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1章 レックスの道
4話 救うことの責任
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とりあえず、今のところは俺の方針はうまく行っているはずだ。だからといって、まだ油断はできない。原作開始までで考えても、最低でも一年はあるんだ。たったの数歩で、長い道のりの途中だと忘れる訳にはいかない。
それに、俺としては、ただ俺ひとりが無事であれば良いとは思わない。メイドのアリアには、ちゃんと生きていてほしいのだから。そういえば、もうひとり気になる子がいたな。
「あの兎の子、ちゃんと無事だろうか。俺に隠れてこっそり殺されていたりしないよな?」
ブラック家のことだから、俺に治療されたことを誇りに思って死ねとか言いかねない。流石に、心配のし過ぎか? だが、気になったからには確認したい。少しくらいは、怪しまれるかもしれないが。それでも、俺の成果を確認したいんだ。後は、単純に知っている子が死ぬのは嫌だ。
我慢できずに、獣人の子の様子を見に行くことにした。前に案内された別棟らしき場所に向かうと、すぐに見つかった。真っ白だから、目立つんだよな。
「ほら、そこのやつ! これを運べ!」
「わ、分かりましたっ、すぐに運びますっ」
雑用をさせられている様子ではあるが、生きてはいる。少しだけ、ほっとした。
「とりあえず、元気そうではあるな。流石に、奴隷を解放なんて、少なくとも今はできない。悲しいが、命をかけたところで、無駄死にで終わるだろうな」
様子を見たかっただけなので、すぐに戻った。できれば、あの子には笑顔でいてほしい。だが、ひとりだけ特別扱いは難しいし、獣人全てを解放するのは不可能だと言ってもいいだろう。
仕方がないので、その日はずっと魔法の訓練をしていた。そういえば、俺の闇属性は他の属性と重ねて使えない。光と無も。だけど、残りの五属性は複数を組み合わせられるんだよな。そういう研究も、きっと面白いのだろうな。まあ、俺は闇属性だから、別人にならなきゃ何もできないが。
魔法について考えるのは、本当に楽しい。前世では全く扱えなかったし、そもそも存在しなかった。だからこそあった憧れが、形になったかのような気分だ。だから、熱中できるんだろうな。
しばらく魔法の訓練を続けていると、ノックされる。そして、アリアがやってきた。
「レックス様、夕飯の用意ができました。いったん、お休みください」
「ああ、分かった。すぐに食べるよ」
こうして誰かに止められないと、一日中魔法を触っていそうだな。そういう意味でも、アリアの存在はありがたいことだ。
こうして一日が終わり、また次の日も、兎耳の子の様子を見に行っていた。なんというか、気づいたら死んでいそうな不安がぬぐい去れなかったんだ。
だけど、事故が起きる様子もないし、殺されている様子もなかった。少しくらいは、安心しても良いのだろうか。
「今日も、あの子は無事。なら、最低限、目に見えるところに傷がつくような扱いはされていないな」
そんな風に過ごしていると、父が獣人の様子を見に来ていたようだ。ばったり出会ってしまう。少し焦るが、不審そうな顔はされていない。なら、大丈夫か?
