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第7章 イトコとの、距離
第1話 うまくいかない *加瀬彩梨*
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05年4月12日火曜日。
私が通う私立桜月学園付属桜ノ女子高等学校は、今日から新年度。
新学期がはじまる。
結局、この春休みに加瀬拓哉と話らしい話ができたのは、私が演劇部の公演に誘ったあの1回きりで……。
あとは、「おはよう」とか「おやすみ」くらい。
どうやら、私は加瀬拓哉に嫌われたらしい。
お母さんや清花とは、普通に話す加瀬拓哉が私とだけ話さない。
私を避けているようで、私の方には寄って来ない。
でも、たぶん、私から話しかければきっと加瀬拓哉は答えてくれるんだとは思うけど。
話しかけるキッカケになるような話題を、私は持っていなくて……。
だから結果的に、何も話せることなく春休みは過ぎていった。
今までずっと、「キライ、キライ」って言って来たのに。
向こうから、近寄って来なくなったんだからいっそ喜んでしまえばいいのに。
この気持ちはなんだろう……。
直樹や清花とケンカして、お互いに口を利かなくて、苛立ちのあとに押し寄せてきた後悔と寂しさ。
そんな気持ち。
別に、加瀬拓哉とケンカをしたわけじゃないけど。
でも。
嫌われるようなことはたくさんしてきた。
……してきてしまった。
今までよく、キライにならなかったなって思うくらい。
今のこの状況は、当然の結果だ。
もっと早くに訪れていてもおかしくなかった、くるべくしてきた、現在。
向き合おうって思ったそのときに失って。
失って、やっと気づいた。
私は、なんてひどいヤツなんだろう……。
私のバカ。
バカ、バカ。
バカ……。
「たっくん! お姉ちゃんが出るよ! 行かなくていいの?」
玄関でクツを履いていると、リビングから清花の声が聞こえてきた。
少し、待ってみようか。
履き終えたクツを見つめて、リビングから聞こえてくる声に聞き耳を立てる。
「うん。もう少ししたら出るよ。昨日と同じ時間に」
加瀬拓哉の声が聞こえた。
昨日と同じ時間。
そんな時間まで、私は待っていられない。
私には、朝の部活があるんだ。
「じゃあ、清花も。たっくんと一緒に行くー!」
清花の声を聞いて、気分が沈む。
そのまま玄関のドアを開けて、私は家を出た。
清花はいつも、私と一緒に行ってくれるじゃない。
私と一緒に家を出ると、早過ぎるくらいの時間に学校についてしまうけど、自習ができて好都合なんていつも言っていたのに……。
今日は、追いかけて来てはくれない……。
1人で歩く道のりは、いつもと同じ道のはずなのに、清花がいないだけでこんなにも寂しい……。
変なの。
春休み中は、部活に行くのにほとんど毎日1人で歩いていたのに。
この違いは一体なんだろう……?
「はあ……」
うまくいかないなあ……。
「ため息つくと、幸せが逃げるよ?」
うしろから聞こえてきた、覚えのある声に振り返るとそこには章先輩。
「あ、おはようございます」
「おはよ」
章先輩は、私の隣に立って。
これはつまり、一緒に行きましょう、ということで。
「どうしたの? 直樹君がいなくなってそんなに寂しい?」
「別に、寂しくないです」
連れ立って、2人で歩きながら話す。
「じゃあ、清々してる?」
「そんなことあるわけないじゃないですか! 寂しいですよ!」
「おや素直。原因はそこじゃないってことは……清花ちゃん?」
むー。
まったく、この人は。
「ケンカでもした?」
「違います」
「でも、いつも一緒なのに今日はいないじゃん?」
「加瀬拓哉と一緒に行くそうです」
「ふーん。なるほど。スネてるんだ」
「スネてません」
「はいはい。一緒に登校したかったねー」
「スネてませんってばあ!!」
もう!!
まったくもう!!
この人は!!
