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4章
死の記憶
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一番古い記憶は、浦敷良甫としての記憶を持たない、本当にただの子供の頃だった。極北の一年中雪で埋もれる山奥の小さな村で、俺は心優しい狩人に拾われた。身寄りもなければ記憶もない子供を、村の人々は疎ましく思っており、同い年の子供からは遠巻きにされる毎日だった。子供達の仲間に入れて貰おうと声を掛けようものなら、罵倒されるか、酷い時には石を投げられた。
ただ、俺を拾ってくれた狩人と、幼馴染の少女だけは俺に優しく接してくれた。
幼馴染の声は思い出せないが、とても歌が上手だったことを覚えている。雪に解けてしまいそうなほどのプラチナブロンドをいつも三つ編みにしていて、暇なときは俺に髪の編み方を教えてくれた。十五歳を迎える頃には、彼女の髪の手入れをするのが俺の日課になっていた。
当時の俺は守護狩人を目指していなかった。村にはささやかながらに居場所があり、幼馴染がいて、親代わりの狩人がいる。それに、雪に沈んだ山奥に現れるドラゴンは、村の狩人が全て倒してしまうため、俺が狩りに加われる機会はほとんどなかった。だから、当時の俺は生涯ずっと採集狩人のままだろうと漠然と思っていた。
だがそんなある日、村がヤツカバネの襲撃を受けた。親代わりの狩人が村の守護狩人と共に討伐に出たが、誰一人帰ってくることなく、俺は幼馴染と共に、村の子供たちを連れてガイランの里へ避難するしかなかった。
ドラゴンから逃げている最中、護衛を買って出てくれた狩人たちは皆食われてしまった。狩人の代わりに戦おうとした大人たちも、次々に消えていった。それでも子供たちは一人もかけることなく逃げ切れた。
もう少しでガイランの里が見えてくるところで、ついに俺の番が来た。
俺は幼馴染たちを逃がすために囮になった。たった一人で雪原に残されて、四方を中位ドラゴンに囲まれ、俺は我を忘れて発狂した。ろくに戦ったことのないただの子供ではドラゴンの餌になる以外に時間を稼げるわけもなく、手足を先に食われ、生きたまま腹を貪られた。ようやく死ぬと言う時に、ヤツカバネのブレスに呑まれてすべてが黒く染まった。
それが一番目の死の記憶だった。
二番目に古い記憶は、中央都市の孤児だった。商店街から十分程度脇道に入った先にあるスラム街で、俺はいつも道端に座り込んでいた。いつからそこにいたのか、どうして一人なのかは例によって記憶がなく、どうやって生きてきたのかも定かではない。とてもひもじくて、生きている理由を見いだせなかったことだけは深く記憶に刻まれている。
日に日にやせ衰えていく俺の前に、不意に一人の女性が現れた。真っ赤な瞳は吸血鬼のように恐ろしかったが、柔らかい黄赤のロングヘアはスラム街に差し込む日差しのようで、幼いながらに美しいと思った。名も知らぬ彼女は俺を拾い、生きる術を一から教えてくれた。礼儀作法、金の稼ぎ方、文字の読み方。それら一般常識を粗方叩き込まれたときには、俺はまた十五歳になっていた。
中位ドラゴンの討伐に出かけた折に、彼女は不意にこんなことを言った。
「もし前世があったら、君は前世の記憶を思い出したい?」
その問いに、俺は大きく首を横に振った。前世に徳を積んでいなかったからこのような人生を歩んでいるんだろう。だったら知らない方がきっと幸せだ、と俺は言った。その回答に、彼女は寂しそうに笑って俺の頭を撫でた。その時、なんとなく脳裏に焼けつくような感覚が走ったのを覚えている。
それから間もなく、俺は彼女の目の前で死んだ。ドラゴンに頭を食いちぎられて即死だった。
最後まで彼女が俺を拾い育ててくれた理由は分からず仕舞いだった。
彼女の名前は確か、アンジュだった気がする。
