【完結】市原一斗は芝居がしたい

桐生千種

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4.導く歌声

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 歌が聞こえた。

 兄貴がよく行っていた公園。

 ふと、行ってみようと思ったんだ。

 勝手に猫だと思っていたけど、その猫がどうしているか気になったってのもある。

 本当のことを言うと、どこかに兄貴を探していたんだと思う。

 もう2度と会えないなんて、未だに信じることができない。

 そんなときだった。

 歌が聞こえた。

 それもただの歌じゃない。

 兄貴が歌っていた、兄貴の歌。

 そんなことがあるのかと俺は耳を疑って、公園の中を見た。

 小さな声で口ずさむようなその声は、けれども確かに俺の耳に歌声として届いた。

 そして、気づいた。

 兄貴が公園に通っていた理由は、たぶんあの子なんだろう。

 ベンチに腰掛けて歌うその子は、どこか寂しそうに見えた。

 声をかけようとして、やめた。

 知らない男が急に話しかけても、ただの不審者にしかならない。

 しばらくその子を眺めていたけど、歌い終えたその子はベンチから立ち上がってこっちに向かって来た。

 公園を出て、その子は俺に気づかずに背負向けて駆けて行った。

 離れて行く小さな背中を見ながら、兄貴の言葉を思い出した。

 『私は、イットのお芝居が好きです』とそう言ってくれた兄貴の言葉。

 いつも俺の芝居を観てくれていた兄貴。

 俺のために、声だけの芝居という職業を教えてくれて、本まで買ってくれた。

 無性に、芝居がしたいと思った。

 久しぶりに、そんな感情が沸き上がった。
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