箱庭サークルでは恋愛を禁止しています。

しゃこじろー

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 ただ、思い入れがないからこそ俺は自分だけの空間と、サークルの大いなる遺品をもらえることになったわけだが、これだけの遺品を整理するとなると、それはそれで大変なものだ。なんて考えていると、再び部室の扉が勢いよく開かれ、そして閉まった。なんだ今日はやけに来客が多いな。

 そう思い入り口に目を向けると、そこに立っていたのは地味な服装に顔が隠れるほどの長髪のおそらく女性であろう人だった。彼女はまるでホラー映画にでも出てきそうないでたちで現れると、髪の隙間から除く目が不気味に俺をとらえた。

「ふへ、相変わらずこの扉は暴れ馬だな」

 声から察するに、女性であることは間違いないのだが、どうにも顔の全貌が見えないものだから確信するにはまだ時間がかかりそうだ。

「だ、誰ですか?」
「私はこのサークル会員だ」

 サークルの会員?こんな人は俺が入会してから一度も見たことがないような気がするが、もしかして部屋の隅っこにいましたとか、そういう怖いことを言ったりしないだろうな?

「え、でもあんまり見た事ないような」
「それは、この部屋には来てないだけの幽霊会員だからだ」

 おいおい、ガチの幽霊とかはやめてくれよ。
 
「へ、へぇ」
「でも、実際にはここにいる人たちが怖くて中々部屋に来れなかっただけのヘタレ幽霊会員だ」

「へ、へぇー」
「ふ、ふへへ」

 唐突な訪問者に俺と幽霊部員と名乗る人はしばらく黙り込んでしまった。

 まぁ初対面同士だから、そうそう仲よさげになんて出来るわけがなく、俺はしばしこの微妙な空気を無言で過ごした。そんな中、幽霊部員と名乗った人はなにやら落ち着かない様子を見せていた。そして、思い出したかのようにスマホを取り出したかと思うと、パイプ椅子に座って画面に釘付けになった。
 よくある対処法だ、気まずい雰囲気になったらまずスマホの画面を見る。そして、何も動かすことなく初期設定の壁紙をじっと眺めそして何もしない。

 これが正解、何故なら誰にのぞかれても大丈夫なように、自分自身がオタクであることを悟られないようにする。

 別に、そんな心配をせずとも俺みたいなやつに話しかけてくるやつは居ないだろう、だが、アニメ好きだったり漫画好きのような奴らはいつだっていらぬ気を回しているものなんじゃないだろうか?

 まぁ、そんなところで俺は謎の幽霊会員さんをみていると、ふと気になるものを見つけた。そう、それは彼女のスマホに付いていたストラップだ。
 しかも、それがただのストラップではなく「インターセプターざくろ」という児童向けアニメのマスコットキャラクターである「シロちゃん」がぶら下がっていたのだ。

 国民的キャラクターをぶら下げてる連中は居れど、このシロちゃんのストラップを付けているやつはそうそういない。そんな、もはや親近感を感じざるを得ない状況の中、俺は先に口を開くことにした。

「「あのっ」」

 しかし、俺が口を開いたのと同時に幽霊部員を名乗る人も同時に声を上げた。

 それにより部屋の中では再び妙な沈黙が流れた。確かスマホの画面に釘付けだったはずなのに、どうして話しかけようと思ったのだろうか?やはり壁紙をじっと眺めて何か適当な話題でも考えていたのだろうか?
 まぁ、とにかくむこうも話しかけてくれるということは、それなりに会話を求めてるって事だからここは間髪入れずに攻めてみようか。

「えっと、何か用すか?」

 俺の質問に体を跳ね上げてまで反応してくれた幽霊部員さんは、びくびくした様子で口を開いた。

「あ、あー、いや、このサークルが解散するって聞いたから最後に挨拶だけでもと思ってな」
「あぁ、そうだったんすか」

「そうだ、それよりお前はだれなんだ?」
「あ、俺はつい最近入会したばかりの新人です」

「名前は?」
「え?」
「な、名前を聞いてる、二度も言わせるな」

 あぁ名前か、そういえばここに入会したときは名前すら聞いてこなかったな。 

 それに、入会届を出すときに確かに名前を見たはずの会長も、俺の事は最初から最後まで新人君としか言わなかったし。さっきも宮本先輩に自己紹介するときは自然にできたけど、まさか自己紹介がこんなに疎遠なものとは思わなかったな。

「1年の遠州 哲也《とうす てつや》です」
「遠州哲也か、いい名前だな」

「ありがとうございます」
「わ、私は2年の霧ヶ峰 聖子《きりがみね しょうこ》だ、ふへ、クーラーみたいだろう、ふへへへへ」

 よく笑う人だな。まぁ、初対面って妙に作り笑顔をしたくなるけどさ。

「まぁ、クーラーみたいってか山じゃないっすか」
「あぁ、それで遠州は廃部になるこの部室で何をしてたんだ?」

「俺はこの部屋の片付けです」
「片付け?」

「実は、会長にこの部屋とサークルを丸投げされて、おまけに学生会とかいう人たちにこの部屋をあけ渡すように言われたんです」
「一人でやってるのか?」

「そうなんですよ、会長はもちろんその他諸々にも丸投げされたもんですから、もうだれも手伝ってくれないみたいで」
「じゃ、じゃあ、私も手伝おうか、ふへへ」

「えっ、いいんすか?」
「あ、あぁ、これでも私はこのサークルが好きで入った、だから最後くらいお礼のつもりで片づけを手伝わせてくれ」

「それは助かります、ありがとうございます霧ヶ峰先輩」
「ふへへ、先輩か・・・・・・ふへ」

 そんなこんなで突然現れた霧ヶ峰聖子先輩と片付けすることになった。こうしてちゃんとこのサークルが好きで入ってくれた人が居たと思うとなんだか妙に嬉しくなった。
 だが、霧ヶ峰という女性はそんな意気込みとは裏腹に、ものの数分で片づけをリタイアした。原因は運動不足だということと、生まれた時から文系で体力がないのが理由だそうだ。

