212 / 243
6章
(9)二人の怒り
しおりを挟む
エラムラから少し離れた小高い丘へ、十五人の集団がぞろぞろ向かう。かつてシャルとダウバリフが共に暮らしていた赤瓦の家は、少しやつれたような佇まいで変わらずそこにあった。
「お邪魔しまーす……」
「おかえり? いらっしゃい?」
「うーん、ただいま?」
シャルと首を傾げ合いながら、赤瓦の家屋へ入る。住む者がいないはずなのに、室内に埃は全く積もっていなかった。誰かが定期的に掃除しているのだろう。
この場所に来た回数は片手で数えるほどしかない。ダウバリフに挨拶した日と、シャルの引越しの荷物を何度か取りに来た日だけだ。だというのに、家具の配置や、壁にかけられた小さな絵画を見ていると、妙な懐かしさが喉の辺りをくすぐった。
「へぇ、今の家ってこんな感じなのか!」
元建築士の研大が内装に目を輝かせ、手のひらでペチペチと柱を叩いている。玄関では、武器棚の前で他の旧人類があれこれと議論を交わしていた。ヨルドの里にも導入したいようだ。
バルド村の面々はそんな旧人類の姿にドン引きしつつ、リビングのテーブルを囲うように屯した。
シャルは目を輝かせながら大所帯を見回した後、ハッと飛び跳ねながらキッチンへ駆けた。
「あ! お客さんにお茶入れるし!」
「もう茶葉腐ってんじゃないか?」
「茶葉ならこっちにあるぞ」
ぼやきながら俺が追いかけ、その後ろからハインキーが歩いてくる。ハインキーの太い手には、ヨルドの里から持ってきた野生のハーブ袋が握られていた。
キッチンが狭いので、大柄なハインキーには早々に席に戻ってもらい、俺とシャルでお茶の準備を始める。途中、ハーブティーに拘りのあるミッサが作業の拙さに焦ったくなって、俺の首根っこを掴んでキッチンから追い出した。今なら潜水艦の操縦席から蹴落とされたメルクの気持ちが分かる。俺の場合、蹴られなかっただけ有情だろう。
不意に、玄関の方から控えめなノックがした。
賑やかだった室内は水を打ったように静まり返る。俺は足音を殺しながら素早くドアへ向かった。ついでに、玄関前にいる旧人類たちを、玄関から見えない奥へ向かわせる。
手のひら全体で押すように薄くドアを開けると、外にはフードを目深に被った女性がいた。胸元にはトレードマークである花冠がある。レブナだ。
今度は大きくドアを開けると、レブナは猫のように家の中へ飛び込んだ。俺は彼女の張り詰めた気配に動揺しつつ、不自然にならない速度でドアを閉めた。
「外に誰かいる?」
レブナが声を顰めて聞いてくる。俺は困惑しながらも『瞋恚』を発動し、壁越しに外の魂のオーラを観察した。ドラゴンのオーラは遠目に見えるが、ネフィリムのものは見つからない。人間の魂は全てエラムラの里の中だ。
「誰もいない」
「よかった」
「誰かに追われてるのか?」
「それも詳しく説明する」
レブナはフードを下ろして、ようやく室内の面々に気づいて驚いた。
「れ、レオハニー様!? しかも三竦みの人までいるじゃん!」
これなら、とレブナは一人で期待を膨らませた。そして壁際に集まっていた初対面の旧人類たちを見つけ、険しい表情になる。
「そっちの人たち、衛兵から事情は聞いてるよ。でもエラムラの機密とか大事な話をするから、できれば席を外して欲しいな」
誰でも歓迎しがちなレブナにしては、珍しい対応だ。
俺はちらりと研大たちの様子を確認した。彼らも話を聞きたそうにしていたが、それ以上に、素性を明かして良いか躊躇っているようだ。
レオハニーは彼らの様子に小さく嘆息すると、寄りかかっていた壁から起き上がった。
「レブナ、そう警戒しなくていい。彼らは私たちの仲間だ」
「仲間? 途中で拾ったんじゃないの?」
遠回しな了承を得られた研大は、さっきまでの引け腰が嘘のように、にこやかにレブナへ話しかけた。
「はじめまして、レブナさん。俺たちは仮想世界……機械仕掛けの世界からきたんです」
「へぇ、機械仕掛けの……機械仕掛けの世界!?」
綺麗な二度見をするレブナに研大は苦笑する。俺たちから機械仕掛けの世界は新人類に憎まれている、と散々聞かされていた研大にとって、レブナの反応は少し予想外だったのかもしれない。
俺は咳払いをすると、固まってしまったレブナの背中を叩いた。
