初恋のあなたに、二度目の恋を

maricaみかん

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2話 初めての恋

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 俺はミネルバさんの空間魔法を見てから、そのことばかりが頭に浮かんでいた。
 あんなにきれいな魔法は見たことがない。俺も同じものを使ってみたい。できることならば、もっときれいな魔法を使えるところまで行きたい。
 空間魔法の使い方も、その性能もまだ何一つとしてわからない。ただ1つの手がかりが、複合魔法を重ねることだ。
 俺が使える4属性の合成では足りないらしいが、まだ5属性の合成には麓にすら立っていないと感じる。
 何もかもが遠い先にあるとわかるが、だからこそ俺は全力を尽くすことが出来ていた。
 脇目もふらずに走り抜くくらいでないと、きっと空間魔法にはたどり着けない。そう思えたから、他のことに気を取られてなどいられなかった。

 それから、何日かのあいだ複合魔法の属性を増やすことに注力して、5属性を掛け合わせることに成功した。
 それでも、空間魔法にはまるで近づけているような手応えがなかった。もしかしたら、俺は何かを間違えているのかもしれない。
 今のままただ複合魔法を練習していて、空間魔法に本当にたどり着けるのか。そんな疑問が浮かび上がってきた。
 だが、俺には空間魔法を教えてくれる知り合いなどいない。空間魔法を手取り足取り教えてもらいたい訳では無いが、まるで砂をつかむような今の感覚は少しつらかった。

 これまで、魔法で俺ができなかったことはほとんどない。あったとしても、すぐに手が届くと感じられた。
 俺は初めて、魔法に関わる中で苦しさを感じていた。それでも、空間魔法を諦めるという考えは少しもなかった。
 あの光景にどうしても憧れていたのだ。手を伸ばし続けていたかったのだ。
 だが、これまでのようにがむしゃらに突き進むという考えから少し変わっていた。
 誰かの手助けがあった方がいい。先達の知識を利用できるかどうかで、俺の得られる成果はずいぶんと変わるだろう。
 ただ、俺はこれまでほとんど手探りで魔法を覚えてきた。アベルという友達と意見を交換していたが、アベルに魔法を教わってきたわけではない。
 誰かから教わることが出来ないとしても、授業で使う資料のようなものがあるだけでも、だいぶ違うとは思うのだが。
 全くわからないことを一人で考えていても埒が明かないので、アベルに尋ねてみることにする。

 アベルはすぐに見つかった。のんびりとしている様子だ。こちらに気がつくと手を振ってきたので、俺も振り返す。

「アベル、今空いているか? 少し聞きたいことがあるんだが」

「かまわないよ。それで、一体何を質問したいの?」

「ああ。空間魔法についてなんだが、5属性を複合しただけでは全く手応えがなかったからな。なにか別のものが必要じゃないかと考えているんだ」

「ルイス、もう5属性の複合に成功したの!? やっぱり君はとんでもないね。僕では一生かけても追いつけそうにないよ」

 アベルはなにか暗い表情でそんな事を言う。きっと悩みがあるのだろうが、俺に追いつけないなどと言うのは理解できない。
 俺は物心ついたときからずっと魔法だけに専念していたのだ。
 だから、学園に入ってから本格的に魔法の勉強を始めたらしいアベルなら、俺に追いつくことだって不可能とは思えない。
 俺がそんなことをしていれば、この学園に入ることすら出来なかっただろうからな。

「アベルの才能と努力ならば不可能ではないはずだぞ。まあ、無理強いすることは出来ないが」

「君は自分がどれだけ特別なのかを分かっていないんだよ。この学園でたった1人しかいない存在なんだ、君は」

 この学園にたった1人と言うならば、主席であるうえに唯一空間魔法を使えるミネルバさんがふさわしいと思うが。
 アベルはそこで説明を止めてしまったので、俺には何がなんだかわからない。
 俺が魔法で特別な才能を持っていると言うならば、せいぜい利用したいものなのだが。
 あの空間魔法を使えるようになれるのならば、どんな手段だってかまわない。もちろん、自分の手で掴み取れることが一番だ。
 ただ、そんなこだわりなどどうでも良くなるほどに、あの魔法は魅力的だった。
 非道にまで堕ちるつもりはないとはいえ、手段に対するこだわりは捨てていいと思える。

