魂の戯れ

りょーじ。

文字の大きさ
24 / 24

魂の戯れ part.22(終)

しおりを挟む
 公園にゲートがある。
それは地上に通じる門。
天使が地上に下りたり、上ってくるところの起点となる場所だ。


今まで何回もこの鐘が鳴るのを聞いてきたが、これは地上に人間に生まれ変わることを祝する時に鳴る物らしい。

そして、まさか自分がそこを通る時が来ようとは。
公園の周りには、たまたま居合わせ何が起こるかを見に来た者、このイベントをわざわざ見に足を運んだ者、別れを惜しむ者、様々な魂たちがいた。

それにしても改めて見ると、みんな姿が薄く見える。
いや、私が既に物質に近づいている証拠だろう。
彼らの視線は分かるが、声が届かない。
届くのは私と共にいた者だけだ。

そうした存在が私の目の前に立っている。

「いよいよだな」

「ああ」

「まあすぐ帰って来ると思うが、多分その時のお前は変わってしまってるんだろう」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「俺はそうであって欲しいと思うよ」

私同様、ぶっきらぼうな口調の相方だが今日は随分と素直で柔らかい口調だった。
脇にサキが立っている。ユウという少女も一緒だった。

「地上でも交信出来るんでしょう。何かあったら連絡するから」

「ああ、まあ何もないと思うが」

「もう少し、あんたとゆっくり話出来ればよかったわね」

「すぐ帰って来るって。お前らは本当にお前とか、あんたとか遠慮をしないよな。今さらだが」

「あんただってそうじゃないの」

そう言って、サキは横を向いてしまった。
私の口調も不思議といつもより多い。

そんなことを思っていると、相方の後ろに髪を縛ってる男が立った。
今日はサングラスを外しているようで、視線を寄こすとすぐに気付いてくれた。

「ホムラをよろしく頼むよ。色んなところに連れて行ってやってくれ」

「保護者みたいだね。いいよぉ。まあ地上は色々あるけど、頑張ってねぇ」

そう言って、彼は笑った。
保護者という言い方に子供呼ばわりされたと思ったのか、ホムラが顔をしかめた。
ふと、アサナギに会った時の記憶が甦って来た。

「なあ、地上って何かあったりする? 」

「何かって何ですか? 」

「何かトラブルとか」

ユウが手を口元に当てて笑った。

「そんなものないですよ。考え過ぎです。ロウさん、冷静に見えて意外に高ぶってらっしゃるんじゃないですか」

「そうかな」

「そうです」

門の鐘が鳴った。集合の合図だ。
私は集まってくれたメンバーに頭を下げ、門の前に向かった。
同じように別れを惜しんでいた同僚たちが集まって来た。
ふと、キリコが顔をしかめている。

「どうしたんだ? 」

「一緒に暮らしたパートナーに行くなって泣きつかれた。行く前から俺も疲れた」

「言うことが人間じみて来たな」

「お前もだろう。まあとにかく、下では運命共同体だ。よろしくな」

「言い方が大袈裟だが、ああこっちからもよろしく」

集合先は門の向こうにある。そこから、肉体をまとって地上の住まいに送られるのだ。
その手順はどう行われるかは知らない。
ハギリが入ると鐘が鳴った。ウキクサが入ってからも同様だった。
一体入るごとに鐘がなるらしい。
私は振り返って今まで世話になった存在たちに手を振った。
らしくないなとは思いながら。

最後に相方の顔をはっきり見た。
複雑そうな表情だ。
今までの礼や、地上で上手くやって欲しい、そして微かに置いていかれる寂しさなどのごっちゃな感情を感じた。
それに対し、私はただ手を振った。
そうすることが私の知る一番の相方に対するベストの反応だった。

門をくぐる際、自分の鐘の鳴る音は聞こえなかった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...