物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう

maricaみかん

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11章 示すべき価値

369話 刻まれた傷跡

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 カミラと俺は、また戦うことになった。カミラは剣をこちらに突きつけてきており、鋭い視線を感じる。今度こそ、俺に勝つのだというように。

 俺としては、勝っても負けても嬉しいとは思う。勝つのが嬉しいのは言うまでもないし、負けたとしてもカミラの成長を喜べると思う。まあ、もちろん勝つために全力を尽くすが。それこそ、殺すくらいのつもりで。

 まあ、万が一にも死なせないように、しっかりと対策はしているが。カミラに贈ったチョーカーがあれば、大抵の傷は治せる。そういう魔法を込めている。防御魔法だってあるのだから、まず大丈夫だろうな。

 だから、安心して全力をぶつけられる。まあ、カミラの実力だけでも、俺に十分に対抗できているのだが。

「さあ、準備は良いわね? 始めましょうか、バカ弟」

 カミラの声は、淡々としているのに熱を感じる。よほど、今回の戦いに気合いを入れているのだろう。前に勝った時には、次はミーアかラナの傍で戦えと言われたんだよな。大怪我をするからと。

 きっと、今回挑んでくるからには、何かしらの手札を用意しているのだろう。楽しみでもあり、怖くもあるな。流石に、痛いのは嫌だからな。まあ、やれるだけのことをやるだけだ。それは変わらない。

「ああ、もちろんだ。今回だって、俺が勝って見せる」
「そのうぬぼれ、後悔に変えてやるわ。消えない傷を刻み込んであげる」

 じっとこちらを見ながら、そう告げられる。カミラの目には、強い執着のようなものが見える気がする。まあ、これまでずっと俺が勝ち続けてきたからな。今度こそ、カミラが勝ちたいのだろう。

 とはいえ、簡単に負けてやる気はない。俺だって、全身全霊をかける。そうでなくては、失礼だからな。

「怖いな、姉さん。だが、それでこそだ」
「じゃあ、始めてください。おふたりの戦いを、私が見ています」
「大怪我とか、しないでくださいよね。後が面倒なので」

 ミーアとリーナがこちらを見ながら頷き、カミラは動き始める。合わせて、俺も魔法の準備をした。

「約束できないわね! 行くわよ! 迅雷剣ボルトスパーク!」
「受けて立つ! 無音の闇刃サイレントブレイド!」

 カミラは全身に電気をまとい、目で追うのも難しい速度で突っ込んでくる。そして、俺も闇を全身にまとって体を操作しながら、剣に魔法を込めてぶつけた。

 激しい爆音と衝撃が広がり、俺達はお互いに吹き飛ぶ。ただ、どちらも体勢は乱れていない。

「相変わらずね、バカ弟! この程度でやられるんじゃないわよ! 紫電撃エレキランス!」
闇の刃フェイタルブレイド! まったく、周囲はお構いなしかよ!」

 カミラは雷の槍を飛ばしてきて、俺は闇の刃をぶつけて相殺する。ただ、こちらまで激しい風が飛んできた。人が吹き飛んでもおかしくないレベルだな。

 まあ、ここまではお互い小手調べといったところだろう。実際、カミラは笑みを浮かべている。とても獰猛な顔を。さて、ここからが本番だな。あらためて、目の前のカミラに向き合っていく。

「自分も守れないような弱い奴ら、知ったことじゃないわ! 迅雷剣ボルトスパーク!」
「まったく、姉さんってやつは! だが、負けていられないな! 無音の闇刃サイレントブレイド!」

 再びカミラは電気で加速して、俺も闇をまとって体を動かす。そのまま何度も剣を叩きつけ合う。カミラの速度は目で追っていては対応できないので、魔力の動きやカミラの仕草から動きを先読みしていた。

 それでも、単純な速度では俺が劣っている。とはいえ、なんとか打ち合うことができていた。エリナの剣技を習っていた甲斐がある。速度で負けていても、起こりを潰すことで対応できる。そう教えてくれたのは、エリナだったからな。

