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第七章 火竜討伐
#164 王女とリッチ
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「さて、始めましょうか」
クロー……いや、シャーロットは周りの状況を軽く確認し、地面に両膝をついた。
火竜の暴走に、騎士達は尻込みをしていたが、冒険者達の加勢によって前線はある程度安定している。大きな怪我人はまだ出ていない。真っ先に火竜に弾き飛ばされたメディオはルナの魔法に助けられていたからか、大きな怪我は無かった。恐らく咄嗟に受け身を取ったことも要因だろう。流石副団長の肩書きを持つだけはある。
シャーロットは両手を組み、イメージを集中させる。魔力という、普通の人では見えないエネルギーを遮断する結界。生物が生きるために必要な空気は通るように。中々に難易度の高い魔法だが、問題は無い。想像力は鍛えられている。
周囲に、薄い青色の結界が現れる。半円方のそれは、緻密な想像力の元で綺麗に張られていた。
ホッと息を吐き、周囲の魔力に集中する。
『へー。綺麗なモノだね。凄い想像力だ』
「リッチに成る程の魔法使いに褒めていただけるとは、光栄ですわね」
シャーロットの傍らに浮かぶウルティムと呼ばれたルナの契約魔物が、純粋に感嘆の溜息を吐いた。先程の強い拒絶は鳴りを潜め、諦めの表情を浮かべている。
リッチと見抜かれたためか、ウルティムは目を丸くし黙った。
「先程は、かなり冷たい態度でしたけど……大方、あの子に諦めて欲しかったのでしょう?」
邪気を浄化しながら、シャーロットは問う。
『……何でも知ってるんだね』
「何でもでは有りませんわ。あの状態の火竜を相手にすることは、あの子でも難しい。少しでも危険な目に遭って欲しくなかった。契約者としては、当然の行動だと思いますわよ?」
『……王女様は、ご主人の何を知ってるのかな?』
お喋りが過ぎただろうか。少し怪しむように此方を見るウルティムに、笑みを深くする。契約主が気付いていないのに、知っていた彼に少々驚いたのだ。驚いたときほど、動揺したときほど、笑みを浮かべるのは習慣だ。貴族社会に生きる者の。
「少なくとも、今のあの子の事はそれ程知りませんわ」
『余計訳が分からない』
「分からなくて良いのです。私だけが分かっていれば、それで」
そもそも、第二王女であるシャーロットが武闘会やこんな戦いに参加したのは、ルナに興味があったからだ。兄の想い人という事もあるが、それよりもただ単純に会いたかったのだ。身分関係なく、対等に話したかったのだ。
顔を上げると、ルナは騎士達を防御結界で守っていた。火竜の攻撃にも耐える頑強な障壁は、並大抵の魔力では生み出せない。その魔力の多さに、シャーロットは眉を顰める。これ以上の面倒ごとを、あの魔力が呼び寄せそうで。
「私の元にまで攻撃が来ることは無いと思いますわよ?」
ルナはウルティムを護衛として置いていった。しかし、一番後ろにいるシャーロットにまで攻撃が来るようなことがあれば、この作戦はお仕舞いだ。火竜を押さえることも、殺すことも出来ていないと言う事なのだから。
『僕も、出来ればご主人と一緒に戦いたいんだけどさ。僕がここにいることで、ご主人の憂いが無くなるならそれで良いかなって』
「良い関係を築いてるんですわね。羨ましいですわ」
『良い関係なのかな……。僕は面倒ごとしかご主人に押しつけてないんだけど……』
ウルティムは顔を曇らせた。彼らの間に何があったのか、詳しいことは知らない。調べるつもりも無かった。
「それでも、貴方を側に置いているのですよ。何を疑う必要が?」
問い返すと、ウルティムはうーん、と唸りだした。
シャーロットはトドメとばかりに魔力を集めた手の平を彼に向ける。
「お望みでしたら、貴方の邪気も浄化して差し上げますが?」
『ぁ……それは別にいいよ。邪気を失ったら、僕はただの幽霊になってしまう。そうなれば、ご主人を守れないからね』
「それが、貴方の決意でしょう?迷う事はありませんわ」
再び邪気の浄化作業に戻ると、ウルティムが肩を落として溜息を吐いたのが分かった。
『そうだね。もう迷いはしないよ』
ウルティムは柔らかく笑っていた。
(色々なヒトに、愛されているのですわね……皐月)
