転生令嬢は覆面ズをゆく

唄宮 和泉

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第五章 武闘会?いいえ舞踏会です

#134 主役

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「今日の主役のは第二王女らしい」
「あら、そうなんですか?」
 優雅な音楽が流れる大広間の隅で、フェーリエ達は話していた。好奇の目がチラチラと此方を見てくるが、気にせずウィクトールに言葉を返す。兄もそばにいるのだが、そこの所は彼女たちの目にはどう映っているのだろう。この三人はかなり珍しい組み合わせだが。
「正式な社交界デビューって事だろうね。だからこその、王家主催のパーティーなんだよ」
 兄が優雅にシャンパンを飲みながら話す。お酒に手を出すのが早いのではないか?まだ来たばかりだというのに。
「王女様は有名人なのに、まだデビューしてなかったんですね」
「ふふ……確かに」
 兄は息を吹き出して笑った。第二王女の実績の数々を思い出したのだろう。
 第二王女は、貴族だけでなく庶民の中でも有名だ。魔道具を応用して王都の下水道周りを進化させたり、通信系統を円滑にしたり、新しい調味料を開発したり、と様々な事案に手を出している人物だ。
 フェーリエにとって何より嬉しいのは、棒付きキャンディを開発してくれたことだ。
(チュッ○チャプス……前世から好きだったのよね……ありがとう、王女様)
 小さい頃に兄から貰ったとき、驚愕したものだ。市井で珍しい物が出回っていたと、お忍びで町へ出かけていた兄が手にしていたあの飴の味を、今でも覚えている。フェーリエと一歳しか違わないのに、数々の偉業を残している王女に尊敬の念を抱く。
 国王には三人の王妃がいる。明確な序列はないが、最も正妃に近い第一王妃の子供が第二王女である。その血筋だけで、貴族達から支持を得ている様な物である人物だが、慕われる理由は他にもある。
 王女は数少ない回復魔法の使い手なのだ。回復魔法は、人間族が他の種族に追いつくために生み出されたもので、正しく人間族である証拠だ。混じりけの無い純血は、問答無用で人間に崇拝される。巷では聖女とも呼ばれているらしく、雲の上の存在だ。まさか同じ次元に生きているとは。
「そろそろかな」
 クロリネの言葉に大扉の方を向くと、人々が列を形成していた。第二王女が入場するのだろう。
「見に行かないのか?」
「人混みは苦手で……」
 ウィクトールが列に並ばないのかと問う。並ばなくても謀反扱いされる訳ではないし、並んでまで王女を見るつもりはなかった。
「よく見た方が良いよ。リエにとってはね」
 クロリネが意味深に呟く。自分にとって良いとは何だろうか。頭にはてなを飛ばしながらも、兄の言葉に従って大扉を見る。
 ゆったりとした曲の演奏が止み、続いてざわめきも止む。
「第二王女シャーロット殿下、第三王子ユスティア殿下、ご入場です!!」
 扉のそばに立つ従者が、大きな声で入場を告げる。王女の後に続いた名前に、静かだった貴族達がざわつきを取り戻した。
 ざわめきの中で、大扉が開かれた。
「第三王子か……珍しいね」
「そうだな」
 兄達が小さく呟くが、フェーリエはその言葉に同調することはなかった。
 
 扉から現れたヒトに、目を奪われていたからだ。

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