家に帰りたい狩りゲー転移

roos

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4章

(25)本音と夢

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 悪夢だ。
 自覚したところで、目の前で繰り広げられる地獄は消えてくれなかった。

 断頭台の上に引き摺り出された俺の下には、憎悪に満ちた群衆が詰めかけている。直前まで縄で拘束されていた手首は皮が赤くささくれ、
 丸くくり抜いたような木板へ頭を置いた途端、蓋を閉じられる。少し上を見上げれば、巨大な刃が曇天に鈍く反射していた。

 ――殺せ! 殺せ!

『死にたくない……死にたくない!』

 これは過去の記憶だ。俺が最もこの世界の人間を、ダアト教を憎むきっかけになった中央都市の公開処刑。

 群衆の中に、共に中央都市に来てくれた幼馴染を見つけた。

『リア! 俺たちずっと一緒だっただろ! 助けてくれよ! みんなを止めてくれ!』

 幼馴染は俺の前に進み出ると、切り揃えた前髪の奥から憎悪に燃える目を見開いた。
 
『化け物め、気持ち悪い。もう騙されないんだから!』
『な、なんの……』
『人に化けて私たちを殺そうとしたくせに、自分が殺されそうになったら命乞いするの!? そうやって泣いて悲しむフリをすれば同情してもらえると思った!? いままでずっと、ずっと私たちを騙して、また騙すの!? 私のためにしてくれたことも、喜んでくれたことも全部演技だったくせに!』
『ち、違う! 演技じゃない! 俺は本当にリアのことが――』

 足がいきなり後ろに引っ張られたと思った瞬間、足首から先の感覚が寸断された。断面が灼熱を帯び、激痛が肩まで駆け上がってきた。
 
『ぎゃああああああ!』

 ぼたぼたと血の滴る音が、民衆の歓声で塗りつぶされていく。傷口を見ることが出来ない分、想像が膨れ上がり恐怖と痛みで俺は悲鳴を止められなくなった。
 
『だ、助けてくれ! 誰か!』

 頭を振り乱しながら叫んでも、人々は俺を指差し、石を投げながら笑い続ける。なにも面白くない。
『頼む、死ぬのは嫌だ! 一生牢屋の中でもいい! 二度と街に入れなくてもいいから、殺さないでくれ!』

『俺が何したってんだよ! ただ生きてただけで、お前らのためになると思って頑張ってきたのに! なんでここまでするんだよぉ!』

 好きでこの世界に来たわけじゃない。訳も分からないまま異世界に放り出されて、生きていくために現代知識を使っただけだ。彼らは俺の現代知識の恩恵を得ておきながら、なぜこうも憎しみを募らせているのか。
 
『殺せ』

『いやだ、死にたくない! いやだあああああああああ!』
 
 俺の懇願も虚しく、落下した巨大な刃が皮膚を引き裂き、喉仏に衝撃が走った。
 
「――――」

 ベッドに背中から叩きつけられたようだと錯覚するほど、強烈な目覚めだった。俺は喉を押さえながら毛布を蹴り飛ばし、猪のようにトイレへと転がり込んだ。

 便器の縁にしがみつきながら嘔吐を繰り返す。透明な液体しか出なくなっても胃の痙攣は止まらなかった。独特の酸味と喉が焼け付く痛みのおかげで、過去に引きずられていた俺の意識は今へと適合を開始した。

 全て終わったことだ。まだベアルドルフに会っていない時代。あの処刑を見ていた人たちは寿命で死んでいるだろう。リデルゴア国の平均寿命は六十年から七十年しかないのだから。

 俺は全て流して綺麗にした後、洗面所でゴシゴシと顔を洗った。未明の冷たい水が肌を刺し、完全に悪夢の残滓を払拭してくれる。タオルで顔を拭きながら身体を起こすと、鏡に映る他人のような顔があった。

 死の記憶の中で、俺は様々な名前で呼ばれていた。ノースマフィアではノラ、テララギの里ではシキ。処刑された時は、ホップスと呼ばれていた。全く本名と関係のない名前ばかりで、外見も今の俺とは大きく異なっていた。唯一共通しているのは日本人らしい黒目黒髪だ。

