転生令嬢は覆面ズをゆく

唄宮 和泉

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第四章 魔導王国

#98 深淵の生物

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 フェーリエはひどく満足していた。十年ぶりに、和食が食べられたのだ。そして、ユースが美味しいと褒めてくれた事も、フェーリエの機嫌をよくしていた。
(味噌も醤油もお豆腐も少し失敬してきたけど、よかったよね?お父様たちにも食べてもらいたいし)
 和食に使えるものは片っ端から魔法袋に収めてきた。ちなみに魚は自分が釣ったものが魔法袋にあったので、それを焼いた。前世では自分でご飯を作っていたが、さすがに魚は捌けない。主婦でも捌けない人はいるらしいし、学生だったフェーリエは開き直った。
「さて、お腹も膨れましたし、探索を開始しま……」
 ソファから立ち上がり、お盆に手を伸ばそうとしたフェーリエは足下のおぞましい気配を感じ、床に崩れ落ちた。
 目の前では、ユースも同じように蹲っている。
『グオォオオオオオ』
 この世のものとは思えない叫び声が部屋を揺らす。
(……魔力濃度が……こんな密度、あっていいの……?)
 遙か地下から発せられている魔力。それはフェーリエ達がいる食堂に充満し、圧を作り上げる。
 生物は必ず魔力を発している。それは、魔力量に比例して多くなるが、かなり微量だ。生体に影響を及ぼすほど発せられた例はない。
 自分以外の魔力に押しつぶされる感覚に、フェーリエは顔を歪めた。
『グオオォォォォォォ』
 やがて声は遠のき、圧が消えた。しばらくは冷や汗が背中を伝い、フェーリエとユースは言葉を発することができなかった。
『だ、大丈夫ですか?』
「……な、なんとか」
 先に落ち着いたアウラが、フェーリエとユースに問いかける。疲れ果てた声でフェーリエは答え、ユースを見る。
「大丈夫ですか?ユースさん」
「ああ。まだ、大丈夫だ。」
 冷や汗を拭いながら、ユースは顔を上げる。少し顔色は悪いが、魔力にあてられてはいないようだ。
「さっきの、何だったんでしょう」
『深淵の生物、地の魔力を吸い上げ、無限に成長する奴らだ』
 フェーリエの疑問に答えたのは、今まで一言も話していなかったウルティムだった。普段の雰囲気ががらりと変わり、底冷えするような目で見下げてくる。
「どう、いうこと?」
『……さぁ?』
 自分で言ったにも関わらず、ウルティムは何も知らないような笑顔を浮かべた。
『広間に面白いものがあるよ。言ってみるといい』
 いつの間に探索したのか、ウルティムは意味深な笑顔のまま、宙に溶けて消えた。
「信用、していいのか?」
「……今はまだ、わかりません。でも……嘘は、言っていない、そんな気はします」
 フェーリエは震えた声で、ユースに答えを返す。
『……ルナ様、行きましょうか』
「うん」
 肩に乗ってきたアウラの頭を撫でつつ、フェーリエは立ち上がる。ユースに向けて手を差し出しながら、フェーリエは彼の結界を強化する。この国にいる間は、魔力が低い彼には障害が多い。
(ウルティムのことで巻き込んでるのは私だし、しっかりと剣士さんは守らないと)
 ユースは素直にフェーリエの手をつかみ、立ち上がる。
 ここにいるのはフェーリエの我儘だ。フェーリエには彼を守る義務がある。
 フェーリエとユースは、ウルティムに言われた通り、広間に向かって部屋を出た。


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