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オレですみません。
しおりを挟むぼんやりと視界が広がり、知らない天井が見える。
「・・・ここは?」
まだ全身がビリビリする。痺れもある。これは多分・・・感電?
子供の頃、扇風機のコードの一部がむき出しになって、うっかり触ったら感電したことがあった。
ビリッと強い衝撃と痛み。それに似てる。つーか、それよりもっとひどい。ピ〇チュウの電気をくらったみたいだ。(くらったことないけど)
生きてるのが逆に不思議だ。
身体を動かすことができず、とりあえず目だけ動かして周囲を見渡そうとしたら、
「あ。起きてる」
ん??
顔を覗き込んできた少年っぽいのがひとり。
赤茶な髪がボサボサ。歳は中学生くらいか。Tシャツに似た半袖の服と半ズボン、足は素足だ。冒険でもしてきたのかというほど汚れていて汚い。つーか、こっちまで匂ってくる。
こいつ、何日も風呂入ってない?
鼻をつまみたくても痺れてて腕が上がらない。
「アニキーーー! 起きてるっす!」
よく通る声で誰かを呼ぶ。
奥から、ドアのない入口からアニキと呼ばれた男が入って来た。
「うるさい。おまえの声はよく通るんだ。抑えろ」
「申し訳ないっす」
少年がぺこりと謝る。
近づいてくる男はオレと背格好が似ていて、歳も近そうだ。
頭は金髪。前髪の代わりに横髪を垂らし、髪を後ろに束ねている。
服装は、少年と同じように半袖のTシャツっぽいのにズボンはダボッとして、足首に裾を紐かなにかでくくり付けている。
何色かわからないくらい薄茶色に汚れていて、こいつも・・・いや、こいつは臭くない。
オレの前に立ったアニキとかいう奴は涼しげなつり目でオレを見下ろし、
「あんた、聖女じゃないだろ?」
んーーーーーーーデジャヴーーーー。
前にも同じこと言われたなーーーー。
「・・・聖女の兄の方ですけど?」
「はぁぁー、だよな」
首の後ろを手でかきながらあからさまに落胆された。
「えーーー聖女様じゃないんすかぁーー」
少年が横から大きい声を出す。
「だからうるさいっつーの」
ボスッと少年の溝内に拳を一発。少年、その場で倒れる。
アニキとかいう奴がくるっとオレの方に視線を戻し、
「ま、いっか。人質ってことで」
よくないよーーー。
めちゃくちゃよくない。
だけど、今のオレは身体がうまく動かせなくて何もできない。
せめて顔で威嚇するしかない。
そんなオレをしばらくアニキとかいう奴はじっと眺めたあと、やっと立ち上がった少年に「あれを持ってこい」と指図した。
渋る少年を急かし、持ってこさせた小さい瓶をオレに見せる。
「毒じゃない。安心しろ」
「え」
小瓶を口に押し込まれ味のしない液体を飲まされる。すると、一気に痺れがとれて起き上がることができた。
「治った!」
「悪かったな。ロウと一緒に寝てるからてっきり聖女かと思った。一度下見に行った時に嗅いだ匂いと同じだったし」
「え」
「兄弟だったんすね。でもアニキ、夜目が効くはずじゃ」
「うるせー。こいつが付けてる魔石のせいだ。防御の一環で見えずらい」
「でも、魔法は通用したっすね!」
「あたりまえだ。魔石の防御くらい余裕で貫通できる」
「さすがアニキ!」
話が全然見えない。とりあえず、
「えーと、誰かわかんないし、ここはどこかもさっぱりなんで、自己紹介とかしてもらえると助かるんですけど」
「・・・」
オレをじっと見つめながら黙ったあと、
「おれはテオ。こいつはチャオ」
「どもっす」
少年が軽く手をあげてニカッと笑った。
ちゃんと自己紹介してくれた。(敵なのに理解ある?)
「ここは南南西大陸のはずれにあるコッソていう国。ま、滅ぶ寸前だけど」
南南西大陸来たーーーーー。
ていうか、滅ぶ寸前の国?!
