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6章 聖女ディヴァリアと勇者リオン

166話 完成した支配

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 宰相ヨシュアはディヴァリアを魔女として告発するという。
 さて、同じ手を教国も使っていたが、相手にされていなかった。
 一体どういう手を使って民衆に信じさせるつもりなのだろうな。
 まあ、状況から考えれば、サクラ達に裏切らせるつもりだと思うが。

「魔女ディヴァリアの悪事は1つや2つではありません! まず、辺境の村エーデルを手のものに滅ぼさせた! 剣聖ユリアの故郷を!」

 あの村、エーデルという名前だったのか。
 ユリアの故郷なのは事実だし、ディヴァリアが手のものに滅ぼさせたのも事実。
 だが、証拠はどこにあるのだろうか。いや、それっぽい言葉を適当に言えば、民衆は信じると踏んでいるのだろうか。
 どちらだとしても、ディヴァリアが対策を打っていないとは思えないんだよな。

 何らかの計画があるのなら、ミナが知っているだろうし。
 本気で今の告発が都合が悪いとすれば、行動に移す前に暗殺していそうだ。
 実際、民衆が敵に回ったところで、ディヴァリアの力ならどうとでもできそうだからな。
 それ以前に、宰相の信頼はどれほどなのだろうな。聖女を上回るほどかな。

「剣聖ユリアは涙ながらに訴えました。故郷を滅ぼした証拠が、魔女ディヴァリアの手元に存在したと!」

 ユリアは俺の隣にいる。こちらがちらりと見ると、ふわりと微笑んだ。
 どう考えても、故郷が滅ぼされて悲しんでいる顔ではないんだよな。
 というか、ユリアに証言させないで宰相自身が言う理由は何なのだろうか。
 まあいい。ユリアがディヴァリアの敵に回った感じはしない。やはり、計画通りなのだろう。

「それだけではありません。自国の被害の責任を帝国に押し付けて、攻め入るという悪事までおこなったのです!」

 面の皮が厚いというか。
 国の動きとして帝国を攻めたのだから、宰相が知らぬはずがない。
 そう考えると、都合の良い間だけ利用して、切り捨てるという動きにしか見えないんだよな。
 宰相は腕を振り上げながら熱弁しているが、俺としては冷めた目でしか見れない。

 というか、時系列順ならば、別の悪事なんていくらでもあると思うんだが。
 平気で敵対する人間を暗殺し続けてきたディヴァリアだぞ。
 俺に伝えていないものだって有るだろうから、数えるのも大変なくらいだろうに。
 どこまで宰相は知っているのだろうな。まさか、ディヴァリアが伝えたことしか知らないとか?

「賢者サクラは帝国との戦争で、重症を負い倒れました。それでも意にも介さなかったと、賢者は言いました!」

 むしろ、サクラはディヴァリアが心配していた事実をよく知っているんだよな。
 実際に本人から聞いたのだろうか。仲違いを演じたことを考えると、サクラはディヴァリアにとって都合のいい言葉を伝えたとか?
 何にせよ、本人からの言葉ではないのは、この場にサクラがいる状況では適切な選択ではない気がするのだがな。

「ミナ王女も、大司教シルクも、歌姫ルミリエも、魔女の悪事を訴え出てくれました! さあ、皆さん、順番に魔女の本性を暴こうではありませんか!」

 宰相はこちら側にいる人たちに向けて手招きをする。
 サクラとユリア、ミナとシルクとルミリエ、ソニアさんが向かっていく。
 ルミリエ以外は、仲違いしたという情報が伝わっていたのだろうな。
 だが、メンバーを考えると、これから先の展開は容易に想像できる。
 俺達の関係が、そう簡単に壊れる訳がないんだよな。

「まずは、賢者サクラ。よろしくお願いします」

「じゃあ、遠慮なく言わせてもらうわ。今言われた悪事はすべて、宰相が聖女ディヴァリアになすりつけようとしたことよ!」

「な、な……」

「近衛騎士団長として保証します。宰相ヨシュアは、聖女様の名声が邪魔だった。自分自身が権力を握るために、小生達を操る立場を求めていたのです」

「そうよ! 宰相はハッキリと言ったわ! こちら側に付けば、おこぼれにあずからせてあげるとね!」

 サクラもソニアさんも、えげつないことをするな。
 枯れ木のような男と、うら若い娘。どちらの悪事の方が信憑性が高く見えるのか。
 民衆の感覚を利用して、実際はディヴァリアがおこなった悪事を、平気でなすりつけていく。
 なるほどな。告発しようとした人間は、宰相と同じ目に合う。それは確かに、見せしめとして有効だろうさ。