「レックス、そんなにどの奴隷が気になるか? なら、メイドとしてそばに置けば良い。愛玩動物くらいにはなるだろう」
「分かりました、父さん。じゃあ、もらっていきますね」
愛玩動物だという物言いには腹が立つが、反論したら俺どころか、兎の子だって危ないだろう。それを考えると、顔をしかめる事すらできなかった。
俺のメイドになる子は、俺の部屋に連れてこられていた。その中で、軽くあいさつのような事をする。
「き、今日からレックス様に、仕えれば良いんですか……?」
「そうだ。さあ、名乗れ。俺の名は、当然知っているよな。レックスだ」
「う、ウェイスト、です……よろしく、お願いします……」
ウェイスト。ゴミという意味。たまたま被ったとは考えづらい。だって、獣人を奴隷として扱う家だぞ。ゴミなんて名付けても、少しもおかしくはない。
だから、ウェイストなんて名前は捨てさせたい。俺の自己満足に過ぎないのだとしても。だって、ゴミだぞ? 人をゴミと呼ぶだなんて、俺はゴメンだ。
「ウェイストなんて、誰かから与えられた名というのも気に入らないな。今日からお前は、ウェスと名乗れ」
「わ、分かりました。わたしは、ウェスです」
どうだろうか。受け入れられているのだろうか。無理難題だと思われているのだろうか。どちらにせよ、俺のわがままに付き合ってもらう。分かっているさ。所詮は自分を慰めるだけの、くだらない行為だって。
ウェスと名付けた後は、アリアにやったように、まずはちゃんとした衣装を着せる。同じような良い訳をして、同じように格好を整えさせた。
「こ、こんなキレイな格好をして、良いんですか……?」
「俺のメイドが汚らわしいと、俺まで汚れていると思われるだろ?」
本音では、とても可愛らしいと思っていた。兎の耳がピコピコしていたり、ちょっとオドオドしているところも。でも、表に出す訳にはいかない。獣人は、少なくともブラック家では被差別種族だ。それを分かっていて、好きだと言えない。俺は、弱いな。とにかく心が。
ろくな食べ物を食べていない様子だったから、ちゃんとしたものを食べさせたりもした。
「こ、これ、美味しいです。後で、お仕置きでもされるんですか……?」
「そんな下らない事はしない。俺は道具をちゃんと管理する人間なんだよ」
本当にウェスを軽んじていると思われたりしないだろうか。そうだとしても、せめて少しでも幸福を感じてくれていたら。全ての獣人奴隷は救えないにしても、せめて目の前のこの子だけでも。
ウェスが体調を崩している時に、闇魔法の侵食を活かして体調を整えたりもした。当然、真っ先に自分で実験をした。
「調子が悪いようだな。ほら、こっちに寄れ」
「わ、わざわざ、魔法まで使ってくださるんですか……?」
「言っただろ。俺は道具をちゃんと管理すると。手入れをするのは当然のことだ」
本当は、ウェスが苦しそうなのを見たくなかっただけだ。それでも、父や母に疑念を持たれる訳にはいかない。すでに、ウェスの右腕を癒やしたことでも違和感があるかもしれないのだから。軽率な行動だったかもしれないが、後悔はしていない。流石に、目の前で死にそうな子を見捨てる人には、なりたくなかった。
そんな日々を過ごしていると、少しずつ、ほんの少しずつだが笑顔をみせてくれるようになった。それが嬉しくて、もっと喜ばせたいと考えている俺がいた。
「ご、ご主人さま。わたし、捨てられないように、がんばりますからっ!」
「捨てたりしない。何度も言っているが、俺は道具をちゃんと管理するんだ」
いちど関わっておいて捨てたりしたら、この子は以前より酷い絶望に襲われるだろう。そんなこと、絶対にしない。させない。ウェスの笑顔を見たことで分かった。俺にとっては、もう大切な相手なんだってことが。
出会ったばかりの相手に、何をと思うかもしれない。でも、俺の味方かもしれないと思える相手は、アリアとウェスだけ。周りが敵だらけと思う中で、数少ない憩いの時間をくれた子なんだ。
