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第四章 魔導王国
#107 獣化
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『『Abyss』もこちら側に戻ってきたようだね。さて、支配を強めようか』
ウルティムは『Abyss』に向けて左手をかざした。
すると、濃密な闇がその手から溢れ、『Abyss』を包み込み始めた。
『『ガイアの愛し子』がいるのは厄介だからね。悪いけど、ご主人には死んでもらおうか』
笑っているはずなのに、ルナに冷たい目を向けるウルティム。あれほどの力を維持しつつ、ルナに手を出せるというのか。
ウルティムもどきは、空いている右手をルナに向かって伸ばした。黒く濃密なエネルギーが手のひらに集まっていく。ルナの状態が万全であっても、あの攻撃は防げないだろう。
(っ……あれを使えば、抜け出せない訳ではないが……アウラまでもは)
決して人には見せられない力。それは、差別の対象になる。だが、状態を整え直すためになら、この力を使うことに躊躇いはない。しかし、助けられる人数に限りがある。万能の力ではない。
(何か、何か切っ掛けは……)
移ろわせた視線の先に、意識を取り戻した様子のアウラが倒れていた。ウルティムもどきに気づかれないように息を潜め、ルナを助けるための機会を探っているようだ。
倒れたままのアウラを見つめていると、アウラは強い目でこちらを見返してきた。
『アウラみたいに本契約した、通称『使い魔』って呼ばれてるんですけど、使い魔は意識がある限り、主人の魔力空間に入ることが出来るんですよ』
頭をよぎるルナの声。その話をしていたのは何時だっただろう。普段アウラがどこにいるのか、と訊いた時だったか。魔力空間の説明もされたが、今重要なのはそれではない。今、アウラに意識があると言うことだ。
ユースの決意を読み取ったのか、アウラは軽く頷き、素早く体を起こした。
突如、ウルティムもどきの周辺に強い光が発生した。
『っ!?……精霊か……煩わしい』
ユースは、口調がいつもとは変わったウルティムもどきが、顔を歪める様を視認した。
体温が上がる。姿勢が前のめりになり、前足で地面を踏みしめた。
真っ直ぐウルティムもどきを見る。今のユースには、眩しさを感じることはない。
後ろ足で、強く地面を蹴った。
眩い光に目を細めたフェーリエは、光の中に光を反射し輝く銀色の獣を見た。
(けん、し、さん……?)
心の中で呟いた答えを確認する前に、フェーリエの意識は薄れていった。
光が収まる頃、ユースはウルティムもどきの腹に噛み付いていた。
『ぐっ……獣化か……だが、それで何をする、獣が増えようと『Abyss』の力の前では無意味だ』
強く腹を噛まれても、余裕の表情を崩さないウルティムもどきは、もはやウルティムの演技をするつもりはないようだ。
今は取り合っている暇はない。ただルナを殺させないために噛み付いただけなのだから。
強く牙を立てると、ウルティムもどきは苦悶の声を上げた。肉体を持つリッチである以上、痛覚はあるらしい。
そのまま首を振るい、ウルティムもどきを遠くに飛ばす。抵抗をあまり見せないまま、ウルティムもどきは吹き飛んでいった。
行く先を見届けず、ルナに駆け寄る。アウラの光で覆われたルナを、そっと口で持ち上げる。意識がない以上、掴んでもらうことは望めない。噛んでしまいそうだが、アウラの光の膜を信じよう。
ユースは走り出した。
『……逃げたか、まあ、いい。どうせ逃げられないのだから』
魔神の静かな呟きを聞くものは『Abyss』以外にいなかった。
ウルティムは『Abyss』に向けて左手をかざした。
すると、濃密な闇がその手から溢れ、『Abyss』を包み込み始めた。
『『ガイアの愛し子』がいるのは厄介だからね。悪いけど、ご主人には死んでもらおうか』
笑っているはずなのに、ルナに冷たい目を向けるウルティム。あれほどの力を維持しつつ、ルナに手を出せるというのか。
ウルティムもどきは、空いている右手をルナに向かって伸ばした。黒く濃密なエネルギーが手のひらに集まっていく。ルナの状態が万全であっても、あの攻撃は防げないだろう。
(っ……あれを使えば、抜け出せない訳ではないが……アウラまでもは)
決して人には見せられない力。それは、差別の対象になる。だが、状態を整え直すためになら、この力を使うことに躊躇いはない。しかし、助けられる人数に限りがある。万能の力ではない。
(何か、何か切っ掛けは……)
移ろわせた視線の先に、意識を取り戻した様子のアウラが倒れていた。ウルティムもどきに気づかれないように息を潜め、ルナを助けるための機会を探っているようだ。
倒れたままのアウラを見つめていると、アウラは強い目でこちらを見返してきた。
『アウラみたいに本契約した、通称『使い魔』って呼ばれてるんですけど、使い魔は意識がある限り、主人の魔力空間に入ることが出来るんですよ』
頭をよぎるルナの声。その話をしていたのは何時だっただろう。普段アウラがどこにいるのか、と訊いた時だったか。魔力空間の説明もされたが、今重要なのはそれではない。今、アウラに意識があると言うことだ。
ユースの決意を読み取ったのか、アウラは軽く頷き、素早く体を起こした。
突如、ウルティムもどきの周辺に強い光が発生した。
『っ!?……精霊か……煩わしい』
ユースは、口調がいつもとは変わったウルティムもどきが、顔を歪める様を視認した。
体温が上がる。姿勢が前のめりになり、前足で地面を踏みしめた。
真っ直ぐウルティムもどきを見る。今のユースには、眩しさを感じることはない。
後ろ足で、強く地面を蹴った。
眩い光に目を細めたフェーリエは、光の中に光を反射し輝く銀色の獣を見た。
(けん、し、さん……?)
心の中で呟いた答えを確認する前に、フェーリエの意識は薄れていった。
光が収まる頃、ユースはウルティムもどきの腹に噛み付いていた。
『ぐっ……獣化か……だが、それで何をする、獣が増えようと『Abyss』の力の前では無意味だ』
強く腹を噛まれても、余裕の表情を崩さないウルティムもどきは、もはやウルティムの演技をするつもりはないようだ。
今は取り合っている暇はない。ただルナを殺させないために噛み付いただけなのだから。
強く牙を立てると、ウルティムもどきは苦悶の声を上げた。肉体を持つリッチである以上、痛覚はあるらしい。
そのまま首を振るい、ウルティムもどきを遠くに飛ばす。抵抗をあまり見せないまま、ウルティムもどきは吹き飛んでいった。
行く先を見届けず、ルナに駆け寄る。アウラの光で覆われたルナを、そっと口で持ち上げる。意識がない以上、掴んでもらうことは望めない。噛んでしまいそうだが、アウラの光の膜を信じよう。
ユースは走り出した。
『……逃げたか、まあ、いい。どうせ逃げられないのだから』
魔神の静かな呟きを聞くものは『Abyss』以外にいなかった。
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