「わたしは宰相に訴えかけたりしていません! むしろ、聖女様はわたしを救ってくれた相手なのですからっ!」

「宰相ヨシュアは、信仰を利用して権力を手に入れようとしていました。教会として、許すわけにはいきません」

「歌姫の人気があれば、他人に悪事をなすりつけられるなんて言ってね。私の歌は、みんなを幸せにするためのものだよ!」

 宰相は口をパクパクとさせている。よほど現状が受け入れられないのだろう。
 ディヴァリア達を小娘だからと侮っていたのだろうな。そうでなければ、ここまで雑な策は取らないはずだ。
 分かっているのだろうか。今の今まで、聖女としての仮面を被り続けてきた人間だぞ。

「私は王国のために……ミナ様、分かっていただきたい!」

「わたくしとディヴァリアを切り離して、頼れる人間を自分だけにしたかったのでしょう。見え透いた魂胆です」

 いま宰相のそばに居る人間は、すべて彼の敵でしかない。その事実に気づいたのだろう。
 周りに助けを求めるように視線をさまよわせた後、ゆっくりとうなだれていった。

「魔女ディヴァリアを許すな!」

 民衆の中から、そんな声が聞こえた。おそらくは、宰相の仕込みなのだろう。
 だが、手遅れだよ。発言者らしき人間は、周りの人間にサンドバッグにされていた。

「宰相を殺せ! 聖女様バンザイ!」

 なんて声が聞こえてから、皆が続いていく。
 殺せという声、バンザイという声、それらばかりで空間が埋まるくらいには。
 そんな中、国王レントがゆっくりと宰相の元へと向かっていく。
 続いて、民衆に向かって手を突き出す。止まれと言った意味だろう。
 実際、民衆の声は落ち着いていった。
 そのまま、国王はゆっくりと話し始める。

「さて、つまらない光景を見せてしまったな。皆も分かっているだろうが、聖女が悪事を行ったなどという事実はない」

「陛下……!」

「欲に溺れて引き際を見誤ったな、ヨシュアよ」

「何を仰るのです。私はミナ様のために……」

「くどい。民達よ。宰相はもはや死ぬべきだと思うか?」

「「「殺せ! 殺せ!」」」

 完全に民衆は熱狂している。これがディヴァリアの恐ろしさだよな。
 いつの間にか、敵対するという事実が悪のようになっていく。
 誰かから慕われている状況を利用して、ディヴァリアの味方をすることを正義だと誤解させるのだ。
 こうなってしまえば、宰相を殺さなければ国王だって危険だろうな。

「さて、決まりだな。勇者リオンよ。その剣で、しかるべき罰を与えてやってくれ」

「かしこまりました。歌謡うたえ――トゥルースオブマインド」

 心奏具を展開して、そのまま剣を出現させていく。
 まずは剣を掲げて、宰相の元へと近づいていく。

「勇者リオン……魔女はあなたに滅びをもたらしますぞ……」

「さて、な。せめて楽に死なせてやるよ。それが俺の慈悲だ」

 そのまま剣を横になぎ、宰相の首を落とす。
 すると、民衆は爆発的な歓声を上げた。

 しばらく落ち着くまで待ったところで、ディヴァリアがゆっくりと語りだす。

「安心してください。王国をむしばむ悪は倒れました。これから、皆さんが幸せになる未来が待っているのです!」

「「「聖女様! 聖女様!」」」

 これで、ディヴァリアに敵対する意味は、本性を知る人間すべてに伝わったのだろう。
 つまり、誰もディヴァリアの邪魔をすることができない。1つの流れが生まれた瞬間になるはずだ。
 恐ろしい化け物が生まれてしまったことだ。だが、ありがたい。
 誰よりも大好きな人が、これからもずっと安全で居られるのだからな。
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