聖女の兄で、すみません! その後の話

たっぷりチョコ

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その後の話③

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 タイトル『古河兄弟』


 朝から大量の伝言の紙が送られ、慌ててお城に戻ってみたら桃花の仕業だった。だけどそれはオレが地球に戻ったのかと不安でしたことだとわかった。
 それはいい。
 問題なのは、なぜかロウと桃花がめちゃくちゃ仲が悪いってことだ。

 言い合いをしながらオレの腕をお互いが引っ張り合うせいで痛みと肩がはずれそうな恐怖が襲う。
「お兄ちゃん聞いてよ! こいつ初代聖女様の魔石でお兄ちゃんのこと1日中ずぅぅぅぅぅぅぅっっと見てるの! 完全なストーカー!!」
「ピアスの魔石が使えないんだ。何かのために監視するのは当然だろ」
「お兄ちゃん騙されちゃダメ! 良いふうに言ってるけどこの変態、お兄ちゃんのお風呂だってトイレだって着替えの時だって見てるんだから!」
「え」
 ロウのことを「こいつ」呼ばわりしてるのはさすがに注意してやろうと思ったけど、今の一言で桃花と一緒にドン引きした。
「ロウ・・・いくらなんでもそれは・・・つーか、オレのプライバシーが全然ないっっ!!」
 腕がもげるからいい加減放せ、とふたりの手を振り払う。

「なにが問題なんだ? 見て減るもんじゃないだろ」
「おいっ! そうゆう問題じゃないだろ」
「じゃぁどうゆう問題なんだ? 俺のを見せれば気が済むのか?」
 シャツを脱ごうとするロウを慌てて止める。
「だからそうゆうことじゃなくてっ! 普通トイレとか風呂とかはあえて見ないだろって言ってんの! 気を遣えって!」
 面倒くさそうな顔をするロウにイラッとする。
「ていうか、女神様の指令で桃花のことも監視してたって言ってたけど・・・まさか桃花の風呂とかトイレとかも?!」
「ぎゃーーーーっ! 最低っ! やっぱ変態国王じゃん!!」
 桃花がサッと両手で自分の胸を隠し、オレと一緒に顔を真っ青にしてドン引きした。それを見てロウは呆れ顔だ。
「興味ない」
「え。それ、どういうこと? 見た? 見てない?」
「見るわけないだろ。聖女はとりあえず生死の確認がとれればあとはどうでもいい」
「なんだそれ」
 それって、監視をサボってたってことか。サボリはよくないけどめちゃくちゃホッとした。桃花はそれはそれで不満そうにブーイングした。
「・・・お兄ちゃん、変態国王ってまさか男の体が好きなんじゃないの?」
 うつろな目で疑う桃花。
「! まさかオレといつも一緒にいたゆきやんの風呂とかも・・・」
 言いかけたところでロウがおもいっきり顔を歪めた。
「興味あるわけないだろ。気色悪いこと言うな」
「それだったらお兄ちゃんのだけ見るなんてますます変態でストーカーじゃんっ!」
「・・・」
 ふたりがまた言い合いを始めてる横で思わず黙ってしまった。

 だって、オレだけ見るってことはオレに興味があるわけで。覗かれるのは嫌だけど悪い気がしないっていうか、ロウだからっていうか。
 顔がどんどん熱くなっていく。
 これってオレも変態ってことか??(ヤバイだろ)