それからも、同じような日々を過ごしていた。アリアにも世話をされて、ウェスにも世話をされて。自分では何もできていない気がするが、楽しい日々だった。
「き、今日も、美味しいご飯とキレイな格好、ありがとうございます、ご主人さま」
「当たり前だ。俺は自分の道具を汚く使う人間じゃないんだよ」
「そ、それでも、ですっ。わ、わたし、ご主人さまのメイドになれて、良かったですっ」
ウェスの言葉で、俺はニヤけそうな顔を抑えることに必死になっていた。演技を忘れそうなほどに、嬉しかったんだ。自分で手を尽くして助けた相手に、感謝されるという事実が。
俺は、悪人のふりをしたままでも、誰かを救えるかもしれない。そうして、主人公であるジュリオに殺されない未来を生み出せるかもしれない。
ウェスの喜びを引き出せた幸福を感じながらも、未来への希望を胸にできた俺だった。必ず、アリアとウェスとともに、最後まで生き延びてみせる。たとえ、敵に囲まれていたのだとしても。
それに、俺としては、ただ俺ひとりが無事であれば良いとは思わない。メイドのアリアには、ちゃんと生きていてほしいのだから。そういえば、もうひとり気になる子がいたな。
「あの兎の子、ちゃんと無事だろうか。俺に隠れてこっそり殺されていたりしないよな?」
ブラック家のことだから、俺に治療されたことを誇りに思って死ねとか言いかねない。流石に、心配のし過ぎか? だが、気になったからには確認したい。少しくらいは、怪しまれるかもしれないが。それでも、俺の成果を確認したいんだ。後は、単純に知っている子が死ぬのは嫌だ。
我慢できずに、獣人の子の様子を見に行くことにした。前に案内された別棟らしき場所に向かうと、すぐに見つかった。真っ白だから、目立つんだよな。
「ほら、そこのやつ! これを運べ!」
「わ、分かりましたっ、すぐに運びますっ」
雑用をさせられている様子ではあるが、生きてはいる。少しだけ、ほっとした。
「とりあえず、元気そうではあるな。流石に、奴隷を解放なんて、少なくとも今はできない。悲しいが、命をかけたところで、無駄死にで終わるだろうな」
様子を見たかっただけなので、すぐに戻った。できれば、あの子には笑顔でいてほしい。だが、ひとりだけ特別扱いは難しいし、獣人全てを解放するのは不可能だと言ってもいいだろう。
仕方がないので、その日はずっと魔法の訓練をしていた。そういえば、俺の闇属性は他の属性と重ねて使えない。光と無も。だけど、残りの五属性は複数を組み合わせられるんだよな。そういう研究も、きっと面白いのだろうな。まあ、俺は闇属性だから、別人にならなきゃ何もできないが。
魔法について考えるのは、本当に楽しい。前世では全く扱えなかったし、そもそも存在しなかった。だからこそあった憧れが、形になったかのような気分だ。だから、熱中できるんだろうな。
しばらく魔法の訓練を続けていると、ノックされる。そして、アリアがやってきた。
「レックス様、夕飯の用意ができました。いったん、お休みください」
「ああ、分かった。すぐに食べるよ」
こうして誰かに止められないと、一日中魔法を触っていそうだな。そういう意味でも、アリアの存在はありがたいことだ。
こうして一日が終わり、また次の日も、兎耳の子の様子を見に行っていた。なんというか、気づいたら死んでいそうな不安がぬぐい去れなかったんだ。
だけど、事故が起きる様子もないし、殺されている様子もなかった。少しくらいは、安心しても良いのだろうか。
「今日も、あの子は無事。なら、最低限、目に見えるところに傷がつくような扱いはされていないな」
そんな風に過ごしていると、父が獣人の様子を見に来ていたようだ。ばったり出会ってしまう。少し焦るが、不審そうな顔はされていない。なら、大丈夫か?
