ゾンビばばぁとその息子

歌あそべ

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妖怪発生

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サクサク サクサク
ねぇ、何の音?
サリサリ サリサリ?
そこの公園かな?誰?こんな夜中に

や、ヤバい!
おかあさんじゃないの?
真由美は、寝ていた布団から飛び起きて、階段を駆け降りた。

やっぱり!
もぬけの殻のベッド。
トイレにも、玄関にもいない。

鍵をもう一つつけたから出られないって安心してたのに、なんで?手の届かないところに鍵をつけたのに。
ひょっとしてかけ忘れたのかな?


家のすぐ近くにある、ブランコと滑り台と砂場があるだけの小さな公園。
誠と真由美が行ってみると、暗闇の中うっすらと電灯に照らし出され、たよ子ばばぁは砂場にしゃがみこんでいた。
誰かが置いて行ったのだろう、小さなスコップを、砂に突き刺したり、かき混ぜたりしていた。

なんや!何してるんや、こんな夜中。
パジャマのままの姿で、その上から古びた毛糸のチョッキを羽織っているたよ子ばあさん。

かあさん!
誠が声をかけたけど、気付かないのか、気付かないふりなのか…
見ると、公園の地面を掘り返し、そこに砂場の砂を投入している。
どういうつもりなんだか。

かあさん!帰るで!
誠が近付いてたよ子ばあさんの腕を取ったけど、
なんや!帰らんで!
と言うばあさんの顔は、異様にギラギラと光った目をしていて、鬼のような形相だった。
薄暗い灯りに照らされた母親の形相の恐ろしさに、誠は思わず腕を放したけど、真由美がその腕をつかみ、引っ張った。
帰らんと!風邪引くで!

翌朝、何ごともなかったようなたよ子ばあさん。
青白い顔をしていた。
だけど自分でお茶を淹れ、食パンをトースターで焼いて食べ、しばらくするとバナナを食べ出した。

夕べのこと、もう覚えてないよね
何やり出すかわからんね
もう抜け出さないといいけど…

ところがその夜、ばあさんはまた夜中に家を抜け出した。
夜中、鍵をガチガチいじっている音がしてた。
そのうち静かになったから諦めたと思ったのに、ばあさんは2つ目の鍵も開けてしまったようだ。
またサクサク、サクサクと公園の方から聞こえて来た。

真由美は寝ていた誠を起こした。
ほら、また聞こえるわ
そこの公園にいる
勘弁してよ
こんなこと習慣になってしまったら…

また2人公園に行ってみる。
カーディガンを羽織ったけど夜は冷える。

たよ子ばあさんは、昨夜と同じくそこにおり、スコップで土を掻いていた。
砂場のすぐ横、少し土が盛り上がっていた。
いつもの毛糸のチョッキを着ているようだ。
あれなら寒くないのかもしれない。
でも、放ってはおけない。

帰ろうか、かあさん。
ギラギラと怖い目をしているのはわかっているから、目は合わせないようにして…誠が腕を取ると、着ていたネルのパジャマの上からもその腕が、まるで骨を掴んでいるかのように痩せているのがわかった。
なんとも言えない悲しい気持ちになり、帰らん、帰らんともがく母親を引きずり連れ戻した。

あ~あ、またこんなに汚れちゃって
ほら、頭に落葉ついてるし
服だって土がこびりついてる
着替えようね
と真由美が手を出すと、
かまわんどいて!
自分でできるんやから、邪魔せんどいて!
と怒るばあさん。

もうすでに痩せた顔も汚れて土の色になり、だんだん人間離れしていってるように思える。
真由美はなんだかもう、触るのもおぞましく感じているのだった。
ただ、毎日食事だけをばあさんの前に運ぶ。
その度ばあさんはぺろりと平らげるのだった。
そのくせ、食べたすぐあと、決まって朝から何も食べてへんと言って自分で食パンを焼いて食べる。

ああほんとおぞましい
真由美はつぶやいた。
次の夕食はきゅうり山盛りにしてやろうかな。
また投げつけてくるだろうな。
きゅうりたくさん買って来て、こっちがぶつけてやりたい。
そんなことを密かに考えている真由美だった。

次の夜もたよ子ばあさんは家を抜け出したのかもしれない。
でも、誠も真由美も疲れが出て熟睡していて、そのまま朝を迎えた。

たよ子ばばぁはこたつのテレビがよく見えるいつもの位置に、しれっとおさまっていた。
だけど、服も髪も今までよりさらに泥がこびりついており、公園で土をいじってたのは明らかだった。

ちゃんと1人で帰って来るなぁ
もう放っておこうか
ほんと、まいるなぁ
そう思いながら、真由美は掃除機をかけた。
玄関からばぁさんの通ったあとを。
おかあさんの通った跡、砂だらけだ。
まるで砂かけばばぁだよ
おかあさん、髪に土がこびりついてるよ
顔も、服も
洗ってあげるから、ねえ、お風呂入ろうよ

なんや、あんたまだおるんか
何しとるんや
かまわんと、はよ帰り!

って、おかあさん。
帰る所ないし、わたしらこの家に一緒に住んどるんやけどね。

と、その時、たよ子ばあさんの襟元からミミズが這い出して来た。
きゃあ!
真由美は思わず仰け反ってひっくり返った。

叫んだ声を聞いて、誠が2階から駆け降りて来た。
なんや!
どないしたんや。

おかあさんからミミズが、ほら!
ああもう!
気持ち悪すぎる。

なんや、ミミズくらいで

さすがに誠は田舎育ちだ。
素手で掴んで、窓の外に捨てに行った。
こんな時だけは役に立つ。

たよ子ばあさんはミミズには気付いてないのか気にしてないのか。
うるさいな、あんたら何騒いでるんや
はよ帰り言うとるやろ
怒ったように言うばかり。


その夜も、不眠症の真由美の耳にはサクサク、ザッザッとその音は聞こえていた。
またやってるなぁ
誠も目を覚ました。

まるで妖怪やな
よその人が見たらびっくりするで

そうでしょ
まるで砂かけばばぁやん

ああいうのが妖怪の始まりかもな
昔は寿命が短かかったからね
たいてい、あんなふうになる前に死んでしまうけど、たまに長生きして夜中に徘徊したりするお年寄りがいたのかも
その様子がこの世の者じゃないように見えたのかも

そんなことを喋りながら2人は眠りに落ちた。
ちょっと呑気すぎたかもしれない。
目覚めた朝、真由美はたよ子ばあさんのベッドが抜け殻で、家中どこにもたよ子ばあさんがいないのに気がついた。

  続く…
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