「滅ぶ寸前とは?」
「言ったまんま。この国はもう長くは持たない。」
「なんでそんなことになってんの? 女神様が全然召喚してくれないから? 聖女同盟は? 他の国の聖女様にお願いしてみるとかは?」
「あんたには関係ないだろ。そこまで話す義理はねぇ」
猫目で強く睨まれた。
「先代聖女が悪いんすよ!」
大きい声でチャオが話に割り込む。
チャオ、やめろ。とストップをかけるテオにチャオが首を横に振って抵抗する。
「いやっす。ここは聖女の兄貴にも聞いてもらいましょうよ! なんとかなるかもしれないっすよ!」
「なるわけねーだろ。聖女じゃないんだから。遺伝どうこうじゃないんだぞ、聖女の力は」
「聞いてくださいよ、聖女の兄貴!」
ズィッと近寄ってくるチャオに一歩引く、オレ。テオは諦めたのか肩をすくめてやれやれといった顔だ。
ヤバイ、うっかり首をつっこんでしまった。
「先代聖女が急に自分の世界に帰りたいってだだをこねたんすよ。そんなの無理な話っすけど。そんでダメならって女神様に反抗して争いが始まったっす。王族は聖女の言うことに逆らえないっすからね。そんで女神様に見放され、加護はなくなって強い魔物が増え、自然の恵みは枯れ、人は減り、次の聖女も召喚されず滅ぶ寸前・・・であってるっすよね? アニキ!」
神妙な顔で話してたのに、急にパッと明るい顔でテオに視線を向ける。
「なにがあってるだ? 最初からいたみたいなツラで言いやがって。チャオはもともとコッソの人間じゃないだろ」
「そんなこと言わずに褒めてくださいよ~」
「なんで褒めるんだよ。おれは止めただろ」
犬とその飼い主に見える。
「えーと、じゃぁ、他の国の聖女様を奪って、アリッシュの聖女も奪ってコッソを立て直そうと?」
「そうっす! でも、間違いがあるっす。聖女を奪ったのはアニキっすけど、あいつらに言われてそうしたんす。騙されたんすよ!」
ん???
ドヤ顔をするチャオとは違い、困惑するオレにテオが見ていられなくなったのか口を開いた。
「計画を持ちかけられたんだ。ひとりめの聖女はそっちが奪い、ふたりめはこっちが奪うって。ロウを子供にしたのは邪魔だったから。あいつは国王育成の集まりに呼ばれた頃からなにかと勝負ふっかけてたからわかるけど、ムカつくほど強い。正面で勝てる奴じゃない」
ロウがなんかめちゃくちゃ褒められてる。
「今思い出しても腹立つっす!! 聖女を奪ってきたら急に手のひらかえして攻撃してきて・・・。あれはマジヤバかったっす」
「どうってことないだろ。手下の奴らの攻撃なんて」
「ま~ちょっとかすっただけっすけど。すぐ逃げたっすからね」
「アリッシュの聖女を奪うはずだったのはその計画を持ちかけた人ってこと?」
「そうっす。結局、アニキが両方奪いに行くはめになったすけど。間違って聖女の兄貴だったすけど」
「いちいち掘り返すなって」
テオがゲシッとチャオの尻を足で蹴る。
「その計画を持ちかけた人って?」
「あんたには関係ないだろ」
「同じ南南西大陸のチッロていう国の国王っす。いけすかない奴だし、国の人間も柄悪い奴らばっかりっす。悪い噂も絶えないし」
「なんでそんな国と手を組んだんだよ」
「それはコッソを守りたいからに決まってるっす! ねぇ、アニキ!」
「・・・」
返事がないテオに、オレとチャオがテオをじっと見つめる。
黙って動かないテオの瞳が静かに怒りに揺れてるのが見てわかった。
拳をぎゅっと握るテオ。
「話にのるしかなかったんだ。あーするしか・・・。どうせ手を汚すんだ。悪がきしたっていいだろ」
「アニキ・・・。アニキは何も悪いことしてないっす! 悪いのはあいつらっす!」
「でも結局間違えて兄のほう連れてきちまったし。罰当たったんかな」
ちらっとオレに視線を送るテオのなんとも言えない目・・・。(つらっ)
オレなんも悪くないけど、むしろ被害者だし。
でも、テオはただ、自分の国を守ろうとしただけだ。奪うのは悪いことだけど。でも・・・。
何とも言えないモヤッとした感情に耐えられず、
「なんかオレですみません!」
つい謝ってしまった。
コントが滑ったみたいにシーンと静かになった建物内にテオがぷっと吹き出す。
「あんたお人好しだろ。巻き込まれただけなのに」
オレに近寄ってポンポンッと肩に手を置かれる。
慰められた?
