2 / 118
第一章 オークション
フードの男
しおりを挟む
「おい、いい加減に目を覚ませ」
冷たい誰かの手に、ペタペタと頬をなぶられて、リオは、一気に覚醒した。
ぱちりとひらいた眼に、まずまっすぐ飛び込んできたのは、裸電球の黄色い光である。
「わあっ……!」
それが、ぎらついたさっきの化物の目に見えて、少年は、恐怖の叫びを上げる。
とっさに逃げようとするが、身動きがとれない。見れば、いつの間にかベッドの上に寝かされていて、両手はバンザイの形で広げられ、その手首をがっちりとした黒い手錠が戒めていた。
Tシャツは脱がされ、華奢な上半身がむきだしである。
「安心しろ。もうここにあいつはいない。俺だけだ」
くぐもった声が、そう告げる。
ベッドの傍らに、誰かいた。
見れば、鼠色のロングコートを着た背の高い男が、こちらをのぞき込んでいる。
この男がリオを目覚めさせたのか。
大きなフードで深々と顔を覆っているので、男がどんな表情をしてるのか、リオにはわからない。
「おじさん、見たの? あの化物」
リオは叫んだ。
「さっき俺、もうちょっとで食べられそうだったよね? もしかして……俺って、おじさんが助けてくれたの?」
男の言う「あいつ」がリオを襲った赤い化け物を指していて、尚且つここが天国じゃないとしたら、きっと自分は助かったのだ。
そうだ。たぶんここは病院なのだ。
どこも痛くないけれど、見えないところを怪我していて。
だから治療のために、リオを縛る必要があったのだろう。
答えを聞く前から、コップに水がたまるように、心は安堵で満たされていく。
「……誰がおじさんだ? 俺はお前と、たぶんそんなに歳、変わらないぜ」
興奮気味なリオをしり目に、男は小さく舌打ちをする。
「え?」
キョトンと見あげれば、
「まあいい」
男はため息をつき、
「お前はあいつに運ばれてここへ来たんだよ。俺はそれを受け取っただけだ。だけど、どんな目にあったか大体の想像はつくぜ。震える月に、赤い龍。食われる寸前に気絶、の三点セットだろ。紅龍の召喚はワンパターンだからな」
どこか不快げな調子でいった。
リオは、頭の中で、さっきの映像を巻き戻す。
ふるえる月と、食われる寸前に気絶、は合ってる。
そして……。
赤い化け物。
あれが……龍?
ためらいは一瞬で、すぐにリオは大きく頷いた。
言われてみれば、確かにあの蛇のような長い形は、絵本で見たことのある伝説の神獣そのものだ。
一気に、人生最大の恐怖体験がよみがえり、少年はもう一度身震いした。
コウリュウという単語の意味は分からなかったが、伝説の怪物が現実に存在し、しかも、そいつに襲われそうになったという、信じがたい現実が、頭の中をぐるぐる回って、それどころではない。
「お前は、招かれたんだよ。赤い龍の化け物にな。こっから先、お前を待ってるのは地獄だ。そして俺は、地獄への道先案内人っってとこかな」
男の声に、リオははっとする。
手首に触れる鉄の冷たさが、今更ながらに新たな不安の種をリオの胸に植えつける。
「おじさん、人さらいなの?」
打ち消す言葉を期待しながら、リオはたずねた。
「そうだ」
しかし男は、即答である。
「俺を……どうするの?」
「さあ。どうするかな」
男の手が、リオの額に伸び、汗の浮いた前髪を分けた。
「今までに、あいつに招かれた子供をさんざん見てきたが、お前はとびきりの上玉だな。沙羅と同じくらいか、いや、もしかしたらそれ以上だ。きっと紅龍のお気に入りになるぜ」
男は、リオの頬を撫で、そしてがらりと口調を変えた。
「なぁ、お前、恋をしたことはあるか」
不穏な空気に、まるで似つかわしくない質問である。
意図の分からぬまま、リオは首を横に振った。
「ここを使ったことは?」
突然男の指が尻に伸び、リオは「なっ……」と叫んで体を震わせる。
「明らかに、処女だな。その反応」
楽しそうに男は言い、薄いハーフパンツごしの狭間に指を滑らせる。
「使うって、何……?」
心臓が早鐘をうち始める。
顔を見せぬ男の、得体の知れぬ不気味さに、声が震えた。
男は、リオの微妙な部分をなでながら、
「説明は後だ。いやでもおいおい分かってくる」
そう言って、今度は前へと手を伸ばした。
「や、やめて。いったい、何……」
慌てて膝頭を閉じようとするが、男はもう片方の手で、難なくリオの抵抗を封じた。
ハーフパンツのゴムの部分から、男の手が入ってくる。
あっと言う間に、リオの性器は男の指につままれてしまった。
「まだ、皮をかぶってる。上等だ。まだ初心な子供の方が、男どもは大概喜ぶ」
男は、それを撫でさするようにして検分しながら、不安をあおるような言葉を吐く。
そして男は徐に手を離し、高らかに宣言した。
「よし。紅龍館に連れて行く前に、お前でひと稼ぎしてやる。まだ男も女も知らない絶世の美少年だ。余分な金をもてあましている連中が、お前を抱こうとこぞって大金を積むだろうぜ」
何を言ってるのかよく分からないが、自分にとって、よくない運命が、すぐそこに迫っている。それだけは確かなようだった。
リオは涙に潤んだ目で、鼠いろの服を着た男を見る。
フードに隠れて、やはり男の顔は見えない。
だけど黒く隠された仮面の奥で、男がにやりと笑う様が、リオには見えたような気がした。