「この変態国王っ!!」
 言い合いの中、桃花がキレた。と同時に桃花の人差し指から水鉄砲みたいにビュッと水が飛び出しまっすぐロウに向かって飛んでかかった。
「今のっ!」
 びっくりして桃花を凝視する。人差し指を突き出し銃を構えるようなそのポーズはっっ!
「水魔法だよな、桃花! しかも今のって!」
 腕でかわしたロウに悔しそうな顔をしていた桃花が、オレの声にぱっと喜びの表情に一瞬で変わった。
「そう! お兄ちゃんが魔石に入れてくれた水魔法なの! そして~、パパがドラ〇ンボールの次に好きな~」
「幽遊〇書の霊丸(レイガン)っ!!」
 兄弟そろって声が重なる。
「お兄ちゃん知ってるの?! 前は興味なかったのにー」
 嬉しそうな桃花。
「桃花がいなくなって一人っ子になったらオレが父さんのアニメ鑑賞に付き合わされてたからな。つーか、マジやばいっ! オレも魔法使えるようになったらやりたい!」
「命中すると気持ちいいよ~!」
「だよなー!」
 突然の古河兄弟アニメオタネタで盛り上がる。
「・・・れいがんて、なんだ?」
 全然ついていけないロウが呟いたけど、それすら耳に入らずこのあとも桃花の世話係が迎えに来るまでめちゃくちゃ盛り上がった。



 おわり。
 
 




 タイトル『初夜のお誘いですか』


 オレと離れたくないと駄々をこねる桃花を有無を言わせない笑顔で連れて行った世話係さんと桃花を廊下で見送り、自分の部屋に戻る。
「ふー。なんか台風が去ったあとって感じだな。朝なのにやたら疲れた」
 ポーションが欲しいといいながらソファに座る。
「メイドに頼んで調合してもらえ」
「そーする。ていうか、さっきの世話係さんだっけ? なんか見た目がロウに似てた。王族の人だよな」
 オレの隣に座る、ロウ。
「似てるもなにも、俺の姉だ」
「え!! マジで! つーか、ルノー以外に兄弟いたの? 母親は・・・」
「母親も一緒だ。他に姉が2人いる。3人ともすでに結婚して他国に嫁いでる。聖女の世話係は昔の習わしで王族の女の役目だ。たとえ結婚しても世話をするためにこっちに戻ってこなきゃいけない。その間は一切帰るのも連絡を取るのも禁じられてる」
「マジで?! 厳しすぎる」(ロウに実の姉が3人いることにびっくり。実は末っ子だったのか)
「とはいえ、交代制で半年で側室の子供が世話をする。あと二ヶ月でルノーの姉と交代だな」
「ルノーにもいるの? え、何人??」
「結婚した奴がひとりに、ルノーと歳が近い姉が2人、ふたごの妹がいたはず」
 指を折りながら数えるロウ。記憶を探ってるみたいだ。
「けっこういるな」
「他にも側室が3人いる」
「え!!」
「3人ともこどもはひとり。確か・・・そのうちひとりはすでに結婚してた・・・はず」
 記憶があやふやになってきたのか、珍しくロウが眉間にしわを寄せている。
「男は俺とルノー、あとは俺の弟がひとりと、3人しかいない。女ばっかりだが、まぁ、世話係にはことかかないな」
 ふーとため息をつくロウにオレはまたぎょっとして目を見開いた。
「弟がいんの?! 初耳なんだが」
「言ってないからな」
「なんで?!」
「男は貴重だ。もともと王族は男が産まれにくいって言われてる。だから養子縁組もわりと普通だ」
「マジ、ですか」
 生々しい話を聞いてしまったと喉が鳴った。

「それじゃー国王であるロウはその、いろいろとその辺は周りがうるさいんじゃ」
 思わず口から出たとはいえ、視線がキョロキョロと落ち着かない。
 
 変なこと口走った!
 そういえば子供の話はルノーとしたことがあるんだった。貴族の変な奴がルノーに突っかかってきたことあったっけ。混血とかもあったな。
 
 ガシッとオレの頭をわしずかみする、ロウ。(なぜ?!)
「男同士は子供ができないからって気にしてんのか」
「!!」
 直球すぎる一言に目ん玉が飛び出そうになった。
「国王だろうと養子縁組は普通だ。俺の親父がたまたま盛んなだけだ。つーか、そのわりに男3人だけってどうなんだ?」
「いやいや口がすぎるだろ、ロウ。自分の親に向かって」
「いいんだよ、エロくそ親父なんか」
「・・・」
 いいのか? と返事に困っていると、ロウがソファの上でオレと向き合ってまっすぐ瞳を見つめてきた。
 アーモンドの形をしたロウの目に、瞳の奥に吸い込まれそうで思わず男のオレでもうっとりする。
「昨日も言ったが、今日の夜ヤるからな」
「え」
 殺る? 魔物退治か? でももう桃花がいるから魔物はいないってサムデさんが言ってたのに。
「魔物退治じゃないからな」
 と、心を読まれてしまい、恥ずかしさでカーッと顔が熱くなる。

