【完結】イトコに恋して

桐生千種

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第5章 サヨナラ、弟

第1話 お片付けまで *加瀬彩梨*

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 雪乃君の一声から、今日の会は始まる。

「てめー! 桜に近づくなって言ってんだろ!?」

 加瀬拓哉は、雪乃君に相当嫌われたらしい。

 その主たる原因は、桜ちゃんが加瀬拓哉の顔を見るとなぜかボロボロ泣き出すから、なんだけど……、そのおかげで席が決まった。

 私から右に、栞ちゃん、加瀬拓哉、章先輩、雪音先輩、直樹がイスに座る。
 そして、イスとテーブルの間のスペースに座るのが、私の前にいる皐月君から右に、桜ちゃん、雪乃君、清花、竜胆ちゃん、椿ちゃん、そして桔梗君。

 うまい具合に加瀬拓哉が桜ちゃんから死角になるように、雪乃君が調整している。

 向かい側に座る雪音先輩と章先輩は人目を盗んでイチャイチャしているようだけど……イスからだと見えてます……なんだか気恥ずかしい……。

「たっくん、ピザ食べる? はい、からあげ。はい、焼きそば」

 加瀬拓哉の前に座る清花は、甲斐甲斐しく加瀬拓哉に料理を取り分けている。

 いいなー。
 私も清花に取り分けてほしいなー。

「桜! レタスばっか食ってないで肉食え、肉!」

 雪乃君も甲斐甲斐しく、桜ちゃんの取り皿にからあげを入れている。

「あー!! リンちゃんが椿ちゃんのからあげとったー!!」

 そして響き渡る、椿ちゃんの声。

「だって、こっちのがカリカリしてそうだったんだもん。からあげはカリカリがおいしいんだよ」

 カリカリ、カリカリ、と言葉通りにカリカリ音を立てながらからあげを食べる竜胆ちゃんだけど、それに椿ちゃんが納得するわけはなく……。

「椿ちゃんのからあげー!!」

 当然の如く、椿ちゃんは泣く。

「椿ちゃん、桜ちゃんのからあげあげるから泣かないで」

 さすがお姉ちゃん。
 テーブルを挟んで反対側にいる椿ちゃんの取り皿に、身を乗り出してからあげを乗せる桜ちゃん。

 でも、そのからあげは雪乃君が桜ちゃんのために取ったやつ。

 ……雪乃君がちょっと落ち込んでいる。

 そんな賑やかさはいつもの通りの慣れ親しんだ夕食の集まり。
 名目は、壮行会、卒業祝い、入学祝い、進級祝い、歓迎会。

 そんな要素はどこにもないけど、楽しいからこれで良し。

「ふー、食った食った」

 桔梗君、満足そうで何より。

「おし! 食べたあとはゲーム大会だ!」

 食後はみんなでゲーム大会が恒例。

 直樹を隊長にして、わらわらと和室に移動する小学生組。

 私は、というと。
 テーブルの上のあと片付け。

 片付けまでが夕食です、なんて。
 これは年長組の仕事。

「私も手伝う! 中学生だもん!」

 両手をぐっと握り込んで「やる気あります!」をアピールする桜ちゃん。

 可愛いなあ。
 小学生組はすでに、直樹と一緒に和室に行っている。

 いつもなら、あの中に桜ちゃんも混ざっているけど……。

 そうかあ、もう中学生だもんなあ。
 感慨深い。

「桜が手伝うなら俺も!」

 うん、言うと思った雪乃君。
 本当に桜ちゃんのことが大好きだねえ。

「片付け? 俺も手伝うよ」

 そう言った加瀬拓哉に、案の定。
 桜ちゃんの大きなお目々から大粒の涙がボロボロと。

 ここまでくるともうオモシロ現象だよ桜ちゃん。
 一体、どんな仕組みになってるの?