「まずは俺たちから報告した方が話が早いと思う。座って話そう」
・・・───・・・
俺たちの報告を聞いた後、レブナは大量のお茶をがぶ飲みして混乱を落ち着けた。それからようやく、エラムラの里で起きたことを話してくれた。
昨日の夜、死んだはずのロッシュが突然エラムラの里に現れた。
ロッシュがオラガイアで死亡した事は、すでにエラムラの民へ公表してある。俺たちがヨルドの里に向かったその日のうちにハウラが決断したそうだ。
それが幸か不幸か、ロッシュが偽物か否かという火種となってしまった。
ハウラとレブナはその男が偽物であると言い張ったが、民は本物だと反論した。しかも変に勘ぐった里の住人から「ハウラはエラムラの最高権力を独占するために、ロッシュが死んだと嘘をついたのではないか」とあらぬ疑いをかけた。
これ以上の混乱を避けるため、レブナはひとまずハウラとロッシュを引き離し、それぞれ薄明の塔とギルド長室へ軟禁するよう提案した。二人が了承してくれたおかげで、なんとか最悪の事態は避けられたものの、事態は膠着状態のままだ。
偽物だと証明する方法はまだ見つかっていない。住人たちも、本物か偽物かで意見が二分されており、長く放っておけば内紛になりかねない緊迫した状況なのだそうだ。
「あたしの部下のほとんどは偽物だって思ってる。ロッシュ様と直接話す機会も多かったから、すぐに違和感に気づけたんだと思う」
「逆に、ロッシュと滅多に話したことがない人は見破れないよな」
「うん。それと、ロッシュ様が死んだって認めたくないって人も、結構いるんじゃないかな……」
レブナの声が尻すぼみになると、室内も重苦しい静寂に沈んだ。
エラムラの民にとってロッシュの存在は大きかった。エラムラ防衛戦で、ロッシュが加勢した途端に前線を持ち直したほど、ロッシュはエラムラの民の心の拠り所だった。
オラガイアの墜落、ディアノックスの襲撃、里長の突然の訃報。度重なる不幸で、民の心は疲弊していた。そこに、自分たちがよく知る救世主が帰ってきたとあれば、飛びつきたくなるのも仕方がない。
しばしの間、議論が停滞する。沈黙に耐えかねたアンリが、眉間を押さえながら溜息をついた。
「人は信じたいものを信じるからね。それを否定されると、余計に執着してしまう。対応は慎重にしないと」
「となると、情報だ。情報が欲しい」
研大の言葉に俺は頷き、レブナへ猫背気味に問いかけた。
「レブナはそいつと話したのか? 今までどこにいたとか、どうやって来たとか」
「え、えへへ……初対面で殺そうとしたから、接触禁止になっちゃった。代わりに部下が応対してくれたよ」
レブナの部下が聞き出した情報によれば、偽ロッシュはオラガイアで重傷を負った後、トゥアハや憲兵隊に救助され、リデルゴア国で治療を受けていたらしい。だからエラムラに帰還するのが遅れてしまったのだと語った。
遺品の鈴から最期の記憶を見た俺たちからすれば真っ赤な嘘だ。だが、記憶を見ていない者からすれば、訃報を知らせた俺たちの方が嘘つきに見えるかもしれない。
「ちなみに、ロッシュの菌糸能力はどうなんだ?」
「本物と同じ『響音』だよ。模様の形までそっくりそのまま。民の前で能力を使ってみせたけど、やっぱり本物と同じだった。ロッシュ様が狩人に支給してた木製の鈴が呼応してたから」
つまり、偽ロッシュは外見だけでなく菌糸能力までコピーしているということだ。
「俺とシャルなら、魂のオーラで見分けがつく。それで証明するってのはどうだ?」
「効果はあると思う。ただ、リョーホとハウラ様って仲が良いことで有名だし、シャルちゃんは……エラムラを憎んでるんじゃないかって思われてるから」
「つまり、俺たちがハウラに贔屓してるって思われるかもしれないんだな?」
本音を探り当てると、レブナは弱々しく頷いた。
「魂が見えるのはシャルちゃんとリョーホだけでしょ? だから口裏を合わせたんじゃないかって、納得しない人も出てくると思う。偽ロッシュならそれぐらいの反論はする」
「反論が来ると分かっているのなら、それを叩き潰す新たな証拠を用意すべきだ。違うか?」
クライヴが厳しい面持ちで詰めると、レブナは鼻先に皺を刻みながら睨み返した。だが反駁することなく、悔しげに手元を睨みつける。オラガイア同盟を結んだとはいえ、やはりレブナもスキュリア陣営に対する嫌悪感が拭えないようだ。
