物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう

maricaみかん

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7章 戦いの道

235話 セルフィ・クリシュナ・レッドの我慢

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 私は、レックス君の先輩として、彼を大切に思う者として、彼のことばかり考えていたよ。きっと今だって、理解者は少ないはずだから。敵が多いはずだから。

 レックス君の境遇を思うと、胸の奥がキュッとするよ。締め付けられるような感覚が襲ってくるんだ。でも、私の感じているものなんて、きっと本人に比べたら大したものじゃないって思ってしまう。

 彼は、自分のお父さんを殺すことになった。しかも、命令されて。なんて大変なんだろう。いや、大変なんて言葉で片付けたら、失礼なくらいだよ。

 その上、混乱するであろうブラック家を任された。あの年なのに。苦難に苦難が重なり過ぎじゃないかな。話に聞くところによると、なにか失敗したって情報もあるし。

 ミーア様は、噂を抑えようとしているみたいだね。でも、何らかの意図が働いている気がするんだ。だから、レックス君には、まだまだつらいことが待っていると思う。

「レックス君は、大丈夫だろうか。苦しんでいたりしないだろうか」

 なんて、答えは明らかなんだけどね。苦しんでいるに決まっているよ。隣で慰めてあげられない事実に、拳を握りたくなっちゃう。

 私は、ほんとはそばに居たいよ。彼の涙を、受け止めてあげたいよ。同じ苦しみを抱えた仲間として、一番分かってあげられるはずだから。本当の自分を、隠さないといけない苦しみを。

 だけど、きっとダメなんだ。慰める以外のことだって、必要だから。レックス君の敵を打ち破る強さだって、必要なはずだから。

 そのために、今は力を蓄えておかないと。本当にレックス君が苦しんでいる時にこそ、力になるために。なんて、父親を殺す時が、一番苦しかったはずだよね。

 ごめんね。君の心を抱きしめてあげられなくて。私は、弱いよね。

「今もきっと、レックス君は困難に立ち向かっているのだろうね」

 だからこそ、歯を食いしばるだけじゃダメなんだ。分かっているけど、具体的な手段が思い浮かばない。泣きそうになるけど、我慢するよ。本当に泣きたいのは、レックス君のはずだから。

 私が傷ついている姿を見せたら、本当に苦しむのはレックス君なんだ。彼は、誰かの痛みを自分のことのように思える人だから。私は、堂々としているべきなんだよ。彼に、心配をかけないために。

 心から、歯がゆいよ。でも、胸に秘めておくね。レックス君のためだけに、私の感情をぶつけるために。いつか現れる、レックス君の敵に叩きつけるために。

「でも、私は何もしてあげられない。遠いよ、レックス君」

 少なくとも、今は。物理的に、手が届かないから。自分の立場が、悲しくなるね。うつむきたくなるくらい。でも、前を向くんだ。心に火を灯すために。

 立場も何もかも捨てられたら、楽なのにね。でも、レックス君は喜んでくれない。それが分かるからこそ、悩ましいんだ。

 私が自分を犠牲にして、喜んでくれる人じゃない。だからこそ、すべてを捨ててでも助けたいのにね。

「せめて、ここからでも支えてあげられたらな。そうできたら、素敵なはずなのに」

 でも、私には転移を可能にする力はない。遠くから手助けできるだけの魔法は、持っていないんだ。頭をかきむしりたくなっちゃうよね。でも、私にできることは、心配することだけ。

 きっといつか、彼を支えられる瞬間が来る。そう信じて、待つことしかできないんだよ。アストラ学園や実家を捨てるのは、簡単だよ。だけど、それで苦しむ相手がいる。一番救いたい人こそが。その矛盾を解決しない限り、どうにもならないんだ。

「カミラさんが、少しでもレックス君の力になっている。そう願うばかりだよ」

 カミラさんは、レックス君のそばに居るはずだから。ひねくれながらも、慈しむような心で見守っているはずだよ。

 私も、同じ立場だったのならな。才能を羨んだこともあるよ。でも、今は立場こそが羨ましいんだ。なんて、カミラさんにも、本人なりの苦しみがあるはずなのにね。

 少なくとも、私は三属性を使える。カミラさんは、雷だけ。だからこそ、私の方が客観的には恵まれているんだから。両親だって、悪人ではないからね。カミラさんは、違うのに。