「この前の続きをやるって言ってるんだ。逃げるなよ」
「わ、わかってるよ!」
 恥ず過ぎてソファから立ち上がる。

 それっていわゆる、初夜の誘いってやつですかっっ。

 自覚したらもっと顔が熱くなってきた。したら、突然横から覗いてきたロウに頬をかぷっと噛まれた。(!!)
「な、なにするんだよ!」
 一歩下がって噛まれた頬を手でおさえる。
「さっき俺を放置した罰だ。いくら血のつながった妹だからってあんま仲良くするなよ」
 むすっとするロウ。(え。かわいいが過ぎる)
「悪い・・・。いやいや、だからって噛むか、普通!」
「じゃー、火あぶりか?」
「なっんでだよ!」(怖いわっ!)
「聖女の子守りしてくる。おまえは無茶するなよ」(子守りって・・・)
「・・・あんなに桃花のこと嫌ってるくせに守ってくれるんだ?」
「・・・それがオレの任務だからな。それに『妹をよろしく』てダイヤが」
「え」

 そういえば、地球に帰る前にロウ宛てに書いた手紙にそんなことを書いたような・・・。
 ちゃんとオレとの約束を守ってくれてるロウにキュンッとときめいた。つーか、心臓に矢が刺さった。

「えーと・・・マジでありがとう。あんな奴だけど根は悪い奴じゃないから!」
「・・・だといいけど」
 疑うような目でオレを見るロウ。(おい)
「じゃ、そーゆうことで」
 そう言ってロウが一瞬で消えた。

 部屋にひとりぽつんと残され、さてこれからどうしようかとソファに座り直す。
 ちょうどよく腹が鳴ったから、とりあえずメリアヌさんにお願いして朝食の準備をお願いしよう。
「それからー・・・」

『今日の夜ヤるからな』

 ロウの言葉を思い出し、すごい勢いでソファから立ち上がる。

 ヤる、て。いったいオレはどうすればいいんですかぁぁぁ。



 おわり。





 タイトル『初夜』


 夕飯を済ませて風呂から出てきたらロウの部屋のベッドの上にいた。

「マジかー」

 ベッドの上であぐらをかく。
 バスタオル1枚で出てこなくてよかったとパジャマを見ながらホッとする。

「いやいや、ツッコむところはそこじゃないから! このままじゃマジで初夜を迎えることになるから!」
 あーーーーーーとだみ声を混ぜながら背中から倒れゴロゴロと転がる。ベッドの上を三往復転がったあと天窓を仰ぐ。

 オレも男なんでキス以上のことをしたいと思うのは当然だけど・・・。
 こっちの世界を忘れている3年間の間にオレはロウに似た奴にやたら惹かれていた。だいたいは顔立ちのいい外国人だったけど。あとは赤い髪のゲームキャラとか。
 そして、オレは男が好きなんじゃないかって疑うわけで。
 そしたらそっちに反応するのかって気になるのは男として当然なわけで。

「あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 うつ伏せになって過去観た動画を思い出し、絶句する。
 1回しか観てないのに記憶はやたら鮮明で今でもしっかり思い出せる。
 正直、全然自信がない。
 ロウのことはもちろん好きだ。キスだってちゃんと気持ちいい。だけど、あの動画に映ってる人たちと同じことができるかというと・・・。
「・・・・」
 むくりと起き上がりベッドの上であぐらをかいて胸をさする。
「想像したら気持ち悪くなった」
 観た時も吐いたし。ゴブリンの時といいオレって吐いてばっかりだ。(ダサ)
 何がダメってやっぱり男同士でやるのがダメなのか。それはつまり致命的なのでは?
 
