【完結】龍の姫君-序-

桐生千種

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第1話 箱入りの姫君

姫君は望む

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 従者たちの隠しごとを知った龍麗は、即座に言った。

「私も行きたいっ!」

 彼らの言う、学舎という場所の何と魅惑的なことか。

 龍麗よりも幼い者、龍麗と同じ年の者、龍麗よりも年長の者。

 様々な年頃の者が集まる学び舎。

 いつも優雅と2人きりで書を読むだけの龍麗には、この上なく魅力的な場所に思えた。

「でもほら、ルリは一族の跡取りだし」

「でも今は、本家筋でも学者に行くんでしょう?」

 凜音の言葉に、龍麗はたった今得たばかりの知識を使って反論する。

「私も行きたい! 行く! 絶対行く!」

「どこに行くって?」

 その瞬間、空気が凍りついた。

 現れた、龍雅。

 傍らには、優雅が控えていた。

「ダメだよ、龍麗。せっかく優雅がお茶の用意をしてくれていたのに、何も言わずに出て来るなんて」

 龍雅の言葉に、龍麗は優雅に何も言わずに出て来てしまっていたことを思い出した。

「優雅、ごめん!」

「いいえ」

 龍麗の謝罪を、優雅はにこやかに返す。

「それで? どこに行くって?」

「学舎! 私も行く!」

 堰を切ったように訴える龍麗に、龍雅はひとつ、ため息を落とした。

「龍麗。学舎に行くって言っても、どこにあるか知ってるの?」

 龍麗の返事を待たず、龍雅は続ける。

「一族の敷地の外だよ? 龍麗、キミは一族の当主の座を継ぐ、大切な跡取りだ。何かあったら一族のみんなが困る。それはわかるね? 外には危険がいっぱいなんだ。だから龍麗は外になんて出なくていい。ここにいれば、僕が守ってあげるから、ね? わかってくれるね?」

 ゆるりと龍雅が右手を伸ばす、その先にいるのは龍麗。

 パシンッ!

 乾いた音を立てて、龍雅の手は龍麗の手によって叩き除けられた。

「私は、龍雅のお人形じゃないっ!!」

 沸き上がる、龍麗の怒り。

 開かれた眼は、怒りを表す赤い龍の眼。

 龍の眼を以て、龍麗はその怒りを顕にする。

 草木が、風が、否応なしに騒めく。

 ヒリヒリと、肌を焼くような緊張が広がる。

「龍雅は、自信が、ない……?」

 ポツリと呟かれた紫季の言葉に、さらなる緊張が走る。

「……どういう意味?」

 龍雅の、紫季に向けられる静かな怒り。

「ルリが、外に出たら、帰って来ないかもって……」

 紫季は続ける。

「ルリが、逃げる、かも……。龍雅は、ルリに愛されてる自信、ない……」

 爆発音。

 大木が1つ、音を立てて倒れる。

 木の、焼け焦げたニオイが嫌に鼻についた。
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