美少年異世界BLファンタジー 籠の中の天使たち

キリノ

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第一章 オークション

フードの男

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「おい、いい加減に目を覚ませ」
 冷たい誰かの手に、ペタペタと頬をなぶられて、リオは、一気に覚醒した。
 ぱちりとひらいた眼に、まずまっすぐ飛び込んできたのは、裸電球の黄色い光である。
「わあっ……!」
 それが、ぎらついたさっきの化物の目に見えて、少年は、恐怖の叫びを上げる。
 とっさに逃げようとするが、身動きがとれない。見れば、いつの間にかベッドの上に寝かされていて、両手はバンザイの形で広げられ、その手首をがっちりとした黒い手錠が戒めていた。

 Tシャツは脱がされ、華奢な上半身がむきだしである。
 「安心しろ。もうここにあいつはいない。俺だけだ」
 くぐもった声が、そう告げる。
 ベッドの傍らに、誰かいた。
 見れば、鼠色のロングコートを着た背の高い男が、こちらをのぞき込んでいる。
 この男がリオを目覚めさせたのか。
 大きなフードで深々と顔を覆っているので、男がどんな表情をしてるのか、リオにはわからない。
「おじさん、見たの? あの化物」
 リオは叫んだ。
「さっき俺、もうちょっとで食べられそうだったよね? もしかして……俺って、おじさんが助けてくれたの?」

 男の言う「あいつ」がリオを襲った赤い化け物を指していて、尚且つここが天国じゃないとしたら、きっと自分は助かったのだ。
 そうだ。たぶんここは病院なのだ。
 どこも痛くないけれど、見えないところを怪我していて。
 だから治療のために、リオを縛る必要があったのだろう。
 
 答えを聞く前から、コップに水がたまるように、心は安堵で満たされていく。

「……誰がおじさんだ? 俺はお前と、たぶんそんなに歳、変わらないぜ」
 興奮気味なリオをしり目に、男は小さく舌打ちをする。
「え?」
 キョトンと見あげれば、
「まあいい」
 男はため息をつき、
「お前はあいつに運ばれてここへ来たんだよ。俺はそれを受け取っただけだ。だけど、どんな目にあったか大体の想像はつくぜ。震える月に、赤い龍。食われる寸前に気絶、の三点セットだろ。紅龍の召喚はワンパターンだからな」
 どこか不快げな調子でいった。
 リオは、頭の中で、さっきの映像を巻き戻す。
 ふるえる月と、食われる寸前に気絶、は合ってる。
 そして……。
 赤い化け物。
 あれが……龍?
 ためらいは一瞬で、すぐにリオは大きく頷いた。

 言われてみれば、確かにあの蛇のような長い形は、絵本で見たことのある伝説の神獣そのものだ。
 一気に、人生最大の恐怖体験がよみがえり、少年はもう一度身震いした。
 コウリュウという単語の意味は分からなかったが、伝説の怪物が現実に存在し、しかも、そいつに襲われそうになったという、信じがたい現実が、頭の中をぐるぐる回って、それどころではない。

「お前は、招かれたんだよ。赤い龍の化け物にな。こっから先、お前を待ってるのは地獄だ。そして俺は、地獄への道先案内人っってとこかな」
 男の声に、リオははっとする。

 手首に触れる鉄の冷たさが、今更ながらに新たな不安の種をリオの胸に植えつける。

「おじさん、人さらいなの?」
 打ち消す言葉を期待しながら、リオはたずねた。
「そうだ」
 しかし男は、即答である。
「俺を……どうするの?」
「さあ。どうするかな」
 男の手が、リオの額に伸び、汗の浮いた前髪を分けた。 
「今までに、あいつに招かれた子供をさんざん見てきたが、お前はとびきりの上玉だな。沙羅と同じくらいか、いや、もしかしたらそれ以上だ。きっと紅龍のお気に入りになるぜ」
 男は、リオの頬を撫で、そしてがらりと口調を変えた。
「なぁ、お前、恋をしたことはあるか」
 不穏な空気に、まるで似つかわしくない質問である。
 意図の分からぬまま、リオは首を横に振った。

「ここを使ったことは?」
 突然男の指が尻に伸び、リオは「なっ……」と叫んで体を震わせる。
「明らかに、処女だな。その反応」
 楽しそうに男は言い、薄いハーフパンツごしの狭間に指を滑らせる。
「使うって、何……?」
 心臓が早鐘をうち始める。
 顔を見せぬ男の、得体の知れぬ不気味さに、声が震えた。
 男は、リオの微妙な部分をなでながら、
「説明は後だ。いやでもおいおい分かってくる」
 そう言って、今度は前へと手を伸ばした。
「や、やめて。いったい、何……」
 慌てて膝頭を閉じようとするが、男はもう片方の手で、難なくリオの抵抗を封じた。
  ハーフパンツのゴムの部分から、男の手が入ってくる。
 あっと言う間に、リオの性器は男の指につままれてしまった。
「まだ、皮をかぶってる。上等だ。まだ初心な子供の方が、男どもは大概喜ぶ」
 男は、それを撫でさするようにして検分しながら、不安をあおるような言葉を吐く。

 そして男は徐に手を離し、高らかに宣言した。

「よし。紅龍館に連れて行く前に、お前でひと稼ぎしてやる。まだ男も女も知らない絶世の美少年だ。余分な金をもてあましている連中が、お前を抱こうとこぞって大金を積むだろうぜ」

 何を言ってるのかよく分からないが、自分にとって、よくない運命が、すぐそこに迫っている。それだけは確かなようだった。

 リオは涙に潤んだ目で、鼠いろの服を着た男を見る。

 フードに隠れて、やはり男の顔は見えない。

 だけど黒く隠された仮面の奥で、男がにやりと笑う様が、リオには見えたような気がした。
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