冷たい誰かの手に、ペタペタと頬をなぶられて、リオは、一気に覚醒した。
ぱちりとひらいた眼に、まずまっすぐ飛び込んできたのは、裸電球の黄色い光である。
「わあっ……!」
それが、ぎらついたさっきの化物の目に見えて、少年は、恐怖の叫びを上げる。
とっさに逃げようとするが、身動きがとれない。見れば、いつの間にかベッドの上に寝かされていて、両手はバンザイの形で広げられ、その手首をがっちりとした黒い手錠が戒めていた。
Tシャツは脱がされ、華奢な上半身がむきだしである。
「安心しろ。もうここにあいつはいない。俺だけだ」
くぐもった声が、そう告げる。
ベッドの傍らに、誰かいた。
見れば、鼠色のロングコートを着た背の高い男が、こちらをのぞき込んでいる。
この男がリオを目覚めさせたのか。
大きなフードで深々と顔を覆っているので、男がどんな表情をしてるのか、リオにはわからない。
「おじさん、見たの? あの化物」
リオは叫んだ。
「さっき俺、もうちょっとで食べられそうだったよね? もしかして……俺って、おじさんが助けてくれたの?」
男の言う「あいつ」がリオを襲った赤い化け物を指していて、尚且つここが天国じゃないとしたら、きっと自分は助かったのだ。
そうだ。たぶんここは病院なのだ。
どこも痛くないけれど、見えないところを怪我していて。
だから治療のために、リオを縛る必要があったのだろう。
答えを聞く前から、コップに水がたまるように、心は安堵で満たされていく。
「……誰がおじさんだ? 俺はお前と、たぶんそんなに歳、変わらないぜ」
興奮気味なリオをしり目に、男は小さく舌打ちをする。
「え?」
キョトンと見あげれば、
「まあいい」
男はため息をつき、
「お前はあいつに運ばれてここへ来たんだよ。俺はそれを受け取っただけだ。だけど、どんな目にあったか大体の想像はつくぜ。震える月に、赤い龍。食われる寸前に気絶、の三点セットだろ。紅龍の召喚はワンパターンだからな」
どこか不快げな調子でいった。
リオは、頭の中で、さっきの映像を巻き戻す。
ふるえる月と、食われる寸前に気絶、は合ってる。
そして……。
赤い化け物。
あれが……龍?
ためらいは一瞬で、すぐにリオは大きく頷いた。
言われてみれば、確かにあの蛇のような長い形は、絵本で見たことのある伝説の神獣そのものだ。
一気に、人生最大の恐怖体験がよみがえり、少年はもう一度身震いした。
コウリュウという単語の意味は分からなかったが、伝説の怪物が現実に存在し、しかも、そいつに襲われそうになったという、信じがたい現実が、頭の中をぐるぐる回って、それどころではない。
「お前は、招かれたんだよ。赤い龍の化け物にな。こっから先、お前を待ってるのは地獄だ。そして俺は、地獄への道先案内人っってとこかな」
男の声に、リオははっとする。
手首に触れる鉄の冷たさが、今更ながらに新たな不安の種をリオの胸に植えつける。
「おじさん、人さらいなの?」
打ち消す言葉を期待しながら、リオはたずねた。
「そうだ」
しかし男は、即答である。
「俺を……どうするの?」
「さあ。どうするかな」
男の手が、リオの額に伸び、汗の浮いた前髪を分けた。
「今までに、あいつに招かれた子供をさんざん見てきたが、お前はとびきりの上玉だな。沙羅と同じくらいか、いや、もしかしたらそれ以上だ。きっと紅龍のお気に入りになるぜ」
男は、リオの頬を撫で、そしてがらりと口調を変えた。
「なぁ、お前、恋をしたことはあるか」
不穏な空気に、まるで似つかわしくない質問である。
意図の分からぬまま、リオは首を横に振った。
「ここを使ったことは?」
突然男の指が尻に伸び、リオは「なっ……」と叫んで体を震わせる。
「明らかに、処女だな。その反応」
楽しそうに男は言い、薄いハーフパンツごしの狭間に指を滑らせる。
「使うって、何……?」
心臓が早鐘をうち始める。
顔を見せぬ男の、得体の知れぬ不気味さに、声が震えた。
男は、リオの微妙な部分をなでながら、
「説明は後だ。いやでもおいおい分かってくる」
そう言って、今度は前へと手を伸ばした。
「や、やめて。いったい、何……」
慌てて膝頭を閉じようとするが、男はもう片方の手で、難なくリオの抵抗を封じた。
ハーフパンツのゴムの部分から、男の手が入ってくる。
あっと言う間に、リオの性器は男の指につままれてしまった。
「まだ、皮をかぶってる。上等だ。まだ初心な子供の方が、男どもは大概喜ぶ」
男は、それを撫でさするようにして検分しながら、不安をあおるような言葉を吐く。
そして男は徐に手を離し、高らかに宣言した。
「よし。紅龍館に連れて行く前に、お前でひと稼ぎしてやる。まだ男も女も知らない絶世の美少年だ。余分な金をもてあましている連中が、お前を抱こうとこぞって大金を積むだろうぜ」
何を言ってるのかよく分からないが、自分にとって、よくない運命が、すぐそこに迫っている。それだけは確かなようだった。
リオは涙に潤んだ目で、鼠いろの服を着た男を見る。
フードに隠れて、やはり男の顔は見えない。
だけど黒く隠された仮面の奥で、男がにやりと笑う様が、リオには見えたような気がした。
0
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる