【完結】市原一斗は芝居がしたい

桐生千種

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2.声の芝居

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 いつまで経っても脇役どころかちょい役にすらなれない。

 できてもせいぜい、台詞のないエキストラ。

 そんな苛立ちをぶつけるように、俺は台本を読み上げる。

「『死んでしまえっ!!』」

 もちろん、一緒に芝居をする相手役なんていない。

 敵役も味方役も、俺。

 倒す役も、倒される役も。

 殺す役も、殺される役も。

 助ける役も、助けられる役も。

 ぜんぶが、俺。

 観客も、兄貴は今日はいない。

「なかなか物騒ですね。ファンタジーですか?」

「……おかえり」

「ただいま戻りました」

 芝居をしていると、たまに周囲の状況に気づけない。

 叫んだり、罵ったりしている台詞のときは、頭に血がのぼっているのか兄貴が帰って来たことにも気づけない。

「よくわかったね。ファンタジーだって」

「現代劇にしては、少しクセが強かったですよ」

「そっか」

 俺の芝居の、そんな細かいところを見てくれるのも兄貴だけだ。

「今日も、公園に行って来たの?」

「はい」

 ここ最近の兄貴は、公園で猫でも見つけたのか随分楽しそうに公園に通っている。

 ずっと病気で入院ばかりして兄貴だけど、こうして楽しそうに外に出かけられてるってのはいいことだ。

「イット、どうぞ」

「なに?」

 兄貴が差し出してきた、1冊の本。

「帰りに本屋へ寄ったら目に留まりまして。声だけでお芝居をする、という職業もあるようですよ」

 声だけの、芝居。

 目が、自然と兄貴がくれた本の文字を滑る。

 姿を見せずに、声だけで。

 それから夢中になって読んで、声優という職業を調べて。

 これなら、俺にもチャンスがあると思った。

 少なくとも、身長や体格で外されることはない。

 声だけの芝居。

 未来に、希望が持てた気がした。
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