「章先輩こそ、今日は早いんじゃないですか?」
朝礼前に、部活で集まる習慣がある私ならまだしも。
章先輩は帰宅部で、生徒会でもなかったはず。
この時間だと、学校につくのは7時20分。
朝礼が8時30分だから、1時間以上も前に学校についてしまう。
「ちょっと入学式の準備に駆り出されてね。彩梨ちゃんのせいで」
「……私、なにかやらかしましたっけ?」
まったくもって、身に覚えがない。
「この前の壮行会」
「んー?」
なにをしたかと、考える。
「彩梨ちゃんのこと、待ってたでしょー? 紘正と一緒に」
「え?」
「一緒に待ってやったんだから、準備手伝えってさ」
「それ私関係あります!?」
どちらかというと、自業自得な気が……!
1人で待っているという選択肢だってあったし!
他の人を選出する選択肢も!
待たないって選択肢だってあったわけだし!!
1人で待つを選択したところで、姫宮先輩がいたわけだから1人にはならなかったし!!
久世先輩を巻き込むと決めたのは章先輩なわけだから。
私、関係ありません!!
「頭の中で、なにを考えてるのかよーくわかるよ」
「だって、だって……」
「でもさ、彩梨ちゃんが逃げようとか考えるような子じゃなければ、俺が待つこともなかったんだよね」
「そんなこと言われたって……」
気持ちの整理をつけるのって、すごく難しいんだ。
背中を押してくれた加瀬拓哉が、本当はいい奴なのかもって。
一方的に嫌うんじゃなくて、ちゃんと向き合って加瀬拓哉という人物をちゃんと知った上で、それでもキライならキライと告げてやろうって。
そう思ったのに。
人生はうまくはいかない。
「そういえば、その後たっくんとはどうなの? 少しは仲良くなれた?」
「……」
なんと答えればいいのだろう。
っていうか、そもそも私そんなにあからさまに嫌っているように、仲悪そうに見えてた……?
「進展なしか。彼も大変だ」
「変化なら、ありましたよ」
章先輩のいう、「進展」がなにを示すのかいまいちわからないけど、私と加瀬拓哉との関係性について変化を述べるなら1つだけ。
「へー、頑張ったんだ」
「私、加瀬拓哉に嫌われたみたいです」
「ん?」
章先輩から、どうしてかどことなく不穏な音が聞こえてきた。
私が通う私立桜月学園付属桜ノ女子高等学校は、今日から新年度。
新学期がはじまる。
結局、この春休みに加瀬拓哉と話らしい話ができたのは、私が演劇部の公演に誘ったあの1回きりで……。
あとは、「おはよう」とか「おやすみ」くらい。
どうやら、私は加瀬拓哉に嫌われたらしい。
お母さんや清花とは、普通に話す加瀬拓哉が私とだけ話さない。
私を避けているようで、私の方には寄って来ない。
でも、たぶん、私から話しかければきっと加瀬拓哉は答えてくれるんだとは思うけど。
話しかけるキッカケになるような話題を、私は持っていなくて……。
だから結果的に、何も話せることなく春休みは過ぎていった。
今までずっと、「キライ、キライ」って言って来たのに。
向こうから、近寄って来なくなったんだからいっそ喜んでしまえばいいのに。
この気持ちはなんだろう……。
直樹や清花とケンカして、お互いに口を利かなくて、苛立ちのあとに押し寄せてきた後悔と寂しさ。
そんな気持ち。
別に、加瀬拓哉とケンカをしたわけじゃないけど。
でも。
嫌われるようなことはたくさんしてきた。
……してきてしまった。
今までよく、キライにならなかったなって思うくらい。
今のこの状況は、当然の結果だ。
もっと早くに訪れていてもおかしくなかった、くるべくしてきた、現在。
向き合おうって思ったそのときに失って。
失って、やっと気づいた。
私は、なんてひどいヤツなんだろう……。
私のバカ。
バカ、バカ。
バカ……。
「たっくん! お姉ちゃんが出るよ! 行かなくていいの?」
玄関でクツを履いていると、リビングから清花の声が聞こえてきた。
少し、待ってみようか。
履き終えたクツを見つめて、リビングから聞こえてくる声に聞き耳を立てる。
「うん。もう少ししたら出るよ。昨日と同じ時間に」
加瀬拓哉の声が聞こえた。
昨日と同じ時間。
そんな時間まで、私は待っていられない。
私には、朝の部活があるんだ。
「じゃあ、清花も。たっくんと一緒に行くー!」
清花の声を聞いて、気分が沈む。
そのまま玄関のドアを開けて、私は家を出た。
清花はいつも、私と一緒に行ってくれるじゃない。
私と一緒に家を出ると、早過ぎるくらいの時間に学校についてしまうけど、自習ができて好都合なんていつも言っていたのに……。
今日は、追いかけて来てはくれない……。
1人で歩く道のりは、いつもと同じ道のはずなのに、清花がいないだけでこんなにも寂しい……。
変なの。
春休み中は、部活に行くのにほとんど毎日1人で歩いていたのに。
この違いは一体なんだろう……?
