小悪魔とダンス

キリ

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番外編

ドリーム

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宴が終われば、壇上のスター達も、一気に高校生の顔に戻る。
片付け中の圭を、藤棚の下で待ちながら、俺はいつの間にか眠ってしまった。
夢の中で、俺は圭と結婚していた。
エプロンを着た圭が目玉焼きを焼いている。
裾のフリルが、さっきのメイド服によく似てた。
隣の夫婦が遊びに来てて、それは何故か伸と沙緒さんで。
伸は沙緒さんに全然頭が上がらないみたいだけど、でもなんとかうまくやってるみたいで。

ああ、こんな日がほんとに来ればいいな。

肩にじんわりとした重みを感じて、やわやわと夢から現へ引き戻される。
醒めてく自分が、かなり悔しくて、もう一度夢の中へもぐりこもうとするけれど、意識は意志に反して覚醒へと着実に向かっていく。
起きてしまった。
目の前には、花を失った藤の緑がある。
葉の隙間から毀れた何本かの太陽の線が、やたらまぶしい。
俺は、高校生の矢口桔梗で。
勿論圭と結婚なんてしてなくて。
そんな事を一瞬で考えて、それはなんだか、俺の胸をきゅっと締め付けた。

肩口から、小さな寝息が聞こえてくる。
柔らかくて、温かい生き物の感触。
「ん?」
 隣を見ると、圭が、俺の肩に頭を乗せて、眠り込んでいた。

 たちまち世界はばら色に変る。
 夢なんてもうちっとも惜しくない。

 名前を呼ぶと、圭は薄く目を開けた。
 目が合うと、にっこり笑ってくれる。

 圭。お前の事が、大好きだ。

「起こすの悪いなって待ってたんだけど、気がついたら俺まで寝ちゃってた」
 圭は目を擦りながら言った。
 圭の寝起き顔は、赤ちゃんみたいに無防備で、かなり可愛い。
 ちょっとからかってみたくなった。
「なあ、衣装って、そん中にあんの?」
 ベンチの隅にある、リュックを指すと、圭は頷いた。
「メイド服も?」
「うん」
「まじか。そりゃ、もっかい近くで見せてもらわないとな。今夜が楽しみだぜ」
「やだよ」
 圭はあっさりと言って笑った。
「駄目だ。俺に内緒にしてた罰だ」
「やだったら」
「じゃ、代わりにここでキスしていい?」
 拒絶されてもやるつもりだったが、圭はいいよ、と目を閉じて、捧げるように、顔を上向きにした。
 天使のように可憐な唇が、俺を待って薄く花弁を開く。
 ベンチに腰掛けたまま、俺は圭にキスをした。
 深くなる口付け。
 背中を掌で愛撫すると、圭はいやいやと身を捩る。
 シャツの裾から手を入れようとすると、圭は
「駄目だよ。こんなとこで……」
 と、至極真っ当な台詞をはく。
「いいじゃん。誰も見てないし」
「桔梗ったら」
 最初は冗談だったのに、段々股間がやばくなってくる。
 軽くじゃれてたら、突然ポケットの携帯が鳴った。

「誰だ。こんな時に」
 俺が携帯を開いた隙に、圭はベンチから立ち上がる。
「桔梗? 俺」
 伸だった。
「おお、伸ちゃん、ヘッドスピンめっちゃ決まってたぜ。いつ見てもあれってかっこいいよな」 
 讃えると、伸は短く礼をいい、今から食事に行かないかと続けた。
「今沙緒と一緒にいるんだ。さっきせっかく桔梗に会ったのに、あんまり話せなかったから、呼んでくれって。あ、勿論圭も連れてきていいから」
「いいけど、俺らってお邪魔虫じゃないの?」
「全然。ていうか、お前らが来なかったら、沙緒、帰っちまいそうなんだ。だから、協力してくれ。頼む」
 店が決まったらメールする、といい置いて、電話は切れた。

「一旦寮に戻らなくちゃ。着替えないと、汗でびしゃびしゃだもん」
 会話を聞いていたらしく、圭は言って、リュックを背負った。
「校門まで、競争ね」
 そのまま凄い勢いで走っていく。
「体力ないくせに無理すんなよ」
 俺は携帯をポケットに入れると、小さな後姿を追いかけた。
 沙緒さんは小悪魔って言ったけど、俺の圭はやっぱり天使だ。
 ほら、走る背中に羽が見えてる。

 校門の手前で追いついて、俺は圭を後ろから抱きしめた。
 これから先、お前が飛んで逃げたって、必ずこうして捕まえてやるから。
 一生、お前を放さないから。


 それから俺達は伸達と合流した。
 沙緒さんはあからさまに伸に冷たくて、本気で同情しかけたけれど、以前から二人はそんな感じだったらしい。
「ほんとは仲がいいんだよ」
 圭がこっそりと教えてくれた。
「俺、昼間に二人が結婚してる夢見たんですよ。伸ちゃんすっかり尻に敷かれてたなあ」 俺の一言に、沙緒さんはわなわなと震え、伸は、こっそり親指を立てる。
 対照的な二人を見て、圭は楽しそうに笑い転げる。

 なんか、すっごくいい感じ。
 テーブルの下で、圭が俺の手に自分のそれを重ねてきた。
 握り返して、自問する。
「やっぱ、俺って幸せだよな?」

 ――当然でしょ

 圭の心の声が聞こえた気がした。
           

        小悪魔とダンス番外編 これにて完結♪

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