 俺は鏡に手を添えながら自分の顔を凝視して、ゾンビのような青白さに苦笑した。

「死相ってこういう感じか?」

 水滴がついてしまったガラスを拭い、タオルを脱衣カゴに放り込む。それから洗面所から出てみると、アンリが寝ているはずのベッドが空っぽだと今更気づいた。俺のせいで起こしてしまったかと思ったが、毛布の中はすでに冷え切っていたので、随分前から出かけていたらしい。

 俺はほっとしながらベッドに戻ろうとしたが、先ほどの悪夢をもう一度見てしまうような気がして諦めた。代わりに私服に着替え、ハンガーにかけていた外套を羽織ってベランダに出た。

 するとほぼ同時に、隣の部屋のベランダも開かれる。驚いてそちらを見ると、パッチリとした青い瞳が俺を見返してきた。

「エトロじゃん。こんばんは?」
「こんばんは。なぜ疑問型なんだ」
「起きたばっかだからおはようの気分だったんだよ」
「奇遇だな。私もちょうど目が覚めたばかりだ」

 エトロは肩にまとったブランケットを掻き寄せると、手すりを踏み台にして俺のベランダに飛び移った。そして月明かりを頼りに俺の仔細を眺め、なぜかブランケットを顔面に投げつけてきた。

「ぶっ」
「風邪を引いてるならさっさと寝ろ。馬鹿なのか」
「風邪じゃない! ちょっと夢見悪かっただけ!」

 弁明しながらブランケットを返そうとするが、今にも噛みつかれそうな目つきをされたので渋々使わせてもらう。立ち話をするのは憚られ、俺はベランダの丸い椅子を引いてエトロを振り返った。

「とりあえず座りなよ」
「気が利くな」

 エトロは嬉しそうに頬を緩めて席に座った。俺は回り込んで向かいの席へ腰掛け、透けるような夜風にぶるりと震える。ブランケットを脱いだエトロの方がもっと寒いだろうな、と彼女の様子を見たが、『氷晶』の菌糸のおかげなのか、半袖にも関わらず震えてすらいなかった。

 俺も『紅炎』の力があるのだから、自前で暖を取ってしまおうか。そんな思考が過ぎったが、ブランケットに残った体温を手放したくはなかった。

「リョーホ。何かあったのか?」

 唐突に問われ、俺は身を強張らせた。

「……まぁ、夢見が悪かっただけだ」
「本当にそれだけか? ダウバリフからNoDの話を聞いてから、少し様子がおかしいぞ。お前は八つ当たりのために全力で人を蹴るような奴じゃないだろう」
「でも相手はダウバリフだし、エラムラの敵だったろ」
「そうか? 敵にまで温情をかけるのがお前らしさだった気がするがな」
「あはは……」

 ベアルドルフを殺さなかった件を引っ張り出され、俺は乾燥した笑い声を上げた。

「そういえば、後でNoDのことちゃんと話すって言ってそのままだったな」
「ああ……だが無理に話す必要は……」
「いい。話しておきたいんだ」

 ダウバリフがハウラを化け物と呼んだ時、エトロもアンリも俺たちを代弁するように怒ってくれた。あれを見てしまったら保身に走る自分が惨めに思えて、彼らに報いたいと勇気が出た。

 俺は寒さに身を縮こまらせながら、ポツポツと真実を吐露した。
 自分が何度も死んで記憶を引き継いでいること。人を信じられなくなった経緯。
 つい最近まで、どちらの世界も勝手に滅んでしまえ、とヤケになっていたこと。
 そして、レオハニーと二人で話した今後の方針。レオハニーが転生者だという話は、本人が話すべきだと思ったため、不自然にならない程度に伏せておいた。

「ベアルドルフはNoDを皆殺しにすることで、終末の日を回避しようとしているんだと思う。だけど機械仕掛けの世界がどうやってNoDを生産し続けているのかまだ分からないし、トトやベートみたいに強い奴だってまだ残ってる。きっと全滅させるより、終末の日が早く来る。俺たちがやろうとしていることも、多分時間稼ぎにしかならないだろうな」