三番目の記憶は、再び極北だった。
今度は心優しい狩人ではなく、裏社会に染まり切った下種な男に拾われた。毎日奴隷のように働かされ、些細なミスでしばらく立ち上がれなくなるほどの暴力を振るわれた。幸いにも、俺は前と違って前世の記憶を思い出していた。アンジュに教えられた一般常識を使って下種な男の機嫌を取り続けていると、徐々に俺の待遇もマシになってきた。
そして、俺を殴ってきた下種な男は、マフィアに殺された。
下種な男は、希少なドラゴンの角の横領に関わってしまったばかりに、極北全土を縄張りとするノースマフィアの怒りを買ってしまった。男の元で働いていた俺も散々に痛めつけられ、暗い地下牢で逆さに吊るされ、解体されかけた。その時に俺を助けてくれたのは、ノースマフィアの三代目首領だった。
三代目は俺にいくつか質問を重ねると、死神のようなコートの下から分厚い書物を取り出した。
予言書だった。
「お前はこの書物に記述された鍵者だ。自覚はないだろうがな」
三代目は傷跡まみれの醜い顔で渋く笑うと、俺をマフィアの下っ端として雇い入れ、様々な仕事を割り振ってきた。ダアト教幹部の暗殺、憲兵隊隊長の捕縛、裏切り者の殺害など、人の生死に関わるものばかりだった。仕事を選ばない俺の働きぶりに仲間は恐れ慄き、自分たちが殺されてはたまらないと、任務の合間に俺を殺そうとしてきた。三代目から許可が下りていたため、俺は歯向かう全てを殺していった。
そして俺は、再びアンジュと再会した。
アンジュは姿かたちも、名前も違う俺を一目でそれだと言い当てて、懐かしそうに頭を撫でてくれた。その時、また脳裏が焼ける感覚がした。
それから数年後、俺は憲兵隊に捕まり、独房の中で殺された。
鍵者を生かしていては、この世界の存亡に関わる。ノースマフィアはこの世界を破滅させようとしたのだ。お前は利用されたのだ。
そういった旨の話を垂れ流して、いかにも偉そうな男が銃の引き金を引いて、その周は終わった。
四つ目の古い記憶。
俺は処刑された。
今度の俺は浦敷良甫の記憶を初めて持って生まれた一個体だった。地球では当たり前だったインフラや調理環境、農業知識を里内部に広げ、その功績を買われて中央都市に呼び出された。そこで現代知識をある程度広げた後に、俺は冤罪を擦り付けられ、しかも魔女狩りのごとく世紀の大悪役に祭り立てられた。とんとん拍子に有罪判決が決まった後、俺は訳も分からぬまま大衆の面前で首を落とされた。
それ以降、俺が地球の知識をひけらかすと、高確率で処刑されるようになった。信じていた仲間から憲兵に突き出されたときは、もはや笑うしかなかった。
十三回目の記憶の引継ぎを受けたのは、テララギの里で自我を得た瞬間だった。
処刑を避けるために狩人として生きてきた俺は、齢十歳にして熟練の狩人と同程度の知識を持っていた。だが決して異常な突出を見せぬように、他の見習い狩人と歩調を合わせ、着々と守護狩人への道を進み続けた。隣里の紛争を上手く取りなし、依頼をこなして名声を上げ、世界中の任務に出られるまで成長した。
その人生で俺は、記憶の中で唯一、そして初めて討滅者へと至った。それと同時にその記憶は、俺がこの世界をシンビオワールドというゲームだと勘違いさせる諸悪の根源となった。
ノーミス、ノーリテイク、完璧な人生はまさしくゲームのようで、最高のハッピーエンドを迎えた。
しかし最期は壮絶だった。
ソロの竜王討伐から帰る途中、討滅者に成ったばかりのベアルドルフに決闘を挑まれ、文字通り身を削る戦いが繰り広げられた。戦っている最中に二度も朝焼けを見て、血の飛沫の合間に流星雨を見た。
どうしてベアルドルフが俺を殺しに来たのか、その時の俺は疑問にも思わなかった。竜王ですら片手間に殺せるようになった討滅者の俺は、エンディングの後が退屈だったから、久々に自分に並び立つ敵を前にして、ずっと笑っていたような気もする。