再びの沈黙が降りた後、ハインキーが太い手をひらりと持ち上げた。
「嫌な想像をしてしまったんだが、いいか?」
「どんな?」
俺が促すと、ハインキーは口角を大きく下げながら続けた。
「リョーホたちは、ロッシュが遺した鈴の記憶を見て死んだと断定したんだよな。だが、記憶を見ていない俺たちにとっては、偽ロッシュの証言は矛盾してないんだよ」
ハインキーは腕を組み、声を一層低くした。
「こうは考えられないか? オラガイアにあった鈴が、死を偽装するための偽物だったんじゃないかって」
「そ──」
レブナが真っ青になった瞬間、エトロが椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。
「そんな馬鹿な話があるか! ロッシュが命懸けで遺してくれた黒幕への手掛かりだぞ! 第一、死を偽装する理由がない!」
「──私も、ロッシュの死体には違和感があった」
「師匠まで!」
エトロは悲痛な表情でレオハニーを振り返った。俺はゆっくりとエトロの手を握り、宥めながら椅子へ座らせる。
幾分か空気が和らいだところで、レオハニーは冷然と口を開いた。
「記憶を見た限り、トゥアハはロッシュに向けてダアトを発動していた。ダアトに触れたものは即座に赤い繊維に溶かされ、跡形もなくなるのが常だ。ノンカの里融解事件のように」
赤い目が、冷たく俺たちを射抜く。
「だが、大聖堂の地下ホールにはロッシュの死体があった。個人が判別できないほど、無惨に切り刻まれた死体が」
オラガイアにいたメンバーが鋭く息を呑む。次いで、研大が吐き捨てるように言った。
「殺人の常套手段だ。死体の顔を損壊させる事で、誰が死んだのか特定できなくする」
「ってことは、帰ってきたロッシュは……本物、なのか?」
「その可能性はある」
エトロの問いに、レオハニーは目を伏せながらはっきり答えた。
「嘘だよ」
鋭い否定の言葉に、全員の視線がレブナに集まる。
「そんな可能性、絶対ない。あたしが本物のロッシュ様を見間違えるわけない!」
彼女の怒鳴り声が狭い室内に反響する。それはまるで、レブナの隣でもう一人が叫んでいるかのようだった。
「お邪魔しまーす……」
「おかえり? いらっしゃい?」
「うーん、ただいま?」
シャルと首を傾げ合いながら、赤瓦の家屋へ入る。住む者がいないはずなのに、室内に埃は全く積もっていなかった。誰かが定期的に掃除しているのだろう。
この場所に来た回数は片手で数えるほどしかない。ダウバリフに挨拶した日と、シャルの引越しの荷物を何度か取りに来た日だけだ。だというのに、家具の配置や、壁にかけられた小さな絵画を見ていると、妙な懐かしさが喉の辺りをくすぐった。
「へぇ、今の家ってこんな感じなのか!」
元建築士の研大が内装に目を輝かせ、手のひらでペチペチと柱を叩いている。玄関では、武器棚の前で他の旧人類があれこれと議論を交わしていた。ヨルドの里にも導入したいようだ。
バルド村の面々はそんな旧人類の姿にドン引きしつつ、リビングのテーブルを囲うように屯した。
シャルは目を輝かせながら大所帯を見回した後、ハッと飛び跳ねながらキッチンへ駆けた。
「あ! お客さんにお茶入れるし!」
「もう茶葉腐ってんじゃないか?」
「茶葉ならこっちにあるぞ」
ぼやきながら俺が追いかけ、その後ろからハインキーが歩いてくる。ハインキーの太い手には、ヨルドの里から持ってきた野生のハーブ袋が握られていた。
キッチンが狭いので、大柄なハインキーには早々に席に戻ってもらい、俺とシャルでお茶の準備を始める。途中、ハーブティーに拘りのあるミッサが作業の拙さに焦ったくなって、俺の首根っこを掴んでキッチンから追い出した。今なら潜水艦の操縦席から蹴落とされたメルクの気持ちが分かる。俺の場合、蹴られなかっただけ有情だろう。
不意に、玄関の方から控えめなノックがした。
賑やかだった室内は水を打ったように静まり返る。俺は足音を殺しながら素早くドアへ向かった。ついでに、玄関前にいる旧人類たちを、玄関から見えない奥へ向かわせる。
手のひら全体で押すように薄くドアを開けると、外にはフードを目深に被った女性がいた。胸元にはトレードマークである花冠がある。レブナだ。
