魂の戯れ

りょーじ。

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魂の戯れ part.7

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私は森の中を歩いていた。天国にもバイオリズムというか、生物が活発になったり、静まっている時間もある。地上で言う朝と夜のようなものだ。私はその地上で朝に相当する時間に森の中を歩いていた。

 自然の中は元々気持ちいのだが、朝は格別だ。神々しささえ感じることもある。天使よりも上位に位置する神という概念はあまりにも大きいのでよく分からないが、朝、森を歩いていると、その片鱗を感じることが出来る。

 さて、私がなぜ森の中を歩いているかというと、今日はロウと別行動だったからだ。別にいつも一緒にいる必要はないのだ。いや、一緒にいてもいいのだが、ロウ自身が最近一人で考えることが増えたので、私もせっかくだから一人の時間を持ってみようと思ったのだ。
 
 自然の心地よさを堪能していると、前方の林から声が聞こえてた。

「ゴドー、ゴドー、お前はなぜ来ない。ああ、ラッキーよ。私に告げないでくれ!」

 声量が大きいせいか、周りにいた鳥が驚いて飛んで行っている。何事かと思い近づくと、男がまるで舞台に立っているが如く、林の中で台詞を読んでいるかのように叫んでいた。

「ローゼンクランツ、ギルテンスターン!ああ、何も知らずに死に近づいていくお前たちの無念さよ!」

私が一瞥すると、男はこちらを向いた。気付かれてないと思ったので、焦る。男は精悍な表情をしながらにこりと笑った。

「分かっている。私が何をしているか、知りたいんだろう」

「え? 」

「その気持ち、分かっている。私が答えてやろう」

「いや、何も知りたくないですけど」


「心はそう告げていない。そうだな、私が何をしているか知りたいんだろう。私は、詩人であり、哲学者であり、俳優だ」

私は男に関わろうか、考えていた。あまりにも普段に似つかわしくないことが起こると、判断が即座に下せないものらしい。悩んでいる私をよそに男が叫んだ。

「戦艦ポチョムキン!市民ケーン!」

 目の前の光景が完全に理解を超え、私のマインドは完全に停止した。ロウが人間に憧れ始めてからだろうか、前は絶対に目に入らないものが目に入り始めた気がする。

「意味が分からないだろう。脈絡を飛ばしたからね」

「ええ、はい」

「君は意味のないことを求めたことがあるかね」

「いや、ないですが」


「そもそもみんな意味のあることを追求するが。意味とは何かね? 」

男が舞台に立っているかの如く、両手を空に広げた。

「価値のあること、ですかね」

「そう。ただ、価値とは何か? ここは様々な物に溢れている。ユニバーサルだ。ようするに、全てがありふれているから、価値など持たない」

「まあ、そうですね」

「つまり、意味のないことにこそ価値があるんだ。だから、私は追求する。それが哲学者として私の心の師、ピタゴラス様に報いるのだ」

こんなことを言いながら、実はこの男は頭がいいのでは、と一瞬思ったが、浮かんできたアイデアにかき消された。

「天国なんですから、意味のないこともありふれているのではないのですか」

男の表情が凍り付く。

「何?それは考えたことがなかった!ああ、追求している間の時間が失われたぁぁぁ!プルーストォォォ!」

私はさっさとその場をさろうと思った。

「まあ時間は有り余ってますから」

「そうだな。ありがとう。名も無き魂よ」

一応、名はあるのだが彼の芝居に付き合わされるのも懲りたので、大人しくその場を去った。私は天国の懐の深さを垣間見た気がした。
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