 だから、私の考えは悪いことなんだろうね。反省すべきだと思うよ。でも、心は抑えられないんだ。レックス君を支えたい。その気持ちは、ウソじゃないから。

「私は、何をしているんだろう。立ち止まっているだけじゃないのかな」

 意味のあることができているとは、言い難いよね。ちょっと、唸ってしまうよ。でも、だからといって何も考えずに突き進むのは違う。レックス君に迷惑をかけることだけは、絶対に避けるべきなんだから。

 私は、レックス君を助けたいんだ。抱きしめてあげたいんだ。その気持ちを、偽物にしたくない。だからこそ、ちゃんと考えるべきなんだよ。がむしゃらなだけでは、何も解決しないんだから。

「カミラさんやレックス君と接していた時間が、懐かしいよ」

 もう、ずっと昔みたいに感じるよ。私が一番輝いていた頃なんだよね。目標を見つけて、大切な心も見つけて。毎日が充実していたよ。そんな日々を取り戻したいって思っちゃうのは、間違っていないよね。

 だからといって、連れ戻すことはできない。レックス君もカミラさんも、前に進もうとしているんだから。その邪魔は、しちゃいけないよね。

「でも、ここに居るだけでは何も変わらない。待っているだけでは、何も」

 そうだよね。だから、自分を超えたいんだ。自由を手に入れたいんだ。レックス君のために捨てたなんて、言わなくて良いように。

 私が幸せじゃないと、レックス君は悲しむだけだから。そんな優しさこそが、彼を傷つけているのに。口惜しいよね。大好きな人の不幸を、ただ見ているだけなのは。

「手紙なんか送ったところで、邪魔になるだけだろうし」

 私のレッド家との関係を、ほのめかすことになっちゃう。現実は違うのに。だからこそ、軽率な行動はできないよ。本当は、私の気持ちを伝えたいんだけどね。彼の邪魔になるのなら、私の思いなんて後回し。それが正しいはずだよ。

 でも、つらいよね。何もできないのは。いつまで、私は我慢できるのかな。あるいは、ほんの少しだけだったりして。

「遠くから手助けするのは、難しすぎるよ」

 私の力が足りないのか、あるいは環境が悪いのか。何かのせいにしたって、状況は解決しないんだけどね。

「でも、これ以上レックス君を苦しめたくないよ。もう、十分悲しんだはずなんだから」

 父を自分の手で殺すこと。それ以上に悲しいことなんて、ほとんどないはずだよ。だから、レックス君には幸せになってほしい。なのに、ブラック家を取り巻く状況は、ちっとも良くならないんだ。本音では、壁でも殴りたいくらい。

「きっと、私の苦しみはレックス君より少ない。同じだと思っていたけど、違うんだ」

 私とレックス君は、周囲に理解者が居ないという意味では、同じだったんだ。でも、私の苦しみなんて、軽いものだった。そう、思い知らされたんだ。

 ねえ、レックス君、君は、私と出会ってよかったと思ってくれているのかな。なんて、聞くまでもないか。だから、大好きなんだから。

「だからこそ、私にもレックス君が必要なんだよ。誰かを支える喜びは、レックス君が教えてくれたものだから」

 私は、私の気持ちのために、レックス君を支えたい。わがままだよね。でも、それが私なんだ。ごめんね、レックス君。バカな私を、許してほしいな。

「きっと、これから先も、レックス君には苦難が待っているはずだよ」

 きっと、なんてウソだよね。間違いなく、だと思う。だからこそ、ただ見ていたくないんだ。私が、嫌だから。

「なら、これ以上苦しみを見過ごしたくない」

 ごめんね、レックス君、いつか私は、私の気持ちを優先しちゃう。でも、その分の幸せは、きっとあげるから。それだけは、約束するよ。

「レックス君が傷ついた時には、きっと駆けつけるからね」

 そして、抱きしめてあげるね。温めてあげるね。包みこんであげるね。

 待っていてね、レックス君。
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