「いやっす! コッソが滅びるなんて、自分そんなの耐えられないっす! せっかく居心地の良い場所を見つけたのに。アニキと一緒にここでずっと暮らしたいっす!」
わっと急に嘆きだす、チャオ。
「わがまま言うな。これも運命だ。つーかチャオは他の大陸から来たんだし、また他探せ」
「テオも他の国に行くっていうのは・・・ダメなの?」
「王族は国とともに。それが国を作る時の土地との契約だ。王族は国を、この土地を離れることは許されないし、死に値する」
「それって国を出たら死ぬってこと?! 重っ!」
「アニキーーー!!」
わーっと泣き出すチャオにテオは困った顔すらしてない。ただ、チャオを眺めている。
なんか、思ってたんと違う。
敵なのに同情しちゃう。
他の国の聖女を奪ったのはテオだし、桃花を奪おうとしてアリッシュに侵入したのもテオ。ロウが邪魔で魔法(術?)で子供に戻したのもテオ。
だけど、その話を持ちかけたのはチッロとかいう国の国王だったわけで。黒幕が別にいたわけで。
でも話を持ちかけただけで、実行犯はテオだからテオが悪い奴になる。
でも、テオもチャオも話してわかったけど、普通にいい奴だ。
うぅ、オレってちょろいのかな?
身の上話聞いて、なんとかしてあげたいなんて思うなんて。
いやいやでも、チッロの国王は滅ぶ寸前のテオをうまく利用したことになるよな。自分の手を汚さず聖女を奪ってこさせて、そんで用がすんだら攻撃?? クソだろ。
全然泣き止まずごねるチャオにテオがキレてきたのをぼんやりと眺めながら、チッロの国王に腹が立ってきた。
ドンッと何かがぶち当たる音が奥から聞こえ、建物がかすかに揺れた。
手入れの行き届いていない土壁のような建物はいたるところにヒビが入っていて、今の衝撃で天井からパラパラッと破片が降ってきた。(壊れる?!)
さすがのチャオも泣くのをやめて天井を見上げながら、
「あちゃーーまた来ちゃいましたか、あいつら」
「だな。行け、チャオ」
「了解っす!」
ビシッと啓礼して入口から走って出て行った。それをテオが大きい声で、
「大怪我すんなよ! ポーションはねーからな!」
うぃーっす! と奥から返事が。
ポーションない?
ハッとして、
「もしかして、さっきオレに飲ませてくれたので最後だった?!」
「あぁ」
なんでもないようにけろっと答えるテオとは逆に、オレの顔が青くなっていく。
「マジで?! ごめん、最後のポーション、オレなんかが飲んじゃって。あいつらってもしかして魔物? チャオは大丈夫? 強い? 加勢したほうがいい??」
あたふてしているとテオがぷっと吹き出した。
「あんた、人質のくせに変な奴だな。危機感とかねーの?」
「え・・・だって、変なのはそっちっていうか。人質のオレに最後のポーションをくれたじゃん。それに、さっき謝ってくれたし」
「さすが聖女の兄だけはある。マジでお人好しだな、あんた」
「・・・」
横になっていた時に見るのとは違って、テオは確かにオレと背格好が近いけど、腕は細いし顔はこけてるし、なんていうか板みたいに薄っぺらい。
ちゃんとご飯は食べているのか? とつい思っちゃうくらいに痩せこけている。
でも顔立ちはキレイで横顔は美人だ。
目が・・・猫目だ。
バチッとテオと目が合う。
テオの瞳が一瞬、細長くなった。猫の目みたいに瞳孔が一瞬細くなってすぐに戻った。
子供のロウと寝ている時に襲ってきたのが最初獣だと思ったのはこの目が暗闇で見えたからだ。あの時は光って見えたけど。
コトリさんが猫種族とか言ってたな。
姿は人間なのに目が猫と同じだとドキッとする。心臓に悪い。
チャオが行ってから部屋はテオとオレだけ。しーんと静かで居心地が悪い。
「チャオ、大丈夫かな?」
ちらっと入り口に視線を向ける。すぐに戻ってくる気配はない。
「気にすんな。いつも来る奴だから、さすがにあいつも手慣れてる」
「いつも?! 同じ魔物ってこと? あ、魔物とは限らないか」
「魔物だ。近くに巣穴を作ってことあるごとにコッソに来てはオレとチャオを食おうとする。上級の魔物、大蛇だ」
