この恋は無駄じゃない

たっぷりチョコ

文字の大きさ
11 / 51

11話「練習開始」1/3

しおりを挟む
 あくびをしながら森くんが下駄箱の前に立った。
「おはよう! 森くん」
 元気よく挨拶するオレを、森くんはきょとんとした顔をする。
「今日の放課後、スポーツ大会の種目のバスケの練習するから。帰らず参加よろしく!」
 一瞬にして森くんのネコ目が攻撃的になる。
「やだ」
 上履きに履き終えた森くんはそう一言いい残してオレを横切っていく。
 直後、ひらりと何かカードのようなものが落ちた。拾うと、
「・・・安藤接骨院?」

 診察券・・・かな?

 パシッと森くんがそれを奪い、鋭く睨む。
 何も言わず背を向けて去っていく森くんに、オレは負けずに笑顔で、
「中庭で待ってるからよろしくー!」
 わざとらしく手まで振ってみる。

 ポンッと肩に男の手が置かれ、
「ちーす、立川。朝からよくやんね。いくらなんでもお人好し過ぎない?」
「夏木」
 振り返ると夏木が涙を拭うフリをしていた。
「机を投げつけられたのに懲りずにバスケに誘うし、本人無視してバスケに名前記入しちゃうし、放課後練習が始まっても参加しない金髪ヤンキーに健気に声かけるわ。もー俺見てらんない」
「語弊がある! また変な噂が広まるからやめろよ。だいたい、オレが好きで誘ってるだけだし」
 最後の方は声が小さくなってゴニョゴニョになってしまった。
「まぁ、あきらめが肝心てね。クラスのみんな、金髪ヤンキーが素直に参加するなんてこれっぽっちも期待してないから。あんま無茶するなよ」
「そんなこと言うなよ」
「俺は立川の身を案じてんの。ある日突然行方不明になって金属バットでボッコボッコにされた立川が発見ーなんてことになったら!」
「語弊! 夏木楽しんでるだろ」
「いや~、マジで心配してんの!」
 ケラケラ笑いながら夏木が先を行く。

 森くんにはラインでもしつこいくらい誘いまくった。(既読スルーされたけど)
 練習が始まって、6月に入った頃に森くんが登校するようになってからは、毎日練習に誘うのが日課になりかけている今日この頃。
 指で数えると、スポーツ大会まであと2週間だ。
 ため息が自然とこぼれる。

 あきらめないと決めたけど、正直きつい。
 推しに睨まれる毎日。最悪だ。
 どう考えても嫌われた。

 ボロボロのメンタルを引きずって歩き出すと、大人しそうな声に挨拶され振り返る。
「小倉さん、おはよう」
「立川くん・・・その、大丈夫?」
 心配そうに見つめてくる小倉さん。
 笑顔を貼り付けて、
「森くんのこと? 大丈夫だよ。まだ2週間あるし、声かけてたらきっと来てくれるよ」
 多分。と心の中でつぶやく。

「でも・・・立川くんの気持ちもわかるけど、ここは声をかけるのを少しお休みしてみたらどうかな。押しつけすぎちゃってるかもしれない。森くんも意固地になってるかも」
「オレ、やめないよ? 森くんが練習に来るまであきらめない。心配してくれてありがとう、小倉さん」
 ニコッと笑って、小倉さんに背を向ける。

 良心がズキズキと痛む。
 ちょっと前のオレだったら、「そうだね」て言って、小倉さんの言うことに合わせてた。絶対。
 今だって、そうした方が楽だ。森くんにも嫌われない。
 でもまた、後悔する。周りに合わせる自分に。
 知ってる奴がいないこの高校にしたのは、自分らしくいたいからだ。
 オレは変わる。
 森くんも好きなバスケから逃げてほしくない。お節介と言われようが、嫌われようが、あきらめない。(嫌われるのはちょっと・・・)

 タツ兄が言った『誰かが手伝えばいい』という言葉を思い出し、左胸に拳を押しつける。 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

処理中です...