「てめーは向こうで遊んでろ!!」

 「ガウッ!!」と番犬よろしく吠える雪乃君。
 大好きなご主人様の桜ちゃんを泣かせる敵、加瀬拓哉を近づけまいと威嚇する番犬の図が綺麗にできあがっている。

「3人いれば充分だよね。雪音、ゲームの方に行こう。たっくんも」

 そう言う章先輩に対し。

「人が多い方が早く終わるでしょ?」

 と、空気を読まずに食い下がる加瀬拓哉だけど、加瀬拓哉を見てボロボロ声もなく涙を流す桜ちゃんと、加瀬拓哉を威嚇する雪乃君。

 どう考えても片付けがはかどる気がしない。

 むしろ一層、余計に時間がかかる気しかしない。

「ダメだよ、たっくん。存在が邪魔なんだから」

 清花、なにもそこまで……と思わなくもないけど否定はしない。

「じゃあ、私もゲームに行こう、っと」

 ひと足早く、栞ちゃんはゲームに参加しに行く。

「清花ちゃん、ひどいっ! そんなことないよね? ね?」

 味方を探す加瀬拓哉。

 だけど、桜ちゃんは泣く。
 雪乃君は威嚇する。
 栞ちゃんはついさっきここを離れた。

 雪音先輩は……。

「邪魔」

 清花の味方。

 章先輩は……。

「邪魔だよ」

 清花の味方。

 加瀬拓哉の味方はいないようで。

 ――っ!?

 こっちを見るんじゃないっ!!
 いくら見たって、引き止めたりしないよっ!!

「たっくん」

 加瀬拓哉の視線から解放してくれたのは、章先輩。

 加瀬拓哉に近づき、そして、ボソボソとなにかを告げる。

 青い顔をする加瀬拓哉。

 そして、加瀬拓哉は大人しく章先輩に連れられてゲーム組に入って行った。

 なにを言ったのかは謎だけど、とりあえずこれで片付けができる。

「雪乃君、これ持って行ってテーブル用の布巾持って来てくれる?」
「はーい」

 雪乃君に空のペットボトルを託して、キッチンに行ってもらう。

 その間に、私と桜ちゃんでゴミを集めてゴミ袋に入れていく。

「……ねえ、桜ちゃん」

 私は、桜ちゃんに聞く。

「加瀬拓哉のこと、キライ?」

 どうしてそんなことを聞こうと思ったのか、自分でもわからない。

 だけど自然と、気がついたら、言葉にしていた。

「私はね、キライ」

 キョトンとする、桜ちゃん。

「でもね、今日先輩が言ってたの。『好きな人が好きなものは、何だって好きになりたい』って」

 桜ちゃんはますますハテナを浮かべている。

「好きな人が好きなものは、自分も好きになって同じ気持ちを共有したいんだって。たとえそれが、人だとしても」

 パチパチと、桜ちゃんは目を瞬かせている。

「それ聞いたとき、すごいなって思ったの。私も、そんなふうになれたらって思った」

 久世先輩のように。

「清花も直樹も、お父さんもお母さんも、加瀬拓哉のことが好きだからさ、私の好きな人たちが、好きだって思う加瀬拓哉を私も好きになりたいなー、なんて」

「彩梨姉ちゃん、布巾ってこれ? ……なんか話の途中? なんの話?」

 キッチンから舞い戻って来た雪乃君。
 手にはお願いしていた布巾。

「なんでもない」

 答えたのは桜ちゃん。

「彩梨お姉ちゃん、このゴミ袋はどうすればいい?」

 ゴミを入れてパンパンになった袋を見せる桜ちゃん。

「いいよ、あとはテーブル拭くだけだから、彩梨お姉ちゃんがやっちゃうね。雪乃君、布巾ありがとう。2人共、ゲームに行っておいで」

 布巾とゴミ袋を回収して、ゲームに向かう2人を見送る。

「行こう、桜」
「うん」

 2人の背中を見つめながら思う。

 なんで私……、あんなこと言ったんだろう……。
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