今度は大きくドアを開けると、レブナは猫のように家の中へ飛び込んだ。俺は彼女の張り詰めた気配に動揺しつつ、不自然にならない速度でドアを閉めた。
「外に誰かいる?」
レブナが声を顰めて聞いてくる。俺は困惑しながらも『瞋恚』を発動し、壁越しに外の魂のオーラを観察した。ドラゴンのオーラは遠目に見えるが、ネフィリムのものは見つからない。人間の魂は全てエラムラの里の中だ。
「誰もいない」
「よかった」
「誰かに追われてるのか?」
「それも詳しく説明する」
レブナはフードを下ろして、ようやく室内の面々に気づいて驚いた。
「れ、レオハニー様!? しかも三竦みの人までいるじゃん!」
これなら、とレブナは一人で期待を膨らませた。そして壁際に集まっていた初対面の旧人類たちを見つけ、険しい表情になる。
「そっちの人たち、衛兵から事情は聞いてるよ。でもエラムラの機密とか大事な話をするから、できれば席を外して欲しいな」
誰でも歓迎しがちなレブナにしては、珍しい対応だ。
俺はちらりと研大たちの様子を確認した。彼らも話を聞きたそうにしていたが、それ以上に、素性を明かして良いか躊躇っているようだ。
レオハニーは彼らの様子に小さく嘆息すると、寄りかかっていた壁から起き上がった。
「レブナ、そう警戒しなくていい。彼らは私たちの仲間だ」
「仲間? 途中で拾ったんじゃないの?」
遠回しな了承を得られた研大は、さっきまでの引け腰が嘘のように、にこやかにレブナへ話しかけた。
「はじめまして、レブナさん。俺たちは仮想世界……機械仕掛けの世界からきたんです」
「へぇ、機械仕掛けの……機械仕掛けの世界!?」
綺麗な二度見をするレブナに研大は苦笑する。俺たちから機械仕掛けの世界は新人類に憎まれている、と散々聞かされていた研大にとって、レブナの反応は少し予想外だったのかもしれない。
俺は咳払いをすると、固まってしまったレブナの背中を叩いた。
「まずは俺たちから報告した方が話が早いと思う。座って話そう」
・・・───・・・
俺たちの報告を聞いた後、レブナは大量のお茶をがぶ飲みして混乱を落ち着けた。それからようやく、エラムラの里で起きたことを話してくれた。
昨日の夜、死んだはずのロッシュが突然エラムラの里に現れた。
ロッシュがオラガイアで死亡した事は、すでにエラムラの民へ公表してある。俺たちがヨルドの里に向かったその日のうちにハウラが決断したそうだ。
それが幸か不幸か、ロッシュが偽物か否かという火種となってしまった。
ハウラとレブナはその男が偽物であると言い張ったが、民は本物だと反論した。しかも変に勘ぐった里の住人から「ハウラはエラムラの最高権力を独占するために、ロッシュが死んだと嘘をついたのではないか」とあらぬ疑いをかけた。
これ以上の混乱を避けるため、レブナはひとまずハウラとロッシュを引き離し、それぞれ薄明の塔とギルド長室へ軟禁するよう提案した。二人が了承してくれたおかげで、なんとか最悪の事態は避けられたものの、事態は膠着状態のままだ。
偽物だと証明する方法はまだ見つかっていない。住人たちも、本物か偽物かで意見が二分されており、長く放っておけば内紛になりかねない緊迫した状況なのだそうだ。
「あたしの部下のほとんどは偽物だって思ってる。ロッシュ様と直接話す機会も多かったから、すぐに違和感に気づけたんだと思う」
「逆に、ロッシュと滅多に話したことがない人は見破れないよな」
「うん。それと、ロッシュ様が死んだって認めたくないって人も、結構いるんじゃないかな……」
レブナの声が尻すぼみになると、室内も重苦しい静寂に沈んだ。
エラムラの民にとってロッシュの存在は大きかった。エラムラ防衛戦で、ロッシュが加勢した途端に前線を持ち直したほど、ロッシュはエラムラの民の心の拠り所だった。
オラガイアの墜落、ディアノックスの襲撃、里長の突然の訃報。度重なる不幸で、民の心は疲弊していた。そこに、自分たちがよく知る救世主が帰ってきたとあれば、飛びつきたくなるのも仕方がない。
しばしの間、議論が停滞する。沈黙に耐えかねたアンリが、眉間を押さえながら溜息をついた。
「人は信じたいものを信じるからね。それを否定されると、余計に執着してしまう。対応は慎重にしないと」
「となると、情報だ。情報が欲しい」