 ダアト教幹部の裏切り者を暗殺しても、終末の日が少しだけ遠のくだけだ。

 ダウバリフは巨大な『因果の揺り返し』で予言書を破綻させようとしているようだ。しかし、ドミラスに渡されたブレスレットの役目を思うと、俺には途轍もない破局を呼び寄せてしまう気がしてならなかった。

「エトロ。もうベアルドルフとNoDには関わらない方がいい。ハウラのことなら、俺がロッシュさんとなんとかする。真実を知りたいだけなら、俺がベアルドルフと話をつけてくる。……エトロには、ずっと無事でいてほしい」
「……なんだそれは」

 エトロは静かに椅子から立ち上がり、テーブルの上に引き摺り出すように俺の胸ぐらを掴み上げた。

「それじゃあ、私の気持ちはどうなる! ベアルドルフから直接話を聞かなければ意味がないのに、お前が仲介するだと!? お前と関係のない場所で無事でいろと!? お前は私の親でもなければ家族でもないのに、上から目線でモノを言うな!」

 突き飛ばすように手を離され、俺は強かに椅子に打ち付けられる。ほとんど痛くなかった。

「リョーホ。私は狩人だぞ。守られるだけの雑魚ではない。お前と共に戦った友だ! 仲間を差し置いて平和を享受するのが、お前の知っている狩人か!?」

 訴えかけるようなエトロの叫びに、俺はぶん殴られたような衝撃を受けた。今まで散々エトロに助けられてきたくせに、俺はたかだか数百年分の記憶を思い出しただけで、仲間たちは自分より弱いと思い込んでいたのだ。

 俺は浦敷博士のような研究もしていない。テララギの里で討滅者になったシキでもない。突然知っているゲームそっくりな異世界に放り込まれた、運の悪い高校生だ。

 実はゲームでも異世界でもなく、地球の滅びた後の世界だったなんてどうでも良い。俺が偽物でも受け入れてくれる人がいる。俺の弱さを知ってなお助けてくれる人がいる。そういう狩人たちに憧れていた。

 何より、格好いい狩人になると決めたのは俺自身じゃないか。

「はは……そうだな、そうだったよ。難しく考えすぎだったんだよ」

 鍵者の使命、変えられない予言、人造人間。丸ごとすっとばして見えたのは、単純な答えだ。

 俺は椅子から立ち上がり、肩にまとっていたブランケットでエトロを包んだ。

「ごめんな、エトロ。あと、ありがとう。どんな時でも容赦なく俺に怒ってくれるのはお前だけだよ」
「……ふん」

 エトロはブランケットを胸の前で抱き寄せると、少しだけ色づいた頬を少しだけ緩ませた。

「私だって、お前の戦いぶりに魅せられた被害者だからな。自分が死にかけたのに他人の命ばっかり気にしているわ、傷が治るから、敵の動きを知っているからと死線を潜り続けるわで、こちらはヒヤヒヤしっぱなしだったんだぞ」
「し、心配かけたな……」
「どうせお前はまた繰り返すんだから、もっと堂々としろ」
「すまん」

 ぐうの音も出ない指摘に肩を落とすと、くすっとエトロが笑う気配がした。
 
「でも、そんな風に強敵に挑み続けるお前は……格好良かったぞ」
「…………かっ」

 俺はがばっと口を塞いで、自分でも気持ち悪いぐらいに目を泳がせた。

「えっと、ありがとう? エトロも今日は一段と可愛……違うな。いつも可愛い……いや、ごめん。聞かなかったことにしてくれ」

 パニックになりすぎて、お返しのつもりが妙なことばかり口走ってしまった。しっかり聞いてしまったエトロはみるみる顔を赤くして、足元から凍えそうなほどの冷気を放ち始めた。
 