「それって結局、オレはゲイの素質ゼロってことか?」
 いいのか悪いのか。
「いやいやダメだろ! つーかロウはなんのためらいもないのがムカつく! オレの方が脳みそだけ3年年上なのに!!」
 ぴらっと頭の上に何かが降って来た。つかむと伝言の紙だ。

『遅くなる。起きてろ』

 ホッとした。このまま延期でいいと思う。
 ロウに言われて今日一日ずっとそればかり頭にあってなにも手につかず庭で散歩するだけで終わった。
 はぁぁぁ、とため息をついてベッドに寝転がる。
「ゆきやんに相談できたらいいなーなんて・・・」
 召喚される前にゆきやんと同じような話をしていたことを思い出し、ついついゆきやんが恋しくなる。
 自分の世界に帰れないなら、いっそゆきやんを召喚してほしい。
 それは名案だと自分にツッコミを入れながら、緊張と散歩の疲れが今になって睡魔として襲ってくる。
 数秒後、寝た。




 パチッと目を覚ますと天窓が見える。
「やば、寝てた」
「やっと起きたか。すげー爆睡してた。昼間なにしてたんだ?」
「ロウっ。え、そんなに?」
 見ると、ロウがオレの上に乗っかっていた。一瞬で『初夜』という単語を思い出し血の気が引く。
「ロ、ロウは? 桃花の護衛で疲れてるだろ?」
「いや。アリッシュ内だからそんなに移動はなかった」
「風呂は? 風呂入ってきたら?」
「・・・もう入った。誰かさんが爆睡してる間に」
「・・・そう、ですか」
「・・・」
 お互い見つめ合って沈黙が続く。
「ヤるか」
「もうっ?! つーかオレ女じゃないから同じもん付いてるし、どっちが上とか下とかあるじゃん。全然決めてないし」
「・・・もうこれで決まってるだろ」
 ロウに押し倒されてる状態の自分に気づき、うっかり納得してしまった。

 やっぱりオレがいれられる側かーーーーーーー。そんな気はしてたけどっ。

 なんとなく負けた気持ちになっていると、態勢そのままでロウが寝間着のシャツを脱ぎだした。
 着替える時によく裸を見てるから見慣れているはずなのに、鍛えられて引き締まった身体を目の前に、思わず心臓がドックンと大きい音で鳴った。(魔法ばっか使ってるくせにいつ鍛えてるんだ!)
 部屋が明るいせいだと思いつつ、心臓の鼓動が痛いくらいドキドキしてる。

 ヤバい! マジで緊張してきた。つーか、マジであの動画みたいにロウとやるのか? ヤるのか、オレっっ。
 今更だけどいれられる側って準備必要なんじゃ?? 負担大きいとか痛いとかネットに書いてあった気がする。あーーーもっと情報欲しいんだけど。スマホスマホスマホが欲しいっっ!! 誰か地球からスマホ召喚してくれーーーーっ。(デジャヴ)

「・・・ダイヤ?」
「お、お腹痛い・・・」
 上半身裸のロウを目の前に、腹をおさえながらオレは小さい声で言った。
「・・・わかった」
 ロウがオレから降りるとダッシュでトイレに駆け込んで便座に座った。

 やってしまった。
 ロウから逃げた。しかも嘘までついた。
 クソダサすぎる。

 罪悪感のため息をつきながら水だけを流した。


 数分後、腹をさすってまだ痛いフリをしながら洗面所を出た。
 寝間着のシャツを着てベッドに腰かけているロウがオレの顔を見るなり、
「出るもん出た?」
「言い方なんとかしろ! えーと・・・実は朝から体調良くなかったっていうか・・・」
 罪悪感が胸のあたりでグルグルする。しんど。ダサ。
 こっち来い。とロウが手招きする。
 嘘がバレてないかビクビクしながら近寄るとロウが隣に座るよう促すから素直に座った。
 座りながらオレに向き合うロウとは違い、オレはうつむいて視線をそらした。

