転生令嬢は覆面ズをゆく

唄宮 和泉

文字の大きさ
176 / 185
第七章 火竜討伐

#174 最悪な目覚め

しおりを挟む
 目を開けて初めに見えたのは、知らない天井だった。いや、正確には知らない天蓋だった。
 のっそりと身体を起こすと、フェーリエは豪奢なベッドに包まれていた。そう包まれていたのだ。
(何このベッド、ふっかふか。凄い高いんだろうなぁ)
 フェーリエは仮にも伯爵令嬢。前世の庶民生活に比べれば、遙かに質の良いものに囲まれて育っている。しかしそのフェーリエですら高いと思ってしまう高級品だ。
 だが何故そんなものにフェーリエは包まれているのだろう。そしてこの高級ベッドが相応しいこの空間は誰の部屋なのだろう。
 肌触りがとても良い掛け布を困惑と共に掴んでいると、静かな音と共に扉が開いた。次に響いたのはハイヒールが床を叩く音。床は大理石故に良く響いたのだろう。何というか、現実逃避してるな。うん。
「起きました?」
 ぼーっとしていた所に聞こえてきた声に、ガバッと身体を起こす。
「っ!?王女様!?」
「起き上がれるだけ元気があるみたいですね。良かった」
 シャーロットの優しげな笑顔に見とれ、はっと頭に手を当てる。慣れ親しんだ布の感触にホッと安堵する。いや、顔を何時までも隠しているのは不敬に当たるかも知れないが。
「貴女、二日間眠っていたんですよ?お兄様も心配していらして……」
 シャーロットはベッドの側に置いてあった椅子に腰を掛けながらそう言った。
「二日!?」
「はい。契約者さんの言葉を借りると『契約者増やしすぎ』だそうですよ。心当たりがありますか?」
「あ、はい……」
 契約魔法は日常的に継続魔力を消費する。今回火竜と契約した事によってごっそりと魔力を消費したのだろう。そして魔力が枯渇状態になり、身体が昏睡状態になった。それがどう見ても高級そうな部屋で寝かされている理由に繋がるのか。
「動けるようでしたら陛下に謁見しなければならないのですが……」
「謁見!?私何かしましたか!?」
 思わず叫びはっと我に返る。思い切りしている。滅茶苦茶命令違反している。
「そうですね。して無いと言えばしてませんし、してると言えばしてますね」
「?」
 シャーロットの言葉の意図が分からず、随分と間抜けな顔を晒していることだろう。シャーロットはフェーリエを見て、困ったように笑った。あ、この笑い方見たことがある。何所で見たのだろう。
「私たちは王の火竜討伐の命令に対して何もせず、逆に助けたばかりか契約を交わしてしまった。助けただけなら、まだ良かったでしょうね」
 シャーロットが紡ぐ言葉に、フェーリエは肝が冷えていくのを感じる。自分は取り返しの付かない事をしてしまったのだ、と。
「火竜は国には属さない生物でした。例えウァリエタース王国内の火山に住んでいようと、その力を戦争に利用してはならないと暗黙のルールがある程……。今回のことは、国に属する一冒険者が火竜を契約者とし、その力を有してしまう非常事態だと判断されました。よって、陛下は貴女に事の真意を聞き、処分を下すこととなりました」
「あ……」
 心苦しそうに重々しく言葉を紡いだシャーロットは、ぎゅっと目を閉じて頭を下げてしまった。
「ごめんなさい。貴女にそういった意図がなかったことは分かっています。ですが、これは国同士の問題。流石の私でも庇うことは許されませんでした」
「あ、頭を上げてください。王女様は何も悪くありません。全て私の考えの至らなさが招いてしまったことです。少し考えれば分かったことなのに……そうしなかった私が……」
 顔を上げたシャーロットは、我が事のように苦しそうな顔をしていた。何も悪くない彼女にこんな顔をさせてしまった自分に腹が立つ。
「……家族、私の家族に咎は及びますか?」
 頭に過ぎった懸念に、フェーリエは声を絞り出した。
「……貴女の家族には咎は及ばないでしょう。もし及ぶようならば、私の名を掛けて守ります」
「……私のような者に、勿体ないお言葉でございます。……けん……いえ、ユスティア殿下は……?」
「お兄様は自室で謹慎中です。元気ですよ」
 シャーロットは微笑むが、フェーリエはただただ唇を噛みしめた。
 自分のせいで、シャーロットにも、ユスティアにも迷惑を掛けてしまっている。
 自分の未熟さがあまりにも憎らしく、フェーリエはシャーロットが部屋を出て行くまで目を合わせることが出来なかった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...