
「あぁ、気にしてないっすよ、その扉めちゃくちゃ重いですよね」

「そ、そうだな、じゃあ後は頼むぞ遠州」
「はい」

 そして今度はゆっくり扉が閉じられた。しかし、キリッとした登場からふぬけた退場とは、これはもう2.5次元認定をしてあげてもいいくらいの良キャラっぷりだ。
 まぁ、何はともあれ災難という言葉に尽きる状況の中、俺は解散が決まってしまったとはいえ、できることならこのサークルの存続を心の中で考えていた。
 確かに、はた迷惑な連中ばかりだったが、あいつらはいつも部屋を開けてどこかに行くし、その間は俺が好きなようにこの部屋を使えて、好きなようなアニメや漫画を楽しむことができていた。

 それこそ個人所有の満喫のような感覚で俺はここにいりびたっていた。

 だからこの貴重な空間はぜひとも残していてほしかったが、どうにも良くある日常系アニメのようにはいかないようだ。いや、その前に日常系アニメなら俺に幼なじみやら親友やらがいるはずだ、だがそれが居ない、つまり打つ手なしという訳だ。
 何なら立てこもって「この場所は絶対になくさせないぞっ」とかやってみたい気持ちもあるが、そんなことをする勇気はないし、そんなことをしようものならせっかく入学できた大学を退学させられかねないと思うと余計にできない。
 
 しかし、こうも短期間で解散になって場所を失われるようになるとは思わなかった。

 まぁ、あの会長その他の面々を見ていればそうなるのも予想はしていたが、まさかこんなにも早くこうなるとは思っていなかった。
 それに、何よりこのサークルが解散になることに対して、会長は何の反論することもなくまるで「しょーがーねーなー」とでもいうかのようにあきらめた態度だったのが頭に来た。

 やはり、ただのたまり場であるこのサークルにはなんの思い入れがないということなのだろうか?
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