 そんな霧ヶ峰先輩は机の上でぐったりと寝っ転がっており、さながら幽霊のようにうなり声をあげていた。まるで役に立たない協力者にため息を漏らしつつ、俺は片付けを続行した。
 しかし、ただ片付けだけをするのはいかがなものかと思った俺は、ちょっとした質問を先輩になげかける事にした。

「霧ヶ峰先輩」
「な、なんだ?」

「先輩はこのサークルのどこが好きで入ったんですか?」
「知りたいか遠州」

「はい」
「簡単なことだ、ここには「うぐいすのなくコロニー」が置いてあったんだ」

「あぁ、コールドスリープから目覚めた少年少女たちが火星のコロニーで疑心暗鬼になりながら生活する話でしたね・・・・・・確かループ物の話で、最終的には地球外コロニーでの生活を円滑に進めるためのVR訓練だったっていオチでしたね」
「そう、あれは楽しかった」

「ですね、目をそむけたくなるシーンもありますけど、好奇心からどうしてもグロいシーンに釘付けになってしまいますよね」
「そ、そうなんだ、人間の好奇心をあおる演出で多くの人をひきつけたんだ」

「まぁ、でも俺アニメしか見てないっすから、詳しくは語れないっす」
「そうか、まぁアニメだけで十分だ、いや、むしろアニメの方がいいかもしれない」

「そうなんすか」
「そうだ、ノベルゲーは面白いが、文字を読むのに慣れてないやつとかは途中であきらめるかもしれん、私だって飛
ばした所はいくつかある」

「あれ、にわかっすか?」
「そうだ」

「えーっと、つまりゲームでムービー飛ばしちゃう人とかにはお勧めできないってわけっすね」
「遠州、お前ムービー飛ばすのか?」

「いや、ちゃんと見ますよ、でもいつもスタートボタンに指を置きながらプルプルしてるんすよ」
「なうほど、最近の奴はグラがいいから動かしてるだけで楽しいからな、そしてそれがアクション性の高いものだと余計にな、だからムービーなんてのは二の次か」

「はい」
「でも、やっぱりムービーは大切だぞ、何を目的に主人公が動いているのかを理解したほうが、もっと楽しくなる、だから言わせてもらう、お前のそのゲームプレイ論は間違ってるとな」

「でもゲームもゲームで、ムービー見なくてもできるように作ってあるようにも思えますけどねぇ」
「確かに、最近はストーリー関係なくあそべたりできて、それが好評だったりするからな、最近じゃ誰かが主人公じゃなくて、プレイヤー自身が主人公のほうが入り込みやすいんだろう」

「ですねぇ」
「あぁ、音楽を聞くときに、歌詞を重要視するかメロディを重要視するかみたいなものだ」

「「・・・・・・」」

 と、ここまでものすごい勢いで喋った俺たちはまるで呪文をかけられたかのように互いに沈黙した。
 それはおそらく初対面の相手でこれだけ喋れるものだと驚いているからであり少なからず霧ヶ峰先輩もそれを察したのだろうか?
 とにかく、あまりに心地よいお喋りに感動しつつ、ペラペラと喋る体力が有り余っているじゃないかと霧ヶ峰先輩に突っ込むことにした。

「しかし先輩、疲れてるわりに結構しゃべりますね、手伝ってくださいよ」
「そ、それはあれだ、普段しゃべらないからこういう時は饒舌になるっていうやつだ」

「そうですか、じゃあ喋ることで元気を取り戻した先輩、片付け手伝ってくれませんか?」
「あ、あー、用事を思い出したなぁ」

「え?」
「きょ、今日のところはお先に退場させてもらうわ、ふへへ」

 そういうと、今日一番の素早い動きで部屋を飛び出していった。部屋を出て行くとき、相変わらずの轟音を響かせた扉が閉まると、部室内は一気に静かになった。

 しかしまぁ、なんというかあれだ。

 こんだけ他人と喋ったのは俺も久方ぶりだな、しかも相手は初対面の人、でもそれにしてはおもしろいように話が進んだし、普段はあれこれ考えて混乱してしまうはずの脳内が、妙にすっきりした状態を維持していて、自然と笑顔がこぼれるほど楽しかった。
 そのおかげか、俺の後頭部はまるで筋肉痛にでもなったかのようにビキビキしている。だが、そんなことが気にならないくらい俺の心は充実しきっていた。

 そうして、結局その日はどれを片付けようかと迷うだけというなんとも無駄な一日を過ごしてしまった。まぁ、今月中だっていうんだからゆっくりやっていけばいい、そう思って俺は部室を後にした。
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