「そういうものなのか。その特別で、俺は空間魔法に近づけると思うか?」

「やっぱりわからないんだね。ルイスらしいや。悪いけど、僕には空間魔法のことはわからないよ。上級生なら知っている可能性はあるけれど、君にそんな伝手はないでしょ?」

 アベルの言っていることは正しい。先輩にも知り合いはいるにはいるが、そんな質問をして答えてくれるかは怪しいし、空間魔法を使える人はいないはずだ。
 そうなると、俺が頼れるのはミヤビ先生だけか。ミネルバさんとは親しいわけではないからな。

「そうだな。なら、先生に聞きに行くことにするよ」

「がんばってね、ルイス。君なら空間魔法を使うことも夢じゃないよ」

 俺以外ならば夢だというように聞こえるが、空間魔法はこの学園の生徒の目標じゃなかったのか?
 まあいい。実際がどうであれ、俺は空間魔法を使いこなしてみせる。そして、あの光景以上のものを作り出してやるのだ。

 アベルと別れた俺は、ミヤビ先生の元へと向かう。ミヤビ先生は優しくて、俺の質問には何でも答えてくれていた。
 だから、きっと空間魔法についても教えてくれると考えていたが、そうはならなかった。
 ミヤビ先生は何故か恥ずかしそうに空間魔法を使わない旨を言ってきた。

「ルイスくんは空間魔法をつかいたいんですね。私に空間魔法が使えないわけではありませんが、人に見せるのは抵抗があって……」

「なら、使い方の手がかりを教えていただけませんか?」

「ルイスくんになら教えてあげたいんですけど、授業が追いついていない人には教えてはいけないことになっているんです。申し訳ありません」

「他の人に質問してもダメなんですか?」

「生徒にはその制限はありませんが、そもそも空間魔法を使える人は希少ですから」

「そうなんですね。ミヤビ先生、ありがとうございました」

「いえいえ。がんばってくださいね。ルイスくんなら、きっとできます」

 ミヤビ先生から空間魔法の手がかりを得ることは出来なかった。なので、俺は唯一の希望であるミネルバさんに話しかけることを決めた。
 ミネルバさんは全く親しくない俺に空間魔法を教えてくれるだろうか。
 不安を感じながらも、1人でいるミネルバさんを見つけたので声をかけてみる。

「ミネルバさん、いきなりで申し訳ないが、頼みがあるんだ。聞いてくれるか」

「ルイスさん? 一体何の用ですか? お付き合いしたいというお話なら、お断りさせていただきます」

「いや、そういうのじゃない。空間魔法を俺に見せてもらえないかと思ってな」

「なるほど。ルイスさんでしたら構いませんよ。じっくりと見ていってください」

 ミネルバさんはなぜか微笑みながら俺の提案を承諾する。
 そしてミネルバさんは空間魔法を見せてくれる。
 相変わらずの美しさだが、それ以外にも魔力の流れがとても整っているように見えた。
 前回はただ目に見える美しさばかりにとらわれていたが、こういうところも美しい魔法なのだな。
 改めて空間魔法のすばらしさを感じて、俺は再びの感動に浸っていた。

「やはり美しい。どれだけでも見ていたいほどだ」

「え、えっ? そんなことを言われても困ってしまいます……」

「なぜだ? こんなに美しい魔法なんだから、誇ればいいじゃないか」

「あ、そちらですか。空間魔法はどれだけでも美しくできる魔法です。ルイスさんも、空間魔法を使えるようになったなら、理想の光景を作り出してみてはいかがですか?」

 そちらということはもう一つの意味でもあったのか? まあ、どうでもいいか。意図は伝わっているのだし。
 それよりも大切なことは、空間魔法で生み出される光景は制御できるものだということだ。
 ならば、俺の努力次第で今の光景よりも美しいものを生み出すことができる。
 もともと使いたかった空間魔法に対する熱意が、更に上昇していくのを感じていた。

