美少年異世界BLファンタジー 籠の中の天使たち

キリノ

文字の大きさ
111 / 118
第四章 三つの世界の謎

帰還

しおりを挟む
「起きろ、沙蘭。目を覚ませ」
 聞き慣れた声に、リオはぱちりと目を開けた。消毒薬の匂いがつん、と鼻をつく。あたりを見回し、すぐに病院だと気がついた。窓から差し込む日差しが、いつもより明るい。
 戻ってきたのだ。
 ここはドラゴンシティじゃない。
 リオの、元いた世界だ。

 視線を落とせば、白いベッドに横たわる、薔薇の花のように美しい少年が目に入った。枕元に設置された心電図が、規則的な波を描いている。
「なあ、先生、本当にこいつ危ないのかよ?」
 呼びかけ続けて声をからした一星が、赤い目をして、傍らのキムに尋ねる。
「信じられねえよ。こんなに……きれーな顔してんのに……」
「今日が山だと思う。でも、今までも何度も死にかけて、そして持ち直してるからね。一番親しかった君たちが、呼びかければ、今回ももしかしたら大丈夫かも」
 キムは言った。
「おい、さっきから何ぼうっとしてんだよ。お前もちゃんと名前呼んでやれ」
 一星がリオの頭を軽く叩く。
「あ、うん……」
 壁の時計を見ると午前十一時、二人とも制服姿だ。
 沙蘭は危篤状態で、それで、急遽学校にいた幼なじみの二人に呼び出しがかかったのだろう。やはり、この世界での自分の交友関係やその他もろもろ、何一つ思い出せてない。
 なのに、シティの記憶は鮮明だった。一星やキムはどうなのだろう。
 他の人の目があるから、二人とも、知らんぷりしてるのだろうか。瞳をじっと覗き込んでみるが、わからなかった。
「はやくしろって」
 余裕のない体で一星は言い、リオはゆっくりと声をかけた。

「沙蘭……?」

 彼は何年寝たきりだったんだろう。それにしても綺麗な寝顔だ。一星の言う通り、死にかけてるなんて信じられない。両手で、沙蘭の左手を握ってみる。返す力の感触があった。
 もう一度、リオは名前を呼んだ。

 心電図が、一瞬乱れ、そしてまた元に戻る。

 花が、花弁を開くようにゆっくりと、沙蘭は瞼を開いた。

「沙蘭が、目を覚ました……」

 キムが、呟く。

「沙蘭。おい、お前、俺がわかるか」

 一星が、割り込むようにして、リオの前に体をいれた。
「わかるよ……一星」
 にっこりと笑う沙蘭を、一星が、ケットの上から抱きしめる。はじき出された形のリオは、広い背中の後ろから、ぴょこりと顔を出し、沙蘭を見た。最初にシティで出会った時の、かよわげで、少女のように可憐な沙蘭がそこにいる。
「リオ……ありがとう……」
 一星の肩ごしに沙蘭は言った。リオの胸に熱い何かが浮かび上がる。ちっとも覚えてないけれど、きっとリオと一星は何度も何度もこの病室を尋ね、沙蘭の覚醒を待ったのだろう。
 シティでの沙蘭の力が弱まってたのは、死期ではなく、復活が近かったからなのだ。よかった。本当によかった。
 友の生還は、何よりも嬉しい。

「ねえ……一星、沙蘭、先生……ドラゴンシティの事、覚えてる?」
 興奮が少し収まった頃、リオはおずおずと切り出した。
「ドラゴンシティ? 僕はゲームはしないからわからないね」
 キムは言い、
「なんだ、それ。映画?」
 一星も首をひねる。
「町の名前だよね……聞いた事ある……」
 沙蘭だけがそう言って美しい眉ねを寄せて考え込んだが、やっぱり思い出せないようだった。

 愕然とした。

 もしかしたら、あれは沙蘭の夢じゃなくて、リオの夢だったのじゃないか?
 長い長い時を過ごしたあの場所は、リオの頭の中だけにあったのだ。

「おや、君、どうしたの、その手」
 突然キムはリオの手首に目を止めた。見れば、手首を取り巻くような赤痣がある。はっとして、リオは一星の左手をとった。
「なんだよ」
「見て。同じ」
 彼の手首にも、リオと同じような痣があった。

「まるで、二人とも手錠に繋がれてたみたいだね」
 キムが言い、
「本当だ……」
 沙蘭も同意する。
「そうだよね!?」
 リオは大声を上げた。
「なに嬉しそうにしてんだ。変な奴」
 一星は気味悪げにリオの手を払った。だけど笑顔は止まらない。やっぱり、夢なんかじゃなかった。シティはちゃんと存在していて、そこでリオと一星と沙蘭とキムは冒険をして、そしてやっと帰ってこられたのだ。

 ただ一人だけを残して。

 突然胸元がぶるぶると震えた。

「えっと、あれ?」

 胸ポケットを探れば、オレンジ色の携帯電話が見つかった。液晶には「光」の文字がある。忘れていた。彼も共に戦った仲間の一人だ。それにしても、自分は携帯なんて持っていたのか。ついさっきまで、囚人だった身からすれば信じられない。
「リオ? 沙蘭の様子どう?」
 危篤の沙蘭を気づかっているのだろう。低い暗めの声だが、元気そうだ。よかった。光も無事、シティを脱出出来たのだ。

「さっき目をさましたよ。元気だよ」
 リオは言った。
「え? マジ?」
「マジだよ。今横にいる」
「よかったな。じゃあ、もう今日は学校には戻らないよな。先生に言っとくよ」
「ううん、戻るよ。そんなに長居しても、沙蘭も疲れるだろうし」
 リオは言った。電源を切り、三人に学校に戻る、と切り出した。また明日来るから、と言い置いて、リオは病院を後にした。

 肝心な事は何一つ覚えていないのに、携帯電話の使い方とか、学校への道筋とかは完璧だった。
 道すがら、リオはアドレスの全てをチェックした。
 一星に沙蘭、そして病院、学校や店の電話番号など、全部で百くらいある登録アドレスの中に、京の名は見つからなかった。
「おいっす。お疲れ」
 教室に入るなり、光はリオを労った。
「沙蘭、どんな感じ? 目が醒めたって、会話とか出来るの?」
「うん。もう全然大丈夫。学校にもまた来れるようになるよ」
「へええ、沙蘭はファンが多かったからなあ。みんな喜ぶよなあ」
 昼休みの食堂で、リオは京という名に心当たりがないか聞いてみた。
「きょう?」
「うん。漢字は京都の京だって。二十五歳から三十くらいで、背が高くて綺麗な顔の」
「知らないなあ。それってお前の何」
 光は尋ねる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...