研大の言葉に俺は頷き、レブナへ猫背気味に問いかけた。
「レブナはそいつと話したのか? 今までどこにいたとか、どうやって来たとか」
「え、えへへ……初対面で殺そうとしたから、接触禁止になっちゃった。代わりに部下が応対してくれたよ」
レブナの部下が聞き出した情報によれば、偽ロッシュはオラガイアで重傷を負った後、トゥアハや憲兵隊に救助され、リデルゴア国で治療を受けていたらしい。だからエラムラに帰還するのが遅れてしまったのだと語った。
遺品の鈴から最期の記憶を見た俺たちからすれば真っ赤な嘘だ。だが、記憶を見ていない者からすれば、訃報を知らせた俺たちの方が嘘つきに見えるかもしれない。
「ちなみに、ロッシュの菌糸能力はどうなんだ?」
「本物と同じ『響音』だよ。模様の形までそっくりそのまま。民の前で能力を使ってみせたけど、やっぱり本物と同じだった。ロッシュ様が狩人に支給してた木製の鈴が呼応してたから」
つまり、偽ロッシュは外見だけでなく菌糸能力までコピーしているということだ。
「俺とシャルなら、魂のオーラで見分けがつく。それで証明するってのはどうだ?」
「効果はあると思う。ただ、リョーホとハウラ様って仲が良いことで有名だし、シャルちゃんは……エラムラを憎んでるんじゃないかって思われてるから」
「つまり、俺たちがハウラに贔屓してるって思われるかもしれないんだな?」
本音を探り当てると、レブナは弱々しく頷いた。
「魂が見えるのはシャルちゃんとリョーホだけでしょ? だから口裏を合わせたんじゃないかって、納得しない人も出てくると思う。偽ロッシュならそれぐらいの反論はする」
「反論が来ると分かっているのなら、それを叩き潰す新たな証拠を用意すべきだ。違うか?」
クライヴが厳しい面持ちで詰めると、レブナは鼻先に皺を刻みながら睨み返した。だが反駁することなく、悔しげに手元を睨みつける。オラガイア同盟を結んだとはいえ、やはりレブナもスキュリア陣営に対する嫌悪感が拭えないようだ。
再びの沈黙が降りた後、ハインキーが太い手をひらりと持ち上げた。
「嫌な想像をしてしまったんだが、いいか?」
「どんな?」
俺が促すと、ハインキーは口角を大きく下げながら続けた。
「リョーホたちは、ロッシュが遺した鈴の記憶を見て死んだと断定したんだよな。だが、記憶を見ていない俺たちにとっては、偽ロッシュの証言は矛盾してないんだよ」
ハインキーは腕を組み、声を一層低くした。
「こうは考えられないか? オラガイアにあった鈴が、死を偽装するための偽物だったんじゃないかって」
「そ──」
レブナが真っ青になった瞬間、エトロが椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。
「そんな馬鹿な話があるか! ロッシュが命懸けで遺してくれた黒幕への手掛かりだぞ! 第一、死を偽装する理由がない!」
「──私も、ロッシュの死体には違和感があった」
「師匠まで!」
エトロは悲痛な表情でレオハニーを振り返った。俺はゆっくりとエトロの手を握り、宥めながら椅子へ座らせる。
幾分か空気が和らいだところで、レオハニーは冷然と口を開いた。
「記憶を見た限り、トゥアハはロッシュに向けてダアトを発動していた。ダアトに触れたものは即座に赤い繊維に溶かされ、跡形もなくなるのが常だ。ノンカの里融解事件のように」
赤い目が、冷たく俺たちを射抜く。
「だが、大聖堂の地下ホールにはロッシュの死体があった。個人が判別できないほど、無惨に切り刻まれた死体が」
オラガイアにいたメンバーが鋭く息を呑む。次いで、研大が吐き捨てるように言った。
「殺人の常套手段だ。死体の顔を損壊させる事で、誰が死んだのか特定できなくする」
「ってことは、帰ってきたロッシュは……本物、なのか?」
「その可能性はある」
エトロの問いに、レオハニーは目を伏せながらはっきり答えた。
「嘘だよ」
鋭い否定の言葉に、全員の視線がレブナに集まる。
「そんな可能性、絶対ない。あたしが本物のロッシュ様を見間違えるわけない!」
彼女の怒鳴り声が狭い室内に反響する。それはまるで、レブナの隣でもう一人が叫んでいるかのようだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる