転生令嬢は覆面ズをゆく

唄宮 和泉

文字の大きさ
157 / 185
第六章 舞踏会?いいえ今度こそ武闘会です

#156 チーム戦其の六

しおりを挟む
「し、しかし……」
 司会者はオロオロと炭のグレッグとフェーリエを見比べる。早く安否を確認しに行きたいのだろう。死者が出ては大事なのだから。
「よく考えて下さい。冒険者生命に支障のある怪我を負わせてはいけないというルールがあります。わざわざ私がそれを破るメリットはありません」
「確かにそうですが……」
「方や彼らはこのまま行けば私の反則負けで次に勝ち進められる」
 静かに言葉を紡ぐフェーリエの声に、気付けば観客席は静かになっていた。
「私は、グレッグさんに張られた障壁を破る程度の魔力しか使っていません。あれほど炭焼きにはならないんですよ」
「障壁があると……なぜ?」
「私は魔力の流れが見えます。彼を覆っている障壁も、今彼を纏っている魔法の魔力も見えています。ねぇ、グレッグさん、レイモンドさん。茶番は辞めにして、いい加減戦いませんか?」
 フェーリエの言葉に、観客の視線が炭のグレッグに移る。どこからともなく、ため息が聞こえた。
 ムクッと起き上がった炭は、元気に立ち上がり肩を竦めた。
「あーあ。やっぱりばれてたか」
「やはり彼女は騙せませんね」
 目の前で炭とレイモンドが会話をしている。炭の声は勿論グレッグだ。
「いい加減、その幻覚を解いたらどうですか?」
 炭が喋っている不思議な状態を解決するため、呆れ声で声を掛ける。
「だとよ、レイモンド」
「わかりました」
 レイモンドが手を翳すと、五体満足のグレッグが姿を現した。無事な姿に、観客からは安堵の息が漏れる。
「それにしても、何のために恥を忍んで詠唱してあげたと思ってるんですか。障壁の対策を取って貰うためで、こんな茶番に付き合う為じゃないんですけど」
「すまんすまん。ちょっとした悪ふざけのつもりだったんだ。こっからは本気出すから許してくれよ?」
 戯けたように笑うグレッグは、再び大剣を構える。
 フェーリエはその言葉に「そうですね、そうしましょうか。司会者さんは元の場所に戻った方が良いですよ」と乾いた言葉を発した。フェーリエの言葉に慌てて司会者が避難したことを見届けると、フェーリエは一息吐いた。
「クローお願いします」
「わかりました」
 後ろにいるクローに呼びかける。入場前に耳打ちした内容を実現して貰う為だ。ここまで舐められたら、実行せざるを得ない。
 クローの手から淡い光が放たれる。その光は相手二人を優しく包み、パッと消えた。
「ん?掛ける相手間違えたんじゃないか?」
「いいえ、間違えてませんよ?」
 回復魔法であると理解したグレッグは、不思議そうに問いかける。それに微笑みながら、突き出した右手に魔力を集める。
「それじゃあ、私の魔法の実験台になってもらいましょうか」
「「は?」」
 フェーリエの言葉に口を開けた二人は、瞬時に氷に包まれた。唖然とする会場の中で、クローだけが二人に哀れみの目を向けた。

「で、降参します?」
「……する」
「……はい」
 空中に逆さ吊りになっている二人に、フェーリエが笑いかける。
 クローの即時回復魔法のお陰で傷一つ無い二人だが、フェーリエからの数々の魔法に既に心がやられていた。
 入場前にクローに耳打ちした内容。それは、ヒトが死なないように回復魔法を掛け続けることは可能か、と言うものだった。
 結果として可能だったそれのせいで、フェーリエの魔法を受ける→回復する→また魔法を受ける→回復するを繰り返された彼らは、心が疲れてしまった。身体の傷は治ろうと、痛みはあるのだから軽く所か普通に拷問である。
「司会者さーん!降参するそうですよー」
「は、はい!!」
 手を振りながらフェーリエに呼ばれた司会者は、引きつった顔でフェーリエ達の勝利を告げた。
 空中から降ろされた彼らは、救護室に運ばれていった。身体のケアより、心のケアだ。彼らは、安易にフェーリエを怒らせてはいけないと身をもって知り、肝に銘じることとなった。
 観客席から恐怖の眼差しを送られたフェーリエは、少しやり過ぎただろうか、と目を瞬かせた。 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生! 憧れのエルフに転生したら、まさかの特級呪物。 しかも、お約束のご都合主義はどこ行っちゃったの!? 理不尽な手続き、面倒な契約、身分証がなければ部屋も借りられない。 猫獣人は「ニャー」と鳴かないし、神様も居ない。 召喚獣?喋りません。 龍?人化しません。 想像してた異世界とはだいぶ違う。 腑に落ちない気持ちMAXで、流されるままクラフトしたり、もふもふしたり、たまに事件に巻き込まれたり。 見た目は完璧エルフ美女、でも中身はツッコミ止まらない。 ご都合主義が通じない異世界で、《普通》に揉まれる日々がはじまる──! ※カクヨム、なろうにも掲載中

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...