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3 近江花音はアイドルですっ!

8.花音は花音

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 結局、答えを出すことはできなかった。

 モデルとしてのお仕事には興味がある。

 憧れの『モノクローム・ツインズ』に、ほんの少しでも近づけるかもしれない。

 だけど……。

 特別にモデルとして活躍していきたい気持ちは、私にはない。

 ほんの少し、興味があるだけ。

 そんな私が、オーディションを受けてもいいのか、悩んでしまう。

「別にいいんじゃない?」

 モノちゃんが言った。

 私の憧れのアイドルで、先輩でもある『モノクローム・ツインズ』のモノちゃん。

 初めて会った日から、私たちの交流は続いている。

 今の私の悩み。

 何もない自分。

 1人じゃ何もできなくて、この先の目標みたいなものもない。

 そんな私が、ちょっと興味があるっていうだけでオーディションを受けるなんて、どうなのかな、とか。

 そんな私の悩みを相談したら、モノちゃんからそんな言葉が返ってきた。

「うん。決めるのは編集さんだもん」

 クロムちゃんが、いつものふわふわとした口調で告げる。

 たしかに、私はオーディションを受けるチャンスがあるっていうだけで、不合格になる可能性はうんとある。

「そもそも、花音はなんでこの業界に入ったの?」

 モノちゃんに言われて、自分自身を振り返る。

 私が、芸能界に入った理由。

 初めは、そんなつもりはなかった。

 ただ、キラキラしたいって思った。

 私自身が頑張りたいと思えることを見つけたいって。

 それが偶然、芸能活動につながっただけで……。

 歌もダンスも好き。

 『スカイアクア』のメンバーと1つの曲、1つのステージをつくりあげるあの時間が好き。

 それに、ステージを観に来てくれた人が、ライブを観に来てくれた人が、キラキラした顔になってくれる瞬間が、どうしようもなく好き。

「キラキラしたいって……。私自身が、キラキラできることしたいって、そう思って始めたの。今は、観てくれるたくさんの人に、キラキラした気持ちを届けたいって思う」

 それが、今の私の気持ち。

「それでいいんじゃん?」

 モノちゃんは言う。

「花音は花音なんだし、そのキラキラとやらに特化したアイドルになれば。アイドル一筋でも、むしろそれが花音の良さだよ」

「いっそ、ソロライブとかどう? 花音の事務所なら、言えばなんとかしてくれそう」

「1人じゃ何もできないって言うなら、やってみればいいんだよ。花音のファンはついて来てくれるよ。私たちもね」

「うん。ソロライブするなら、ちゅーちゃんにお休み取っておいてもらわないとね」

 ――ソロライブ……。

 考えたこともなかった。

 私1人だけのライブをする、なんて。

 私には、『スカイアクア』と『アクアブルー』だけだったから。

 それを無くしたとき、『スカイブルーの近江花音』でもなく、『アクアブルーの近江花音』でもなく、ただの『近江花音』になったとき、私はどこまでやれるだろう。

 いつもは5人、10人で立つステージに、たった1人で立ったとき、私はいつも通りにキラキラできる?

 いつも通りに、キラキラした気持ちを届けることができる?

 ――やってみたい。

 そう思った。

「ありがとう! 何か、わかった気がする!」

「そう、よかった」

「ライブの日程が決まったら教えてね?」

 モノちゃんとクロムちゃんに別れを告げて、事務所に向かうことにした。
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