「はあ……」
うまくいかないなあ……。
「ため息つくと、幸せが逃げるよ?」
うしろから聞こえてきた、覚えのある声に振り返るとそこには章先輩。
「あ、おはようございます」
「おはよ」
章先輩は、私の隣に立って。
これはつまり、一緒に行きましょう、ということで。
「どうしたの? 直樹君がいなくなってそんなに寂しい?」
「別に、寂しくないです」
連れ立って、2人で歩きながら話す。
「じゃあ、清々してる?」
「そんなことあるわけないじゃないですか! 寂しいですよ!」
「おや素直。原因はそこじゃないってことは……清花ちゃん?」
むー。
まったく、この人は。
「ケンカでもした?」
「違います」
「でも、いつも一緒なのに今日はいないじゃん?」
「加瀬拓哉と一緒に行くそうです」
「ふーん。なるほど。スネてるんだ」
「スネてません」
「はいはい。一緒に登校したかったねー」
「スネてませんってばあ!!」
もう!!
まったくもう!!
この人は!!
「章先輩こそ、今日は早いんじゃないですか?」
朝礼前に、部活で集まる習慣がある私ならまだしも。
章先輩は帰宅部で、生徒会でもなかったはず。
この時間だと、学校につくのは7時20分。
朝礼が8時30分だから、1時間以上も前に学校についてしまう。
「ちょっと入学式の準備に駆り出されてね。彩梨ちゃんのせいで」
「……私、なにかやらかしましたっけ?」
まったくもって、身に覚えがない。
「この前の壮行会」
「んー?」
なにをしたかと、考える。
「彩梨ちゃんのこと、待ってたでしょー? 紘正と一緒に」
「え?」
「一緒に待ってやったんだから、準備手伝えってさ」
「それ私関係あります!?」
どちらかというと、自業自得な気が……!
1人で待っているという選択肢だってあったし!
他の人を選出する選択肢も!
待たないって選択肢だってあったわけだし!!
1人で待つを選択したところで、姫宮先輩がいたわけだから1人にはならなかったし!!
久世先輩を巻き込むと決めたのは章先輩なわけだから。
私、関係ありません!!
「頭の中で、なにを考えてるのかよーくわかるよ」
「だって、だって……」
「でもさ、彩梨ちゃんが逃げようとか考えるような子じゃなければ、俺が待つこともなかったんだよね」
「そんなこと言われたって……」
気持ちの整理をつけるのって、すごく難しいんだ。
背中を押してくれた加瀬拓哉が、本当はいい奴なのかもって。
一方的に嫌うんじゃなくて、ちゃんと向き合って加瀬拓哉という人物をちゃんと知った上で、それでもキライならキライと告げてやろうって。
そう思ったのに。
人生はうまくはいかない。
「そういえば、その後たっくんとはどうなの? 少しは仲良くなれた?」
「……」
なんと答えればいいのだろう。
っていうか、そもそも私そんなにあからさまに嫌っているように、仲悪そうに見えてた……?
「進展なしか。彼も大変だ」
「変化なら、ありましたよ」
章先輩のいう、「進展」がなにを示すのかいまいちわからないけど、私と加瀬拓哉との関係性について変化を述べるなら1つだけ。
「へー、頑張ったんだ」
「私、加瀬拓哉に嫌われたみたいです」
「ん?」
章先輩から、どうしてかどことなく不穏な音が聞こえてきた。
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