 そのまましばらく打ち合っていると、カミラがバックステップして距離を取った。仕切り直しということだろう。

「ふん、やるじゃない。油断は、していないようね」
「姉さんこそ、そのままで勝てると思っているのか? 前と同じじゃないか」

 カミラはなにか切り札を用意している。それは分かりきっていたからな。おそらくは、とてつもない技なのだろう。今の俺が大怪我すると確信するくらいなのだから。

 だが、勝つにしろ負けるにしろ、カミラの技を知っておかなくてはな。同じような技を使われた時に、対応できるように。それこそが、訓練の意義なのだから。

 カミラは目を大きく開きながら口が裂けたかのような笑みを浮かべた。そして、魔力を集中していく。何の技も撃たれていないのに、こちらが押しつぶされそうなほどの圧を感じた。

「そうね。良いわ。見せてあげましょう。あたしの全てを! 電磁融解ライトニングクリア!」

 光ったと思ったら、カミラの姿が見えなくなった。反射的に、防御魔法を重ねる。

闇の衣グラトニーウェア! ぐっ、俺の防御を……」

 気がついたら、右腕に焼けたような痛みが走っていた。見ると、真っ赤になっているし、一部は黒くなっている気もする。動かそうとして、握ることすらできなかった。

 これは、完敗かもな。いや、実戦なら手段はあると思うが。このまま全方位に闇魔法を叩きつければ、どうにかなる気がしていた。

 ただ、今のは訓練というか模擬戦だ。先に大きな傷を受けたのだから、負けでいいだろう。そう感じて、興奮と悔しさが同時に襲いかかってきた。

 カミラの技は、何が起こったのかすら分からなかった。ただ、圧倒的な技を生み出したのだと確信できる。カミラはすごい人なんだと、あらためて理解できた。

 だが、負けた理由すら理解できないなんて経験は初めてで、少し涙が零れそうですらあった。いや、そもそも負けらしい負けはこれまで経験してこなかった。やっぱり、負けたくないな。次は勝つ。そんな決意が胸に強く刻まれていた。

「そこまでです! カミラさんは、レックスさんに有効打を与えました!」
「つまり、近衛騎士として認められたということです。姉さん、治療を」
「ひどい怪我ですね……。焼けただれているじゃないですか……。癒やしの光セントメイデン! あれ……?」

 ミーアの魔法で、俺の右腕が光に包みこまれる。そして、痛みは消えて右手は動かせるようになった。ただ、手の甲のあたりに、明らかに質感の違う赤があった。傷跡という感じだな。

「傷が、残ったままですね。大丈夫ですか、レックスさん?」
「痛みはないし、問題なく動く。少し、熱を持っているような気もするが……」

 傷を意識したら、どこか熱くなるような気がした。とはいえ、動きに支障はない。だから、何も問題ないとは思う。それに、傷跡から、どこか優しさというか、暖かさのようなものも流れ込んでくる気がしていた。

 きっと、カミラの手によってつけられた傷だからだろうな。悪意でないことは、明らかなのだから。

「思い知ったかしら、バカ弟? これが、あたしよ」
「流石だよ、姉さん。あのままなら、殺されていたかもな」
「いくらなんでも、あんたを殺したりしないわよ。ミーアがいたから、やったことよ」

 穏やかな笑みを浮かべながら、カミラは語る。まあ、分かっていることだ。その気になれば、俺の頭を焼き焦がすことだってできたのだろうから。

 しかし、どんな技だったのだろうな。できれば、知りたい。そして、俺の技に取り入れてみたい。

「確かに、私ならば死人でなければ治せるのですが。でも、この傷は……」
「言ったでしょ。消えない傷を刻み込んであげるって。何度でもあたしを思い出すのよ、バカ弟」

 ということは、俺の傷はカミラの愛情の証とでもいったところか。実際、カミラと同じような敵がいたら、俺は殺されていたかもしれない。だから、間違っていないだろう。

「嫌でも忘れられそうにないな。まったく、もっと強くならないとな」
「ええ、それでこそよ。もっと、どこまでも強くなりなさい。その後に、あたしが叩き潰してあげるわ」

 カミラは、愛おしそうに俺の傷跡を見ているような気がした。少し歪んだ愛情かもしれないが、大切にしたい気持ちだよな。

「まったく、怖いものだ。さて、次はエリナだよな? 準備は良いのか?」
「ああ。待ち遠しかったよ、レックス。カミラの言葉を借りるようだが、レックスに私を刻み込んでやろう」

 そう言って、エリナは笑う。さて、次はどう戦ったものかな。エリナだって、俺に通用する技を用意しているのだろう。それが楽しみで仕方なかった。
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