「上級?! それってめちゃくちゃヤバイんじゃ・・・」
ゲームでいうと多分ボスクラスだ。
アリッシュではキメラしか出会ったことないけど、こっちでは大蛇の魔物かよーー。
苦手な爬虫類系だけに、出くわすことを想像するだけでゾッとする。それを見ていたテオが呆れた顔をして肩をすくめた。
「あんた、アリッシュから出たことないだろ」
「え」
「安心しろ、チャオはあーみえてそこそこ強い。時間はかかるが今日も追っ払う」
「退治とか?」
「無理だ」
すがすがしいほどにきっぱりと。
「テオでも?」
「・・・。以前はいちいち退治してた。けど、キリがない。それに退治すればもっと強い奴が来る」
「え」
オレの顔色の悪さを見てテオがニヤッと笑った。
「な? 面倒だろ?」
「・・・」
心配してもしょうがない、と言ってテオがその場であぐらをかいて座った。
目線が同じになるとなんだか話しやすさが増す。
「南南西大陸は砂漠だって聞いたけど、暑くないんだな」
この世界はわかんないけど、砂漠っていったら暑い。と勝手に想像していたけど汗ばむどころか長袖のシャツでも過ごしやすい。
「・・・。立って外へ出てみろ」
「え?」
テオが真顔で指さす方に視線を向けると天井まである窓が。部屋の半分はこの窓だ。ずいぶんと大きい。
ん。とあごで促すテオに、渋々と立ち上がって窓へ近づくと・・・窓ガラスがない。ついでに窓枠もない。窓だとばかり思ってたけど戸もなにもない広い入口だった。
外は庭か? ただっ広いなにもない景色だ。快晴でやたら日差しが強い。
建物の敷居をまたいで外へ一歩出ると、
「熱っっ!!」
2秒もいられず即足を引っ込めた。
それを見てテオは、ははははとフォ・ドさんみたいに品なく、豪快に笑った。
火の中に足を突っ込んだみたいに焼けるほどの痛みが靴を貫通して伝わった。
ヤバイ、ヤバすぎる。暑いじゃない。熱いだ。
靴を脱いで足の状態を見るけどとりあえず火傷はしてないみたいでホッとする。
まだ笑ってるテオに、
「おい、笑いすぎ!」
「悪い悪い、なにもわかってないから教えてやろうと思ってさ。ここ南南西大陸の大半は砂漠だ。そんで、日中は灼熱。夜は極寒。人間が生きてくには悪環境すぎる場所だ」
「この建物は魔法が?」
「あぁ。聖女がいれば国全体が過ごしやすい温度を保っているけどあいにくそんな奴はいない。魔法で温度を保つのもこの建物内で手一杯だ」
「他に人は?」
「誰もいない。皆、他の国に行かせた。今はおれとチャオだけ」
この国に、テオとチャオのふたりだけ?!
「さっき、国王の育成とか言ってたけど、テオはコッソの国王?」
「あぁ。一応国王だ。といっても名ばかり。気の狂った聖女のおかげでおれを除いて王族はみんな病や飢えで死んだ」
重っっ。
マジで深刻だ。
滅ぶ寸前ってこんな感じなのか。
「あんたは?」
「え」
「聖女の兄ってことはこの世界の人間じゃないだろ。なんでいんの?」
素朴な疑問。という目でオレを見つめてくる。
やっぱりそこ、気になるよな。
「えーと・・・召喚の時に桃花・・・妹の代わりにオレが召喚されたっていうか」
「あ? 間違って召喚されたの?」
「間違いっていうか、オレが妹を助けようとして」(本当はロウの計画だったけど)
それを聞いてテオがぷっと吹き出し、下を向きながらくっくっと笑い出した。
「あんた、マジでどうしようもないお人好しだな。変な奴」
顔を上げて涙目で笑うテオ。
「いやいや、妹がピンチだったら普通助けるじゃん」
「聖女召喚だろ?」
「オレの世界にはそんなのないから」
「マジで?」
「魔物とか女神とか。あ、架空の女神様とかならいるけど。いるっていうか拝んでる?ていうか」
「へー、マジで異世界だ。じゃー次の召喚儀式の時に帰んの?」
「あーえーと、一度帰ってて」
「あ?」
「2度目の召喚なんだ。永住するつもり」
「・・・変わってんな、あんた。こんな世界のどこがいいんだか。あーでも、西大陸ならそれもありか」
ぼんやり外を眺めるテオの目が死んでるような・・・。
まずい。話を変えよう。
なんか話がそれるやつ・・・。
