転生令嬢は覆面ズをゆく

唄宮 和泉

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第一章 覆面ズが出来るまで

#2 食堂での出来事

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 長テーブルに十個の椅子が並べられた食堂には、二人の先客があった。
 一人は威厳たっぷりの偉丈夫……いわゆるお誕生席に座り、資料片手に朝の仕事をこなしている。もう一人はフェーリエとよく似ているが、やや男らしい顔立ちの青年男性……こちらは部屋に入ったばかりなのか、まだ席には着いていなかった。
「おはようございます。お父様」
 偉丈夫に向けて、フェーリエは淑女の礼をとった。
「おはよう、フェーリエ」
 クラヴィス伯爵……オグリスは威厳有る声で答えた。
「おはようございます。お兄様」
「おはよう。今日は随分と気合いが入ってるね」
 クラヴィス伯爵家次期当主であるフェーリエの兄……クロリネはフェーリエの装いを見て尋ねた。
「勝負の日ですから。まずは見た目からです」
「勝負?」
 にっこりと微笑むフェーリエにクロリネは困惑の言葉を漏らした。
 普段は簡素な装いを好むフェーリエだが、今日は華やかな白と赤のモミレ型ドレスに身を包んでいる。
 冒険者になる意思を固めたフェーリエが、父に決意を述べるために選んだ勝負ドレスだ。
「お父様、朝食をいただく前に、お願いしたいことがございます」
 困惑した兄を置いておいて、フェーリエは父に切り出す。
「何だ?」
 眺めていた資料から顔を上げ、オグリスはフェーリエに目を向ける。
 およそ十年前に、魔法を学ばせてくれと頼んだ時と重なった。
(あの時はお母様が後押ししてくれたけど……)
 父親と言えど、彼の威厳には萎縮してしまう。愛情をくれていることはよく分かっている。だからこその直談判だ。
「私はそろそろ十六になります。そろそろ婚約者がいてもおかしくない年です。ですが、もっとこの世界を知りたい。自分の目で見てみたいのです。」
 オグリスは、何も言わずただフェーリエの言葉に耳を傾けている。
 フェーリエの胸中には否定される恐怖が渦巻いていた。世界を知らないまま生きる事は、フェーリエにとって恐怖だ。
「お父様!私が冒険者になる事をお許しください!!」
 一息に言い終わり、頭を下げる。静けさが訪れ、しばらくして、オグリスが溜息をついたのが分かった。
「……許す」
「期限付きでも構いませんから、どうか!……え?」
 胸の前で手を握り懇願するフェーリエはオグリスの言った言葉を聞いていなかった。
「許す、と言ったんだ」
 もう一度言い直された言葉を聞いたフェーリエは、
「えええええぇぇぇぇぇ!!!!!?????」
 淑女にあるまじき叫び声を上げた。

 
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