今目の前で火竜の攻撃を防ぎ、決定的な一撃を入れる時を伺っている前世の親友に慈愛の目を向けた。
クロー……いや、シャーロットは周りの状況を軽く確認し、地面に両膝をついた。
火竜の暴走に、騎士達は尻込みをしていたが、冒険者達の加勢によって前線はある程度安定している。大きな怪我人はまだ出ていない。真っ先に火竜に弾き飛ばされたメディオはルナの魔法に助けられていたからか、大きな怪我は無かった。恐らく咄嗟に受け身を取ったことも要因だろう。流石副団長の肩書きを持つだけはある。
シャーロットは両手を組み、イメージを集中させる。魔力という、普通の人では見えないエネルギーを遮断する結界。生物が生きるために必要な空気は通るように。中々に難易度の高い魔法だが、問題は無い。想像力は鍛えられている。
周囲に、薄い青色の結界が現れる。半円方のそれは、緻密な想像力の元で綺麗に張られていた。
ホッと息を吐き、周囲の魔力に集中する。
『へー。綺麗なモノだね。凄い想像力だ』
「リッチに成る程の魔法使いに褒めていただけるとは、光栄ですわね」
シャーロットの傍らに浮かぶウルティムと呼ばれたルナの契約魔物が、純粋に感嘆の溜息を吐いた。先程の強い拒絶は鳴りを潜め、諦めの表情を浮かべている。
リッチと見抜かれたためか、ウルティムは目を丸くし黙った。
「先程は、かなり冷たい態度でしたけど……大方、あの子に諦めて欲しかったのでしょう?」
邪気を浄化しながら、シャーロットは問う。
『……何でも知ってるんだね』
「何でもでは有りませんわ。あの状態の火竜を相手にすることは、あの子でも難しい。少しでも危険な目に遭って欲しくなかった。契約者としては、当然の行動だと思いますわよ?」
『……王女様は、ご主人の何を知ってるのかな?』
お喋りが過ぎただろうか。少し怪しむように此方を見るウルティムに、笑みを深くする。契約主が気付いていないのに、知っていた彼に少々驚いたのだ。驚いたときほど、動揺したときほど、笑みを浮かべるのは習慣だ。貴族社会に生きる者の。
「少なくとも、今のあの子の事はそれ程知りませんわ」
『余計訳が分からない』
「分からなくて良いのです。私だけが分かっていれば、それで」
そもそも、第二王女であるシャーロットが武闘会やこんな戦いに参加したのは、ルナに興味があったからだ。兄の想い人という事もあるが、それよりもただ単純に会いたかったのだ。身分関係なく、対等に話したかったのだ。
顔を上げると、ルナは騎士達を防御結界で守っていた。火竜の攻撃にも耐える頑強な障壁は、並大抵の魔力では生み出せない。その魔力の多さに、シャーロットは眉を顰める。これ以上の面倒ごとを、あの魔力が呼び寄せそうで。
「私の元にまで攻撃が来ることは無いと思いますわよ?」
ルナはウルティムを護衛として置いていった。しかし、一番後ろにいるシャーロットにまで攻撃が来るようなことがあれば、この作戦はお仕舞いだ。火竜を押さえることも、殺すことも出来ていないと言う事なのだから。
『僕も、出来ればご主人と一緒に戦いたいんだけどさ。僕がここにいることで、ご主人の憂いが無くなるならそれで良いかなって』
「良い関係を築いてるんですわね。羨ましいですわ」
『良い関係なのかな……。僕は面倒ごとしかご主人に押しつけてないんだけど……』
ウルティムは顔を曇らせた。彼らの間に何があったのか、詳しいことは知らない。調べるつもりも無かった。
「それでも、貴方を側に置いているのですよ。何を疑う必要が?」
問い返すと、ウルティムはうーん、と唸りだした。
シャーロットはトドメとばかりに魔力を集めた手の平を彼に向ける。
「お望みでしたら、貴方の邪気も浄化して差し上げますが?」
『ぁ……それは別にいいよ。邪気を失ったら、僕はただの幽霊になってしまう。そうなれば、ご主人を守れないからね』
「それが、貴方の決意でしょう?迷う事はありませんわ」
再び邪気の浄化作業に戻ると、ウルティムが肩を落として溜息を吐いたのが分かった。
『そうだね。もう迷いはしないよ』
ウルティムは柔らかく笑っていた。
(色々なヒトに、愛されているのですわね……皐月)
今目の前で火竜の攻撃を防ぎ、決定的な一撃を入れる時を伺っている前世の親友に慈愛の目を向けた。
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