 空間魔法をミネルバさんが見せてくれたおかげでわかったことがある。やはり複合魔法の属性数を増やすだけではダメだということだ。
 まだどうすればいいのかは分からないが、その方針ではダメだとわかっただけでも大きい。
 なんというか、複合魔法とは違う方法で属性を融合させているような気がする。
 その方法は何なのか、これから探っていくことになるだろうな。
 ああ、楽しみだ。魔法の新しい可能性を思いつけて、更に空間魔法にまで近づける。
 ミネルバさんに頼んでよかった。この人は本当に最高だ。

「そうだな。そうなったら、ミネルバさんにも見てもらいたい。ミネルバさんのおかげで、俺は空間魔法のすばらしさを知ることが出来たんだからな」

「それは何よりです。ルイスさんが空間魔法を使う日のこと、楽しみに待っていますよ」

「ああ、待っていてくれ。どうしても道筋がつかめなかったら、ミネルバさんに質問をするかもしれないな」

「歓迎しますよ。ですが、まず自分で頑張ってみる姿勢は好ましいです。やはり、ルイスさんは素晴らしい魔法使いです」

 やはりと言ったか。主席のミネルバさんが、俺の魔法の何を評価していたのだろう。
 まあ、今はわからなくてもいい。それよりも、空間魔法をどう使えるようになるかだ。
 今までの複合魔法ではダメだということがわかったが、ならばどういう形で属性を重ね合わせればいいのだろう。
 それにしても、ミネルバさんは最高だな。こんなに素晴らしい魔法を使えて、俺にも見せてくれる。
 ミネルバさんのことを、俺はもうずいぶんと好きになっていた。あれ程の魔法が使える人が素敵でないわけがない。

「主席のミネルバさんに褒められるとは思っていなかったよ。俺は空間魔法を使えるようになるのは、まだまだ未来の話だろうからな」

「ルイスさん以外の学園の生徒とルイスさんは違いますから。それだけで、ルイスさんの素晴らしさは証明されているようなものです」

「よくわからないが、ありがとう。それで、空間魔法というのは何度でも使えるものなのか?」

「人によるとは思いますけど、ルイスさんならばきっと何度も使えますよ。もちろん私も使えます」

「なら、もう一度見せてもらってもかまわないか? 見られる機会があるのならば、何度でも見たいからな」

「構いません。ルイスさんは、本当に魔法が好きなんですね。それがよく伝わってきます」

 俺が魔法を好きなことなど当然だ。それだけは、誰にも負けるつもりはない。
 たとえミネルバさんが相手だとしても、この思いだけは勝っていると確信できた。

 もう一度ミネルバさんは空間魔法を見せてくれる。相変わらず美しいが、それだけではない。
 複数の属性の魔力が調和を取れている様子が見て取れて、空間魔法のすばらしさを改めて確認していた。
 なるほど。ここまでバランスよく属性をまとめなければいけないのか。
 それは相当な技術が必要であることは疑いようがない。ミネルバさんも、俺のように魔法を使うために努力してきたことがよくわかった。
 ミネルバさんは空間魔法を解除すると、俺に質問を投げかけてくる。

「これまで空間魔法を見てきた中で、なにか分かったことはありますか?」

「複合魔法とは全く違う属性のまとめ方が必要だということはよくわかった。俺は5属性を複合できるが、そんなことにはなんの意味もないのかもしれない」

「意味がないことはありませんよ。しかし、5属性の複合だなんて、ルイスさんは数日で4属性から5属性を使えるようになったんですね。素晴らしいです」

「ありがとう。だが、俺の目標は空間魔法だ。それを使えるようになるまで、全力で突き進んでみせる」

「なら、もう一度空間魔法を見ていきますか? ルイスさんだから、特別ですよ」

 なぜかは分からないが、俺は特別らしい。だが、それで空間魔法を何度も見られるのだから、ありがたい話だ。
 そして空間魔法をもう一度見せてもらったのだが、今回は感動するばかりではなく、余裕を持って観察することが出来た。
 その中で、不意にミネルバさんの表情が目についた。
 とても魔法を使うことが楽しいという顔をしていて、全身から幸せを感じるようだった。
 俺も魔法を使うことが何よりも楽しいが、ミネルバさんもきっと同じなんだ。そう感じた。

 それから、ミネルバさんに礼を言って自分の部屋へと帰っていった。
 その中で、俺の頭からミネルバさんの魔法を使っている時の顔が離れなくなっていた。
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