「レックス、そんなにどの奴隷が気になるか? なら、メイドとしてそばに置けば良い。愛玩動物くらいにはなるだろう」
「分かりました、父さん。じゃあ、もらっていきますね」
愛玩動物だという物言いには腹が立つが、反論したら俺どころか、兎の子だって危ないだろう。それを考えると、顔をしかめる事すらできなかった。
俺のメイドになる子は、俺の部屋に連れてこられていた。その中で、軽くあいさつのような事をする。
「き、今日からレックス様に、仕えれば良いんですか……?」
「そうだ。さあ、名乗れ。俺の名は、当然知っているよな。レックスだ」
「う、ウェイスト、です……よろしく、お願いします……」
ウェイスト。ゴミという意味。たまたま被ったとは考えづらい。だって、獣人を奴隷として扱う家だぞ。ゴミなんて名付けても、少しもおかしくはない。
だから、ウェイストなんて名前は捨てさせたい。俺の自己満足に過ぎないのだとしても。だって、ゴミだぞ? 人をゴミと呼ぶだなんて、俺はゴメンだ。
「ウェイストなんて、誰かから与えられた名というのも気に入らないな。今日からお前は、ウェスと名乗れ」
「わ、分かりました。わたしは、ウェスです」
どうだろうか。受け入れられているのだろうか。無理難題だと思われているのだろうか。どちらにせよ、俺のわがままに付き合ってもらう。分かっているさ。所詮は自分を慰めるだけの、くだらない行為だって。
ウェスと名付けた後は、アリアにやったように、まずはちゃんとした衣装を着せる。同じような良い訳をして、同じように格好を整えさせた。
「こ、こんなキレイな格好をして、良いんですか……?」
「俺のメイドが汚らわしいと、俺まで汚れていると思われるだろ?」
本音では、とても可愛らしいと思っていた。兎の耳がピコピコしていたり、ちょっとオドオドしているところも。でも、表に出す訳にはいかない。獣人は、少なくともブラック家では被差別種族だ。それを分かっていて、好きだと言えない。俺は、弱いな。とにかく心が。
ろくな食べ物を食べていない様子だったから、ちゃんとしたものを食べさせたりもした。
「こ、これ、美味しいです。後で、お仕置きでもされるんですか……?」
「そんな下らない事はしない。俺は道具をちゃんと管理する人間なんだよ」
本当にウェスを軽んじていると思われたりしないだろうか。そうだとしても、せめて少しでも幸福を感じてくれていたら。全ての獣人奴隷は救えないにしても、せめて目の前のこの子だけでも。
ウェスが体調を崩している時に、闇魔法の侵食を活かして体調を整えたりもした。当然、真っ先に自分で実験をした。
「調子が悪いようだな。ほら、こっちに寄れ」
「わ、わざわざ、魔法まで使ってくださるんですか……?」
「言っただろ。俺は道具をちゃんと管理すると。手入れをするのは当然のことだ」
本当は、ウェスが苦しそうなのを見たくなかっただけだ。それでも、父や母に疑念を持たれる訳にはいかない。すでに、ウェスの右腕を癒やしたことでも違和感があるかもしれないのだから。軽率な行動だったかもしれないが、後悔はしていない。流石に、目の前で死にそうな子を見捨てる人には、なりたくなかった。
そんな日々を過ごしていると、少しずつ、ほんの少しずつだが笑顔をみせてくれるようになった。それが嬉しくて、もっと喜ばせたいと考えている俺がいた。
「ご、ご主人さま。わたし、捨てられないように、がんばりますからっ!」
「捨てたりしない。何度も言っているが、俺は道具をちゃんと管理するんだ」
いちど関わっておいて捨てたりしたら、この子は以前より酷い絶望に襲われるだろう。そんなこと、絶対にしない。させない。ウェスの笑顔を見たことで分かった。俺にとっては、もう大切な相手なんだってことが。
出会ったばかりの相手に、何をと思うかもしれない。でも、俺の味方かもしれないと思える相手は、アリアとウェスだけ。周りが敵だらけと思う中で、数少ない憩いの時間をくれた子なんだ。
それからも、同じような日々を過ごしていた。アリアにも世話をされて、ウェスにも世話をされて。自分では何もできていない気がするが、楽しい日々だった。
「き、今日も、美味しいご飯とキレイな格好、ありがとうございます、ご主人さま」
「当たり前だ。俺は自分の道具を汚く使う人間じゃないんだよ」
「そ、それでも、ですっ。わ、わたし、ご主人さまのメイドになれて、良かったですっ」
ウェスの言葉で、俺はニヤけそうな顔を抑えることに必死になっていた。演技を忘れそうなほどに、嬉しかったんだ。自分で手を尽くして助けた相手に、感謝されるという事実が。
俺は、悪人のふりをしたままでも、誰かを救えるかもしれない。そうして、主人公であるジュリオに殺されない未来を生み出せるかもしれない。
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