「初代の聖女が猫種族って聞いたけど、テオも目が猫と一緒だよな。最初暗闇の中で光ってるから獣かと思った」
「あぁ。そのとおり初代の聖女は猫種族。王族はその血を未だに受け継いでんの。と言っても、おれはほとんど血が薄まって猫っぽくないけど」
「猫種族って耳とかしっぽとかもっと猫っぽい外見してるのかと思った」
ゲームやアニメだと猫が二足歩行で人間みたいに洋服着てたりとかだけど、テオは瞳だけ猫と同じだけで外見はオレと全然変わらない人間だ。
「満月と発情期の時だけはもうちょっと猫っぽい外見だけどな」
「え。なんて?」
話がそれてよかったけど、なんかすごい単語を耳にした気がする。
「あんた、ロウと仲がいいんだな」
「え」
唐突にテオが話を変えた。
「おれは幼少期しかあいつを知らないけど、ロウも他人と仲良くするんだな」
「それは・・・。そういえばさっき会うたび勝負してたって言ってたな」
「あぁ。勝ったことないけど」
「はは」
ロウの幼少期を知っているということに、ピーンときた。
「友達も同じこと言ってたけど、本当にロウはそんなに愛嬌なかった? 子供になってる今のロウはどう見ても子供らしいっていうか、コロコロ表情が変わるし活発っていうか」
「・・・それはあれだろ。まだ先代の国王がいた頃の記憶のロウだからだろ」
「え」
「おれがロウと出会ったのは先代の国王が亡くなったあと。大人が話してるのを聞いて覚えてる程度だけど・・・ま、あんなことがあれば性格も変わるよな」
肩をすくめるテオ。
「ロウになにかあったの?」
「・・・あいつのこと何も知らないんだな。知りたい?」
「え・・・。いや、そんな言い方されたら誰だって気になるっていうか」
オレの様子を楽しんでるような目で、何かを企んでるような・・・。テオが開口部(窓ガラスのない窓)に向かって指さした。
「この建物の目の前、今は枯れた地だけど、実は広い湖だったんだ」
「え! マジで?」
さっき見たときはやたら広いくぼんだ枯れ地かと思った。実際近づいて開口部越しに覗いてみてもあちこちヒビ割れをしている地面が見えるだけ。
あんぐりと口をあけているオレの横でテオがある提案を持ちかけてきた。
「ロウのことが知りたいんならこの枯れた湖に水を復活させてよ」
ん???
「あんた、水属性だろ」
自分の目を指さす、テオ。(気づかれてた)
「復活って・・・」
見渡すだけでもだいぶ広い。向こう岸がギリ見える・・ような。
「悪い悪い、冗談だって。いくら水属性でもさすがに無茶なことだった。近くに水路も湧き水もない」
へらっと笑うテオ。
どうみても反応を楽しんでるみたいだ。
でも、なんとかしたいと思った気持ちは嘘じゃない。オレは聖女じゃないから一瞬で国を繁栄させたりできない。でも、湖を復活させることなら。
ちょうどルノーの魔力が身体の中をめぐってて・・・。魔法をちゃんとコントロールできるか全然わかんないけど、身体の中で溜めたままもよくない気がしていた。
どこかで発散できればって・・・。これはいろんな意味でいい機会かも?
「わかった。その代わり、ロウのことだけじゃなくて、ロウを元の体に戻してよ」
「二つ条件ってこと?」
うん、と頷く。
「・・・いいけど、マジでできんの?」
「わかんないけど、やってやる」
「・・・わかった。言っとくけど、もうポーションはないぞ」
「わかってる」
ロウを元の体に戻すために、コッソのために、やってやる。
「・・・」
その前に、灼熱地獄の外にどうやっていられるかが問題だ。
開口部の前でどうしようか悩んでいるとテオが、
「おれが防御魔法をかけてやる。あんた水魔法使えるんだから防御魔法程度でなんとか熱さを防げそうだし」
「お、お願いします」
見えないけど、防御魔法をかけてもらい、いざ、灼熱の外へ。
*あとがき*
読んでくださりありがとうございました。
完結できましたので、あと2回毎週更新していきます。
今年もよろしくお願い致します。
たっぷりチョコ。
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