信号待ちの君へ

藤井湧己

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交差点のふたり

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毎朝、通学路の交差点で、タクヤはいつも同じ女性を見かける。信号待ちの短い時間に、彼女はいつも同じ本を開き、静かに読んでいる。その横顔が忘れられず、タクヤは何度も彼女と目が合うのを期待した。しかし、臆病な彼は、声を掛ける勇気が出ないまま、ただ遠くから眺める日々が続いていた。

ある日、交差点で彼女の姿が見当たらなかった。いつも通りの時間に、いつも通りの場所で、彼女は現れなかった。もしかして、引っ越したのだろうか。それとも、ただ単に体調を崩しただけだろうか。様々な憶測が頭をよぎったが、確かなことは何も分からなかった。

それから数週間が過ぎた頃、いつものように大学へ向かうタクヤは、駅前で彼女とばったり出会った。彼女は大きなスーツケースを引いており、どこか慌てた様子だった。

「あの…」

タクヤは思わず声をかけた。

「え?」

彼女は顔を上げ、タクヤを見つめた。一瞬、彼女もタクヤのことを思い出したようだったが、すぐに複雑な表情を浮かべた。

「あの、もしかして…?」

タクヤは、彼女の名前を呼びかけたかった。だが、何度か口を開こうとしても、言葉が出てこない。

「すみません、急いでいるので…」

彼女はそう言うと、足早に駅へと向かって行った。

タクヤは、彼女の後姿をじっと見つめていた。そして、ようやく口を開いた。

「さよなら…そして、ありがとう」

彼の言葉は、風にさらわれて彼女の耳には届かなかっただろう。それでも、タクヤは心の中でそう呟いた。

あの交差点での短い出会いは、タクヤにとって忘れられない思い出となった。彼女との間に何もなかったけれど、彼は彼女に惹かれていた。そして、その気持ちは、彼女が遠くへ行ってしまった今でも、彼の心に残り続けているのだった。

夕暮れの街を歩きながら、タクヤは再びあの交差点へと足を運んだ。信号待ちの間に、彼はいつも通りの場所で立ち止まり、彼女が立っていた場所を見つめた。

「またどこかで会えたらいいね」

そう呟きながら、タクヤは交差点を後にした。

街の灯りが煌めく中、タクヤは静かに歩き続けた。彼の心の中には、まだ彼女の笑顔が残っていた。







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