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3 近江花音はアイドルですっ!

5.花音ちゃんの友達(2)

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 走って教室を飛び出した萌果ちゃんに、「急がなくて大丈夫」と伝えることはできなかった。

 そして、戻って来た萌果ちゃんを前に、麗ちゃんを前に、私は口を開く。

「実は、私……」

 言いたいことは、たった1つ。

 だけど、そのたった1つのことを伝えるための言葉を必死に探す。

「アイドルとして、デビューしました」

 結局、最後に出てきたのはその言葉。

 必死に探して、見つからなくて……。

 最初から、答えは出ていた。

 「私は、アイドルとしてデビューした」それ以外の何もない。

 それ以上のことも、それ以下のこともなく、ただそれが真実としてあるだけ。

「知ってた」

 麗ちゃんが言った。

「私も、知ってたよ」

 萌果ちゃんが言った。

「もうさ、言ってくれないんじゃないか、とか信用されてないのかなーとか、色々考えちゃって」

 麗ちゃんの言葉に、萌果ちゃんも続ける。

「でもさ、話せないのかもしれないって思ったり、触れてほしくないのかもって思ったりして、麗ちゃんと話し合ったんだ。離してくれるまで待とうって。人に言えないヒミツって誰でも持ってるものだと思うし」

「でもやっぱり」

 麗ちゃんが言う。

「話してくれて嬉しい。ありがとう」

「そんなことっ」

 「ありがとう」なんて、私がもらうべきじゃない。

「私の方こそ、ありがとう、って言わなきゃいけないのは私の方。ずっと2人に隠しごとしてたのに……」

「だって私たち友達じゃん!」

「幼等部から何年の付き合いだと思ってるの? 隠しごとされたくらいで……。ちょっと落ち込んだけど」

「ごめんなさい……」

「いいんだよ! 結果的には話してくれたんだから! それに、これからは堂々と応援してオッケーってことだよね!」

 萌果ちゃんの言葉に驚く。

「応援……?」

「雑誌見たときから応援しようって思ってたんだけど、やっぱ気になって、土曜のライブ観に行ったんだよね」

「え!? ズルイ!! 私我慢したのに!!」

「我慢?」

「だって、教えてくれなかったし、知られたくないのかもしれないのに行けないじゃない……」

「だから私もこっそりね。花音ちゃんに見つからないように」

 気がつかなかった……。

 場所が場所だから、知り合いに、クラスの子に偶然見られる可能性も充分にあったんだ。

 これからだった、そういうことは、たくさんあるはず。

「そしたらさ、ホント、歌もダンスもすごいんだよね! ソッコーでファンになっちゃった! 特に一条澪君! あの不愛想なところがね、可愛いの!」

 ウキウキと話す萌果ちゃんい、私も、誰かをこんなふうにできたら、なんて思った。

「もー! ズルイズルイズルイ! 萌果ちゃんばっかり! 次のライブはいつやるの? 行ってもいいよね?」

「えっと……はい……」

 来てもらう分には全然構わない。

 だけど……。

「で、次はいつ?」

 迫る麗ちゃんに、返事を返せないことが悲しい。

「次のライブのことは聞いてなくて……」

 そう、聞いていない。

 次、ライブができるのかどうかさえわからない。

 もしかしたら、1日きりのことだったのかもしれない、なんてそんな考えさえ過る。

「でも、わかったら1番に伝えるね」

「約束だからね」

「はい」

「あ、私にも!」

 手をあげて主張した萌果ちゃんに、麗ちゃんがピシャリと言う。

「萌果ちゃんに教えるのは、私のあとにして。絶対」

「えぇ~?」

 眉を下げる萌果ちゃんに、麗ちゃんはそっぽを向く。

「自分だけ抜け駆けした罰なんだから」

「うぅ~、ごめん麗ちゃん~」

 そんな2人を見て、つい笑ってしまった。

「2人で来てね」

 そう言うと、2人は目を見合わせて笑った。

「絶対行くからね」

 萌果ちゃんの言葉に、麗ちゃんが続く。

「楽しみにしてる」

 話せてよかった。

 2人にだけは、自分の言葉で伝えたかったから。

 本当は、嫌われちゃうかもしれない、なんてほんの少しだけ思ったりもした。

 でも2人とも、応援するって言ってくれて、次のライブに行きたいとまで言ってくれた。

 頑張ろう。

 これからも。

 2人に、楽しいステージを届けるためにも。

 2人が友達で、よかった。
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