「……お前は……よくもそんなことを恥ずかしげもなく……!」
「あっ!せ、セクハラじゃないからな! 思ったこと口にしただけで他意はないぞ!?」
「思ったこと!? ま、まさか普段からじゃないだろうな!」
「そんな、万年発情する兎じゃねえんだから! いや、けど可愛くないって意味じゃなくてな!?」

 一つ否定すると好意まで否定する形になり、完全に泥沼に突っ込んでしまった。エトロは俺が言葉を重ねるたびに後退り、ベランダ全体が凍りつくほどの冷気を放ち始める。

 このまま冷凍されるかも、と寒さに震えながら言い訳を考えていると、後ろから押し殺しきれなかった笑い声がした。

「ふはっ、帰ってきてみたら何やってんの二人とも」
「うおぅ!? アンリかよ脅かすな!」

 アンリはベランダのガラスドアに寄りかかりながら、俺の反応を見てけらけら笑った。怒りに水を差されたエトロは冷気を引っ込めると、まだ赤い頬を隠すように頭からブランケットを被った。

「盗み聞きなんて趣味が悪い!」
「混ざろうとしたんだけど、いきなり告白大会するから入るに入れなくてね」
「こ、告白じゃない!」
「でも本心でしょ」
「くっ……!」

 エトロは再び冷気を解き放ったが、言い返せずにしおしおと霧散させた。俺はすっかり冷えてしまった身体を震わせながら、ベランダから室内へと上がり込んだ。

「つかどこ行ってたんだよ。俺が起きた時はもういなかったよな?」
「シャルがダウバリフに会いたいってベランダを叩きまくってたからね。エトロが起きてたのもシャルに起こされたからだよね?」
「……そうだ」
「拗ねないでよ。俺はこんな寒い中三者面談してきたんだから、むしろ労ってほしいぐらいだよ」

 三人で部屋に入り、ベランダを固く閉じてからソファに座る。アンリが一人用のソファを陣取ったせいで、俺とエトロは隣り合うように座るしかなかった。少し気まずい。アンリはにやにやと俺たちを眺めながら、自身の上着の中に手を突っ込んだ。

「エトロのせいで冷えたでしょ。帰りに厨房であったかいスープ貰ってきたんだ。皆で飲もうよ」

 ちゃぷり、と大きめの水筒が取り出され、俺は思わず目を輝かせる。

「ちょうど飲みたかったんだよ! 味は?」
「コーンスープ。今日の夕食で出てたでしょ」
「よっしゃ! 俺マグカップ取ってくる!」

 スイートルームに常備されているマグカップを棚から取り出し、テーブルに並べる。続いてアンリが手際良く水筒の中のスープを注ぎ入れ、甘いコーンの香りが広がった。

 白い湯気の立つマグカップを手に取り、誰が何を言わずとも縁を付き合わせる。

「「「乾杯!」」」

 かん、と軽快な音を引きながらマグカップを口へ傾ける。とろみのあるコーンクリームはまだ熱々で、出来立てのように香りが強い。ふんわりと泡のようなスープは自然な甘さで、大粒のコーンがアクセントを加えてくれる。

 半分ほど飲み干したあたりで、俺はぷはーっと笑顔になった。

「あーうめー!」

 身体の芯が温まって、消え失せたはずの眠気が心地よく帰ってくる。その眠気を逃さぬようふかふかのソファにだらけると、アンリもつられるように背もたれに沈んだ。
 
「あーあ、二人がもう少し早く生まれてたらワインを貰ってたんだけどねぇ」
「酒なんて苦いだけじゃないか」
「あれ? エトロ飲んだことあるの?」
「師匠に一口だけ飲まされたんだ。次の日酷い二日酔いになった」
「それはエトロがアルコールに弱すぎるんだよ。慣れたら美味しくなるから」
「むぅ……」

 エトロはマグカップを両手に抱えながら、ソファの上で車座りになった。普段より幼いエトロの仕草に、俺はつい微笑ましくなる。
 
「にしても意外だな。レオハニーさんってそういうのに厳しそうなのに」
「師匠はかなりの自由人だぞ? 空を飛びたいからと飛竜の背に飛び乗ったこともある」
「マジ? 討滅者じゃなきゃ怖くてできねぇよ」