ようやく決着がついた時、俺もベアルドルフもボロボロだった。傷一つなかったベアルドルフの顔は、ノースマフィアの三代目首領と負けず劣らず傷だらけになっていた。俺も竜王戦で全く負傷していなかった身体が、どこもかしこも血まみれで、拷問を受けた後のように酷かった。
最後の鍔迫り合いの後、互いの腹を貫いた俺たちは、血が泡立つほどの荒い呼吸を繰り返してしばらく睨み合っていた。ベアルドルフの脇腹には俺の太刀が、俺の鳩尾にはベアルドルフの太い拳が貫通している。勝敗はすでに決まったようなものだった。
死に際に、ベアルドルフといくつか会話を交わした。だがどんな内容の会話だったかは、くり抜かれたように何一つ思い出せない。
俺は、会話を終えた後にゲラゲラ笑っていた。笑いながら、ベアルドルフの右目に爪を立てて、彼の網膜を引き裂いた。生暖かい血が肘まで伝い落ちる感覚を最後に、俺の目の前は真っ暗になった。
――それからだ。俺がベアルドルフに狙われるようになったのは。
俺は相変わらず浦敷良甫の記憶を持ったり持たなかったり、鍵者のことを知ったり知らなかったりと、とぎれとぎれに人生を引き継いで、やはりまた狩人になった。
そして、順風満帆に過ごしていようが、地獄のような環境に捨て置かれようが、俺の人生を終わらせるのはほとんどがベアルドルフだった。再会するたびに老けていくベアルドルフとたまに雑談を交わしたような気もするが、最終的には首を落とされた。時には俺が自我を持った瞬間に殺され、まともに人生を歩む暇もなかったこともある。
何度俺を殺しても、俺に執着するベアルドルフに対して、大勢の俺は十人十色な印象を抱いていた。ベアルドルフを可哀想だと同情する俺もいれば、顔を合わせるだけで失禁するほど怯える俺もいる。記憶がないために他人同然に扱う俺もいて、生きるのが苦しいほど不運な人生を歩んでいた俺は、与えられる終わりに安堵していた。
どの周回で、何があったかは全て覚えているわけではない。まるですべてを知っているかのように行動している俺もいたので、きっと今の俺でさえも、まだまだヒヨコの状態なのだろう。一端を知っただけで人間不信に陥るほど強烈な記憶ばかりだから、それ以外の記憶がまだ埋没していると思うとゾッとする。
すべての死の記憶を思い出した暁には、俺が何度も死んで、記憶を引き継いできた理由が、きっと明らかになる。
そうなった時、俺は変わらずエトロたちを仲間だと思えるのだろうか。真実を知ってからずっと、それだけが気がかりだった。
ただ、俺を拾ってくれた狩人と、幼馴染の少女だけは俺に優しく接してくれた。
幼馴染の声は思い出せないが、とても歌が上手だったことを覚えている。雪に解けてしまいそうなほどのプラチナブロンドをいつも三つ編みにしていて、暇なときは俺に髪の編み方を教えてくれた。十五歳を迎える頃には、彼女の髪の手入れをするのが俺の日課になっていた。
当時の俺は守護狩人を目指していなかった。村にはささやかながらに居場所があり、幼馴染がいて、親代わりの狩人がいる。それに、雪に沈んだ山奥に現れるドラゴンは、村の狩人が全て倒してしまうため、俺が狩りに加われる機会はほとんどなかった。だから、当時の俺は生涯ずっと採集狩人のままだろうと漠然と思っていた。
だがそんなある日、村がヤツカバネの襲撃を受けた。親代わりの狩人が村の守護狩人と共に討伐に出たが、誰一人帰ってくることなく、俺は幼馴染と共に、村の子供たちを連れてガイランの里へ避難するしかなかった。
ドラゴンから逃げている最中、護衛を買って出てくれた狩人たちは皆食われてしまった。狩人の代わりに戦おうとした大人たちも、次々に消えていった。それでも子供たちは一人もかけることなく逃げ切れた。
もう少しでガイランの里が見えてくるところで、ついに俺の番が来た。