「コトリに連絡するから明日朝いちで会え」
「え。コトリさんて時の魔法を使う?」
「こっちに来てから会ってないだろ」
「うん。召喚された時に会った以来か」
「一度コトリに診てもらえ。もしかしたらまだ身体が安定してないのかもしれない」
「え。そうゆうもん?」
「別の世界から来た人間をすぐ若返らせたんだから多少副作用は続くかもしれないだろ。俺もそこんとこよくわからん。かけた奴に診てもらうのが一番だろ」
「・・・なるほど」
 
 ヤバい。マジで心配してくれてる。
 
 モヤモヤがズキズキに変わった。

「ロウ・・・なんかごめん」
 罪悪感でつい謝ってしまった。
 不意に顔を覗き込んでくるロウにびっくりして顔を上げる。
「無理してシたいわけじゃない。言っただろ? おまえがいないとつまらないって」
 真顔で言うロウにじーんときた。
「ロウ」
 
 もっと強引な奴かと思ってたけど、ロウが優しい。(キュン)

「じゃぁ、しばらくはなしで」
「しばらくっていつだ」
「たった今オレがいればヤんなくてもいいって言ったじゃん」
「そこまで言ってないだろ」
「似たようなもんだって。つーか、もう寝る」
「いつだ?」
「知らん」
 しつこいロウを無視して布団を被って寝た。



 おわり。






 タイトル『コトリさん』


 襟無しシャツのボタンを下からとめていく。
「身体の機能に異常はみられません。魔力も安定してきているので明日あたりには魔法が使えるようになると思います」
 コトリさんにそう言われ一気にテンションが上がる。
「本当ですか! やった!」
 小さくガッツポーズする。毎日3食とおやつを食べたかいがあった。

 ロウが言ったとおり、朝早くに城にあるオレの部屋にコトリさんが来てくれた。
 今日のコトリさんは魔物研究所で見た時と同じ若い方だ。身長は180くらい。髪は黒髪で肌もツヤツヤして色白だ。前回会った時はシワのある年寄りから20代くらいに一気に若返ったけど、今はオレやロウと同い年くらいに見える。それでも幼く見えないのは落ち着いてて知的な雰囲気のせいか。
 深緑色のローブを着て隙間から白いシャツが見え隠れしている。
 
 巻物を開いて何か書いていたコトリさんが筆をとめた。それを見て帰るのかと判断してぺこりと軽く頭を下げる。
「今日は朝からありがとうございます。ロウが無茶なお願いを。コトリさんは隣国の人ですよね? こっちに来るの大変でしたよね、馬車の中で仮眠とれました?」
 ドアまで歩いてドアノブに手をかけたところでコトリさんがスッと手のひらを見せて『待った』をかけた。
「お気遣いありがとうございます。わたしは隣国の王族の者。そして、女神の加護を受けているので移動には困りません」
「え! 女神の加護・・・ということは国王候補のひとりってことですか! あ、もしかして次期国王ですか!」
 慌てて「すみません」と何度も謝る。

「わたしには兄が5人もいます。そのうちすでに長男が国王をやっています」
 なので謝らないでほしいと優しくフォローしてくれた。
「今日はこれからこのアリッシュで予定があるんですが、少々時間が余っていまして、ダイヤさんさえよければ話の相手をしていただけませんか」
「え」

 ルノーとは違った品の良さがにじみでた誘いを受けたのは初めてで、なんか・・・惚れそう。(ロウとは大違いだ)