 数あるレオハニーの脳筋エピソードの中でも一位二位を争う破天荒さである。ちなみに暫定一位は水属性ドラゴンと並走しながら海中遊泳した話である。

 やっぱり人間離れしている人は違うな、と感心しながらコーンスープを啜る。すると、エトロが俺を見上げながらニッと笑った。

「そういえばリョーホ。さっきは何か覚悟が決まったような顔をしていたが、何を決めたんだ?」
「えぇ、言わなきゃダメか?」
「散々腹を割って話し合ったんだ。何を躊躇う必要がある」
「……ちょっと恥ずかしいんだよ」

 すっかり減ってしまったマグカップを膝に置きながら目を逸らすと、俺の退路を塞ぐようにアンリがコーンスープを注いできた。
 
「俺も聞きたいな。話しなよ、ほら」
「ちょ、スープこぼれる! そんなにいらないって!」

 並々と注がれたコーンスープを急いで飲んで、その温かさに一息ついてから俺は仕方なさそうに頬を緩めた。

「決めたっつっても、本当に大したことじゃないんだよ」

 そう前置きをして、俺は顔を上げた。エトロとアンリ、二人の眼差しを受け止めながら、重い口を開く。
 
「俺は人を殺したくない。だから全ての世界を救おうと思う」
「……機械仕掛けの世界も、俺たちの世界も?」
「ああ。そう簡単には止められないだろうけど、俺は諦めたくないんだ」

 一度起きた争いは、片方が滅びるか吸収されるまで終わらない。俺がやろうとしていることは、復讐や義憤のために戦う人たちを踏み躙って、幼稚な偽善を振りかざそうとしているだけだ。その結果、有り余る大衆の憎悪を俺が一身に背負うことになるだろうが、何千、何万の死者が出るより遥かにマシだ。

 俺が口を引き結ぶと、アンリから静かに尋ねられた。

「でも、どうやって世界を救うつもりだい? 君は機械仕掛け側に捕まったら終末の引き金を引かされるかもしれないのに」
「ヨルドの里に、機械仕掛けの世界に続く門がある。そこからあいつらの世界に乗り込むんだ。ドラゴン相手にはできない、人類同士の話し合いだよ」
「……話し合い、応じてくれると思うかい?」
「半分賭けだが、アテはある」

 ヨルドの里で、レオハニーに焼かれてしまった99。彼女が生きていれば必ず相応しい場所で俺に会いにくる。そうでなくとも、ベートから内情を聞き出せばいい。

 不意に、俺の手の甲にエトロの手が重なった。驚きながら彼女を見ると、青い瞳が不安そうにこちらを覗き込んでいた。

「リョーホ。機械仕掛けの世界に入ったら、お前はそこに戻るのか? 生まれ故郷なんだろう?」
「……いいや、帰る場所なら、もうあるんだ」

 俺はマグカップをテーブルに置き、エトロの手を包み込んだ。

「仕事が終わったら、バルド村に真っ直ぐ帰ろう。そのあとは予定通り、討伐隊を組んでヨルドの里に行くんだ。それで無事に帰って来れたら、ヨルドの里を復興させる。一生かかっても」
「……!」

 猫のようにまん丸に目を見開いて、エトロは息を呑む。アンリはおやおやと口を押さえながら、俺の肩をこづきながら揶揄ってきた。

「おーい、ちょっと気が早いんじゃないかー?」
「い、いいだろ別に! 大事な仲間のためだ! 何もやましくない!」

 故郷に帰れない苦しみは、俺が一番知っている。復興したとしても、それは同じ景色ではない。だが、俺はエトロの記憶にある故郷の景色を見てみたかった。

「嫌……か?」

 返事が来ないことに恐れ慄きながら問いかけると、エトロは瞼を閉じて、それから瞳を潤ませながら怒った顔になった。

「言質は取ったからな」

 素直じゃない刺々しさに、俺は破顔しながら彼女の手を握った。まめだらけで固いエトロの手は、俺の思いに応えて強く握り返してくれた。
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