俺は幼馴染たちを逃がすために囮になった。たった一人で雪原に残されて、四方を中位ドラゴンに囲まれ、俺は我を忘れて発狂した。ろくに戦ったことのないただの子供ではドラゴンの餌になる以外に時間を稼げるわけもなく、手足を先に食われ、生きたまま腹を貪られた。ようやく死ぬと言う時に、ヤツカバネのブレスに呑まれてすべてが黒く染まった。
それが一番目の死の記憶だった。
二番目に古い記憶は、中央都市の孤児だった。商店街から十分程度脇道に入った先にあるスラム街で、俺はいつも道端に座り込んでいた。いつからそこにいたのか、どうして一人なのかは例によって記憶がなく、どうやって生きてきたのかも定かではない。とてもひもじくて、生きている理由を見いだせなかったことだけは深く記憶に刻まれている。
日に日にやせ衰えていく俺の前に、不意に一人の女性が現れた。真っ赤な瞳は吸血鬼のように恐ろしかったが、柔らかい黄赤のロングヘアはスラム街に差し込む日差しのようで、幼いながらに美しいと思った。名も知らぬ彼女は俺を拾い、生きる術を一から教えてくれた。礼儀作法、金の稼ぎ方、文字の読み方。それら一般常識を粗方叩き込まれたときには、俺はまた十五歳になっていた。
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「もし前世があったら、君は前世の記憶を思い出したい?」
その問いに、俺は大きく首を横に振った。前世に徳を積んでいなかったからこのような人生を歩んでいるんだろう。だったら知らない方がきっと幸せだ、と俺は言った。その回答に、彼女は寂しそうに笑って俺の頭を撫でた。その時、なんとなく脳裏に焼けつくような感覚が走ったのを覚えている。
それから間もなく、俺は彼女の目の前で死んだ。ドラゴンに頭を食いちぎられて即死だった。
最後まで彼女が俺を拾い育ててくれた理由は分からず仕舞いだった。
彼女の名前は確か、アンジュだった気がする。
三番目の記憶は、再び極北だった。
今度は心優しい狩人ではなく、裏社会に染まり切った下種な男に拾われた。毎日奴隷のように働かされ、些細なミスでしばらく立ち上がれなくなるほどの暴力を振るわれた。幸いにも、俺は前と違って前世の記憶を思い出していた。アンジュに教えられた一般常識を使って下種な男の機嫌を取り続けていると、徐々に俺の待遇もマシになってきた。
そして、俺を殴ってきた下種な男は、マフィアに殺された。
下種な男は、希少なドラゴンの角の横領に関わってしまったばかりに、極北全土を縄張りとするノースマフィアの怒りを買ってしまった。男の元で働いていた俺も散々に痛めつけられ、暗い地下牢で逆さに吊るされ、解体されかけた。その時に俺を助けてくれたのは、ノースマフィアの三代目首領だった。
三代目は俺にいくつか質問を重ねると、死神のようなコートの下から分厚い書物を取り出した。
予言書だった。
「お前はこの書物に記述された鍵者だ。自覚はないだろうがな」
三代目は傷跡まみれの醜い顔で渋く笑うと、俺をマフィアの下っ端として雇い入れ、様々な仕事を割り振ってきた。ダアト教幹部の暗殺、憲兵隊隊長の捕縛、裏切り者の殺害など、人の生死に関わるものばかりだった。仕事を選ばない俺の働きぶりに仲間は恐れ慄き、自分たちが殺されてはたまらないと、任務の合間に俺を殺そうとしてきた。三代目から許可が下りていたため、俺は歯向かう全てを殺していった。
そして俺は、再びアンジュと再会した。
アンジュは姿かたちも、名前も違う俺を一目でそれだと言い当てて、懐かしそうに頭を撫でてくれた。その時、また脳裏が焼ける感覚がした。
それから数年後、俺は憲兵隊に捕まり、独房の中で殺された。
鍵者を生かしていては、この世界の存亡に関わる。ノースマフィアはこの世界を破滅させようとしたのだ。お前は利用されたのだ。
そういった旨の話を垂れ流して、いかにも偉そうな男が銃の引き金を引いて、その周は終わった。
四つ目の古い記憶。
俺は処刑された。
