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束の間の休息と新たな出会い

これからどうする?

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 ここに来て、4日が経った。

 前世を覚醒してからの冬華はますます力が使えるようになっていた。それまでは控えめな彼女の性格故かあまり使わなかった力も、静として目覚めて増幅されたようだ。潜在意識の現れ方が顕著だった。彼女自身、持て余しているところもあった。今までは直接触れなければいけなかったモノへの働き掛けも、離れた場所から遠隔操作が行えるようになっていた。

 鷲は興俄が欲している力の偉大さを痛感した。あの人が持っている人心掌握術と彼女の力を統合させれば、この世界さえ手に入るのだろうと思った。だが、彼女はそれを望んではいない。

 元々人間は、脳と肉体の制約によって物質界しか知覚できない。日常で意識できるのは三次元の空間までだ。しかし、彼女にはそれ以上のものが見えるらしい。彼女は自分自身の存在を粒子レベルまで落とし込み、無意識の世界に働きかける。他の人が見えない何かが見えるし、感じられる。お互いの波動を感じ取り、働きかけることも可能なのだ。

 冬華は思う。昨年の今頃は夏休みを満喫していた。補習があるから学校に行って、ともちゃんやゆかりんとくだらないことで笑って騒いでいた。たった一年前の事なのに、ものすごく昔のように思えた。

「でもさ。どうしてみんな同じ高校にいるんだろう。普通の公立高校だよ。なんかこう、歴史上の人物が集まるなら、東京の有名私立校とか超難関校とかだと思った。年が近いのもすごいよね」

 ゆかりんが言うと、

「もしも亡くなった人に魂があったとしたら、その思いが通じたんだと思うよ。広い宇宙の中に彷徨っていた魂達が、いつかまた同じ時代に会おうって願っていたんじゃない? 僕はその人が本当に必要としているメッセージは、本人の意図しないところでダイレクトに受け取っている気がするんだ。ほら、ふと耳にした全く知らない歌の歌詞が突き刺さったり、何気なく見た動画で誰かが言った言葉が、妙に心に残ったりするみたいな。きっと僕達も何かに引き寄せられて集まったんだろうね」
 鷲が答える。

「どこで会うかじゃなくて、誰と会うかが大事だったんだよ。だいたい私、どんなに頑張っても有名私立校や超難関校には絶対入学できないし」
 冬華も苦笑いした。

 ゆかりんが『ああそうだ』と思い出したように口を開いた。
「しばらくはおじいちゃんの所にいるって言ったから、みんなも遠慮しないでここにいて良いからね。おじいちゃんたちも喜んでいるし」
「ありがとう。そう言えば、御堂さんの御家族は心配してるんじゃない? 受験生だし、補習だって一度も行ってないよね」
 冬華が尋ねる。

「俺は進学せず、店を継ぐって言っているから大丈夫だ」
「その時は私もお店を手伝うよ」
 すかさずゆかりんも答えた。

「二人とも、まるで新婚夫婦みたいだね」
 冬華がにやりと笑うと
『えっ』
 御堂とゆかりんは顔を見合わせた。そして、
「もう冬華ったら、いきなり何を言い出すの!」
 ゆかりんが顔を赤らめて部屋を出て行くと、御堂も彼女を追いかけた。

「鷲くんは大丈夫なの? 夏休みに家族と会ったりしないの?」 
「姉には友達と旅行するからって伝えてる。もともと夏休みだからって両親が日本に帰ってくる予定もなかったし」
「そっか。それにしても、これからどうする? いくら良いと言われても、いつまでもここにお邪魔するわけにもいかないよね」
「そうだよね。泊まれるだけでもありがたいのに、三食ご馳走になっているわけだし。かと言って高校生が長期滞在できる場所もお金もない。戻ったところで、あの人と戦わなきゃいけない」

 ふうと二人が溜息をつくと、
「鷲、ちょっと買い物に行ってくれよ」
 御堂が彼を呼んだ。

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