転生令嬢は覆面ズをゆく

唄宮 和泉

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第五章 武闘会?いいえ舞踏会です

#136 迷った末に出会ったヒトは

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「ふぅ。こんなに長くパーティーに残ったのは初めてです」
 フェーリエは壁際に寄ってふぅ、と息を吐いた。そんなフェーリエを見て、ウィクトールは音もなく苦笑した。
 ダンスは初めの一曲だけで、それ以降は壁の花に徹した。幸い、ウィクトールがいてくれたお陰かあまり話しかけられず、嬉々として王女を見つめる事が出来た。
 帰るために兄を探そうと壁から身体を剥がしたフェーリエに、何かがぶつかった。
「あっ!?申し訳ございません!!」
 ぶつかったのはどうやら給仕のメイドのようだ。メイドの目線を追うと、そこには赤ワインで汚れたストールがあった。
「申し訳ございません!申し訳ございません!!」
 顔面を蒼白にして謝り続けるメイドに、フェーリエは申し訳なく思ってしまった。
「どうか気にしないで。私が周りを見ずに動いてしまったせいだから、貴女は悪くないわ」
 フェーリエは極力笑顔で、優しく言うことに努めた。目の前のメイドは可哀想なほどに震えている。今回の舞踏会で急遽補填された臨時のメイドなのだろう。明らかに仕事に慣れていない。
 最も、服を汚された程度で怒るほど心は狭くない。落ち着いて貰わなければ。
「ストールは洗えば大丈夫だから、本当に気にしないでね?」
 完全に落ちるかは時間との勝負だが、最悪後回しでも構わない。腐っても伯爵令嬢。変わりはそれなりに持っている。
 フェーリエの言葉に怖ず怖ずとメイドは頷き、最後にもう一度頭を下げてから持ち場に戻っていった。
「大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。とは言え、早めに洗ってきた方が良いので、ちょっとお手洗いに行ってきますね」
 ついて行こうかと言うウィクトールをその場に留め、さすがに迷子にはならないと返した。


「迷わないとは言ったものの……ここ何所?」
 お手洗いでストールを洗ったフェーリエは、いくつもの廊下を右へ左へと歩いた結果中庭らしき場所に出てきていた。
 貴族令嬢がストールを自分で洗うのはかなり奇妙なことで、他にもお手洗いに来ていた令嬢に奇妙なモノを見る目で見られた。それを全く気にせず、取り敢えずシミが薄くなったストールを抱えて元来た道を戻った……つもりだった。
「まさか本当に迷うとは……」
 マップで索敵してヒトがいる方を探ろうにも、王城には特殊な結界が張ってあり、誰も魔法を使うことは出来ない。だからこそのメイドとのぶつかりに加えストールが汚れたのだ。常ならば様々なモノを排除する結界魔法を張っているフェーリエにとってそれらは害あるモノではない。だからこその油断だった。
「もしかして私って方向音痴なの?」
 ただ来た道を帰れば大広間に戻れたというのに、何故それすら出来ないのか。
 どの廊下も同じような作りで、目印に出来ないのも理由の一つと思っておこう。
「はぁ……アウラがいればなぁ」
 精霊であるアウラは、魔法があまり意味を持たない存在だ。結界を無視してヒトがいる方を探ることは容易だろう。しかし、そのアウラは現在家で留守番中だ。契約も魔法の一種である以上、ここで呼び出すことは出来ない。
「はぁ……」
 何度目か分からないため息を付くと、突然声を掛けられた。
「そこで何をしている」
「っ!?」
 淡白でどこか冷たい印象を抱く声。何事にも無関心そうなしゃべり方に、思わず身を竦ませた。しかし直ぐにその強張りは解け、何かが胸に引っかかる。
 その違和感を探るため、声の方に首を向ける。
(……剣士、さん?)
 そこには、長くもなく短くもない付き合いの相棒が立っていた。


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