今度の俺は浦敷良甫の記憶を初めて持って生まれた一個体だった。地球では当たり前だったインフラや調理環境、農業知識を里内部に広げ、その功績を買われて中央都市に呼び出された。そこで現代知識をある程度広げた後に、俺は冤罪を擦り付けられ、しかも魔女狩りのごとく世紀の大悪役に祭り立てられた。とんとん拍子に有罪判決が決まった後、俺は訳も分からぬまま大衆の面前で首を落とされた。
それ以降、俺が地球の知識をひけらかすと、高確率で処刑されるようになった。信じていた仲間から憲兵に突き出されたときは、もはや笑うしかなかった。
十三回目の記憶の引継ぎを受けたのは、テララギの里で自我を得た瞬間だった。
処刑を避けるために狩人として生きてきた俺は、齢十歳にして熟練の狩人と同程度の知識を持っていた。だが決して異常な突出を見せぬように、他の見習い狩人と歩調を合わせ、着々と守護狩人への道を進み続けた。隣里の紛争を上手く取りなし、依頼をこなして名声を上げ、世界中の任務に出られるまで成長した。
その人生で俺は、記憶の中で唯一、そして初めて討滅者へと至った。それと同時にその記憶は、俺がこの世界をシンビオワールドというゲームだと勘違いさせる諸悪の根源となった。
ノーミス、ノーリテイク、完璧な人生はまさしくゲームのようで、最高のハッピーエンドを迎えた。
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ようやく決着がついた時、俺もベアルドルフもボロボロだった。傷一つなかったベアルドルフの顔は、ノースマフィアの三代目首領と負けず劣らず傷だらけになっていた。俺も竜王戦で全く負傷していなかった身体が、どこもかしこも血まみれで、拷問を受けた後のように酷かった。
最後の鍔迫り合いの後、互いの腹を貫いた俺たちは、血が泡立つほどの荒い呼吸を繰り返してしばらく睨み合っていた。ベアルドルフの脇腹には俺の太刀が、俺の鳩尾にはベアルドルフの太い拳が貫通している。勝敗はすでに決まったようなものだった。
死に際に、ベアルドルフといくつか会話を交わした。だがどんな内容の会話だったかは、くり抜かれたように何一つ思い出せない。
俺は、会話を終えた後にゲラゲラ笑っていた。笑いながら、ベアルドルフの右目に爪を立てて、彼の網膜を引き裂いた。生暖かい血が肘まで伝い落ちる感覚を最後に、俺の目の前は真っ暗になった。
――それからだ。俺がベアルドルフに狙われるようになったのは。
俺は相変わらず浦敷良甫の記憶を持ったり持たなかったり、鍵者のことを知ったり知らなかったりと、とぎれとぎれに人生を引き継いで、やはりまた狩人になった。
そして、順風満帆に過ごしていようが、地獄のような環境に捨て置かれようが、俺の人生を終わらせるのはほとんどがベアルドルフだった。再会するたびに老けていくベアルドルフとたまに雑談を交わしたような気もするが、最終的には首を落とされた。時には俺が自我を持った瞬間に殺され、まともに人生を歩む暇もなかったこともある。
何度俺を殺しても、俺に執着するベアルドルフに対して、大勢の俺は十人十色な印象を抱いていた。ベアルドルフを可哀想だと同情する俺もいれば、顔を合わせるだけで失禁するほど怯える俺もいる。記憶がないために他人同然に扱う俺もいて、生きるのが苦しいほど不運な人生を歩んでいた俺は、与えられる終わりに安堵していた。
どの周回で、何があったかは全て覚えているわけではない。まるですべてを知っているかのように行動している俺もいたので、きっと今の俺でさえも、まだまだヒヨコの状態なのだろう。一端を知っただけで人間不信に陥るほど強烈な記憶ばかりだから、それ以外の記憶がまだ埋没していると思うとゾッとする。
すべての死の記憶を思い出した暁には、俺が何度も死んで、記憶を引き継いできた理由が、きっと明らかになる。
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