人ならざるはオムファタル

坂本雅

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 アシャの身をベッドに押し倒し、ラピが覆い被さってくる。硬質な手が細い首筋や二の腕に触れた。
 ちょっとした刺激にも情けない悲鳴をあげそうになり、アシャは唇を噛みしめる。
「そんなことしたら血が出ちゃうよ。大丈夫だから、声を聞かせて」
「で、でも……あっ!」
 反論しようとした矢先、なだらかな胸の膨らみを揉まれて背筋に震えが走った。
 育った環境のせいか肉付きの悪い平坦な身体を、ことさら丁寧に撫でられる。
「柔らかいね。ずっと触っていたいくらい」
 肋骨の浮き出た脇腹から、くびれた腰へとラピの指が降りていく。アシャはにわかに息を呑み、無言で首を横に振った。
 嫌ではないし、止めてほしくもないけれど、ただひたすらに恥ずかしい。湧き上がる感情を正しく言葉に出来ないのがもどかしかった。
 眉間にしわを寄せた不機嫌そうな顔を、ラピは愛おしげに見つめ、またも口付けてきた。
 ざらついた細長い舌がアシャの唇を舐めて、口腔内へと入り込んでくる。
「んっ! んんっ、う……っ」
 歯列をなぞり、上あごの裏を伝い、逃げを打つ舌に絡みつく。
 ちゅぷちゅぷと水音が立つたびに全身から力が抜けて、されるがままになってしまう。
 魔術の詠唱が叶わない無防備な状態は本来、恐怖でしかない。けれど今は、暖かな腕に抱かれる心地よさの方が強かった。
「アシャ……」
 ラピは更にアシャの火照った肢体を探る。
 丸く整えられた爪先は、呼吸のたび上下する平たい腹部を経て、へその下の薄い茂みにまで届いた。
「そ、そこは……っ」
 アシャは明確な焦りを見せ、ラピの手を上から掴んで制止する。
「うん。嫌なら、しないよ?」
 ラピの笑みはあくまでも穏やかで、本気で拒否すれば退いてくれるのだろう。
 他者の肌に触れる際、性的同意を得るのは何より重要だ。客商売ならば尚更、相手の承諾なしには行動を起こさない。
 すなわち、相手に無理やりされるという体の受け身では、ことが進まないのだ。
 アシャは羞恥心でどうにかなりそうな頭を振り、伸ばしていた脚を軽く左右に開く。
 触れられてもいないうちから、秘裂はしっとりと濡れていた。
「……いいの?」
 ラピの端的な問いに、アシャは声を出さず一度だけ頷く。その様がいじらしく映ったのか、ラピはジジジと低く喉を鳴らした。
 