 
 朝食がまだだと聞いて軽い朝食を一緒にとることにした。さっそくメリアヌさんに頼み、待っている間にソファでお茶を飲む。
「コトリさんはロウと知り合いなんですか?」
 とりあえずあたりさわりない会話からと、素朴な疑問をしてみる。
「幼少期からになります」
「え! 幼なじみじゃないですか」
 フォ・ドさんから友達がいないと聞いていたけど、なんだ、ちゃんといたんじゃん。(残念なようなホッとしたような)
「国王候補の王子は英才教育を受けるために幼い頃にたびたび集められ女神様、聖女様に仕えるためのノウハウうや知識を学びます。もちろん国王になるためのノウハウや女神様の加護(魔法)の実技もありました。ロウはいつもなにをやるにも飛び抜けていて、そして、誰ともつるみませんでした」
「へー、なんか想像つく」
「話すようになったのはお互い国の任務などを任されるようになってからです。それでも事務的な会話が多かったんですが・・・」
 お茶を一口飲んでから、チラッとオレに視線を向ける。
「オレがなにか?」
「聖女様ではなく、いつも聖女の近くにいる男を召喚したいから手伝ってほしいと言われた時は人間に化けた魔物かと疑いました」
 めちゃくちゃ真顔で言われた。

 コトリさんは物腰が柔らかいし落ち着いた人だけど、表情がないっていうか、笑わない人だ。

「まさか前回召喚された時に会いましたけど、その前の召喚の時も関わってたんですか?!」
「はい」と深く頷いた。
「ロウから直接打ち明けられたわけではないですが、あなたに好意があるのは知ってますし・・・もうそういう仲ということでいいでしょうか?」
 また真顔で聞かれた。
『そういう仲』という言葉にカッと顔が熱くなる。
 ニヤニヤされることなく真顔でマジマジと見られ、いたたまれずうつむく。これはこれでムカつくっていうか、恥ずいというか、周りにいないタイプで対処に困る。
 スッとオレから視線をはずしてくれたコトリさん。

「困らせるつもりはありません、すみません」
 ぺこりと謝ってくれた。
「あ、いえ、オレこそ対応悪くてすみません」
「ダイヤさんの体調を心配してわたしを呼んだのは本心だと思いますし、わたしも様子を見に行こうと思っていたのでちょうどよかったと思っているんですが、今の様子を見て確信しました」
 コトン、とカップをテーブルに置いた。
「どうでしょう、わたしと友達になりませんか」
「え」
 急な申し出に目が点になる。
「ロウは気の利く男じゃありません」
「めちゃくちゃ同意見です」
「実はわたしも男性とおつきあいしています」
 真顔できっぱりと言った。
「マジですか!!」
「ロウも知ってるんですが、わたしの兄で今国王をやっています」

ん?!!!

「兄弟ですよね?!! オレの世界だとだいぶアウトっていうか、世間の目が~ていうかっ。この世界は大丈夫なんですか?」
「血は繋がってないのでギリセーフです。男同士ですからセーフもなにもないんですけど。一応王族なので世間の目はあるので知ってる人は少数です。それに、わたしはもともと郊外の村出身で、時属性の持ち主ということで王族の養子になったんです」

濃っっっ!!
なんかいろいろと情報が濃い! 

「い、いいんですか?! オレなんかにそんなホイホイ話して」
「わたしが養子なのは皆知ってることですし、兄とつきあってるのはロウも知ってます。それに友達になろうと言ってる身なのに、隠し事はよくない。そう思いませんか?」

 肝が据わってて好き。
 いやいや、つい惚れそうになったっ!!

「本当にオレと友達になってくれるんですか?」
 ついドキドキしてしまう。
「恋愛相談ができる友達、ほしくありませんか?」
「欲しいです!」
 つい本音が。
 大きい声が出たと口を手でふさぐ。(恥ず)

 真顔だったコトリさんが今、ふわっと優しく笑った・・・ような。一瞬のできごとですぐ真顔に戻った。
 コンコンとノックが。
「朝食の準備ができたみたいです。それじゃ、食べながらさっそく恋愛話でもしましょうか」
「お、お願いします!!!」

 恋愛相談ができる友達、ゲットーーーー!!



 おわり。


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