 陰部の透明な分泌液をまとわりつかせた指が、膨らみかけの肉芽を捏ねる。
「ひっ、ん、うぅうっ」
 敏感に出来ている箇所を包皮ごと擦られるだけで腰下が重くなり、言うことを聞かなくなっていく。
 意のままにならない不規則な摩擦は、かつて興味本位で試した自慰とは比べるまでもなかった。
 確実な熱を帯びていながら、感覚が鋭いあまりか冷え冷えとした部分もある。
 矛盾を与えるほどの強い刺激を立て続けに浴びせられたアシャは、そう経たないうちに根を上げた。
「も、もう、ダメ……っ」
「ダメじゃないよ」
 思わず吐いた弱音にラピの静かな声が被さり、不意を突かれる。
 驚いている間に膨張した陰核を指先でつねられて、頭の中が白く消し飛んだ。
「あぁあっ……!」
 裏返った声は限りなく悲鳴に近い。女陰から泡立ち濁った蜜がとろりとこぼれる。
 波打つ衝動をこらえるように足の指を丸めたが、あまり意味を成さなかった。
 息を乱し、焦点の合わない目で虚空を見るアシャの荒れた髪をラピが手ぐしで整える。
 上気した顔元へも触れてきた手に、アシャは無意識で頬擦りを返した。
「ラピ……」
「アシャ、気持ちよかった?」
「分からない……自分が、自分じゃなくなるみたいだったから」
 風俗を好む知己の男性冒険者たちは下世話な会話の中で、性欲の解消を爽快だと述べていた。その意見と、ついさっきの深く沈んでいくような快感が上手く結びつかない。
 作られ続ける子種をいったん空にするのと、迎え入れる柔軟さを得るのとでは、あまりに状況が異なっている。
 男女の意識の差について漠然と考えを巡らせていると、甘いさえずりが耳に届いた。
「ひぅっ……!?」
 弱く痙攣し続けている肉襞を、いきなり溝に沿って撫でられた。
 麻痺に近い弛緩があり、肌の感覚自体は遠い。それなのに、淡く開いた花びらはラピの指を吸うように収縮している。
「ここを解したら、もっと良くなるかも。入れるのは、怖い?」
 女陰は内臓を直に触るような得体の知れなさがあり、自慰にも使ってこなかった。
 守るべき秘密を開け渡してしまうことへの恐れは確かに存在する。
 それでも。だからこそ。
「ラピが……してくれるなら、怖くない」
 未知へ踏み込む決意を固めたアシャは気を張った笑顔を向ける。思いもよらぬ言葉だったのか、ラピは目を丸くしていた。
 広がった耳羽がゆっくりと折り畳まれていく。
「……ありがと」
 複雑な泣き笑いの表情を目に焼き付ける暇は、さほどなかった。
 未通の狭い孔にグイと指先が差し込まれる。染み出した膣液を帯びていても、硬い異物は胎の内側を圧迫して息苦しくさせた。
「うぅう……っ」
 背を反らして呻くアシャの下腹部に、ラピはもう一方の手を置いた。
「息を止めないで、ゆっくり呼吸して? ……うん、そう、上手だよ」
 促されるまま腹に込めていた力を抜けば、にわかに挿入が深まっていく。
 強引に分け入ろうとしない緩慢な動きは焦れるほど慎重だった。
 曲げた指が腹側の壁を擦ると膣内はぎゅっと引き締まり、切ない疼きを与えてくる。
 オイルなどの潤滑剤を足していないのに、粘ついた淫らな音は派手になるばかり。
「ひ、んん……っ!」
 やっと根元まで収めたと思いきや、すぐさま引き抜かれ、二本目の指が添えられた。
 束ねた太さはまるで性器そのもののようで、慣らされた花弁に鈍い痛みが起きる。
「平気そうだね。良かった」
 ラピの安堵の声はどこか残酷に響いた。
 半ば呑み込んだ状態で上下にぐちゅぐちゅと突かれ、アシャは目を剥く。
「や、やめっ、あ、んっ、あぁあっ!」
 身をよじって逃れようとするが、脱力した四肢ではシーツを掴み、蹴る程度しか出来ない。
 鼻につく嬌声さえこらえきれず、垂れ流すばかりのアシャの泣き顔を、ラピは屈んで覗き込んできた。
「本当にやめていいの?」
 秘部を虐めていた指が抜けて、濡れそぼり充血しきった肉襞を撫で回す。
 単純な疑問を口にする無垢な表情と、情け容赦のない行動が噛み合わずアシャの動揺を誘う。
「ぁあ……っは、うぅ……」
 何か言わなければと開いた唇は、苦しげな音を漏らすだけに終わった。
「我慢しないで。感じたことをそのまま教えてくれたらいいんだ」
 黒い双眸が三日月の如く細められる。
 何かを教え導くような言葉だがその実、淫奔になれとそそのかしていた。
 ラピはアシャの返事を待たず、再び指を膣内に潜らせる。腹側の肉壁を執拗に愛撫されて、尿道からぷしゅりと潮がこぼれた。
「ひうっ、あ、あっあっ、そんな……」
 衝動は限りなく失禁に近く、アシャは勘違いから胸を痛ませる。
 悲痛な声を耳にしてもラピは手淫を止めてくれず、皮の剥けた肉芽にまで刺激を与え出す。
 アシャは自分の喉から聞くにたえない叫びが放たれるのを、他人事のように受け止める他なかった。
「あぁあ……っ!」
 心臓の鼓動がひときわ大きく跳ねて、身体まで弓形に反る。高みへ押し上げられた意識が遠ざかり、思考能力が失われていく。
 ふと、素肌に羽毛の温もりを感じ取る。
 薄く開いたまま呆けている唇がそっと塞がれ、陰部に何か擦り付けられた。
「……内緒にしてね」
 耳元への囁きは、どこか照れ臭そうだった。
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